「PVやCVは確認できているのに、なぜ顧客が離脱したのか分からない」「インタビューでは課題が見えたが、本当に多くの顧客に当てはまるのか判断できない」。マーケティングで扱えるデータが増えるほど、こうした違和感も生まれやすくなります。
マーケティングファネルで定性・定量データを使い分けるポイントは、どちらか一方を選ぶことではありません。定量データで「どこで・何が起きているか」を捉え、定性データで「なぜ起きているのか」を深掘りし、仮説を再び数値や実際の行動で確かめることが重要です。
インティメート・マージャーが関わってきたセミナーでも、データを一元管理することそのものではなく、定量・定性の両面から顧客理解を深め、最終的に「誰に・いつ・何を届けるか」へつなげる考え方が議論されてきました。また、リサーチやデータ活用の現場からは、「データが分散して一貫した分析ができない」「分析結果を広告などの具体的な施策へ落とし込めない」といった課題も見えてきています。
本記事では、マーケティングファネルを分析フレームとして使いながら、定性データと定量データをどの順番で接続すれば顧客理解と施策改善につながるのかを整理します。
要点サマリー
- 定量データは「何が起きたか・どこに差があるか」を発見するために使います。
- 定性データは「なぜそうなったか・何が判断を止めたか」を深掘りするために使います。
- ファネル段階ごとに「何を判断したいか」を決めてから、必要なデータを選ぶことが重要です。
- 基本の分析サイクルは「定量→定性→仮説→定量・行動による検証→施策改善」です。
- 分析の目的はレポート作成ではなく、コンテンツ、広告、営業、商品などの意思決定を変えることです。
マーケティングファネルで定性・定量データをどう使い分けるべきか
結論から言えば、定量データは「変化や差分を見つける」、定性データは「その理由を考える」ために使うと整理すると分かりやすくなります。
たとえば、資料ダウンロードから商談への転換率が低下したという数値は定量データから確認できます。しかし、その数値だけでは「顧客の課題と資料内容が合わなかった」「情報収集目的だった」「料金が想定より高かった」「社内説明に必要な情報が不足していた」といった理由までは分かりません。
そこで、アンケート自由回答、商談記録、問い合わせ内容、顧客インタビューなどの定性データを使って理由の仮説を作ります。
| 項目 | 定量データ | 定性データ |
|---|---|---|
| 主に答える問い | 何が起きているか、どれくらいか、どこに差があるか | なぜ起きたのか、何を考えているか |
| 主なデータ | アクセス数、CV、転換率、閲覧数、検索、広告反応、商談化率、受注率など | インタビュー、自由回答、商談メモ、問い合わせ内容、失注理由、営業・CSの声など |
| 得意なこと | 傾向把握、比較、優先順位付け、変化の発見 | 背景・心理・判断基準・障壁の理解 |
| 注意点 | 数値だけで顧客心理を決めつけない | 一部の顧客の声を市場全体へ一般化しない |
| 次の使い方 | 深掘りすべき場所を決める | 検証すべき仮説を作る |
つまり、「定性と定量のどちらが重要か」という問いではなく、今は何を知りたいのか、その問いにどちらのデータが答えられるのかを考える必要があります。
定性・定量データそのものの違いを整理したい場合は、定性データと定量データの違いとは?商品開発で使い分ける判断基準もあわせてご覧ください。
定量データだけでは顧客理解が止まりやすい理由
定量データは、ファネル上の「異常」を発見するうえで有効です。一方で、数値は行動の結果を示していても、その行動が起きた理由を自動的に説明してくれるわけではありません。
「離脱が増えた」は分かっても「なぜ離脱したか」は分からない
たとえば比較検討ページの閲覧者は増えているのに問い合わせが増えていないとします。
定量データからは、ページ閲覧数、滞在状況、遷移、問い合わせ率などを比較できます。しかし、問い合わせに至らない理由としては複数の仮説があります。
- 求めていた導入事例が掲載されていない
- 自社に適合するか判断できない
- 料金や導入負荷への不安がある
- まだ情報収集段階だった
- 上司へ説明する材料が不足している
どの理由なのかを判断するには、問い合わせ内容、営業との会話、アンケート、インタビュー、失注理由などを確認する必要があります。
定性データだけでも判断はできない
一方、「顧客に聞けば分かる」と考えて定性情報だけに依存することにも注意が必要です。
ある顧客が「事例が重要です」と回答していても、すべての顧客が同じ判断基準を持つとは限りません。インタビューで得られた声は重要な仮説材料ですが、その仮説がどの顧客層にも当てはまるのかは、別のデータで確認する必要があります。
定量で発見し、定性で深掘りし、もう一度定量や実際の行動で確かめる。この往復が、定性・定量接続の基本です。
ファネルの段階別|定性・定量データの使い分け
マーケティングファネルでは、段階によって知りたい問いが変わります。そのため、同じデータを全ファネルで追うのではなく、各段階の意思決定に合わせて分析方法を変えます。
| ファネル | 定量で確認すること | 定性で確認すること | 次の判断 |
|---|---|---|---|
| 認知・課題認識 | 検索、流入、閲覧テーマ、広告反応など | どんな課題感・違和感を持っているか | どの課題を訴求するか |
| 情報収集 | 再訪、複数記事閲覧、資料DL、セミナー参加など | 何を知りたいか、何がまだ分からないか | 次に提供すべき情報 |
| 比較検討 | 事例・比較・料金ページへの接触、問い合わせ率など | 何を比較軸にしているか、不安は何か | どの判断材料を補うか |
| 商談・社内検討 | 商談化、案件進行、見積、保留、転換率など | 社内関係者、導入障壁、反対理由、決裁条件 | 営業が何を支援するか |
| 購入・失注 | 受注率、失注率、継続、解約など | 選んだ理由、選ばなかった理由 | 商品・営業・訴求をどう改善するか |
認知・課題認識|まず「どこに関心があるか」を見る
認知段階では、まだ顧客自身が課題を明確に言語化できていないことがあります。そのため、検索テーマ、閲覧コンテンツ、広告反応などの行動から「何に関心が向いているか」を捉えます。
そのうえでアンケートや顧客の声から、「なぜそのテーマが気になっているのか」「現在どのような問題を感じているのか」を確認します。
情報収集|「何を理解しようとしているか」を見る
情報収集段階では、単純な流入数よりも、複数の記事を閲覧しているか、どの資料を取得したか、どのウェビナーへ参加したかといった行動の組み合わせが重要になります。
さらに自由回答や問い合わせ内容を見ることで、「選択肢を探している」「実施方法を知りたい」「社内で説明するための情報を探している」といった背景を仮説化できます。
比較検討|「何を基準に選んでいるか」を見る
比較段階では、顧客がどの情報に触れているかだけでなく、何を意思決定基準にしているかを確認します。
事例、料金、導入方法などの閲覧は定量・行動データから確認できます。一方、「価格が高いと感じているのか」「運用負荷を心配しているのか」「他の選択肢との違いが分からないのか」は、定性情報で補います。
商談・社内検討|Webだけでは見えない情報を営業とつなぐ
BtoBでは、問い合わせ後にも社内検討、上司への説明、複数部門による確認などが発生します。
この段階をWebアクセスだけで分析すると、顧客理解が途中で切れてしまいます。商談記録、質問内容、関係者、保留理由などを組み合わせ、「何が判断を止めているのか」を見ることが重要です。
購入・失注|結果を次のファネル改善へ戻す
購入や受注はファネルの終点ではありません。
選ばれた理由と選ばれなかった理由を整理し、認知段階の訴求、比較コンテンツ、営業資料、商品設計などへ戻すことで、分析結果が次のマーケティング施策へ蓄積されます。
ファネルごとに確認するデータそのものを詳しく整理したい場合は、マーケティングファネルで見るべき顧客データとは?段階別に分析方法を整理も参考になります。
定性・定量データを接続する6ステップ
実務では、最初からすべてのデータを統合しようとする必要はありません。まず一つの課題を選び、定性と定量を往復する小さな分析サイクルを作ることが重要です。
1. ファネルと「知りたい問い」を決める
最初に「比較検討から問い合わせに進まない理由を知りたい」「ウェビナー参加後に商談化しない理由を知りたい」など、分析する問いを一つ決めます。
「顧客を詳しく分析する」のような広すぎる目的では、必要なデータを決められません。
2. 定量データで差分・異常を見つける
次に数値を確認します。
- どの段階で減少しているか
- どのセグメントで差があるか
- 以前と比べて何が変化したか
- 成果につながった顧客とつながらなかった顧客で何が違うか
ここでは原因を決めつけず、「深掘りする場所」を決めます。
3. 対象となる顧客の定性情報を確認する
差分が見つかったら、その顧客群について定性情報を集めます。
- アンケート自由回答
- 顧客インタビュー
- 問い合わせ内容
- 営業・商談メモ
- 失注理由
- カスタマーサポートの問い合わせ
重要なのは「この顧客がこう言った」で止めず、複数の情報から共通する背景や判断軸を探すことです。
4. 「なぜ」を仮説として言語化する
定性情報を整理したら、原因を断定するのではなく仮説として書きます。
たとえば「資料ダウンロード後の商談化率が低い」という事象に対し、次のように整理できます。
- 課題整理目的で資料を取得しており、具体的な導入検討には入っていないのではないか
- 担当者本人の関心は高いが、社内説明に必要な情報が不足しているのではないか
- 商品そのものではなく、導入後の運用負荷に不安があるのではないか
5. 定量・行動データで仮説を確かめる
次に、その仮説と整合する行動が本当に見られるかを確認します。
たとえば「社内説明材料が不足している」という仮説なら、事例、費用対効果、導入方法、FAQなどへの閲覧状況や、その情報を追加した後の反応変化を確認できます。
6. 施策を変え、再度ファネルを見る
最後にコンテンツや営業プロセスを変更し、結果を再確認します。
- 記事テーマを変更する
- 比較ページに判断軸を追加する
- FAQを追加する
- 営業資料を見直す
- セミナー内容を変更する
- ターゲットや訴求を変更する
分析とは「答えを出すこと」ではなく、より良い仮説を作り、施策で確かめることです。
定性・定量分析を施策につなげる具体例
例として、「ウェビナー申込は増えているのに商談が増えない」というケースを考えます。
| 工程 | 確認内容 |
|---|---|
| 定量分析 | 申込数、参加率、資料閲覧、商談化率などを確認する |
| 差分発見 | 参加者は増えているが、商談化率が低下している |
| 定性分析 | 参加理由、アンケート自由回答、営業との会話を確認する |
| 仮説 | 具体検討ではなく情報収集目的の参加者が増えているのではないか |
| 追加検証 | 参加テーマ、閲覧コンテンツ、企業属性、後続行動を比較する |
| 施策 | 検討度別に次に案内する記事・資料・営業アプローチを変更する |
このように考えると、「商談化率が低いから営業電話を増やす」という単純な判断ではなく、顧客の状態に合わせた施策を検討できます。
AIは定性・定量データの接続をどう支援できるか
AIは、定性データが増えたときの整理や仮説作成を支援できます。ただし、AIに顧客像を決めてもらうのではなく、人が設定した問いに対して情報を整理する補助役として使うことが重要です。
AIが活用しやすい作業
- アンケート自由回答の分類
- 商談メモの論点整理
- 複数インタビューから共通テーマを抽出する
- 成果顧客・失注顧客の違いを比較する
- 仮説候補を洗い出す
- 追加で確認すべき項目を整理する
一方で、AIが出した分類や仮説をそのまま事実として扱うことは避けます。元となるデータ、対象顧客、分析期間、判断目的を明確にし、実際の行動や成果データで確認する必要があります。
顧客理解を属性・意識・行動の観点から整理したい方は、顧客理解を深めるには?属性・意識・行動データの使い分けもご覧ください。
ファネル分析では「一本道」を前提にしすぎない
マーケティングファネルは便利な分析フレームですが、実際の顧客が必ず上から下へ一直線に進むわけではありません。
特にBtoBでは、一度比較検討したあとに案件が止まったり、数か月後に再び情報収集を始めたり、新しい決裁者が参加して比較をやり直したりすることがあります。
そのため、ファネルを「顧客を順番に進ませる仕組み」と考えるのではなく、現在の顧客状態を整理し、それぞれに必要な問いとデータを決めるための仮説フレームとして利用すると実務へ落とし込みやすくなります。
顧客理解とファネルの基本的な関係については、顧客理解×マーケティングファネルとは?認知・比較・購入まで顧客を捉える方法で詳しく整理しています。
2026年9月時点でのファネル分析|計測だけで終わらせない
Web上の定量分析では、アクセス解析を使ってファネルの各ステップや離脱を確認できます。
2026年9月時点でも、Google Analytics 4のファネルデータ探索では、ユーザーがタスクを完了するまでのステップを可視化し、各段階の到達・離脱状況を分析できます。また、最初のステップから入ったユーザーだけを見るクローズドファネルと、途中のステップから参加したユーザーも含めるオープンファネルを使い分けることができます。
ただし、こうした計測で分かるのは主に「どこで何が起きたか」です。
「なぜ離脱したのか」「なぜ比較が長引いているのか」「なぜ営業への相談をためらったのか」といった背景まで理解するには、顧客の声や営業情報を組み合わせる必要があります。
定性・定量分析で起こりやすい5つの失敗
| 失敗 | 問題 | 見直し方 |
|---|---|---|
| データを集めてから目的を考える | 大量のレポートができても判断できない | 最初に「何を知りたいか」を1つ決める |
| 数値だけで理由を断定する | 顧客心理を誤って解釈する可能性がある | インタビューや営業情報で理由を確認する |
| 一人の顧客の声を一般化する | 一部の特殊なケースに施策が引っ張られる | 別顧客や定量データで再確認する |
| マーケティングデータだけを見る | 商談後の検討状況が見えない | 営業・受注・失注データまで接続する |
| 分析して終わる | 顧客理解が事業成果へつながらない | 必ず「次に何を変えるか」を決める |
実務で確認したいチェックリスト
- ファネルの各段階で「何を知りたいか」が明文化されているか
不足している場合は、指標を増やす前に分析目的を1つ決めます。 - 定量データから異常・差分を見つけているか
全体平均だけではなく、期間、顧客層、流入元、コンテンツなどで比較します。 - 数値の背景を確認できる定性データがあるか
ない場合は、自由回答、商談記録、問い合わせ、インタビューなどを追加します。 - 定性情報を「事実」ではなく「仮説」として扱っているか
一部顧客の声だけで施策を決めず、別データで確認します。 - Web分析と営業データが分断されていないか
BtoBでは商談、保留、失注、受注まで確認します。 - 分析結果から変更する施策が決まっているか
記事、広告、資料、FAQ、営業トーク、商品など具体的な変更対象を決めます。 - 施策変更後に再度データを確認しているか
分析→改善→検証を繰り返し、仮説を更新します。
まとめ|定性と定量は「使い分ける」だけでなく「往復する」
マーケティングファネルで定性・定量データを活用するとき、重要なのはデータの種類を増やすことではありません。
定量データで「何が起きているか」「どこに差があるか」を捉え、定性データで「なぜ起きているのか」を考え、仮説をもう一度データや施策で確かめる。この循環を作ることが重要です。
インティメート・マージャーが関わってきたセミナーでも、データ設計や統合を目的にするのではなく、定量・定性の両面から顧客理解を深め、「誰に・いつ・何を届けるか」へつなげる考え方が取り上げられてきました。
数字は顧客の行動を把握する材料になり、顧客の声はその数字を解釈する材料になります。両者を行き来しながら施策を検証することで、マーケティングファネルは単なる集計表ではなく、顧客理解と意思決定のための仕組みになります。
顧客理解の次に、AIとデータを「実行」までつなげたい方へ
定性・定量データから顧客状態や課題を理解できても、その後のリサーチ、ターゲットの優先順位付け、営業・マーケティング施策への展開までを人手だけで継続するのは容易ではありません。
アーカイブ配信「AIエージェントで実現する自動リサーチ・リード獲得の仕組み」では、AIエージェントとデータを活用し、リサーチやアプローチ対象の整理、リード獲得へつなげる実務の考え方を紹介しています。
FAQ
マーケティングファネルでは定性データと定量データのどちらから見るべきですか?
課題によって異なりますが、既に数値データがある場合は、定量データから差分や異常を見つけ、定性データで理由を深掘りし、再び定量データで仮説を確認する流れが実践しやすいでしょう。
ファネルで使える定性データには何がありますか?
顧客インタビュー、アンケート自由回答、問い合わせ内容、商談記録、営業メモ、失注理由、カスタマーサポートへの問い合わせなどがあります。顧客の心理や判断理由を理解する材料として使います。
ファネルで使える定量データには何がありますか?
アクセス数、検索、ページ閲覧、資料ダウンロード、ウェビナー参加、問い合わせ、商談化率、案件化率、受注率、失注率などがあります。ファネル段階によって見る指標を変えることが重要です。
アンケートは定性データと定量データのどちらですか?
設問によって両方になります。選択式回答を集計すれば定量データとして扱え、自由回答は顧客の理由や背景を理解する定性データとして活用できます。
顧客インタビューは何人実施すればよいですか?
目的や顧客の多様性によって異なるため、一律の人数で判断するのは適切ではありません。重要なのは、特定の回答を市場全体の事実として扱わず、複数の顧客や定量データと照らして仮説を確認することです。
BtoBのファネル分析で特に重要なデータは何ですか?
Web行動だけでなく、商談内容、決裁者、社内検討状況、保留理由、失注理由などの営業データを接続することが重要です。問い合わせ後の意思決定プロセスが長いBtoBでは、Web上だけでは顧客状態を十分に把握できない場合があります。
AIを使えば定性データの分析を自動化できますか?
自由回答の分類、商談メモの要約、共通テーマの整理、仮説候補の抽出などは支援できます。ただし、AIの出力をそのまま顧客の事実として扱わず、元データや実際の行動と照合して判断することが重要です。

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