LLMからLAMへ:大規模アクションモデルが変える世界
テキストを「理解するAI」から、現実世界で「手を動かすAI」へ。 大規模アクションモデル(LAM)は、デジタルマーケティングの仕事の進め方そのものを静かに変えつつあります。
イントロダクション はじめに
ここ数年で、マーケティング現場における生成AIの活用は急速に広がりました。 クリエイティブのラフ案を出したり、レポート文章を生成したりと、「テキストを扱うパートナー」としてのLLM(大規模言語モデル)は、多くの担当者にとって身近な存在になりつつあります。
しかし、実務の現場で本当に時間を取られているのは、テキストを書くことだけではありません。 たとえば次のような作業です。
- 複数媒体の管理画面を行き来しながら、予算・入札・ターゲティングを調整する
- レポートをダウンロードして、スプレッドシートで加工・集計する
- GAや各種計測ツールを確認しながら、施策の評価と次の打ち手を検討する
こうした「画面を操作する仕事」にこそ、AIが入り込んでくるフェーズが始まっています。 その鍵となるのが、大規模アクションモデル(LAM:Large Action Model)という考え方です。
本記事では、LLMからLAMへのシフトがマーケティング実務にどのような変化をもたらすのかを整理しながら、 具体的な活用パターンや導入プロセス、今から準備しておくと良いポイントを、なるべく現場目線で解説していきます。
大規模アクションモデル(LAM)とは何か 概念整理
🧠 LLMとLAMのちがいをざっくり整理
まずは、LLMとLAMの役割の違いをシンプルに整理しておきましょう。
- LLM(Large Language Model): テキスト(言語)を理解・生成するのが得意。質問に答える、要約する、文章を書く、といったタスクを担当。
- LAM(Large Action Model): 言語で理解した内容をもとに、実際のアプリケーションやAPIを組み合わせて「行動」までつなげることを重視。 例:広告管理ツールを操作する、スプレッドシートを更新する、ワークフローを定期的に実行する、など。
つまり、LLMが「考える・話す」役割だとすると、LAMは「考えて、さらに手を動かす」ところまでカバーする存在と捉えることができます。
🔧 LAMの基本コンポーネント
実装の形はさまざまですが、LAM的な仕組みは多くの場合、次のようなコンポーネントで構成されます。
- 知能エンジン: LLMやその他のAIモデル。指示を理解し、方針・手順を決める。
- ツール群: 各種広告管理プラットフォーム、計測ツール、データベース、スプレッドシートなど。
- アクションレイヤー: ツール群を実際に呼び出すためのAPI/コネクタ。ワークフローエンジンやタスクランナーも含まれます。
- 監視・ガバナンス: 人間による承認フロー、ログの記録、権限管理など、安全に運用するための仕組み。
マーケティング担当者の視点では、「チャットで指示を出すと、裏側で複数のツールが連携して動き、結果が戻ってくる」体験がLAMのイメージに近いといえます。
🧩 LAMは「AIエージェント」の1つの具体形
最近よく耳にするAIエージェントというキーワードとも、LAMは深く関係しています。 AIエージェントは、目的に応じて自律的に行動するソフトウェアの総称であり、その中核としてLAM的な仕組みが置かれることが増えています。
重要なのは、難しいアルゴリズムの名前を覚えることではなく、「マーケティング業務のどの部分を任せるか」を具体的に描けるようになることです。 この視点が、LAM活用の第一歩になります。
大規模アクションモデルがもたらすメリット マーケター視点
⏱️ 日常業務の「目に見えにくいムダ時間」を減らす
LAMのわかりやすいメリットは、ルーティン業務に費やす時間を減らし、判断や企画にあてる時間を増やせることです。
- 媒体ごとのレポートダウンロード → 集計 → グラフ作成の自動化
- 特定の指標がしきい値を下回ったときだけ、人に通知を飛ばす仕組み
- 毎朝・毎週・毎月の定例レポートの自動生成と共有
これらは従来のRPAでも部分的には実現できましたが、LAMを組み合わせることで、状況に応じた判断とアクション選択がしやすくなります。
🎯 「点の自動化」から「線の自動化」へ
従来の自動化は、特定の作業だけを自動で行う「点」になりがちでした。 たとえば「レポートを作る」「データを転記する」というレベルです。
LAMを前提にすると、次のような「線」や「面」での自動化を設計しやすくなります。
- レポートを作る → 指標を評価する → 改善案を考える → 軽微な調整を実行する
- クリエイティブを量産する → テスト配信する → 結果を比較する → 次の案に反映する
📚 暗黙知をワークフローとして共有しやすくなる
ベテラン担当者の頭の中には、「この指標がこのくらいになったら、こう動く」といった暗黙知が多く蓄積されています。 LAMを導入する過程では、こうした判断ロジックを「条件」や「ルール」として言語化することが求められます。
その結果、次のような効果が期待できます。
- 属人化していた運用ノウハウを、チーム全体で共有しやすくなる
- 担当者の異動や離任時にも、運用水準を維持しやすくなる
- 新任メンバーが、「AIに組み込まれたワークフロー」を通じて学習しやすくなる
🛡️ ミスの早期発見・事故の予防にもつながる
LAMを活用した監視フローを設計すると、「異常値に気づくまでの時間」を短くしやすくなります。
- 急なコンバージョン減少や獲得単価の悪化を自動検知し、チャットツールにアラートを送る
- 想定外の設定変更や予算消化ペースを検出し、担当者に確認を促す
マーケティング現場での具体的な活用パターン 応用方法
📈 日次・週次の運用モニタリングエージェント
もっとも取り組みやすいのは、「見張り役」としてのLAMです。
たとえば、次のようなフローを設計できます。
- 毎朝、主要キャンペーンの前日実績をレポートツールから取得する
- LLMに要約させ、前日比・週平均比で変化が大きいポイントを抽出する
- 変化が大きい案件だけ、詳細コメント付きでチャットツールにレポートを投稿する
担当者は、すべての媒体管理画面を開く代わりに、👀「LAMからの朝イチレポート」を確認するところから仕事を始められるようになります。
🎨 クリエイティブ制作〜テストの半自動化
クリエイティブ運用でも、LAM的なアプローチは相性が良い領域です。
- 指定したペルソナや訴求軸にもとづき、複数の広告文や画像案のラフを生成する
- 媒体ごとのフォーマット・文字数制限に合わせて自動整形する
- テスト設計に沿って、配信設定までの下ごしらえを行う
- テスト結果を集計し、勝ち筋と改善ポイントをコメント付きでレポートする
🔁 予算配分と入札調整のルールベース自動化
予算配分や入札調整は、媒体側の自動入札機能に任せる範囲が広がっていますが、 「キャンペーン間の予算配分」のように、人手で判断している部分もまだ多く残っています。
LAMを使えば、次のようなルールベースの運用がしやすくなります。
- コンバージョン数・獲得単価・インプレッションシェアなど、基準となる指標を定義
- 週次でキャンペーン別の実績を集計し、ルールに沿って優先度をスコアリング
- スコアに応じて、予算・入札の下限・上限の目安を算出
- 重要な変更は人間が承認し、問題ない範囲だけLAMが自動適用
🤝 セールス・CSと連携した顧客体験の設計
LAMは広告運用だけでなく、セールスやカスタマーサクセスと連動した施策にも活用できます。
- MAツールやCRMのデータを参照し、ステージごとの顧客リストを自動抽出
- 特定の条件に合致する顧客に対して、リマインドメール案やフォロー施策案を生成
- 担当営業に「この顧客には、こういった提案が刺さりそうです」といったサマリーを共有
このように、LAMを「部門横断で動くアシスタント」として設計することで、 施策ごとのバラバラな自動化ではなく、顧客体験全体を見渡した連携がしやすくなります。
マーケティング組織にLAMを導入するステップ 実務手順
🗺️ まずは「どの仕事をAIに任せたいか」を棚卸し
いきなり高度なエージェントを作ろうとするのではなく、既存業務の棚卸しから始めるのがおすすめです。
- 毎日やっている繰り返し作業は何か
- ルール化されている判断(もし◯◯なら、××する)は何か
- 属人化していて、説明しづらいが実はパターンがある仕事は何か
🔗 連携すべきツールとデータを決める
LAMを実際に動かすには、どのツール・データをつなぐかを決める必要があります。
- 広告管理ツール(媒体アカウント)
- 分析・レポートツール
- スプレッドシートやデータベース
- チャットツールやプロジェクト管理ツール
すべてを一度に連携しようとするのではなく、優先度の高い1〜2ツールから段階的に広げていく方が、現場の負担は小さくなります。
🧪 小さなPoC(検証プロジェクト)から始める
いきなり本番運用のすべてを任せるのではなく、限定的な範囲でPoCを実施するのが現実的です。
- 一部のキャンペーンだけを対象にする
- 最初は「自動で実行」ではなく「提案まで」で止める
- 成果だけでなく、「どれくらい工数削減につながったか」も併せて評価する
👥 ガバナンスと責任分解点を決める
LAMは強力な仕組みだからこそ、「どこまでAIに決めさせて良いか」をあらかじめ決めておくことが大切です。
- どの範囲まで自動実行してよいか(例:レポート作成は自動、入札変更は人間の承認が必要)
- 誰が最終責任者か(部署・役職レベルで明確に)
- どの操作ログを残すか、どのくらいの期間保持するか
これらを事前に決めておくことで、組織としてLAMを安心して活用できる土台が整います。
LLMからLAMへ、これからのマーケターに求められる視点 未来展望
🚀 「ツールの使い方」から「仕事の組み立て方」へ
これまでは、「◯◯広告の管理画面をどこまで使いこなせるか」が、担当者のスキルとして重視されてきました。 LAMが普及していくと、フォーカスは次のように変わっていくと考えられます。
- 個別ツールの操作手順よりも、全体フローの設計力が重要になる
- 特定媒体に閉じたノウハウだけでなく、データとツールを横断した視点が求められる
- 人がやるべき判断と、AIに任せる判断を切り分けるスキルが重要になる
🧩 「AIに強い運用者」と「運用に強いAI企画者」
今後、マーケティング組織の中には、次のような役割が現れていきそうです。
- AIに強い運用者: 日々の運用業務の中で、LAMを自然に使いこなせる担当者。
- 運用に強いAI企画者: 現場の実務を理解したうえで、どこにLAMを入れると効果的かを設計できる人。
どちらも、「マーケティングの本質」を理解していることが前提になるため、 ツールや仕様の変化があっても通用するスキルとして磨いておく価値があります。
🌱 少しずつ「任せる」範囲を広げていく
LAMは、導入した瞬間にすべてを変えてくれる魔法の杖ではありません。 むしろ、「少しずつ任せる範囲を広げていくことで、組織の仕事の仕方が変わっていく」タイプの変化に近いと言えます。
まとめ:LAMは「一緒に働く相棒」として捉える Wrap Up
本記事では、LLMからLAMへという流れを、マーケティング担当者の視点から整理してきました。
- LLMは「言語を扱うAI」、LAMは「ツールを動かすAI」としての役割がある
- LAMを活用すると、レポート作成やモニタリングなどのルーティン作業を減らし、判断や企画に集中しやすくなる
- 属人化していた暗黙知をワークフローに落とし込み、チーム全体で共有しやすくなる
- 導入は、小さなPoCや限定的な自動化から始めるのが現実的
- 今後は、ツール操作よりも「仕事の組み立て方」を設計する力がより重要になっていく
LAMは、マーケターの仕事を奪う存在ではなく、「一緒に仕事を進める相棒」として付き合っていくものです。 今日の業務の中から、「ここだけでも任せてみたい」というポイントを1つ見つけ、 小さく試してみるところから、次の一歩を始めてみてはいかがでしょうか。
FAQ:よくある疑問とヒント Q&A
- アクセス権限を必要最低限に絞る
- 操作ログを記録し、いつでも確認できるようにしておく
- 重要な変更は、必ず人間の承認を挟む

「IMデジタルマーケティングニュース」編集者として、最新のトレンドやテクニックを分かりやすく解説しています。業界の変化に対応し、読者の成功をサポートする記事をお届けしています。
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