IM MARKETING NEWS / AI × LANGUAGE × MARKETING
AIペルソナとの対話で、提案する側の思い込みと別の可能性に気づきます。
Mia(ミア)と一緒に、問いを深めていきます。
きれいな提案書をつくれた。でも、それだけで売上は伸びる?
生成AIの登場で、提案書づくりはずいぶん楽になりました。顧客の課題、解決策、導入効果、進行計画を整理すれば、短時間できれいな資料のたたき台を作れます。しかし、それだけで受注が増えるわけではありません。提案書に「良いですね」と言ってもらえても、検討が止まることはあります。
なぜでしょうか。
わたくしたち営業企画チームでは、ひきたよしあき氏の『博報堂スピーチライターが教える 5日間で言葉が「思いつかない」「まとまらない」「伝わらない」がなくなる本』を題材に、社内読書会を実施しました。印象に残る一文を持ち寄り、仕事でどう試すかを話し合うなかで注目したのは、伝える相手を一人に決め、その人を具体的に想像するという学びです。
「相手を理解しているつもりでも、自分が見ているのは一面だけなのではないか」。この問いを、商談議事録をもとにしたAIペルソナとの壁打ちに応用してみることにしました。
読書会と実務での対話を振り返ると、特に大きな気づきがありました。それは、提案する側と、提案を受け取る側で『良い提案』の定義が違うかもしれないということです。
「生成AIで、完成度の高い提案書をあっという間につくれるようになったんだ!」
「……その提案書がきれいなら、お客さんの仕事は前に進むの?」
「あっ。資料が完成しても、社内の検討はこれからなんだね!」
「資料の完成と、お客さんの目的達成は別のことかも。」
「良い提案」の定義は誰が決めている?
営業担当者は、良い提案を「課題と解決策が過不足なく整理された提案書」と考えがちです。もちろん、わかりやすい資料には価値があります。けれども、顧客がほしいのは資料そのものではないかもしれません。
顧客企業では、提案を受け取った後にも、複数部署との調整、予算の確認、優先順位の変更、現場の負荷への配慮などが続きます。その過程で「最初の提案を、そのまま通す」ことが最善とは限りません。
良い提案 ≠ きれいな提案書
良い提案 = 顧客の状況や社内の議論に寄り添い、実現に向けて更新し続けられる提案
これは、ある顧客の本音だと断定できる話ではありません。社内で実際に試したAIペルソナとの壁打ちから得られた、新しい顧客理解の仮説です。このような「自分が置いていた定義を疑う」体験に、AIの面白さがあります。
「営業担当者が『良い提案』と呼ぶものは、お客さんもそう思っている?」
「たとえば、営業は完成した提案書をイメージするけど、お客さんは実行までの伴走を期待しているかもしれないね。」
「そういう可能性を確かめに行けると、提案の内容も変わりそう。」
AIペルソナとの壁打ちで、見えていなかった可能性を探す
ここからは、特定の取引先・人物がわからないように業種、役割、検討内容を変えた架空の再構成例です。実在企業の発言を再現したものではなく、AIペルソナを使う手順を説明するためのケースです。
ケース:あるBtoB製造業の営業企画担当者
ある製造業では、営業活動の属人化を減らすために、顧客情報と活動データを活かした業務改善を検討しているとします。外部パートナーから、データの整理方法、活用施策、進行スケジュールをわかりやすくまとめた提案書が届きました。
ところが検討は進みません。営業側は「機能や費用への説明が足りなかったのか」と考えます。
そこで、匿名化した商談メモを材料に、担当者の立場を仮に演じるAIペルソナを設定し、こう尋ねます。
「あなたが外部パートナーに本当に期待していることは、何ですか?」
以下は、ケースの状況から構成したAIペルソナの仮説的な回答例です。
「整った提案書はありがたいです。ただ、社内では検討が進むほど条件が変わります。経営側は投資の根拠を求め、営業現場は運用負荷を気にし、情報システム部門には別の懸念があります。
最初の提案が間違っているわけではありません。でも、その資料を私が一人で各部署向けに直し続けるのは大変です。状況が変わったとき、一緒に論点を整理し、提案を更新してくれる相手だと心強いです。」
この回答には、実際の担当者の心理を推定したにすぎない部分が多数含まれます。しかし、外部パートナーへの期待を「正しい提案書を納品してほしい」から「社内で実現できる形へ一緒に育ててほしい」へ捉え直すきっかけになります。
| 観点 | 当初の営業側の仮説 | AIペルソナから得た別の可能性 |
|---|---|---|
| 提案の価値 | 完成度の高い資料をつくる | 検討中の変化に合わせて提案を更新する |
| 進まない原因 | 提案内容の説明不足 | 社内の評価軸・立場がそろっていない |
| 外部の役割 | 施策や技術を提案する | 顧客が社内で前に進める材料を共につくる |
| 次の会話 | 提案の良し悪しを確認する | 検討が進まない背景と必要な支援を尋ねる |
「こんな答えが出るとは思わなかった! 相手はもっと伴走してほしいのかもしれないんだね。」
「……その回答は本人に聞いたの?」
「違うよ。AIが考えた可能性なんだ。」
「なら、次は本人に確認する質問へ変えよう。それが本当の顧客理解につながるから。」
今日から試す:AIペルソナと3つの問いで壁打ちする
最初に、顧客について自分が考えていることを簡単に書きます。「相手の課題」「提案が進まない理由」「求められている支援」です。ここを先に書くことで、AIから返ってきた案との差分が見えます。
次に、社内ルールに従って匿名化した商談メモを用意します。人物名、社名、固有の商材名、機密数値、独特な組織事情は除き、AI利用環境のデータ取り扱い条件を確認します。
コピペして試せる指示文
あなたは、以下の匿名化された商談メモを材料に「顧客企業の担当者役」を演じるAIペルソナです。ただし、実際の本人の心理を再現できるとは限らないため、推測は必ず仮説として扱ってください。まず、①議事録からわかる事実、②人物像について推測している点、③情報不足の点を分けてください。その後、私が質問するので、担当者の立場で考えられる回答を複数の可能性から提示してください。回答ごとに根拠となる発言と、根拠がない想像を区別してください。最終的に「本人に直接確かめたい質問」を3つに整理してください。
AIペルソナができたら、まず次の3問を投げてみます。
- 「今回の提案について、本当はどんなところに不安がありますか?」
- 「社内で検討を進めるうえで、何がいちばん難しいですか?」
- 「外部パートナーに、資料以外で何をしてもらえると助かりますか?」
そして、重要なのがもう一問です。
「今の回答とまったく違う解釈が成立するとしたら、どんな可能性がありますか?」
仮説が魅力的であるほど、私たちはそれを信じたくなります。AIペルソナも、その偏りを強めることがあります。別の可能性を積極的に尋ね、自分の理解を広げるために使いましょう。
「『伴走してほしい』という仮説が外れていたら?」
「実は予算の問題かもしれないし、他案件が優先されているだけかもしれない。」
「そう。都合のいい仮説だけを選ばないこと。」
AIに聞いたら終わりではない。次の商談で何を確かめる?
AIペルソナの価値は、相手の気持ちを当てることではなく、自分の思い込みに気づき、次の対話を変えることです。
たとえば、「ご提案はいかがでしたか?」という質問を、こう変えてみます。
- 「前回から検討の条件が変わった点はありますか?」
- 「社内でご説明いただく際、どんな意見が出そうでしょうか?」
- 「現場の方や他部署の方は、何を重視されそうですか?」
- 「最初の案を修正するとしたら、どこから見直すのがよさそうですか?」
- 「私たちが一緒に整理できることはありますか?」
大切なのは、AIペルソナの答えを質問で誘導してしまわないことです。「社内調整が大変ですよね」と決めつけるより、「今の検討で進めにくいところはありますか」と相手に語ってもらう方が確かめやすくなります。
相手が「実は伴走が必要なのではなく、社内で既に優先順位が下がっています」と答えたとしても、それは重要な発見です。仮説が外れたことも、顧客理解の前進だからです。
「AIペルソナと話したら、明日の商談で聞いてみたいことが増えたよ!」
「その質問で、相手を自分の仮説に誘導しないようにね。」
「うん。『こうですよね?』より、『実際はどうですか?』を大切にするよ。」
仮説はデータでも検証する:顧客理解に役立つIM-DMPの活用例
相手の状況を想像することと、データで確かめることは対立しません。読書会でも「主観で相手を想像し、データで検証する」という議論がありました。
たとえば、顧客企業のマーケティング施策を考えるとき、担当者との会話から「この商品を検討する人は比較サイトで情報を集めていそうだ」という仮説を立てたとします。利用が認められた自社の行動データや、条件に応じて活用できる外部データを使えば、その仮説を検証する分析設計を検討できます。
IM-DMPは外部データを活用した顧客理解を考える際の選択肢です。ただし、扱えるデータの種類、利用目的、連携方法、同意・法令・契約・製品仕様は案件によって確認が必要です。外部データだけで個人の内心を特定することはできません。
「AIペルソナの話だけで、顧客理解が完了したと言える?」
「言えないね。本人との対話と、必要ならデータでの検証を重ねるんだ!」
「うん。データも、仮説を確かめるために使いたいね。」
AIエージェント化の可能性:商談ごとに仮説を更新する
今回の方法は、対話型AIだけでも試せます。その先には、承認済みの議事録や顧客情報を安全に参照し、直近の発言と前回の仮説を比較し、「確かめられたこと」「まだ仮説のこと」「次回聞くこと」を整理するAIエージェントの構想があります。
ただし、AIが商談相手になりきった回答を事実としてCRMへ自動登録するのは危険です。出典と確度を保持し、担当者が承認した内容だけを記録する設計が重要です。
まとめ:良い提案は、完成した資料ではなく、相手と磨き続けるものかもしれない
きれいな提案書は大切です。しかし、その先で状況が変わったときに、顧客と一緒に考え直せることも価値になります。
AIペルソナが教えてくれたのは、顧客の本音という「正解」ではありません。自分の考える良い提案の定義が、相手の定義とずれている可能性でした。
AIとの対話で顧客理解の幅を広げ、実際の顧客との対話で深める。 その積み重ねが、相手にとって本当に役に立つ提案を生むのではないでしょうか。
参考情報
- ひきたよしあき著『博報堂スピーチライターが教える 5日間で言葉が「思いつかない」「まとまらない」「伝わらない」がなくなる本』大和出版、2019年。https://smilehikita.com/books/44/
- 本文中の実践法・事例表は読書会からの応用案であり、書籍の原文ではありません。公開事例は元の商談を再現せず、完全に架空の業種・状況へ再構成した説明用ケース。

iM(アイム)くん|IMマーケティングニュースのデータ活用ナビゲーター
好奇心旺盛で、いつも前向き。「まずやってみよう!」がモットーなんだ!
IM-DMPをはじめとするデータやAIの活用方法を、マーケティングの身近な課題や具体例を交えながらわかりやすく解説するよ。
冷静で分析が得意なパートナー・Mia(ミア)と一緒に、データから新しい仮説やインサイトを発見し、マーケティングの次のアクションにつなげていくんだ!




