AIエージェント時代を勝ち抜くEC戦略

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AIエージェント時代を勝ち抜くEC戦略

 

検索からAI相談へと購買行動が変わる中、ECは何を見直すべきなのでしょうか。ファーストパーティデータ、CRM、情報設計、コンテンツ戦略を軸に、AIエージェント時代に選ばれるECの実践策を整理します。

 

登壇者紹介

本セミナーに登壇したのは、株式会社インティメート・マージャー 代表取締役社長の簗島亮次氏と、ペタビット株式会社 取締役 東京支社長の伊藤渉氏です。簗島氏は、長年にわたりデータ活用とAI活用の領域に取り組み、DMPを基盤としたデータ流通やマーケティング支援を推進してきた人物です。DMPとは、さまざまな顧客データを統合・整理し、マーケティングや広告配信に活用するための基盤を指します。近年は、AIに選ばれる情報設計やLLM最適化の文脈でも注目されています。

 

一方の伊藤氏は、ペタビット株式会社において、EC構築やデジタルマーケティング支援を長年手がけてきました。ペタビットは神戸と東京の2拠点で活動し、企業の販売拡大を支援するWeb・EC・IT活用に強みを持つ企業です。伊藤氏は、ECの現場で蓄積された知見をもとに、AIを一時的な流行ではなく、事業拡大のための実務ツールとしてどう活用するかを語りました。

 

セミナーの背景と問題意識

今回のセミナーでは、「EC×AIトレンド総まとめ AIエージェント時代のEC戦略」というテーマのもと、検索行動の変化とEC運営の再設計が議論されました。背景にあるのは、ユーザーが従来のように検索エンジンで比較検討するだけでなく、AIに相談し、その回答をもとに購買を進める流れが広がっていることです。

 

とくに注目されたのは、ゼロクリックサーチの進行です。これは、検索結果ページやAIの回答だけで情報取得が完結し、ユーザーが個別サイトへ遷移しなくなる現象です。比較サイトやSEOメディアでは、すでにトラフィック減少が顕著になっており、ECも例外ではありません。これまでのように「サイトに来てもらってから売る」発想だけでは不十分になりつつあります。

 

また、ファーストパーティデータの重要性も改めて共有されました。ファーストパーティデータとは、自社サイトや会員情報、購買履歴、問い合わせ履歴など、自社が直接取得した顧客データを指します。AI時代には、この自社データをどう蓄積し、どう活用するかが、顧客理解とパーソナライズの精度を左右します。単なるアクセス数や広告配信の効率だけではなく、継続的に顧客と関係を築けるかが問われる時代に入っているのです。

 

キーメッセージと発言ハイライト

本セミナーの大きなキーメッセージは、AI時代においてECの競争軸が変わっているという点です。従来は、ユーザーが商品ページに訪れた後のUIや導線設計が重視されていました。しかし、これからは「そもそもAIがその商品を候補に挙げるか」「AIが理解しやすい情報として整備されているか」が極めて重要になります。

 

インターネット上にない情報は、AIも知らないです。(簗島氏)

 

この発言は、今回の議論を象徴しています。どれほど良い商品でも、AIが参照できる形で情報が存在しなければ、比較対象にすら入らない可能性があります。つまり、ECサイトは単なる販売ページではなく、AIに正確に理解されるための情報基盤としての役割を強めています。

 

AIに全部丸投げしてやろうとすると、多分失敗すると思います。(伊藤氏)

 

伊藤氏は、AI活用の可能性を認めつつも、人間の役割が消えるわけではないと強調しました。AIは商品説明文のたたき台作成、画像生成、ペルソナ案の整理などに有効ですが、最終的にどの情報が顧客に響くかを見極めるのは人間の仕事です。とくにECでは、商品の魅力をどう伝えるか、どの体験を重視するかといった編集視点が成果を左右します。

 

人が見るためにいいインターフェイスと、AIが見るためにいいインターフェイスはちょっと違うんだろうなと思います。(簗島氏)

 

この指摘も非常に重要です。人間向けには、見やすさやデザイン性が求められます。一方でAI向けには、構造化された情報、十分なテキスト量、用途や特性が明確な表現が求められます。構造化データとは、商品名・価格・在庫・用途・評価などを機械が理解しやすい形式で整理する考え方です。今後は、この二つの視点を両立させることがEC運営の基礎になります。

 

実践的な取り組みと事例

実務面で特に印象的だったのは、「情報量の少ないECページではAIに選ばれにくい」という問題提起です。多くのEC商品ページは、画像数枚と価格、短い説明文だけで構成されています。しかし、AIが比較検討を支援する時代には、それだけでは不十分です。どのような用途に向いているのか、誰におすすめなのか、他の商品と比べてどこが優れていて、どこに制約があるのかまで記述されてはじめて、AIが推薦しやすい情報になります。

 

セミナーでは、伊藤氏が忘年会の景品選びをChatGPTに相談した実例も紹介しました。単に「3000円以内の商品」ではなく、「経営者同士の忘年会で、少し笑いが起きるようなもの」「自分では買わないが、もらうと嬉しいもの」といった文脈を与えることで、従来の検索では出会いにくい候補が提示されたそうです。この例は、AI時代の購買がスペック比較だけではなく、利用シーンや受け取り方まで含めて最適化されていくことを示しています。

 

そのため、EC側も商品を単に登録するのではなく、「プレゼント向き」「忙しい人向き」「初めてでも使いやすい」といった文脈情報を充実させる必要があります。さらに、UGCの活用も重要です。UGCとはUser Generated Contentの略で、口コミやレビュー、SNS投稿など、ユーザー自身が作るコンテンツを指します。実際の利用者の声は、AIにとっても信頼性を判断する重要な材料になりやすいからです。

 

また、店舗販売を行う企業では、オフラインの接客情報をEC側へ還元する重要性も共有されました。店頭でよく聞かれる質問や、実際に比較されるポイント、購入理由や迷いどころは、ECの商品ページ改善に直結する一次情報です。OMOはオンラインとオフラインを横断して顧客体験を設計する考え方ですが、この文脈では、店頭情報をECへ持ち込むこと自体が大きな競争力になります。

 

今後の展望とまとめ

AIエージェント時代のECでは、検索流入を増やすことだけが目的ではなくなっています。これからは、AIに正しく理解され、比較対象に入り、顧客ごとに最適な形で提示されることが重要になります。その前提として、自社が持つ商品情報、顧客データ、レビュー、利用シーン、オフライン接点の情報までを、整理されたかたちで蓄積していくことが必要です。

 

同時に、AIは万能ではありません。コンテンツを量産できても、誰に何を届けたいのかが曖昧であれば、成果にはつながりにくいです。だからこそ、AIを使って効率を高めつつ、人間は顧客理解と編集判断に集中する体制が求められます。CRMもその中心にあります。CRMとは、顧客情報を蓄積し、関係性を管理しながら継続的な提案につなげる考え方です。AI時代のECでは、新規流入だけでなく、既存顧客への再提案やパーソナライズされた接点設計がさらに重要になります。

 

まずは情報を出しましょうというところが、知ってもらうために重要です。(簗島氏)

 

この言葉の通り、最初の一歩は決して複雑ではありません。自社の商品が、誰に、どんな場面で、どのような価値を発揮するのかを丁寧に言語化することです。その積み重ねが、AIに選ばれる土台になります。2025年は、その変化を多くの企業が体感し始めた年でした。2026年以降は、その差が結果としてより明確に表れてくるはずです。今のうちに基盤を整え、AIと共存するEC運営へ踏み出すことが、次の成長につながります。

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