アドテク最新動向:DSP/SSPの選び方はこう変わる
プログラマティック広告のエコシステムは、ここ数年で大きく変化しています。 規制強化、大手プラットフォームへの独禁法対応、サプライパス最適化(SPO)、そしてAIによる入札・最適化の高度化など、 DSP/SSPの役割と選定基準はアップデートが必要な段階に入っています。
- DSP/SSPは「機能の豊富さ」だけでなく、「透明性」「サプライパス」「データ連携」「AI活用」を含めた総合的な評価が求められるようになっています。
- 欧州を中心としたアドテク規制や、Googleへの独禁法対応は、特にオープンウェブの取引ルールとスタック構成に影響を与えています。
- 今後は「単一ベンダーへの依存」から、「目的別に組み合わせるスタック」「透明性の高いサプライパートナー」との付き合い方が重要なテーマになります。
イントロダクション:なぜ今、DSP/SSPの見直しが必要なのか
かつてDSP/SSPの選定といえば、「どれだけ多くの在庫にアクセスできるか」「どれだけ安く配信できるか」が大きな判断軸でした。 しかし、いまは状況が変わりつつあります。
ユーザーの権利や市場の公平性を重視する動きが強まり、欧州委員会はGoogleのアドテク事業に対して数十億ユーロ規模の制裁金と是正措置を命じました。 さらに、Google自身もEUに対してツールの利用制限を緩和する案を提示するなど、アドサーバーと買い付けツールの関係性が問い直されています。
「正直、どのDSP/SSPも『AI最適化』と『リーチの広さ』をうたっています。
そのなかで、何を軸に見極めればよいのかが分かりにくくなってきました。」
本記事では、「アドテク最新動向:DSP/SSPの選び方はこう変わる」というテーマで、 仕組みの基本から最新トレンド、選定チェックポイント、導入ステップ、未来の方向性までを整理します。 特定のベンダーを推奨するものではなく、「評価軸の考え方」を提供することを目的としています。
概要:DSP/SSPの役割と、変化するアドテク環境
そもそもDSP/SSPは何をしているのか
プログラマティック広告のサプライチェーンを、できるだけシンプルに表現すると次のようになります。
- DSP(Demand-Side Platform):広告主・代理店側のツール。入札戦略の設計、ターゲティング、クリエイティブ配信、予算管理などを担います。
- SSP(Supply-Side Platform):パブリッシャー側のツール。広告枠の在庫管理、価格戦略、複数DSPへの接続、収益最適化などを担います。
- アドエクスチェンジ/マーケットプレイス:DSPとSSPをつなぐ取引所として、リアルタイムビッディング(RTB)によるオークションを実行します。
最新動向を押さえるための3つのキーワード
広告が配信されるまでの経路から、不要な中間事業者や重複オークションを減らし、 よりシンプルで透明なパスを選ぶ考え方。費用やレイテンシの低減に加え、信頼できるパートナーとの関係構築にもつながります。
EUを中心に、大手プラットフォームの自己優遇や縦統合モデルへの対応が進行中。 アドサーバーとDSP/SSPの関係性、入札ルールの公平性、データアクセスの条件などが見直されています。
DSP/SSPともに、AIによる入札・クリエイティブ最適化が前提となりつつあります。 ディスプレイだけでなく、動画、CTV、音声、リテールメディアなど複数チャネルをまたいだ管理が重要になっています。
最新動向を追うと情報量に圧倒されがちですが、
「サプライパス」「規制・公平性」「AI・クロスチャネル」の3つを軸に整理すると、各ベンダーの特徴が比較しやすくなります。
利点:最新トレンドを踏まえてDSP/SSPを選び直すメリット
既に利用しているDSP/SSPがある場合でも、現在の環境に合わせて評価軸を見直すことで、 コストと成果、透明性、将来の拡張性のバランスを取りやすくなります。
サプライパスの整理によるコスト・品質のバランス改善
SPOの観点からDSP/SSPを見直すと、以下のような変化が期待できます。
- 不要な中間事業者へのフィーを抑え、媒体・広告主に残る価値を高めやすくなる
- オークションの重複やレイテンシの増加を抑えることで、ユーザー体験と配信安定性を両立しやすくなる
- どの経路がどの程度の成果を生んでいるかを比較しやすくなり、継続判断がしやすくなる
透明性の向上による社内外の信頼獲得
取引の仕組みや手数料構造が分かりにくいと、社内での説明やクライアントへのレポーティングに苦労します。 透明性を重視したDSP/SSPを選ぶことで、次のようなメリットがあります。
- メディアフィーとテクノロジーフィーを切り分けて説明しやすくなる
- 広告主・上長からの「本当にこのお金はどこに流れているのか?」という質問に答えやすくなる
- ガバナンスや監査対応の観点でも、説明資料を整備しやすくなる
AI・データ連携の前提を整える
最新のDSP/SSPはAIを前提に設計されており、配信実績データとの連携が重要になっています。
- ログレベルデータや集計レポートへのアクセスが整うことで、独自の分析や可視化が行いやすくなる
- 計測・アトリビューションとの連携により、チャネル横断での評価がしやすくなる
- AI最適化の仕組みを理解し、制御できる範囲を把握することで、期待値とのギャップを管理しやすくなる
「現状のスタックと運用が、いまの環境に合っているかを検証する」というスタンスで見直すと、 チーム内の理解も得やすくなります。
応用方法:用途別に見るDSP/SSPの選定・併用パターン
ここからは、用途別のシナリオを通じて「どのような観点でDSP/SSPを選び分けるか」を具体的にイメージしていきます。
ブランド認知キャンペーンでのDSP選び
- 動画・CTV・音声など、リッチフォーマットへの対応状況
- ビューアビリティやブランドリフトの計測パートナー連携
- プレミアムインベントリへのアクセス(PMP/PGなど)の豊富さ
- フリークエンシー管理や、チャネル跨ぎのリーチ重複可視化
獲得目的キャンペーンでのDSP選び
- 入札戦略(目標CPA/ROAS、オフラインコンバージョン連携など)の柔軟性
- ファーストパーティデータやCRMセグメントとの連携のしやすさ
- 不正トラフィック対策、ブランドセーフティ機能の実装状況
- 細かなレポート(デバイス、プレースメント、サプライパスなど)の取得有無
パブリッシャー側から見るSSP選び
- 接続されているDSPや需要ソースの質と多様性
- サプライパス最適化(SPO)への取り組み(カスタムディール、サプライカーブの可視化など)
- ラッパーやヘッダービディングとの相性、レイテンシへの配慮
- レポート・分析機能(収益分解、ビューワビリティ、国・地域別の傾向など)
オムニチャネル戦略での組み合わせ
単一DSP集中型
- クロスチャネルのリーチ・フリークエンシー管理がしやすい
- ベンダーとのリレーションを深めやすい
- 一方で、特定フォーマットやリージョンに弱いケースもある
複数DSP併用型
- チャネルや地域ごとに強みを持つDSPを使い分けられる
- 同じ在庫への重複入札や運用負荷が課題になりやすい
- SPOや社内ルールで役割分担を整理することが重要
たとえば、
「ブランド認知×動画・CTVはDSP A」「獲得×ディスプレイはDSP B」「SSPは3〜4社に絞り、SPOのレポートを毎四半期見直す」
といった形で、用途とベンダーをマトリクスで整理すると、社内の合意形成もしやすくなります。
導入方法:DSP/SSP見直しのステップとチェックリスト
実際にDSP/SSPの選定や見直しを進める際のステップを、できるだけ現場目線で整理します。
ステップA:現状のスタックと成果を棚卸しする
- 利用中のDSP/SSP、アドサーバー、計測ツールを一覧化する
- チャネル別(ディスプレイ、動画、CTV、リテールメディアなど)の予算・CPA/ROAS・インプレッション比率を確認
- 「このベンダーでないと実現できないこと」と「他でも代替可能なこと」を分けておく
ステップB:評価軸を定義する
- ビジネス目標との距離(認知・獲得・LTV向上など)
- 透明性(フィーの構造、レポートの粒度、サプライパスの可視化)
- 技術・プロダクト(AI最適化、クロスチャネル対応、データ連携)
- サポート体制(日本語対応、ローカルのケーススタディ、トレーニング)
- 法務・ガバナンス(規制対応、契約条件、インシデント時の報告フロー)
ステップC:RFPや比較表で候補を絞り込む
すべてを一度に比較しようとすると混乱しがちです。RFP(提案依頼書)や比較表を使い、 優先度の高いポイントから確認していきます。
- 必須要件(対応していない場合は候補から外れる項目)
- 評価ポイント(対応状況によりスコア付けする項目)
- 将来検討(すぐには使わないが、中長期で必要になりそうな機能)
ステップD:テスト配信と検証設計
- 予算と期間を限定したテストキャンペーンを設計する
- 既存ベンダーとの比較軸(CPA、CTR、ビューアビリティ、レポートの見やすさなど)を事前に決めておく
- 配信結果だけでなく、サポートやレポーティングのスピード感も評価対象に含める
ステップE:運用・レポートの標準化
- 媒体・チャネルをまたいだ共通レポートテンプレートを用意する
- サプライパスやSPOの観点から、四半期ごとに見直す項目を決めておく
- 社内ナレッジ(運用Tips、トラブルシューティング)を蓄積・共有する場を作る
環境の変化に応じてゆるやかにアップデートしていくプロセスと捉えると、現場の負荷も調整しやすくなります。
未来展望:DSP/SSPの境界はどう変わっていくのか
2025年時点でも、DSP/SSPの世界はすでに複雑ですが、今後数年でさらに変化が進むと予想されています。
買い手・売り手ツールの「収れん」
一部のレポートでは、今後DSPとSSPの機能が重なり合い、境界が曖昧になっていくと指摘されています。
- DSP側がサプライパス制御や在庫キュレーション機能を強化する動き
- SSP側が買い付けロジックやデータ連携を強化し、買い手との距離を縮める動き
- マーケットプレイスやキュレーションレイヤーが、両者をブリッジする役割を担う可能性
Curated Audiences・Seller Defined Audiencesなどの新しいアドレス指定
IAB Tech Labが推進する「Curated Audiences」(旧 Seller Defined Audiences)は、 パブリッシャーやデータプロバイダーが自ら定義したオーディエンスを安全に共有するための枠組みとして注目されています。
- ユーザー個々の識別ではなく、興味・文脈・行動パターンを元にしたオーディエンス定義
- DSP側での対応が進むことで、プライバシー配慮とターゲティング精度の両立を図る動き
- SSP側では、サイトコンテンツや文脈を活かしたセグメント設計が重要に
規制・独禁法対応後のエコシステム再編
EUによるGoogleへの制裁・是正措置は、オープンウェブにおけるアドテクのあり方に大きな影響を与えています。
- アドサーバーとDSP/SSPを同一企業が提供するモデルに対する監視の強化
- 第三者による監査や計測の重要性の高まり
- 新規プレイヤーや地域特化型ベンダーの台頭
DSP/SSPは「どのベンダーが勝つか」という話だけではなく、
「どのようなルールと技術でオープンウェブの広告を支えるか」というインフラの議論でもあります。
マーケターとしては、その変化を把握しつつ、自社の目的に沿ったスタックを選ぶ視点が重要になります。
まとめ:DSP/SSP選びは「スタック設計」の時代へ
「アドテク最新動向:DSP/SSPの選び方はこう変わる」というテーマで、 役割の基本から最新トレンド、応用例、導入ステップ、未来展望までを見てきました。
- DSP/SSPは、単に「在庫にアクセスするためのツール」から、「サプライパス・透明性・データ連携まで含めたスタックの一部」として捉える必要が出てきている
- サプライパス最適化(SPO)、規制・独禁法対応、AI・クロスチャネル最適化が、最新動向を理解するうえでのキーワードになる
- 用途別の選定・併用、RFPとテスト配信による比較、四半期単位の見直しなどを通じて、段階的にスタックを整えていくことが現実的
- 今後はCurated Audiencesのような新しいアドレス指定や、買い手・売り手ツールの収れん、エコシステム再編が進むと見込まれる
「どのベンダーが正解か」ではなく、「自社の目的とリソースに対して、どの組み合わせが適切か」を考えることで、 長期的に運用しやすいアドテク環境を整えていくことができます。
FAQ:DSP/SSP選定に関するよくある質問
まずは「何を目的としたキャンペーンが中心か」を明確にすることが大切です。 ブランド認知が中心であれば動画・CTVやプレミアム在庫へのアクセス、 獲得が中心であれば入札戦略の柔軟性や計測連携を重視するなど、 目的に応じて評価軸を変えると比較しやすくなります。 そのうえで、サプライパスの透明性やAI最適化の仕組みも確認しておくとよいでしょう。
複数DSPを併用する場合は、「チャネル」「目的」「地域」などで役割を分けることがポイントです。 例えば「認知×動画はDSP A」「獲得×ディスプレイはDSP B」といった形でルールを決め、 サプライパス最適化の観点からも定期的に重複をチェックすると、ムダな重複入札を抑えやすくなります。
一概に「何社が適切」とは言えませんが、近年は「とにかく数を増やす」方向性から、 「信頼できるパートナーに絞り込む」方向へとシフトしています。 収益・レイテンシ・サポート・SPOへの取り組みなどを指標に、 定期的に評価しながらポートフォリオを調整していくのが現実的です。
すべてを詳細に追う必要はありませんが、次のポイントだけ押さえておくと判断しやすくなります。
・自社が利用しているアドサーバーやDSP/SSPが、どのような是正措置の対象になっているか
・ベンダーがどのような対応方針を公表しているか(透明性・利益相反の解消など)
・自社の契約や運用ルールに、どのような影響がありそうか
これらを担当営業やカスタマーサクセスに確認し、定期的に情報をアップデートしていくと安心です。
機能一覧だけで説明するのではなく、
「現状の課題 → 選定理由 → 期待する効果 → 検証方法」
というストーリーで整理すると、非専門部署にも伝わりやすくなります。
また、サプライパスの可視化や透明性の向上など、 ガバナンス面でのメリットもあわせて説明すると、経営層からの理解も得やすくなります。

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