Googleが「AI Overviews」と「AI Mode」を統合テスト─検索体験とマーケティングはどう変わるのか

海外記事
著者について

2025年12月、Googleは検索結果ページ上のAI Overviewsと、会話型インターフェースであるAI Modeをシームレスに行き来できる新しいグローバルテストを開始しました。本記事では、このテストの概要と背景、そしてマーケターやSEO担当者にとってのインパクトを整理します。

今回のニュースの要点まとめ

まず、TechCrunchの報道をベースに、今回の発表内容を整理します。

  • Googleは、検索結果上部に表示されるAI要約機能「AI Overviews」と、Geminiによる会話型検索「AI Mode」を統合する新テストを開始。
  • ユーザーは、従来どおり検索ボックスにクエリを入力するとAI Overviewのスナップショットが表示され、そのまま同じ画面からAI Modeでフォローアップ質問ができるようになる。
  • テストはモバイルの検索結果ページからグローバルに展開されており、検索からチャットへの移行をワンタップで実現することが狙い。
  • Geminiは月間6.5億ユーザー、AI Overviewsは月間20億ユーザー規模とされており、両者の動線をつなぐことで、Geminiの採用をさらに押し上げたいという思惑がある。
  • Google検索担当VPのRobby Stein氏は、「ユーザーが『どこで』『どう質問するか』を意識しなくても済む世界」を目指していると説明している。

一言でいえば、「検索の入口は1つ、そこから要約と対話をシームレスにつなぐ」方向へと、大きく舵を切り始めたニュースです。

用語整理:AI OverviewsとAI Modeとは何か

AI Overviews:検索結果の「AI要約レイヤー」

AI Overviewsは、従来の検索結果の上部に表示される、AIが生成した回答スナップショットです。ユーザーが質問をすると、関連するWebページの情報をもとに、数パラグラフ程度の要約や箇条書きで回答を返してくれます。

  • 「◯◯とは何か?」「◯◯のメリット」「◯◯のやり方」など、情報探索の起点となるクエリで特に出やすい。
  • テキストに加えて、参照元となるWebサイトのリンクもカード形式で提示される。
  • 一問一答型であり、基本的にはその場で完結する「要約」であることが特徴。

AI Overviewsはすでに大規模に展開されており、「まずはAIの要約を見て、必要に応じて個別サイトに飛ぶ」という行動が、ユーザーの標準的な検索フローの一つになりつつあります。

AI Mode:Geminiと対話できる「会話型検索モード」

一方のAI Modeは、Geminiを用いたチャットボット形式の検索体験です。Googleの説明によると、AI Modeでは以下のようなことが可能です。

  • テキスト・音声・画像を組み合わせて質問し、AIによる回答を得られる。
  • 「フォローアップ質問」を重ねることで、段階的にトピックを深掘りできる。
  • 回答と同時に、関連するWebページへのリンクも提示される。
  • 履歴から「前回の続きを聞く」といった形で、継続的な情報探索ができる。

AI Overviewsが「一度きりの要約」であるのに対し、AI Modeは「対話のコンテキストを維持したまま、何度もやり取りできるモード」だと理解すると分かりやすいでしょう。

今回のテストで何が変わるのか

これまでの動線:検索 vs AI Modeタブ

これまでは、ユーザー側に次のような「事前の判断」が求められていました。

  • 「普通の検索で十分そうな質問」なら、検索ボックスに入力して通常の検索結果とAI Overviewsを見る。
  • 「最初から深掘りしたい複雑な質問」なら、AI Modeタブや専用URLから会話モードに入る。

つまり、ユーザーはクエリを入力する前に、「自分の質問はチャット向きか?通常検索向きか?」を判断しなければなりませんでした。

これからの動線:AI Overviewを起点に対話へ

今回のテストでは、この「二択」をできるだけ意識させないようにする設計が取られています。

  • まずはこれまでどおり、検索結果の上部にAI Overviewが表示される。
  • その直下に、「この内容についてさらに聞く」ようなUI(ボタンや入力欄)が表示され、AI Modeにそのまま接続される。
  • ユーザーは「同じ画面」でフォローアップ質問を続けることができ、画面遷移のストレスが減る。
  • テストはまずモバイル検索からグローバルに展開されており、スマホ中心の行動に最適化している。

これにより、ユーザーは最初からAI Modeを意識する必要がなく、「とりあえず検索 → AI Overviewを見る → もっと知りたければそのまま対話」という自然なフローを辿れるようになります。

背景にある「OpenAI vs Google」の競争構図

TechCrunchの記事では、今回の発表がOpenAIとの競争激化とセットで語られています。OpenAIがチャット体験の改善にリソースを再集中する「Code Red」状態にある一方で、GoogleはGeminiと検索との統合をさらに深めています。

ユーザーベースのスケール

  • Geminiは、画像生成モデル「Nano Banana」などの機能追加も追い風となり、月間6.5億ユーザーに到達したとされています。
  • 一方で、AI Overviewsはすでに月間20億ユーザー規模で利用されているとされ、日常的な検索体験の中に深く浸透しています。
  • 両者の動線をつなぐことで、Geminiの利用者をさらに押し上げ、「検索からAIアシスタントへのソフトランディング」を実現しようとしているわけです。

「どこからAIを使い始めてもらうか」の勝負

OpenAIのChatGPTは、専用アプリやWebサイトから利用する「チャット起点」の体験です。一方でGoogleは、検索という巨大なトラフィックの入口を持っています。

  • Google:検索ボックス → AI Overviews → AI Mode(Gemini)へと誘導。
  • OpenAI:ChatGPTのUIから直接プロンプトを打ってもらう。

今回の統合テストは、ユーザーに「AIモードを使う」という意思決定さえ意識させない形で、Geminiとの接点を増やす試みだと捉えられます。

情報探索UXはどう変わるのか

「考えずに質問できる」検索へ

Google検索のプロダクト担当VPであるRobby Stein氏は、「ユーザーが質問をする際に、どこで、どのように聞くかを考えなくていい状態」を目指していると述べています。

このビジョンに沿って考えると、今後の検索UXは次のように変化していきます。

  1. とりあえず検索ボックスに自然文で質問する。
  2. AI Overviewが「ざっくり答え」を出しつつ、参考リンクを提示。
  3. 「もっと詳しく」「別の角度から」「具体的な計画に落としたい」などのニーズがあれば、そのままAI Modeで会話しながら深掘り。
  4. 必要に応じて、会話の中から再びWebサイトに遷移。

ユーザーは「AIを使うぞ」と身構えるのではなく、「検索していたら、いつの間にかAIと相談していた」という体験に近づいていきます。

マルチステップな質問の増加

AI Modeでは、質問が一問一答で終わらず、連続したコンテキストの中で展開されます。例えば:

  • 「B2B SaaSのマーケティング戦略の立て方を教えて」
  • → 「日本市場に絞るとどう変わる?」
  • → 「広告予算が月100万円の場合のプランを具体的に出して」
  • → 「そのうち30万円をGoogle広告に使う場合のキャンペーン設計案は?」

このようなやり取りの中で、AIはWebの情報を参照しつつ、プランニングレベルまで落とし込みます。これはマーケターや担当者の情報収集〜アイデア出し〜たたき台作成までを、一つの連続体験にしてしまう変化です。

マーケター・SEO担当者への影響

では、こうした変化はマーケターやSEO担当者にどのような影響を与えるのでしょうか。ここでは特に重要なポイントを整理します。

「AIレイヤーでの露出」を意識したコンテンツ設計

AI OverviewsとAI Modeがつながることで、ユーザーの視線はますます「AIレイヤー」から始まるようになります。つまり、次の2つのレイヤーでコンテンツを最適化していく必要があります。

  • AI Overviewsで引用されるコンテンツ
    検索AIが要約を生成する際に、信頼できる情報源として引用されるサイトを目指します。具体的には:
    • E-E-A-T(経験・専門性・権威性・信頼性)を示す実務知見や一次データの掲載。
    • 構造化データやFAQ、How-toなど、AIが扱いやすい情報構造。
    • タイトル・見出し・本文の整合性が高く、「質問への直接回答」になっているページ。
  • AI Modeでの会話から遷移されるコンテンツ
    会話の中で提示されるリンクとして選ばれるためには、次のような特徴が重要になります。
    • 深掘りに耐えられる網羅性・専門性の高いページ。
    • ケーススタディ、図解、具体的な手順など、AI回答だけでは疑似体験しにくい「実務的ディテール」。
    • ブランド名やサービス名での指名検索から来たユーザーに対して、信頼感を補強する情報設計。

直帰率・滞在時間より「AI経由の間接効果」を見る視点

AI OverviewsやAI Modeを経由する検索では、ユーザーはAIの回答を一度読んだ上で、「必要なときだけ」Webサイトに訪問する傾向が強まります。そのため:

  • セッション数は増えなくても、訪問してくるユーザーは「より意図が明確で、検討度も高い」ケースが増える可能性。
  • AI経由の流入は、従来のSEO指標だけでは捉えきれない「事前学習済みユーザー」を増やす役割を持つ。
  • ブランド指名検索や、サイト内検索ワード、フォーム入力内容などから、「AI上で事前にどんな会話が行われていたか」を推測する必要性が高まる。

つまり、純粋なオーガニックセッション数だけで評価すると、AI時代の検索流入を正しく読み違えるリスクがあります。

FAQ・ハウツー系コンテンツの価値がさらに向上

AI OverviewsとAI Modeが連携することで、「質問形式のクエリ」の重要性はさらに増します。

  • 「◯◯の始め方」「◯◯の比較」「◯◯のメリット・デメリット」のような、ユーザーの思考プロセスに沿った記事構成。
  • 見出しレベルで具体的な質問(例:「Q. AI Modeはどの国で使える?」)を埋め込み、本文で明快に回答する。
  • 同じトピックでも、「概要記事」と「具体的な手順・チェックリスト記事」をセットで用意し、AI経由で両方が参照される設計を意識する。

AIは人間と違い、ページ内の質問と回答の対応関係を構造として捉えやすいため、FAQ的な構造はますます価値が高まります。

いま実務で確認しておきたいこと

自分の環境でAI OverviewsとAI Modeの挙動をチェック

まずは、自分自身の環境で次のような点を確認することをおすすめします。

  • スマホ(Googleアプリ or ブラウザ)で、主要なキーワードを検索した際に、AI Overviewsがどの程度の頻度で表示されるか。
  • AI Overviewの下に、AI ModeへのフォローアップUIが表示されているかどうか。
  • 自社関連キーワード(ブランド名、サービス名、カテゴリー名)で検索したとき、どのようなAI Overviewが生成され、どのサイトが参照元として表示されているか。

特に、自社サイトがAI Overviewの参照元に含まれているかどうかは、今後のコンテンツ戦略の重要な判断材料になります。

AI Modeへのアクセスパターンの把握

Googleのヘルプや公式ページでは、AI Modeへのアクセス方法として次のようなルートが案内されています。

  • 専用URL(例:AI Modeのランディングページ)から直接アクセス。
  • 検索結果ページ上部のタブやボタンからAI Modeへ切り替え。
  • スマホのGoogleアプリホーム画面に表示されるAI Mode入口からアクセス。

今回の統合テストにより、「AI Overview → AI Mode」のパスが新たに追加されることで、AI Modeへの流入はさらに多様化していきます。マーケターとしては、

  • ユーザーインタビューや行動観察(画面録画ツールなど)で、AI Mode利用の有無を確認する。
  • 検索キーワードの変化(より長い自然文、複雑な質問文の増加)をモニタリングする。
  • AI Modeや類似機能を前提にした「たたき台作成フロー」が、社内のワークフローに既に入り始めていないかを確認する。

コンテンツ戦略の具体的アクションプラン

最後に、今回のニュースを受けてマーケター・SEO担当者が取れる具体的なアクションをまとめます。

トピッククラスターと質問設計の見直し

  • 主要テーマごとに、「概要記事」「比較記事」「具体的なハウツー記事」「ケーススタディ」の4種類を揃え、AIが引用しやすい情報セットを構築する。
  • 各記事内に、ユーザーがAIに投げそうな自然文の質問を見出しとして埋め込み、その直後で簡潔かつ網羅的に答える。
  • トピッククラスター内で内部リンクを張り巡らせ、AIにも人間にも「関連コンテンツの地図」が分かりやすい状態にする。

体験価値を高める「AIでは完結しにくい情報」の強化

AI OverviewsやAI Modeは、多くの場合テキストベースの説明に強みがあります。そのため、サイト側では、

  • 図解・動画・インタラクティブなシミュレーターなど、AI回答だけでは置き換えにくい体験を提供する。
  • 自社独自の調査データ、成功事例、失敗談など、一次情報を積極的に公開する。
  • 資料ダウンロードやウェビナーなど、AIで得た知識を「実行」に移すための次のアクションを用意する。

こうした要素は、AIの回答の中でも「参照先リンク」として紹介されやすくなり、AI経由の高品質なトラフィックを呼び込むきっかけになります。

社内での「AI検索×業務」のユースケース整理

また、検索とAIが統合される世界では、社内業務のプロセスも変えていく必要があります。

  • キーワード調査や競合調査を、AI Modeを組み合わせて効率化する手順を標準化する。
  • 広告コピー案やLP構成案の「初稿」をAIに出してもらい、人間がブラッシュアップするワークフローを設計。
  • 社内ナレッジや過去の施策結果を整理し、AIに文脈を与えたうえで相談できる環境(プロンプトテンプレート)を整える。

検索とAIが一体化していくほど、「情報収集・要約・構想」のフェーズはAIに任せ、人間は検証と意思決定に集中するという分業が現実的になっていきます。

まとめ:検索は「AIを意識しないAI体験」へ

今回のGoogleによるAI OverviewsとAI Modeの統合テストは、単なるUI変更にとどまりません。そこには、次のような大きな方向性が見て取れます。

  • ユーザーに「どのモードを使うか」を意識させない、シームレスな検索×AI体験の実現。
  • 検索結果上のAIレイヤーを入り口として、Geminiとの対話へ自然に誘導することで、AIアシスタントの利用習慣を広げていく狙い。
  • その結果として、Webサイトはますます「AIに引用される情報源」としての役割を強く求められる。

マーケターやSEO担当者にとって重要なのは、検索結果の順位だけでなく、「AI Overviewsにどう載るか」「AI Modeからどう参照されるか」という視点を加えることです。検索が「AIを意識しないAI体験」へと進化していく中で、自社コンテンツをどのようにポジショニングするか──今まさに戦略のアップデートが求められています。

参考サイト

TechCrunch「Google tests merging AI Overviews with AI Mode