重要顧客の心を動かす理由とは? 成果が出るABMの「2つの成功ポイント」
「勝ちたいアカウントは明確なのに、なかなか決定権者の心に届かない」。
そんなモヤモヤを抱えながら、ABM(Account-Based Marketing)に取り組み始めた方も多いのではないでしょうか。 本記事では、重要顧客の心を動かすABMの考え方を整理し、 現場で実践しやすい「2つの成功ポイント」を中心に、具体的な応用・導入のステップまで解説します。
💬 重要顧客の「なぜ今、この提案なのか?」に答えられていますか
ABMは「ターゲットアカウントを絞り込み、深く向き合うマーケティング」とよく説明されます。 しかし実務では、「ABM用リストに広告を出すこと」=ABMのように、 施策の一部だけが強調されてしまうケースも少なくありません。
重要顧客の心を動かすABMには、単に「誰に情報を届けるか」だけでなく、 「そのアカウントがなぜ動くのか」という理由まで解像度高く設計することが欠かせません。
ABMを「名刺獲得の延長」と捉えると、リード数の増減ばかりを追いがちです。 一方、ABMを「重要顧客の変化をつくるプロジェクト」として捉えると、 情報設計・タイミング・関係構築の質に目が向きやすくなります。
本記事では、ABMの全体像を押さえつつ、 成果が出やすいチームが実践している2つの成功ポイントを軸に解説します。
📚 ABMの基本と「2つの成功ポイント」
ABMは、特定の企業(アカウント)を起点に、マーケティングと営業が一体となって 受注・拡大・継続を目指すB2Bの戦略です。 リードを広く集める手法と違い、「どのアカウントに、どのような変化を起こしたいか」から設計を始める点が特徴です。
ABMをシンプルに言い換えると
- 誰に:自社にとって戦略的な価値を持つ特定アカウント群に集中する
- 何を:アカウントごとの課題・文脈に沿ったメッセージや提案を届ける
- どうやって:オンライン・オフラインのタッチポイントを横断して寄り添う
「ABM用広告メニューの活用」だけではなく、 アカウント単位での体験設計全体を指している、というイメージです。
- リードベース:人を起点にスコアリングし、順番にフォローする
- ABM:企業を起点に意思決定プロセス全体を設計する
実務でABMがうまく回っているチームは、細かなテクニックの前に、次の2点を丁寧に設計しています。
- 成功ポイントA:アカウント選定とインサイトの深堀りが整理されている
- 成功ポイントB:マーケ・営業・CSが一体となった「体験オーケストレーション」がある
この2点を押さえることで、ツールやチャネルが変わってもABMの軸がブレにくくなります。
✅ ABMがもたらす利点と、マーケティング担当者にとっての意味
ABMの利点は「大口案件を狙える」だけではありません。 マーケティング視点では、次のような点に価値があります。
売上インパクトだけでなく「学び」の質が高い
- 意思決定プロセスやキーパーソンの動きを追うことで、「理想顧客」の理解が深まる
- 失注時も、理由がより具体的になり、次の改善に活かしやすい
- 成功パターンを「アカウントストーリー」としてチームで共有できる
マーケ・営業・CSの目線が揃いやすい
- 「この四半期で最も向き合うべきアカウント」が明確になり、議論がしやすくなる
- どの接点で誰が何をするか、役割分担を話し合う土台になる
- 共通KPI(商談数だけでなく、アカウント内の進行度など)を持ちやすい
デジタル施策の優先順位がつけやすくなる
- 「とりあえず全業種に同じ資料を配信する」状態から抜け出しやすい
- 重要アカウントに絞ることで、コンテンツやセグメントの質に投資しやすくなる
- 広告配信・ウェビナー・コンテンツマーケなどを、アカウント視点で組み合わせやすくなる
「リード数は取れているのに、売上につながらない」と感じるとき、 ABMの視点でアカウント単位の動きを見てみると、原因が整理されるケースが多くあります。
🧭 成功ポイントA:アカウント選定とインサイトの深堀り
最初の成功ポイントは、「どのアカウントに、どんな変化を起こすか」を言語化することです。 ここが曖昧なまま施策を始めてしまうと、「頑張っているのに響いていない」状態に陥りやすくなります。
アカウントを選ぶときのシンプルな軸
- 自社の売上・利益へのインパクト(現時点+将来)
- 自社ソリューションとのフィット感(業種・ユースケース・既存環境など)
- 関係性のステータス(既存顧客か、新規か、休眠か)
- アカウント側の変化の兆し(組織改編、新規事業、システム刷新など)
これらを簡易スコアにして、ABMの重点アカウント群を定義すると、 チーム内での会話がしやすくなります。
- □ 重点アカウントの選定条件がチームで共有されている
- □ 「なぜこの企業なのか」を一言で説明できる
- □ 営業側の感覚とマーケ側の評価に大きなズレがない
まずはこの3点をホワイトボードに書き出しながら、 営業・マーケ・場合によってはCSも交えてすり合わせてみるのがおすすめです。
インサイトの深堀り:担当者ではなく「組織のストーリー」を描く
ABMでは、「担当者の名刺情報」だけではなく、企業としてのストーリーを理解することが重要です。
- 直近3〜5年の動き(事業、組織、プロダクト)
- 市場や競合との関係性(追う立場か、追われる立場か)
- IT・デジタルの進め方(内製志向か、パートナー活用型か)
- 意思決定プロセス(トップダウン寄りか、ボトムアップ寄りか)
こうした情報は、IR資料やニュース、採用ページ、ウェビナー登壇資料などから少しずつ読み取ることができます。
インサイトを整理する際は、A4一枚に「このアカウントの今とこれから」を手書き風にまとめてみると、 営業・マーケ・CSで共有しやすくなります。
- 左側:現状の課題・制約・既存の取り組み
- 右側:実現したい姿・中期方針・社内で使われているキーワード
- 中央:そこに自社がどう関わりうるかの仮説
🎼 成功ポイントB:マーケ・営業・CSによる体験オーケストレーション
もう一つの成功ポイントは、アカウント単位で体験を組み立てることです。 単発の施策ではなく、「出会い → 共感 → 検討 → 導入 → 定着 → 拡大」の流れを、 チーム全体でオーケストレーションしていきます。
アカウント単位の「顧客ジャーニー」を描く
- 最初の接点はどこになりうるか(広告、セミナー、紹介など)
- どのタイミングで誰に会ってもらうとよいか(現場担当、マネージャー、経営層)
- そのとき、どのようなストーリー・実例・デモがあると伝わりやすいか
- 導入後、どのように成功体験を積み重ねていくか
汎用的な「一般的カスタマージャーニー」に合わせるのではなく、 アカウントごとのジャーニーを簡易に描いてみることがポイントです。
- 広告:存在やテーマに気づいてもらう「きっかけ」づくり
- コンテンツ:課題理解と「この会社はわかってくれている」という感覚をつくる
- ウェビナー・イベント:具体的な変化のイメージを共有する場
- 営業・CSの対話:アカウント固有の事情に踏み込む場
それぞれのチャネルに、「このアカウントにとっての役割」を一言で書き添えておくと、 施策の意味付けが明確になります。
マーケ・営業・CSの連携を「一枚の図」で見える化する
体験オーケストレーションを進めるうえで役立つのが、 「誰が、いつ、どのようなタッチポイントを担当するか」を図にした簡易マップです。
- 横軸:時間軸(3〜6ヶ月程度)
- 縦軸:マーケ・営業・CS・パートナーなどの関係者
- 各マス:主なアクションと、アカウント側の期待する反応
このマップをホワイトボードに描き、手書き風の矢印でつなぎながら議論すると、 「メールを送って終わり」「イベントに呼んで終わり」といった点の施策から、 流れを意識したABMへと自然にシフトしていきます。
🧱 ABMを現実的に立ち上げるステップ
ここからは、デジタルマーケティング担当者が中心となってABMを立ち上げる際の、 現実的なステップを紹介します。
すでに行っているセグメント配信や特定業種向けウェビナーなど、 ABMに近い取り組みがないか整理します。
まずは10〜20社程度の小さなセットから始めると、 現場の負担を抑えつつ検証しやすくなります。
本記事で示した2つの成功ポイントをそのまま使い、 「この2つができているか?」をチームの確認項目にしてみてください。
いきなりフルスタックで始めるのではなく、メール+ウェビナー、 広告+コンテンツなど、組み合わせを限定したテストからスタートします。
数ヶ月後に、「このアカウントにはどんな変化があったか」を、 タイムラインやストーリー形式で振り返ると、学びが共有しやすくなります。
- アカウントキャンバスのたたき台を作る
- チャネルごとの役割を整理し、接点マップを描く
- ABM対象アカウントの行動ログやサイト来訪状況を見える化する
- 成功・失注のストーリーをコンテンツ化し、ナレッジとして残す
こうした役割を担うことで、マーケティングがABMの「設計者」として 組織内で存在感を発揮しやすくなります。
🔮 ABMの未来展望:AI・データ活用との組み合わせ
今後のABMは、AIやデータ活用との組み合わせにより、 さらに柔軟で精度の高いアプローチに進化していくと考えられます。
AIによる「アカウントインサイトの発見」
- ニュース・IR・SNS・ウェビナー情報などを横断的に収集し、 アカウントの関心テーマや変化の兆しを抽出する
- サイトアクセスやメール開封などの行動データから、 アカウントの「温度感」を把握する
- 類似アカウントの成功事例をもとに、次の打ち手の候補を提案する
ABMとPLG(Product-Led Growth)の橋渡し
無料トライアルやフリーミアムモデルがあるサービスでは、 プロダクト上のアクティビティデータをABMに組み込む動きも出てきています。
- 特定アカウントの利用状況をもとに、拡大提案のタイミングを見極める
- プロダクト内メッセージと営業・CSのアプローチを連動させる
- プロダクト上の行動パターン別に、ABMメッセージを最適化する
「人ならではの価値」がより問われるABMへ
AIがインサイト抽出やタイミング検知を支援してくれるようになるほど、 人にしかできない役割もはっきりしてきます。
- アカウントの文化や組織の雰囲気を感じ取り、違和感を言語化する
- 複数のキーパーソンの本音や感情を踏まえ、提案の順序や関わり方を調整する
- 長期的な関係性を見据えた、「今は提案しない」という判断をする
ABMの未来は、「テクノロジーが強化した人間らしい関係構築」とも言い換えられます。
🧾 まとめ:2つの成功ポイントからABMをシンプルに始める
重要顧客の心を動かすABMは、特別なツールだけで成り立つものではありません。 本記事で紹介したように、まずは次の2つの成功ポイントに立ち返ることが出発点になります。
- 成功ポイントA:アカウント選定とインサイトの深堀り
- 成功ポイントB:マーケ・営業・CSによる体験オーケストレーション
チャネルやテクノロジーが変わっても、この2点が押さえられていれば、 ABMは少しずつ改善を積み重ねていくことができます。
いきなり完璧なABMプログラムを作る必要はありません。 まずは数社のアカウントを選び、ホワイトボードにストーリーを書き出すところから。 その一歩が、重要顧客との関係性をより豊かなものにしていくはずです。
❓ FAQ:ABMに関するよくある疑問

「IMデジタルマーケティングニュース」編集者として、最新のトレンドやテクニックを分かりやすく解説しています。業界の変化に対応し、読者の成功をサポートする記事をお届けしています。
