採用競争が激化する中、求職者ジャーニーマップとDV360を組み合わせることで、効果的な採用マーケティングが実現できます。段階別のターゲティング手法や具体的な設定方法、測定指標まで詳しく解説します。
DV360と求職者ジャーニーマップの融合がもたらす可能性
採用市場の競争が年々激しくなる中、優秀な人材を獲得するためには従来の求人広告の出稿だけでは足りなくなってきました。採用活動においても、マーケティングの視点を取り入れた戦略的なアプローチが求められています。その中で注目したいのが、DV360(Display & Video 360)を活用した求職者ジャーニーマップの構築です。
DV360とは、Googleが提供する広告管理プラットフォームで、デジタルメディア全体にわたる広告キャンペーンを一元的に行えるクロスチャネルの広告配信ツールです。このツールを使うことで、複数のデジタルメディアを横断した広告配信の最適化が可能になります。
一方、求職者ジャーニーマップとは、求職者が企業を認知してから入社に至るまでのプロセスを可視化したものです。カスタマージャーニーマップが商品購入までの顧客の行動を追跡するのと同様に、求職者ジャーニーマップは採用というゴールに至るまでの求職者の行動や心理を追跡します。
この二つを組み合わせることで、求職者の行動段階に合わせた精緻なターゲティング広告の配信が可能になり、採用マーケティングの効果を向上させることができるのです。
求職者ジャーニーマップの基本と作成ステップ
求職者ジャーニーマップを作成する前に、その基本的な構成要素と作成ステップを理解しておきましょう。
まず第一のステップは、ペルソナ(候補者像)の設定です。どのような求職者をターゲットとするかを明確化します。年齢、性別、経験、スキル、価値観、キャリアパス、転職理由など、具体的なペルソナ像を設定しましょう。過去の採用活動データや市場調査などを活用すると、より具体的なペルソナ設定に役立ちます。
次に、ジャーニーの段階を設定します。求職者が応募に至るまでの行動を、段階的に分解します。一般的な段階としては、「認知段階」「興味・関心段階」「応募検討段階」「応募段階」「選考段階」「入社決定段階」「オンボーディング段階」などが挙げられます。
各段階におけるタッチポイント(求職者が企業のどの情報に触れているか)とチャネル(どのような経路でその情報にたどり着くか)を明確にすることも重要です。例えば、認知段階では、求人広告、企業ウェブサイト、SNS広告などがタッチポイントとなり、検索エンジン、SNS、求人情報サイトなどがチャネルとなります。
そして、各タッチポイントにおける求職者の感情や思考を分析します。各タッチポイントにおいて、求職者はどのような感情を抱き、どのような思考プロセスを経て次の行動に移るのかを分析することで、ネガティブな感情や思考を特定し、その要因を解消することができます。
最後に、分析結果をもとに改善点を抽出し、具体的な施策へ落とし込みます。このステップでDV360の活用が特に効果を発揮します。
DV360の主要機能と採用マーケティングへの応用
DV360には、採用マーケティングに応用できるさまざまな機能があります。まず、プログラマティック広告の購入が可能な点が挙げられます。これにより、多様な広告媒体で効率的に求人情報を展開できます。特に、求職者がよく利用するWebサイトやアプリに狙いを絞った広告配信が可能です。
また、精度の高いターゲティングも重要な機能です。性別、年齢、居住地といった基本的な属性だけでなく、興味関心や行動履歴に基づいたターゲティングが可能です。例えば、特定の職種に関連する情報を検索している人や、特定のスキルに関連するコンテンツを閲覧している人にピンポイントで求人広告を表示できます。
大規模リーチも見逃せない特徴です。GoogleのGDN(Google Display Network)やYouTube、Yahoo!ディスプレイ広告、TVer、ABEMAなど、多様な広告ネットワークと連携しています。これにより、幅広いユーザー層にリーチできます。
そして、広告効果の測定と最適化まで一元的に行える機能は、採用マーケティングのROI(投資対効果)を把握するうえで非常に役立ちます。どの広告がどれだけの応募につながったのか、どの媒体が最も効果的だったのかを詳細に分析できます。
これらの機能を求職者ジャーニーマップと連携させることで、各段階に合わせた適切な広告メッセージを適切なタイミングで適切な媒体に配信することが可能になります。
求職者ジャーニーの段階別DV360活用戦略
求職者ジャーニーの各段階に合わせて、DV360をどのように活用すべきか見ていきましょう。
認知段階での目標は、ターゲットとなる求職者に自社の存在を知ってもらうことです。この段階ではDV360を使って、関連する業界サイトやキャリア関連メディアに広告を配信し、ブランド認知度を高めることが効果的です。ターゲティングは比較的広めに設定し、自社の企業理念や事業内容、職場環境などをアピールするコンテンツを提供します。例えば、YouTubeでの会社紹介動画やバナー広告などが有効でしょう。
興味・関心段階では、求職者が企業について詳しく調べ始めます。この段階では、リマーケティング機能を活用して、自社のキャリアサイトや採用情報ページを訪れたユーザーに対して、さらに詳細な情報を提供する広告を配信します。職種別の詳細情報や社員インタビュー記事へのリンク、オンライン会社説明会への招待など、求職者の関心を深める内容が効果的です。
応募検討段階に入ると、求職者は実際に応募するかどうかを検討し始めます。この段階では、DV360のカスタムセグメント機能を活用し、特定の職種や条件に関連するキーワードで検索したユーザーをターゲットにします。具体的な待遇情報や福利厚生、キャリアパスなど、応募の意思決定に影響する情報を提供しましょう。また、「よくある質問」に答えるコンテンツや、応募プロセスを説明する広告も有効です。
応募段階では、実際に応募フォームに誘導することが目標です。シンプルで分かりやすい応募手順を示し、「今すぐ応募」といったクリアなCTA(Call To Action:行動喚起)を含む広告を配信します。DV360のコンバージョン測定機能を設定し、応募フォームの送信を主要な指標として追跡します。
選考段階以降では、主にメールやダイレクトコミュニケーションに移行しますが、DV360を使って選考プロセスの各ステップに関する情報やリマインダーを配信することも可能です。また、内定者向けの情報提供や、オンボーディングをサポートするコンテンツの配信にも活用できます。
DV360と求職者ジャーニーマップを連携させる実践的設定方法
DV360と求職者ジャーニーマップを効果的に連携させるための具体的な設定方法をご紹介します。
まず、ジャーニーマップに基づいたキャンペーン構造を設計します。ジャーニーの各段階(認知、興味・関心、応募検討、応募)ごとに別々のキャンペーンを作成し、それぞれに適したターゲティングと広告クリエイティブを設定します。
広告グループのセグメント設定も重要です。ペルソナに合わせたセグメントを作成します。例えば、「エンジニア転職希望者」「マーケティング経験者」「第二新卒」など、求めるプロフィールに応じたセグメントを設定し、それぞれに適したメッセージを配信します。
クリエイティブはジャーニーの段階に応じて変えることが効果的です。認知段階では会社のビジョンや文化を伝えるコンテンツ、興味・関心段階では具体的な職種情報や社員の日常、応募検討段階では具体的な待遇情報や成長機会の説明、応募段階では応募プロセスの説明と明確なCTAを含めた広告を用意します。
測定と最適化のためのKPI(重要業績評価指標)設定も忘れてはなりません。各段階に応じたKPIを設定します。例えば、認知段階ではリーチとエンゲージメント率、興味・関心段階ではサイト訪問数とページ滞在時間、応募検討段階ではキャリアページの深い閲覧、応募段階では応募フォームの送信完了数などを測定します。
フリークエンシーキャッピング(同一ユーザーへの広告表示回数制限)の設定も重要です。求職者に対して同じ広告を過度に表示すると、ブランドイメージを損なう可能性があります。適切な頻度制限を設けて、適度な接触頻度を維持しましょう。
最後に、A/Bテストを実施して継続的に改善を図ります。異なる広告クリエイティブやランディングページを用意し、どのアプローチが最も効果的かを検証します。テスト結果に基づいて、常に広告内容や配信設定を最適化していきましょう。
測定とデータ分析:採用マーケティングの効果検証
DV360を使った求職者ジャーニーマップの効果を適切に測定し、分析することが成功の鍵となります。以下に、重要な測定ポイントとデータ分析の方法を紹介します。
まず、アトリビューション(広告接触から成果までの過程の分析)の設定が重要です。採用プロセスは通常、長期間にわたります。そのため、「最初のクリック」や「直近のクリック」だけでなく、「データドリブンアトリビューション」を活用して、複数のタッチポイントがどのように応募に寄与したかを分析することが重要です。
コンバージョンパスの分析も有効です。DV360のレポート機能を活用して、求職者がどのような経路を経て応募に至ったかを詳細に分析します。特に効果的だったチャネルや広告クリエイティブを特定し、今後の施策に活かしましょう。
セグメント別のパフォーマンス分析も忘れてはなりません。異なるペルソナやターゲットセグメントごとに、どの広告が最も効果的だったかを分析します。例えば、経験者と新卒では反応する広告内容が異なる可能性があります。
コスト効率の分析も重要です。応募一件あたりのコスト(CPA:Cost Per Acquisition)や、採用一人あたりのコストを計算し、どのチャネルやキャンペーンが最もコスト効率が良いかを評価します。
さらに、ジャーニーステージ間の移行率を測定します。各ステージからどれだけの割合の求職者が次のステージに進んだかを分析し、ボトルネックとなっている部分を特定します。例えば、サイト訪問者のうち実際に応募フォームに進む割合が低い場合、応募プロセスの改善が必要かもしれません。
これらの分析結果をもとに、定期的に戦略やクリエイティブを見直し、継続的な改善を図ることが成功への道です。
事例から学ぶDV360を活用した求職者ジャーニーマップの成功パターン
DV360を活用した求職者ジャーニーマップの具体的な成功事例を見てみましょう。
あるIT企業では、エンジニア人材の獲得に苦戦していました。そこで、求職者ジャーニーマップを作成し、DV360を活用した段階別アプローチを試みました。認知段階では、技術ブログや開発者向けコミュニティに広告を配信し、自社の技術的な取り組みをアピール。興味・関心段階では、技術スタックやプロジェクト事例を紹介するコンテンツを提供。応募検討段階では、エンジニアの働き方や成長機会を強調した広告を配信しました。その結果、応募数が増加しただけでなく、応募者の質も向上したと報告されています。
別の事例では、グローバル展開する製造業が、海外の優秀な人材を獲得するためにDV360を活用しました。各国の求職者の行動パターンを分析し、国ごとに異なるジャーニーマップを作成。それに基づいて、各国の文化や求職習慣に合わせた広告配信を行いました。特に効果的だったのは、各国の言語でのリターゲティング広告で、自社サイトを訪問した求職者に対して、その後も継続的に情報を提供し続けることができました。
また、急成長中のスタートアップでは、知名度の低さを克服するためにDV360の大規模リーチ機能を活用しました。認知段階ではブランドストーリーを強調した動画広告を幅広く配信し、興味を持った層には詳細な企業文化や成長戦略を紹介するコンテンツを提供。応募段階では、少数精鋭のチームで大きな影響力を持てるというメッセージを強調しました。その結果、設立から数年の会社にもかかわらず、業界大手からの転職者を獲得することに成功しています。
これらの事例から学べる重要なポイントは、ただ広告を配信するだけでなく、求職者ジャーニーの各段階に合わせたコンテンツと配信戦略が重要だということです。また、継続的な測定と改善も成功の鍵となっています。
次世代の採用マーケティングに向けた展望と準備
テクノロジーの進化とともに、DV360を活用した求職者ジャーニーマップの可能性はさらに広がっていきます。今後の展望と、それに備えるための準備について考えてみましょう。
AIと機械学習の進化により、より精緻なターゲティングと自動最適化が可能になります。特に、求職者の行動パターンに基づいた予測モデルが発展し、どのような求職者がどのようなコンテンツに反応するかをより正確に予測できるようになるでしょう。これに備えて、質の高いデータを蓄積し、AIの学習材料となる十分なサンプルを用意しておくことが重要です。
動画コンテンツの重要性も増していきます。特に若い世代の求職者は、テキストよりも動画での情報収集を好む傾向があります。DV360のYouTube広告やインストリーム広告の機能を活用し、魅力的な企業文化や仕事内容を視覚的に伝える戦略が必要になるでしょう。社員インタビューやオフィスツアー、仕事の一日などを紹介する動画コンテンツを準備しておくことをお勧めします。
クロスデバイス戦略も重要になります。求職者は複数のデバイスを使い分けながら情報収集を行います。DV360のクロスデバイス機能を活用して、デバイスを跨いだ一貫性のあるメッセージングを実現することが、シームレスな求職者体験を提供するポイントとなります。
プライバシー保護の強化に伴い、サードパーティCookieに依存しないターゲティング手法の開発も必要になります。ファーストパーティデータの活用やコンテキスト広告の重要性が高まるでしょう。自社のキャリアサイトやイベントでのデータ収集の仕組みを整備しておくことが重要です。
最後に、人間的な触れ合いとテクノロジーのバランスが重要になります。どれだけ高度な広告技術を駆使しても、最終的に求職者が求めるのは「この会社で働くとどんな感じか」という人間的な部分です。テクノロジーを活用しつつも、リアルな社員の声や体験を伝えるコンテンツを大切にしましょう。
DV360を活用した求職者ジャーニーマップは、単なるツールや手法ではなく、求職者を理解し、適切なタイミングで適切なメッセージを届けるための包括的なアプローチです。テクノロジーの進化と求職者の行動変化を常に把握しながら、柔軟に戦略を進化させていくことが成功の鍵となるでしょう。

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