オーディエンスデータ活用で差をつける戦略構築

ビジネスフレームワーク・マーケティング戦略
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オーディエンスデータが注目される理由

オーディエンスデータとは、ウェブサイトやSNS、店舗など多様な接点で取得したユーザーの行動情報を指す。閲覧履歴や購入履歴、アプリの起動状況など、一見断片的に見えるデータを整理し、マーケティング施策に活かすことで、より的確なターゲティングや効果的なキャンペーン運営を行いやすくなる。

この数年でクッキー規制などの動きが強まり、サードパーティデータを使った広告配信が難しくなりつつあるため、自社で蓄積できるオーディエンスデータへの注目度は高まるばかりだ。私自身もデジタルマーケティングを担当するなかで、自社の保有データをいかに説得力ある形にまとめるかが重要だと感じている。

守るべきプライバシーと活用の境界

オーディエンスデータを扱うにあたっては、取得方法や管理方法に細心の注意を払う必要がある。ユーザーが自ら同意した範囲のデータを適切に扱うことが前提であり、プライバシーポリシーやセキュリティ対策を整えることが欠かせない。また、データ連携時には匿名性を確保しつつ、顧客単位の分析を可能とする仕組みが必要だ。

たとえばDMP(データマネジメントプラットフォーム=大量のデータを一元管理し、ターゲッティングや広告配信に役立てる基盤)を導入しても、プライバシーに対する配慮が不足すれば利用者を不安にさせてしまう。そのため、法的なルールの順守はもちろん、ユーザーに対して「このデータはどのように扱われるのか」をわかりやすく示す姿勢が求められる。

データ分析から得られるインサイト

オーディエンスデータは単に数が多ければよいわけではなく、分析によって何を知りたいかが明確であることが大切だ。たとえば、離脱率が高いページを特定し対策を考える場合、ページ滞在時間やスクロール量、アクセスしたデバイスなどを総合的にチェックすることで改善の糸口が見えてくる。

さらにCDP(カスタマーデータプラットフォーム=顧客データを集約し、属性や行動に基づく分析を行うシステム)を利用すれば、オンライン・オフラインの垣根を越え、購買行動や問い合わせ履歴など多面的なデータを突合できる。こうした取り組みを継続しながらインサイトを抽出し、セグメントごとの施策やコンテンツ作りに活かすことで、より説得力のあるマーケティング活動を行いやすくなる。

オーディエンスデータを用いた施策例

オーディエンスデータが活きる場面としては、広告配信やレコメンド施策からイベント運営まで多岐にわたる。たとえばウェブ広告では、過去に商品ページを閲覧したユーザーに再度アプローチするリターゲティング広告にとどまらず、閲覧時間帯やアクセス元の地域に応じて内容を変化させることも考えられる。

メールマーケティングであれば、購入頻度の高い顧客には次なるステップを促す特典を用意し、一定期間行動の見られなかった顧客には休眠復帰を促すクーポンを施策として送るといった形だ。オフラインのイベントにおいても、参加歴のある顧客に優先的に案内を送るなど、オーディエンスデータを軸にしたコミュニケーションは幅広い可能性を秘めている。

マルチチャネル連携で得られる効果

デジタルマーケティングの世界では、カスタマージャーニーが段階的に複雑化しており、顧客は検索エンジンやSNSなどさまざまなチャネルを経由して商品を知るケースが一般的になっている。そのため、オーディエンスデータを活用する際には複数チャネルを横断して情報を集約し、一貫した体験を提供することが重要だ。

たとえばSNSでの操作をきっかけに、自社アプリ内で関連情報を紹介するなど、チャネル同士を有機的に連動させる施策を組み立てると、顧客との接点がより濃密になる。そして、チャネル間をまたいだ行動データを集めれば集めるほど、顧客が商品を認知し、比較し、購入に至るまでの全体像をつかみやすくなる。

運用を進める上での課題と対策

オーディエンスデータを使いこなすには、ツールやシステムを導入するだけでなく、分析力と運用体制を構築することが欠かせない。一度に大量のデータが集まると、どの情報に優先度を置くべきかが見えにくくなることもある。

そこで、小規模なテスト施策を実施し、データの特徴を把握しながら調整を加えるアプローチが有効だ。また、組織内でデータ活用に関する理解が深まっていなければ、分析結果が共有されないまま放置されてしまい、真の価値を引き出せないこともある。こうした課題を解消するために、定期的な勉強会やワークショップを開催してチーム全員のスキルを向上させる取り組みを進めるのも一案だ。

チーム体制の重要性

オーディエンスデータを有効に活用するには、マーケティング担当だけでなく、エンジニアやデータアナリスト、法務担当など複数の専門家が連携するチーム体制が必要となる。取得データを匿名化したり、プライバシー保護のルールを設定したりするには、それぞれの視点や知識が欠かせない。

特に、法的な要件をしっかり把握せずに運用を進めると、ユーザーの信頼を損ねるリスクがあるため注意が必要だ。社内外のステークホルダーと協力しながら、お互いの強みを掛け合わせて最適な施策を考え、実行に移す。それが、オーディエンスデータの真の力を引き出すポイントでもある。

これからの展望

デジタル技術がますます発展するなかで、オーディエンスデータの重要性は今後も増すと予想される。不透明になりがちな消費者行動の流れをいかに可視化し、顧客とのコミュニケーションを深めていくかが、企業の課題になり続けるだろう。

マーケティング担当としては、データを収集・分析して終わりではなく、そこから得られた示唆をどう具体的な施策に落とし込み、継続的に改善していくかが腕の見せどころだ。今は小規模なプロジェクトから始めたとしても、着実に知見を積み重ねれば、オーディエンスデータを軸としたマーケティングの強化は十分に狙える。

顧客との信頼関係を前提に、より豊かな購買体験を提供するためのヒントとして、オーディエンスデータの研究と運用をぜひ深めてみてほしい。