データと顧客体験が分断されないように設計できると、オンラインとオフラインの接点が自然につながり、マーケティングの成果も着実に積み上がります。 本記事では、その考え方と設計のコツを、デジタルマーケティング担当者向けに整理します。
✨イントロダクション
デジタル広告やSNSだけでは、顧客の「意思決定の瞬間」を捉えきれない場面が増えています。 店舗・イベント・営業現場など、リアルな体験とデジタル接点をどうつなぐかが、マーケティングの大きなテーマになっています。
たとえば、検索広告やSNSをきっかけに商品を知り、比較検討はレビューサイトと店舗で行い、購入はECで行う。 あるいは、オンラインセミナーからオフライン商談につながり、契約後もコミュニティやユーザー会で関係が続いていく。 顧客の行動は、チャネルを何度もまたぎながら進んでいきます。
一方で、企業側のデータと体制は「組織」「チャネル」「ツール」ごとに分かれていることが多く、 せっかくの顧客体験のつながりが見えにくくなりがちです。 結果として、次の打ち手が「なんとなくの勘」や「単発施策」になってしまい、 データと現場の感覚がうまく結び付かないという悩みが生まれます。
本記事では、オンラインとオフラインをまたぐ顧客体験を、データで理解し、設計し、検証していくための考え方と具体例を整理します。
「まず何から考えるべきか」「どんなデータがあると設計しやすいか」「小さく試すにはどうすればよいか」を、実務に落とし込みやすい形でまとめています。
🧭概要|デジタルとリアルをまたぐ顧客体験設計とは
顧客体験設計の基本要素
- 顧客視点のストーリー(シーン)を描く:どんな状況・気持ち・目的で接点に触れているかを言語化する
- タッチポイントを可視化する:広告・サイト・アプリ・店舗・イベント・営業などの接点を整理する
- データで行動を捉える:どの接点で、どの行動が、どの程度発生しているかを記録・分析する
- 「次の一歩」を設計する:体験の中で、顧客にとって自然な次の行動を設計する
オムニチャネル、OMO(Online Merges with Offline)、CX(Customer Experience)、EX(Engagement Experience)など、似た言葉が多数あります。 ここでは細かな定義よりも、「顧客がチャネルをまたいでも、ストレスなく目的を達成できる状態を設計する」という発想を軸にすると整理しやすくなります。
データドリブン×体験デザインという考え方
データドリブンマーケティングは、数字やログをもとに意思決定を行うアプローチです。 一方で、顧客体験の設計は、感情・文脈・状況など、データに現れにくい部分を扱うことが多くなります。
デジタルとリアルをまたぐマーケティングでは、この二つを行ったり来たりしながら進めることが重要です。
データは「判断の精度を高める材料」として活用しつつ、最終的には「顧客の体験がどう変わったか」を軸に議論することがポイントです。
🎯利点|デジタルとリアルをつなぐことで得られる価値
顧客にとっての利点
- 情報探しから購入・利用までの流れがスムーズになり、迷う時間が減る
- チャネルが変わっても、同じメッセージやトーンで案内されるため安心感がある
- 自分に合った提案やコンテンツが増え、「わかってくれている」という感覚を持ちやすくなる
企業にとっての利点
- 「どの接点が、どのように売上や継続利用に貢献しているか」が見えやすくなる
- オンライン・オフラインをまたいだ施策の組み合わせを検証しやすくなる
- 短期のコンバージョンだけでなく、リピートやLTVなど中長期の指標も含めて評価しやすくなる
現場メンバーにとっての利点
- 「なぜこの施策をやるのか」「誰のどんな行動を変えたいのか」が共有されやすくなる
- 施策ごとの成果だけでなく、「体験全体の改善」という観点で成功事例を共有しやすくなる
- 部署ごとのKPIではなく、共通の体験指標(例:問い合わせから契約までのリードタイムなど)で会話しやすくなる
データと体験をつなげて考えることで、「広告の成果」「店舗の成果」「営業の成果」といった部分最適の議論から、 「顧客がスムーズに目的を達成できる状態」をみんなでつくる議論へとシフトしやすくなります。
🧩応用方法|具体的なシナリオ別の顧客体験設計
小売・ECのケース|来店とECをまたぐ体験
小売・ECでは、「オンラインで情報収集 → 店舗で実物確認 → ECで購入」「店舗でスタッフから説明を受け、後日ECで購入」など、チャネルをまたぐ行動が頻繁に起こります。
- 会員IDやメールアドレスを軸に、店舗購買とEC購買を同じ人として紐づける
- 商品閲覧履歴やお気に入り登録と、来店・購入データを組み合わせて「実際に買った商品」を把握する
- 店舗での接客内容(相談された内容・提案したカテゴリなど)をメモし、後日のメールやアプリでフォローする
具体的なコミュニケーションとしては、次のような流れが考えられます。
ポイントは、「店舗体験をオンライン上でも再現する」ことです。
スタッフの提案内容や実際に見た商品を、デジタル上でも振り返れるようにすると、検討プロセスを中断せずに進めてもらいやすくなります。
BtoBのケース|オンラインセミナーと商談をつなぐ
BtoBでは、ウェビナーや資料ダウンロードから商談につなげるプロセスが一般的になっています。 ここに「営業の現場」と「その後のフォロー」を組み合わせることで、体験の質を高めることができます。
- オンラインセミナーの参加ログ(申込・視聴・アンケート)を、MAやCRMで一元的に管理する
- 営業担当が面談前に「どのセッションを熱心に視聴していたか」を把握し、会話の入り口にする
- 商談後は、議事録や提案資料へのリンクをメールで共有し、後日の検討を支援する
- 導入後は、ユーザー会や勉強会への招待を通じて、活用度合いを高めていく
このとき重要になるのは、「セミナーの満足度」だけではなく、「商談・提案・契約・活用」という一連のプロセスを通じて、 顧客がどこで止まりやすいか、どのタッチポイントが背中を押しているかをデータで把握することです。
イベント・展示会のケース|会場体験をデジタルで延長する
展示会やオフラインイベントは、短期間に多くの見込み顧客と接点を持てる一方で、「名刺交換で終わってしまう」という課題もよく聞かれます。
会場での会話や関心度合いを簡易的にメモし、後日のデジタルコミュニケーションに引き継ぐだけでも、 「誰にどんなフォローをすべきか」が見えやすくなります。
- ブースでの会話内容(検討フェーズ・興味のある機能・導入時期など)を、タブレットやアプリで記録する
- イベント終了後、関心の高かったテーマ別にサンクスメールやコンテンツを出し分ける
- 後日のオンラインセミナーや個別相談会へ自然に誘導し、検討のステップを進めてもらう
「名刺 → メルマガ配信」で終わらせず、「会場での体験をどんなデジタル接点で補完・延長できるか」を考えると、 同じイベントでも得られる成果が変わってきます。
🛠️導入方法|小さく始めて、継続的に育てるステップ
目的と範囲を明確にする
まず、「どの体験を、どう変えたいのか」を具体的に言語化します。 全体を完璧に描くよりも、「よく起こっているが、ストレスが大きいシーン」に絞ると取り組みやすくなります。
- 例:来店前の情報収集から来店後の購入までの体験をなめらかにしたい
- 例:ウェビナー参加者から商談に至るまでのステップを整理したい
- 例:展示会で得たリードのフォローを、よりわかりやすくしたい
「最初に取り組む1本のストーリー」を決め、そのストーリーで利用するチャネル・データ・関係者を列挙してみると、 プロジェクトとしての見通しが立ちやすくなります。
データの棚卸しと、つなぎ方の検討
次に、すでに保有しているデータとツールを棚卸しします。 すべてを統合しようとするのではなく、「この体験に関わるデータ」に絞って整理することがポイントです。
- オンライン側:サイトの行動ログ、広告のクリック情報、MAのスコア、問い合わせフォームの内容など
- オフライン側:店舗POSの購買履歴、来店予約情報、イベント参加リスト、営業日報など
- 共通の鍵になりうる情報:会員ID、メールアドレス、電話番号、予約番号など
これらをもとに、「どの情報同士を、どの粒度で結びつけると体験が見えやすくなるか」を検討していきます。 いきなり細かい粒度での連携を目指すより、「まずはこのレベルでつながっていれば、議論できる」というラインを決めるとスムーズです。
体験フローと指標の設計
顧客の体験を、いくつかのステップに分解し、各ステップで何を感じ・何を行動してほしいのかを整理します。
それぞれのステップに対して、「行動の指標(例:資料ダウンロード数、来店予約数、商談数など)」と 「質的な指標(例:アンケートのコメント、営業からのフィードバックなど)」をセットで考えると、 データと現場感覚の両方を踏まえた設計がしやすくなります。
必要なツールと体制の整え方
体験設計を進めるうえで、必ずしも新しいツールを追加する必要はありません。 既存のMA、CRM、アクセス解析、BIツールなどの活用レベルを少し高めるだけでも、できることは増えていきます。
- MA:セグメント配信やスコアリングを、「オンラインだけでなくオフラインの行動」も含めて設計してみる
- CRM:商談や問い合わせ履歴に、「きっかけとなったイベントやコンテンツ」を記録する欄を追加する
- BI・ダッシュボード:チャネルごとの指標だけでなく、「顧客のストーリー」で見られるビューを用意する
まずは「今あるツールで、どこまで一連の体験が見えるか」を確認し、不足している部分を段階的に補っていく考え方が現実的です。
検証サイクルを小さく回す
体験設計は、一度設計して終わりではなく、継続的な改善が前提になります。 ただし、毎回大きなテーマで改善しようとすると負荷が高くなるため、次のような単位で小さく回すと続けやすくなります。
- 特定のシナリオに絞って、3か月程度のサイクルで改善する
- 改善のたびに、「施策前後で変化を確認する指標」を1~2個決める
- 成功事例・失敗事例を、他部署にも共有しやすい資料やダッシュボードにまとめる
「完璧な体験設計」を目指すのではなく、「今期はこの1本のストーリーを改善する」と決めて取り組むことで、 小さな成功体験を積み上げていくことができます。
🔮未来展望|AIと体験デザインが重なり合うこれから
リアルタイムな文脈理解とレコメンド
これまでのレコメンドは、「過去の購買履歴」や「閲覧履歴」に基づくものが中心でした。 今後は、「今いる場所」「今開いているコンテンツ」「今の行動パターン」といった文脈情報を組み合わせて、 より状況に合った提案を行う取り組みが増えていきます。
例えば、イベント会場でのセッション視聴履歴と、後日のオンライン行動を組み合わせて、 「次に見るべきコンテンツ」や「参加すると価値が高いイベント」を提示するといったイメージです。
生成AIによる体験コンテンツの柔軟な生成
生成AIの活用が進むことで、顧客の興味や理解度に応じて、コンテンツの出し分けや表現の調整を行うことがしやすくなっています。 体験設計の観点では、次のような活用が考えられます。
- 同じ商品の説明でも、初心者向け・中級者向け・専門家向けに表現を変える
- オンラインセミナーやイベントの内容を、自社ブログやFAQに自動で再構成する
- 店舗スタッフや営業向けに、顧客の履歴を踏まえた会話のきっかけを提案する
重要なのは、「生成AIを使うこと」自体ではなく、「どんな体験を実現したいか」を先に決めたうえで、 その実現手段の一つとしてAIを位置づけることです。
プライバシーと信頼を前提にした設計
データと体験をつなぐ取り組みが進むほど、顧客から預かった情報をどのように扱うかが重要になります。 どのチャネルでも共通して、「何のために」「どの範囲で」「どのように安全に」利用するのかを分かりやすく伝え、 同意や選択肢をしっかり設計することが求められます。
顧客との長期的な関係を考えると、「透明性があり、納得できる範囲でデータが活用されている」という信頼感が、 体験そのものの価値につながっていきます。
📝まとめ|データが導き、体験が人を動かす状態へ
- 顧客体験設計の軸は、「シーンの理解」と「データによる裏付け」の行き来にある
- デジタルとリアルをつなぐことで、顧客・企業・現場メンバーの三方にとっての価値が生まれる
- 小売・BtoB・イベントなど、シナリオごとに「1本のストーリー」を決めて取り組むと進めやすい
- 既存のMA・CRM・BIを組み合わせるだけでも、体験全体の見える化は進められる
- AIの活用は、「どんな体験を実現したいか」という目的に紐づけて設計することが大切
まずは、自社でよく見られる顧客行動を一つ取り上げ、 「オンラインとオフラインの接点を、どのようにつないであげると、顧客にとって心地よくなるか?」という問いからスタートしてみてください。
💬FAQ|よくある質問とヒント

「IMデジタルマーケティングニュース」編集者として、最新のトレンドやテクニックを分かりやすく解説しています。業界の変化に対応し、読者の成功をサポートする記事をお届けしています。
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