ChromeでのサードパーティCookie廃止計画はいったん撤回されましたが、「元の世界に戻った」と考えるのは少し危険です。 実際には、Googleはブラウザや広告プロダクトの中に新しいタイプの追跡・計測の仕組みを静かに組み込み続けています。
📌イントロダクション
2025年にかけて、Chromeで進められていたサードパーティCookie廃止の計画は「ユーザーの選択制」を重視した方針へと転換されました。 専用の新しい同意ポップアップは導入されず、既存のプライバシー設定画面から利用者自身が許可・ブロックを選ぶ流れに落ち着いています。
このニュースを見て、「ひとまずサードパーティCookieは残るなら、対策は急がなくていいのでは?」と感じた担当者も多いはずです。 しかし、グローバルではすでにファーストパーティデータや新しい識別子、ブラウザレベルの機能、AIによる推定に軸足を移したマーケティング設計が進んでいます。
本記事では、技術仕様の細かな変遷を追うよりも、「Googleがどのようなレイヤーで新しい追跡・計測の仕組みを設計しているのか」にフォーカスします。 そのうえで、マーケターが現実的に取るべきアクションを、広告運用と計測設計の両面から整理します。
🧩概要:Googleの「次なる追跡技術」とは何か
「追跡技術」というと、かつてのサードパーティCookieのように、ユーザーをまたいで追いかける仕組みを想像しがちです。 しかし、現在のGoogleが目指しているのは、個々のユーザーを直接追いかけるのではなく、ブラウザ/アプリ側で加工されたシグナルやファーストパーティデータを組み合わせるアーキテクチャです。
3つのレイヤーで進む「次世代トラッキング」
ChromeやAndroid内に組み込まれる、トラッキング保護と計測を両立させる機構です。 ストレージの分離や、ログイン連携のための新プロトコルなどが含まれます。
GoogleアカウントやYouTubeなど、ログインを前提とした環境で集まるデータと、 企業が自社サイトやアプリで保持する情報を中心に据えたモデルです。
すべての行動が直接計測できなくても、機械学習と集計ベースのレポーティングによってコンバージョンや貢献度を推定する発想です。 GA4や広告プロダクトのモデリングもこのレイヤーに属します。
かつては「ブラウザ外からCookieで追いかける」発想でしたが、 これからは「ブラウザやアプリの内側で処理されたシグナルを、広告・分析側が受け取る」流れに変わっていきます。
Privacy Sandbox以降に残るもの・残らないもの
広告向けのPrivacy Sandbox APIは、テストと検証の結果、多くが縮小・廃止の方向に向かいました。 一方で、ストレージの分離やログイン連携、トラッキング防止の仕組みなど一部の機能は、今後もブラウザの基盤として残り続ける見込みです。
またGoogleの広告プロダクト側では、サードパーティCookieの扱いが変化しても、ファーストパーティデータ・AI・プライバシー保護されたシグナルを組み合わせる方針自体は変えないと明言されています。
このように、Cookie廃止の是非とは別に、「どのレイヤーのシグナルをどう組み合わせるか」という設計思想だけは着実に進んでいる点が重要です。
🎯利点:マーケターが理解しておくと何が変わるか
「技術の詳細はベンダーに任せれば良い」と考えることもできますが、設計思想のレイヤーを理解しておくと、日々の広告運用やレポーティングの判断軸が変わります。 ここでは、マーケターにとっての具体的な利点を整理します。
計測の「揺れ」を前提にしたKPI設計ができる
- ユーザーの同意状況やブラウザ機能によって、同じキャンペーンでも計測できるデータが変動する前提を持てる。
- 「完全な一意追跡」は目指さず、サンプル+推定を前提にしたKPIレンジ(許容幅)を設計しやすくなる。
- 広告管理画面の数値だけで判断せず、データクリーンルームやBIツールでの集計結果も含めた判断がしやすくなる。
ファーストパーティ戦略の優先順位づけが明確になる
- 「どの接点で、何のデータをどの同意に基づいて取得するか」を、ビジネス目標から逆算して整理できる。
- CRM/MA/CDPと、Google広告・GA4・YouTubeなどのエコシステムをどの順番で連携させるべきかが見えやすくなる。
- 単なるテクニックとしてのリターゲティングではなく、顧客との関係構築の中でデータを預かるという発想に切り替えやすい。
プライバシー対応を「差別化要素」に変えられる
- 同意取得やオプトアウトの導線を、ブランド体験の一部として設計できる。
- 「どのようにデータを扱っているか」を分かりやすく説明できることで、社内外のステークホルダーからの信頼につながる。
- 中長期的には、規制やブラウザ仕様の追加変更があっても、慌てずにシナリオを描き直せる組織になれる。
新しい追跡技術を学ぶ目的は、仕様を暗記することではありません。 「どんなデータが、どんな前提で取れているのか」を把握し、KPIや投資判断に落とし込めるようにすることがゴールです。
🛠️応用方法:広告・分析にどう活かすか
ここからは、Googleの「次なる追跡技術」の考え方を前提に、広告配信と分析の現場でどのように活用していくかを整理します。 具体的な設定名はプロダクトによって変わる可能性がありますが、考え方のフレームとして活用してください。
広告配信で意識したい3つの観点
特定のブラウザでは、従来の識別子が使えない、もしくは有効期間が短いケースが増えています。 そのため、コンテキスト・クリエイティブ・ファーストパーティシグナルを組み合わせたターゲティング設計が重要になります。
- コンテンツの文脈やページカテゴリを活かしたターゲティング。
- 自社で保有するオーディエンスリストを軸にした配信。
- クリエイティブ自体にセグメントを埋め込む(訴求別にユーザーの自己選択を促す)設計。
広告プロダクト側では、欠けている計測データを埋めるためにモデリングやAI最適化が前提になっています。 そのため、ビジネス目標に近いコンバージョンをどこまで共有できるかが成果に直結します。
- 一段階手前のマイクロコンバージョンも含めた目標設定。
- オンライン/オフラインをまたいだコンバージョンインポート。
- アカウント構造を整理し、学習が分散しないようにする設計。
新しい追跡技術が前提になると、「1クリック=1セッション=1ユーザー」というシンプルな見方は通用しなくなります。 代わりに、以下のような軸でデータを見ると、変化に対応しやすくなります。
- 観測できるデータと推定されているデータを分けて理解する。
- ブラウザやOSごとに数値がどの程度揺れているかを定点観測する。
- 広告管理画面とGA4やデータクリーンルームなど、複数のソースで結果をクロスチェックする。
現場で使える「チェックリスト的」な応用
これらを一度にすべて着手する必要はありません。 ただし、「計測」「オーディエンス」「クリエイティブ」「目標設定」の4つの観点で、毎四半期どこに手を入れるかを決めておくと、変化に対応しやすくなります。
📋導入方法:社内で「次なる追跡技術」対応を進めるステップ
「難しそうだから、ベンダー任せにしたい」という感覚も自然です。 とはいえ、完全に任せ切ってしまうと、自社のビジネスゴールとトラッキング設計がズレたままになるリスクがあります。 ここでは、マーケティング担当者が主導できる現実的な進め方をステップで整理します。
まずは「今どんなシグナルに頼っているか」を棚卸しする
社内外の関係者と一緒に、次のような観点で棚卸しを行います。
- 広告媒体ごとに、どの計測タグ/イベントを利用しているか。
- どの指標がレポート・意思決定に実際に使われているか。
- ファーストパーティデータを利用しているキャンペーンはどれか。
棚卸ししたシグナルを、次の3つに分けてみると整理しやすくなります。
- 自社で直接取得しているもの(ログイン情報や申込、問い合わせなど)。
- ブラウザやOSが提供するもの(トラッキング制御やIP関連の設定など)。
- プラットフォーム側でモデリング・集約されているもの(推定コンバージョンなど)。
ビジネス目標から「必要な計測」を逆算する
次に、売上やリード獲得といったビジネス目標を起点に、どの接点をどの粒度で把握したいかを決めていきます。
- 意思決定に本当に必要な指標と、なくても困らない指標を分ける。
- 「精度が高いほどよい」ではなく、意思決定に足りる精度とは何かをチームで合意する。
- オフラインや別チャネルのデータを、どこまで統合したいかを決める。
「新しい技術に全部対応する」ではなく、ビジネス目標 → 必要な指標 → 利用するシグナルの順で積み上げていくと、無駄な実装や複雑さを避けやすくなります。
小さなテストから始める
すべてを一気に入れ替えるのではなく、影響範囲の小さいキャンペーンやブランドでテストするのがおすすめです。
- 特定のプロダクトラインやエリア限定キャンペーンで、新しい計測の組み合わせを試す。
- 従来の計測と新しい計測を並行して実装し、差分を定点で観測する。
- 結果だけでなく、運用負荷やレポートのしやすさも評価軸に含める。
技術実装は代理店やベンダーに任せるとしても、「何を、どこまで見たいのか」という設計方針はマーケティング側が握っておくと、長期的にブレにくい体制を作れます。
🔭未来展望:2026年以降のトラッキング環境をどう読むか
Cookie廃止が撤回されたとはいえ、世界的なプライバシー保護の流れが逆行するわけではありません。 むしろ、ユーザー選択制・ブラウザレベルの制御・AIによる推定という軸で、トラッキング環境は静かに再設計されつつあります。
オープンウェブとクローズド環境のバランスが変わる
- ログインを前提としたプラットフォーム(動画配信、リテールメディアなど)の比重が引き続き高まる。
- オープンウェブ上のディスプレイ広告は、コンテキストとファーストパーティデータの組み合わせが前提になっていく。
- ブラウザやOSごとにトラッキングポリシーが異なる状態が、今後もしばらく続く可能性が高い。
「個人」ではなく「パターン」を捉える方向へ
これからの追跡技術は、特定の個人をピンポイントで追いかけるというより、行動パターンやセグメント単位で傾向を把握し、それを元に最適化する方向にシフトしていきます。
- 類似オーディエンスや興味関心のクラスタリングが、より高度な形で活用される。
- ユーザー単位ではなく、セッションやイベント単位でのモデリングが進む。
- ダッシュボードも、「個人別トラッキング」より「パターン別の変化」を見る設計が増えていく。
マーケターが鍛えておきたい3つの筋力
- データ設計の筋力:どのタッチポイントで、どの同意のもとに、どんなデータを預かるかを設計できる力。
- 計測・モデリングの筋力:完璧ではないデータからでも、意思決定に必要な仮説を立てられる力。
- ガバナンスの筋力:プライバシーや規制の変化を追いかけ、社内ルールに反映し続ける力。
✅まとめ:Cookie廃止撤回の裏側で、静かに始まっていること
- サードパーティCookieの扱いが変わっても、ブラウザ・ファーストパーティデータ・AIによる推定という構図は変わらない。
- Googleの「次なる追跡技術」は、個人を直接追跡するのではなく、ブラウザ内で加工されたシグナルとファーストパーティデータを組み合わせる発想に基づいている。
- マーケターは、技術仕様をすべて覚える必要はないが、どのレイヤーのシグナルに依存しているのかだけは把握しておくと判断がしやすくなる。
- 短期的には「計測の揺れ」を前提にKPIを設計し、中長期的にはファーストパーティ戦略とプライバシーガバナンスを強化していくことが重要。
この記事をきっかけに、自社のトラッキング設計を「個別のテクニック」から「構造としての設計」へとアップデートしていけると、 今後どんな仕様変更が来ても、落ち着いて対応できるはずです。
❓FAQ:よくある質問と回答

「IMデジタルマーケティングニュース」編集者として、最新のトレンドやテクニックを分かりやすく解説しています。業界の変化に対応し、読者の成功をサポートする記事をお届けしています。

