「失注理由をCRMに記録しているが、『価格』『競合』『タイミング』ばかりになっている」「営業担当者は理由を把握しているつもりでも、本当に顧客がそう考えていたのか分からない」「失注した顧客に改めて質問するのは気まずい」。BtoB営業では、このような課題があります。
結論から言うと、失注インタビューでは最初から「なぜ弊社を選ばなかったのですか?」と聞くのではなく、検討を始めた背景から、比較、社内検討、最終判断までを時系列で確認することが重要です。
「価格が高かった」という回答だけでも、背景には「価値を説明できなかった」「予算申請が間に合わなかった」「別の方法でも十分だった」「導入後の運用が不安だった」など、異なる状況が考えられます。
本記事では、BtoB企業が失注インタビューを実施するときに使える質問例を、対象案件の選び方、質問順序、比較候補、意思決定、導入障壁、NG質問、営業・商品改善への反映まで順番に解説します。
この記事の要点
- 失注インタビューは「失注理由を一つ決める場」ではなく、顧客の意思決定プロセスを確認する場として設計します。
- 最初から「なぜ買わなかったか」を聞かず、課題発生→情報収集→比較→社内検討→最終判断の順で確認します。
- 「価格」「機能」「競合」という回答が出ても、その言葉だけで原因を確定しません。
- BtoBでは担当者だけでなく、利用者・推進者・決裁者など複数の関係者が判断に影響している可能性を確認します。
- 失注インタビューの結果は、営業だけでなく商品、コンテンツ、ターゲティング、ナーチャリングの改善仮説へつなげます。
- 失注インタビューとは?
- 失注インタビューと失注分析の違い
- 失注インタビューを実施する目的を最初に決める
- どの失注案件・誰にインタビューする?
- 失注インタビューは時系列で聞く
- 検討開始を確認する質問例
- 比較候補・判断基準を確認する質問例
- 社内の意思決定プロセスを確認する質問例
- 導入障壁・迷いを深掘りする質問例
- 「価格が理由でした」で終わらせない聞き方
- 避けたい失注インタビューのNG質問
- 「なぜ?」だけを繰り返さず、経緯へ戻る
- インタビュー結果は「発言・事実・解釈」を分ける
- 失注インタビューを営業・商品改善へつなげる
- AIは失注インタビューの分析にどう使える?
- 失注インタビューの実務チェックリスト
- IMMNの一次情報から考える「買わなかった理由」の見方
- まとめ|失注理由を「一言」で終わらせず意思決定の経緯を見る
- 失注インタビューに関するよくある質問
失注インタビューとは?
失注インタビューとは、受注に至らなかった顧客へ、検討の経緯、比較条件、意思決定、見送った背景などを確認する定性調査です。
目的は、営業担当者を評価したり、顧客に判断を変更してもらったりすることではありません。
主に確認したいのは、次のような情報です。
- そもそも何を解決しようとしていたのか
- なぜ検討を始めたのか
- どのような選択肢を比較したのか
- 何を判断基準にしたのか
- 社内で誰が意思決定に関わったのか
- どの時点で候補から外れたのか
- 何が導入の障壁になったのか
- 最終的にどの方法を選んだのか
失注理由のラベルを付けることよりも、意思決定がどのように進んだのかを再構成することを重視します。
失注インタビューと失注分析の違い
失注インタビューは顧客から理由を収集する工程、失注分析は複数案件のデータから傾向や改善仮説を整理する工程です。
| 項目 | 失注インタビュー | 失注分析 |
|---|---|---|
| 目的 | 個別案件の意思決定背景を理解する | 複数案件から傾向を見つける |
| 主な情報 | 顧客本人の経験・発言 | CRM、商談記録、インタビュー等 |
| 確認すること | 比較、判断基準、迷い、社内検討 | 共通原因、セグメント差、営業工程 |
| 成果物 | 個別案件の事実・仮説 | 改善テーマ・優先順位 |
まずインタビューで定性情報を取得し、その後、他の案件や定量データと合わせて確認すると役割を分けやすくなります。
失注インタビューを実施する目的を最初に決める
質問を作る前に、「インタビュー結果を何の改善に使うのか」を決めます。
例えば、目的には次のようなものがあります。
- 営業プロセスの改善
- 商品・機能の改善
- 価格・契約条件の見直し
- 競合との比較軸の理解
- ターゲット企業の見直し
- LP・提案資料・FAQの改善
- 決裁者向けコンテンツの改善
- ナーチャリング方法の見直し
「失注理由を知る」という目的だけでは広すぎます。
「比較段階で何が不足していたかを知り、営業資料を改善する」のように、次の意思決定まで定めておくと質問を絞りやすくなります。
どの失注案件・誰にインタビューする?
すべての失注案件へ同じインタビューを実施する必要はありません。今回検証したい課題に合う案件を選びます。
対象案件を選ぶ
例えば、次のような案件を候補にできます。
- 最終比較まで進んだ案件
- 自社が想定するターゲット条件に合っていた案件
- 同じ失注理由が繰り返されている案件
- 大型案件
- 提案への反応は良かったが受注しなかった案件
- 競合ではなく「何もしない」を選んだ案件
目的がターゲティング改善なら、早期に離脱した案件も対象になる場合があります。
担当者一人の回答を企業全体の判断にしない
BtoBでは、一人で意思決定しているとは限りません。
例えば、
- 情報を調べた担当者
- 実際の利用者
- 導入を推進した担当者
- マネージャー
- 決裁者
- 情報システム・法務・購買部門
などが関与します。
回答者本人がどの部分まで把握しているのかを確認し、「社内では誰がどの条件を重視していましたか?」と購買関与者も確認します。
失注インタビューは時系列で聞く
質問は「失注理由」から始めず、検討開始から最終決定まで順番に振り返ります。
基本的には、次の流れで進めます。
- 検討前の状況
- 課題が表面化した出来事
- 情報収集を始めたきっかけ
- 比較した選択肢
- 評価基準
- 社内検討
- 迷ったポイント
- 最終的な判断
- 現在の対応方法
この順序にすることで、「価格だったと思います」といった後付けの要約だけではなく、実際の検討プロセスを把握しやすくなります。
検討開始を確認する質問例
まず、なぜ商品・サービスを探し始めたのかを確認します。
- 今回の検討が始まる前は、どのような方法で対応していましたか?
- 別の方法を探そうと思ったきっかけは何でしたか?
- 当時、特に困っていたことは何でしたか?
- その課題はどの部署・業務に影響していましたか?
- 最初に誰が情報収集を始めましたか?
- 当初、いつ頃までに解決したいと考えていましたか?
ここで確認したいのは、自社サービスへの評価ではなく、顧客側の課題と検討の出発点です。
比較候補・判断基準を確認する質問例
失注理由を理解するには、「誰に負けたか」だけでなく「何と比較されたか」を確認します。
比較対象は競合サービスとは限りません。
- 別サービス
- 内製
- 既存ツールを継続
- 業務委託
- 現状維持
- 導入自体を延期
なども選択肢です。
そのまま使える質問例
- 検討中には、どのような選択肢がありましたか?
- 最初に候補を絞るとき、何を確認しましたか?
- 比較するときに特に重視した条件は何でしたか?
- 途中で候補から外れた選択肢はありましたか?
- 最終候補では、どの点を比較しましたか?
- 弊社の提案で評価いただいた点はありましたか?
- 反対に、判断しにくかった情報はありましたか?
「競合A社とどちらが良かったですか?」のように自社が比較対象を決めつけず、まず顧客自身から選択肢を聞きます。
社内の意思決定プロセスを確認する質問例
BtoBの失注では、担当者の評価が高くても、社内意思決定で止まることがあります。
そこで、購買プロセスも確認します。
- 社内ではどなたが検討に関わっていましたか?
- それぞれの方が重視していた条件は何でしたか?
- 社内で意見が分かれたポイントはありましたか?
- 上司・決裁者からどのような質問が出ましたか?
- 説明するのが難しかった点はありましたか?
- 予算・契約・セキュリティ・運用体制などで確認事項はありましたか?
- 最終判断はどのような流れで決まりましたか?
例えば「価格で失注」と聞いても、実際には「価格に対する費用対効果を決裁者へ説明できなかった」ケースなら、単純な値下げとは異なる改善策が必要です。
導入障壁・迷いを深掘りする質問例
「何が悪かったか」ではなく、「どこで判断が止まったか」を具体的に聞きます。
| 確認したいこと | 質問例 |
|---|---|
| 不安 | 最後まで気になっていたことは何でしたか? |
| 不足情報 | 検討時に、もっと情報が欲しかった点はありましたか? |
| 導入負荷 | 導入後の運用について懸念はありましたか? |
| 社内説明 | 社内へ説明する際、難しかった点はありましたか? |
| 価格 | 金額そのものと、費用に対する価値のどちらが判断に影響しましたか? |
| 機能 | 必要条件を満たしていないと感じた点はありましたか? |
| タイミング | 導入時期を見送ることになった事情はありましたか? |
| 最終判断 | 判断が大きく動いた出来事や情報はありましたか? |
「価格が理由でした」で終わらせない聞き方
「価格」と回答された場合も、その場で失注原因を確定しません。
例えば、次のように深掘りできます。
顧客:「価格が合いませんでした」
追加質問:
- 金額を確認した時点では、どのように感じましたか?
- 比較していた予算や選択肢はありましたか?
- 予算内であれば導入する状況だったのでしょうか?
- 費用対効果を社内で説明するときに難しい点はありましたか?
- 価格以外で最後まで迷っていた点はありましたか?
「価格」という言葉の背景には、予算不足、価値理解、社内承認、優先順位、利用規模など複数の可能性があります。
インタビューは、一つの理由へ早く分類するのではなく、複数の可能性を確認するために使います。
避けたい失注インタビューのNG質問
自社の仮説を質問文へ入れると、回答を誘導する可能性があります。
| 避けたい質問 | 問題 | 改善例 |
|---|---|---|
| 価格が高かったからですよね? | 原因を決めつける | 最終判断で重視した条件は何でしたか? |
| 競合の方が機能が良かったですか? | 比較対象と理由を誘導する | どの選択肢を、どの基準で比較しましたか? |
| なぜ弊社を選ばなかったのですか? | 最初から理由の要約を要求する | 検討開始から最終判断までの流れを教えてください。 |
| 営業担当の説明に問題がありましたか? | 営業要因へ誘導する | 検討中に分かりにくかったことはありましたか? |
| ○○機能があれば選んでいましたか? | 仮定の回答を求める | 当時、必須条件としていた機能は何でしたか? |
「なぜ?」だけを繰り返さず、経緯へ戻る
深掘りでは「なぜですか?」だけを繰り返すより、具体的な場面・行動・順序へ戻る質問を組み合わせます。
- その判断はいつ頃でしたか?
- その前に何を確認していましたか?
- そのとき社内ではどのような話が出ましたか?
- 具体的な質問や懸念を覚えていますか?
- その後、次に何をしましたか?
- 最終的にはどの方法を選びましたか?
顧客に「理由を説明してもらう」だけではなく、検討プロセスを一緒に振り返るイメージです。
インタビュー結果は「発言・事実・解釈」を分ける
顧客の発言と、自社側の解釈を同じ欄に記録しないことが重要です。
| 分類 | 例 |
|---|---|
| 顧客の発言 | 「価格がネックでした」 |
| 確認できた事実 | 最終決裁時に予算枠を超えていた |
| 追加情報 | 決裁者へROIを説明する資料がなかった |
| 自社の仮説 | 価格そのものより社内説明材料の不足が影響した可能性 |
| 次の検証 | 他の失注案件でも同様か確認する |
一件のインタビューから「弊社の失注原因は○○です」と断定しないことも重要です。
個別インタビューから仮説を作り、CRMの失注データ、商談記録、他のインタビュー、受注顧客との違いなどを使って確かめます。
失注インタビューを営業・商品改善へつなげる
インタビューは聞いて終わりではなく、「どの施策を見直すか」まで決めて初めて活用できます。
| 見つかった課題 | 改善候補 |
|---|---|
| 比較基準が伝わらない | 比較表、営業資料、Webコンテンツ |
| 費用対効果を説明できない | 料金ページ、事例、社内説明資料 |
| 導入後の運用が不安 | 導入プロセス、FAQ、オンボーディング説明 |
| 必要機能が不足 | 商品・開発ロードマップの検討材料 |
| 対象企業と合わない | ICP・ターゲティングの見直し |
| 導入時期が合わない | ナーチャリング・再接触設計 |
| 決裁者への情報不足 | 決裁者向けコンテンツ・稟議材料 |
重要なのは、失注理由をすべて「営業の改善」に寄せないことです。
商品、価格、ターゲット、Webコンテンツ、社内説明、導入支援など、複数の改善候補に分けます。
AIは失注インタビューの分析にどう使える?
AIは複数のインタビュー記録を整理する補助には使えますが、「本当の失注理由」を自動判定するものではありません。
例えば、
- 発言をテーマ別に分類する
- 比較基準を抽出する
- 複数案件に共通する懸念を整理する
- 営業担当者の仮説と顧客発言を分ける
- 反証になる発言を探す
- 追加で確認すべき質問を作る
といった作業に使えます。
ただし、「価格」という言葉が多かったからといって、AIの分類結果だけで価格を最大の失注原因と断定しないようにします。
インティメート・マージャーの商品開発関連の一次情報でも、定性データから「売れる理由」「買わない理由」の仮説を作り、定量データで市場性や優先順位を確認するという役割分担を重視しています。
失注インタビューの実務チェックリスト
| 確認項目 | なぜ重要か | 不足時の対応 |
|---|---|---|
| インタビューの目的を決めた | 質問を増やしすぎないため | 改善したい施策を1つ決める |
| 対象案件の条件を決めた | 都合の良い案件だけ選ばないため | 商談段階・規模等で条件化 |
| 回答者の役割を確認した | 企業全体の判断と混同しないため | 購買関与者を確認 |
| 失注理由から質問を始めていない | 後付け回答に偏らないため | 検討開始から時系列で聞く |
| 比較候補を顧客自身に聞いた | 自社が比較対象を決めつけないため | 現状維持・内製も確認 |
| 社内意思決定を確認した | BtoB固有の障壁を見るため | 決裁者・関係部署を確認 |
| 誘導質問を避けた | 仮説を肯定させないため | オープンな質問へ修正 |
| 発言と解釈を分けた | 事実と仮説を混同しないため | 記録欄を分ける |
| 一件だけで結論を出していない | 個別事情を一般化しないため | 他案件・定量データで検証 |
| 改善担当を決めた | 調査結果を放置しないため | 営業・商品・マーケへ振り分ける |
IMMNの一次情報から考える「買わなかった理由」の見方
BtoBの失注理由は、一つのラベルだけでは顧客の意思決定を十分に説明できない場合があります。
インティメート・マージャーがこれまで扱ってきた顧客理解・商品開発の議論でも、「売れる理由」だけではなく「買わない理由」を整理し、定性データと定量データを組み合わせて確認することが重要なテーマになっています。
例えば、CRM上で「価格」と入力されている案件でも、
- 予算そのものが足りなかった
- 価値を理解できなかった
- 社内説明材料が不足した
- 導入優先順位が下がった
- 利用人数に対して割高だった
では、改善すべき施策が異なります。
失注インタビューは、CRMの失注理由を否定するためではなく、そのラベルの背景にある顧客の状況を理解するために使います。
失注理由を複数案件から分析する方法については、関連記事「失注理由を分析する方法|営業担当者の感覚だけに頼らない振り返り方」で詳しく整理しています。
まとめ|失注理由を「一言」で終わらせず意思決定の経緯を見る
失注インタビューで重要なのは、「なぜ買わなかったのですか?」という質問そのものではありません。
確認したいのは、
- 何がきっかけで検討が始まったのか
- 何と比較したのか
- どの条件を重視したのか
- 誰が意思決定に関わったのか
- どこで迷ったのか
- 何が判断を止めたのか
- 最終的にどの方法を選んだのか
という意思決定の流れです。
「価格」「競合」「タイミング」といった失注理由は、分析の入口としては使えます。しかし、そのラベルだけで営業・商品を変更すると、本来の原因と施策がずれる可能性があります。
まず個別インタビューから顧客の経験を理解し、そこから複数の仮説を作り、他の商談データや定量情報で確認する。この流れを作ることで、失注を次の営業・商品・マーケティング改善へつなげやすくなります。
失注理由を「価格・競合」で終わらせず、商品・マーケティング改善へつなげたい方へ
失注インタビューで顧客の「買わなかった理由」が見えても、一件の発言だけでは市場全体の優先課題かどうかは判断できません。
アーカイブ配信「AI×定性・定量データで『売れる理由』を見つける商品開発」では、顧客の声などの定性情報から仮説を作り、定量データを組み合わせながら商品・訴求・市場性を検証する考え方を紹介しています。
失注インタビューに関するよくある質問
失注インタビューでは最初に何を聞けばよいですか?
最初は失注理由ではなく、検討を始める前の状況や検討開始のきっかけから聞きます。その後、情報収集、比較、社内検討、最終判断へ進みます。
「なぜ弊社を選ばなかったのですか?」と聞いてはいけませんか?
質問自体が禁止というわけではありませんが、最初に聞くと回答が一つの理由へ集約されやすくなります。まず検討経緯を確認した後に補足質問として使う方が整理しやすいでしょう。
価格と言われた場合はどう深掘りすればよいですか?
金額そのもの、予算、費用対効果、社内説明、他の選択肢との比較など、どの部分が意思決定に影響したのかを分けて確認します。
失注したすべての顧客へインタビューすべきですか?
必ずしも必要ありません。今回検証したい仮説に合わせ、商談段階、企業規模、ターゲット適合性、失注理由などから対象案件を選びます。
営業担当者本人がインタビューしてもよいですか?
可能ですが、商談再開や反論の場にしないことが重要です。回答しにくいテーマがある場合は、マーケティングや営業企画など別担当者が聞く方法も検討できます。
一件の失注インタビューから改善施策を決めてもよいですか?
一件の発言は重要な仮説になりますが、市場全体の傾向とは限りません。他のインタビュー、CRM、商談データ、定量情報と合わせて確認します。
失注インタビューと顧客インタビューは何が違いますか?
顧客インタビューは顧客理解全般を対象にできますが、失注インタビューは「受注に至らなかった意思決定プロセス」に対象を限定します。比較基準、社内検討、導入障壁をより詳しく確認する点が特徴です。

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