CTV広告で台頭するThe Trade Deskと、巨大エコシステムを持つGoogle。そこに「プライバシーサンドボックス」の方針転換が重なり、広告の意思決定は一段と複雑になりました。本記事では、デジタルマーケティング担当者が今おさえるべき構造と実務ポイントを、平易な言葉で整理します。
動画視聴の中心がテレビ受像機から「インターネットにつながった大画面」に移るにつれ、コネクテッドTV(CTV)広告は、ブランド広告・パフォーマンス広告のどちらにとっても重要な選択肢になりました。
そのなかで存在感を増しているのが、オープンインターネット側の代表格であるThe Trade Desk(以下TTD)と、YouTube・YouTube TV・Google TV・Display & Video 360(DV360)などを抱えるGoogleです。両社はCTV在庫の獲得と買い付けのしやすさで拮抗しつつ、それぞれ異なる戦略で市場をリードしています。
一方、Webブラウザ側では、Chromeが掲げていた「プライバシーサンドボックス」構想が2025年に大きく方針転換し、多くの関連技術が終了・縮小されるというニュースが続きました。この結果、広告主や代理店は「ブラウザ起点の新しい広告基盤」を前提とした中長期の計画を見直さざるを得なくなっています。
📚概要
コネクテッドTV(CTV)広告とは何か
CTV広告とは、インターネットに接続されたテレビ画面で配信される動画広告の総称です。ストリーミングサービスのアプリや、無料広告付きの配信チャンネル(FAST)、ゲーム機やSTBを含むさまざまなデバイスを通じて配信されます。
- 従来のテレビCMに近い「大画面・複数人視聴」の体験
- デジタル広告のような柔軟なターゲティング・入札・計測
- オンデマンド・ライブ配信・短尺動画など、多彩なコンテンツフォーマット
こうした特徴から、CTVは「テレビとデジタル」の境界が薄くなった現在のメディア環境にフィットするチャネルとして注目されています。
The Trade DeskとGoogleの現在地
TTDは、ディスプレイ・オンライン動画・音声・デジタルアウトオブホームなど複数チャネルを横断して買い付けられる独立系DSPです。なかでもCTVは重点領域として位置付けられ、世界各国の放送局・配信プラットフォームと提携しながら在庫を拡大しています。
Google側では、YouTubeとYouTube TV、Google TVをはじめとしたCTV面に加え、DV360を通じて多様なパブリッシャーの在庫にもアクセス可能です。CTV・YouTube・ディスプレイ・インストリーム動画を一元的に管理できる点は、マルチチャネルのキャンペーンにとって大きな魅力と言えます。
プライバシーサンドボックスとChromeの方針転換
Chromeが進めてきたプライバシーサンドボックスは、ブラウザ側でプライバシーに配慮した広告機能や計測機能を提供する構想でした。2025年に入り、Chromeは複数の関連APIを終了・縮小する方針を次々と発表し、当初想定されていた「ブラウザ内の新しい広告基盤」としての姿は大きく変化しつつあります。
これはWeb広告だけでなく、ID・計測・アトリビューションの戦略全体に影響を与えます。特に、ブランド側が「どのプラットフォームを軸に顧客理解とメディア投資を組み立てるか」を考えるうえで、CTVとブラウザの動きは切り離せないテーマになっています。
✅利点
CTV広告を軸にするメリット
まず、TTD・Googleという個別のプラットフォームに入る前に、「CTV広告自体の利点」を整理しておきます。
- 大画面での高い没入感:家族や友人と一緒に視聴している状況でブランドメッセージを届けやすい
- 柔軟な配信設計:曜日・時間帯・番組カテゴリ・デバイスタイプなどを組み合わせたきめ細かな配信が可能
- デジタルとの連携:Web・アプリ・店舗データと組み合わせたリーチ計測やブランドリフト分析がしやすい
The Trade Deskを活用する利点
TTDの強みは、「CTVを含むオープンインターネット在庫を横断的に管理できること」にあります。
- 複数の放送局・配信サービス・デバイスパートナーの在庫に一つのUIからアクセスできる
- 同じプラットフォーム上で、ディスプレイ・オンライン動画・音声・DOOHなども一緒に運用できる
- 外部データや小売メディアと連携した高度なターゲティング・分析がしやすい
- 「特定の媒体社やOSに依存しない」買い付けポジションを取りやすい
とくに、オープンなCTV在庫を広く扱いたいグローバルブランドや、複数チャネルの統合リーチを重視する広告主にとっては、TTDは有力な選択肢になります。
Googleを活用する利点(YouTube・DV360など)
Googleの強みは、「YouTubeエコシステム」と「他チャネルとの統合」にあります。
- YouTube・YouTube TV・Google TVなど、Googleが直接保有する大規模なCTV在庫
- DV360を通じた他社CTV在庫・動画在庫へのアクセス
- 検索広告・ディスプレイ・アプリ広告などとの一元的な管理とレポーティング
- Google Analyticsや他の計測ソリューションとのなじみやすさ
既にGoogle広告・YouTube広告を運用しているチームにとっては、学習コストが比較的低く、既存の運用フローにCTVを足しやすい点も実務上のメリットです。
プライバシーサンドボックス終了・縮小がもたらす「相対的な利点」
プライバシーサンドボックスの大幅な見直しにより、「ブラウザ内の新APIを前提にした中立的な広告基盤」に期待していたプレイヤーは、計画の修正を迫られています。一方で、既に大きなデータ資産やID基盤を持つプラットフォームは、相対的に優位な立場を維持しやすくなりました。
この文脈で見ると、CTVに強いTTDと、YouTubeを中心に巨大な動画プラットフォームを持つGoogleは、いずれも「自らのエコシステムの価値を高める方向」に舵を切っていると考えられます。
🧩応用方法
CTV×検索×ソーシャルの組み合わせ方
CTV広告は単体で評価するよりも、検索広告やソーシャル広告と組み合わせて「顧客の行動ストーリー」として設計する方が効果を把握しやすくなります。
- CTVで新商品を認知させ、後続でブランド名・カテゴリ名の検索を観測する
- CTV接触が多い地域・曜日・番組カテゴリに合わせて、同時間帯のSNS配信を重ねる
- 来店やEC売上の変化を地域・期間別に比較して、CTVの寄与を推定する
The Trade Deskを使った応用アイデア
TTDを軸にする場合、オープンインターネット在庫を横断した「一段俯瞰した設計」がしやすくなります。
- CTV・オンライン動画・ディスプレイを一つのフレームでプランニングし、到達世帯と頻度を調整する
- 小売メディアの購買データや、外部のオーディエンスデータと連携して、CTVの配信対象を精緻にする
- ローカルエリアごとの在庫を見ながら、地域別の予算配分・クリエイティブをチューニングする
Googleを使った応用アイデア(YouTube・DV360)
Googleを軸にする場合、既存のYouTube運用にCTVを足す発想がとりやすくなります。
- YouTubeインストリーム広告を実施しているキャンペーンに対し、YouTube TV・CTV向け枠を追加する
- 検索広告やディスプレイ広告と同じアカウント内で、CTVを含む動画キャンペーンのリーチを管理する
- 既に活用しているGAや他の計測ツールと組み合わせ、CTV接触前後の行動変化を見る
「既に慣れている管理画面の延長線上で試せる」というだけでも、社内の合意形成やオペレーション設計のハードルは下がります。
Chromeとプライバシーの変化をどう織り込むか
ブラウザ側のプライバシー保護が進むと、従来よりも細かいユーザー単位のトラッキングや、粒度の細かいコンバージョン計測がしづらくなる局面が増えていきます。そのなかでマーケターに求められるのは、次のような発想です。
- 「すべてを一人ひとりの行動レベルで追いかける」前提から、「集計された傾向を読み解く」前提への切り替え
- ブラウザ以外のチャネル(CTV・アプリ・店舗・コールセンターなど)も含めた指標設計
- 媒体社・プラットフォームが提供する新しい計測メニュー(ブランドリフト、来店計測など)の活用
🛠️導入方法
ステップ1:現状の動画・TV投資を棚卸しする
まずは、現在どのチャネルにどれくらいの予算を投下しているかを整理します。
- テレビスポット・TVerなどの配信型テレビ・YouTube・オンライン動画などの投資額とKPI
- ターゲット別・地域別の到達状況(可能な範囲で推定でも構いません)
- 社内で「CTVに期待している役割」(認知・好意醸成・店舗送客など)のすり合わせ
ステップ2:The Trade DeskかGoogleか、起点を決める
実務上は、「どちらか一方に絞る」必要はありませんが、最初に重点的に伸ばす起点を決めておくと進めやすくなります。
ステップ3:小さくテストし、学びを言語化する
いきなり大きな予算をシフトするのではなく、まずは限られた期間・地域・ターゲットでテストし、学びをチームで共有します。
- 効果検証の期間・地域・指標をあらかじめ決めておく
- CTV接触の有無によるブランドリフトや来店・売上の差を見る
- クリエイティブのバリエーション(尺・メッセージ・デザイン)の違いを比較する
ステップ4:社内の「判断材料シート」を作る
TTDとGoogleのどちらにどれだけ投資するかは、担当者一人では決めづらいテーマです。経営層・営業・ブランド担当者と対話しやすくするために、次のような簡易シートを用意しておくと便利です。
認知・好意・比較検討・来店など、CTVで狙う役割を明記
リーチ・完視聴率・ブランドリフト・売上のいずれを重視するか
TTDとGoogleの得意領域・運用難易度・既存システムとの相性
どちらかに偏りすぎた場合のリスクと、段階的な分散案
🔮未来展望
CTVは「動画インフラ」の一部になっていく
世界的に見ると、CTV広告はデジタル動画広告のなかでも伸びが大きい領域のひとつとされています。今後は、「CTV広告」という単独の箱ではなく、オンライン動画・ショート動画・インフルエンサーコンテンツなどと一体の動画インフラとして捉えられるようになる可能性があります。
そのなかで、TTDはオムニチャネル視点からの「オープンな動画エコシステム」、GoogleはYouTubeを核とした「巨大なプラットフォーム内での最適化」に、それぞれ強みを伸ばしていくと考えられます。
プライバシーの議論は続くが、「計測の多層化」が鍵
プライバシーサンドボックスの見直しによって、一旦は大きな方向転換が起きましたが、プライバシー保護や規制強化の流れそのものが止まるわけではありません。ブラウザ・モバイルOS・アプリストア・規制当局など、複数のレイヤーで議論は続きます。
こうした環境では、「ひとつの計測ロジックに依存しない」ことが重要になっていきます。
- 媒体社の提供するブランドリフト・来店計測・コンバージョンモデリング
- 自社のファーストパーティデータや会員データに基づく分析
- アンケートやパネル調査など、オフラインの補完データ
これらを組み合わせて「答えを一つに決めすぎない」評価の仕組みを作ることが、今後のCTVとWebの両方で共通するテーマになります。
マーケターが今から準備できること
🧾まとめ
CTV広告の拡大と、Chromeのプライバシーサンドボックス方針転換は、一見別々のニュースのようでいて、「どのプラットフォームを軸にマーケティングを設計するか」という同じ問いにつながっています。
大画面でのリーチとデジタル的な柔軟性を兼ね備え、ブランド・パフォーマンスの両面で活用の余地が広がっています。
複数のCTV在庫とディスプレイ・音声などを横断し、媒体分散が進む環境で選択肢を確保しやすい立ち位置です。
既存のGoogle広告資産との統合運用により、学習コストを抑えながらCTVに踏み出せます。
プライバシーサンドボックスの方針転換をきっかけに、「計測の多層化」と「プラットフォーム分散」の重要性が高まっています。
完全な正解を最初から求めるのではなく、TTDとGoogleの両方を視野に入れながら、小さな実験と振り返りを積み重ねていくことが、これからのCTV時代を着実に進むための現実的なアプローチと言えるでしょう。
💬FAQ
CTV広告はまだ早いですか? それとも急いで始めるべきですか?
市場としてはすでに多くのブランドが投資している段階ですが、全予算を大きく切り替えるほど成熟しきっているとも言い切れません。自社の動画投資全体のうち、まずは一部をCTVに振り向けてテストし、学びに応じて徐々に比率を増やしていくステップが取りやすいです。
The Trade DeskとGoogle、どちらを先に試すべきでしょうか?
既にGoogle広告・YouTube広告の運用体制がある場合は、まずGoogle側でCTVメニューを試すと、チームの学習コストを抑えられます。一方で、海外展開やオープンインターネット在庫の活用を重視する場合は、TTDを早めに検証しておくと、中長期で選択肢を確保しやすくなります。両方を並行して使う場合でも、「どちらを起点に全体像を見るか」を決めておくと設計しやすくなります。
プライバシーサンドボックスの方針転換で、今の計測はどれくらい変わりますか?
影響の度合いは、どの程度ブラウザ側の新しいAPIを前提にしていたかによって変わります。ただし、より長い目で見ると、ブラウザやモバイルOSがプライバシー保護を重視する流れは続くと考えられるため、「1つの計測手段に頼り切らず、複数の指標とデータソースを組み合わせる」方向に舵を切っておくと安心です。
CTV広告のKPIは何から設定すればよいですか?
最初の段階では、到達世帯・完視聴率・ブランドリフトなど、上流指標から整理すると設計しやすくなります。そのうえで、可能な範囲でサイト流入・来店・売上の変化を見ていき、「CTVが関与していそうな変化」を観察します。いきなり細かいCPAやROASだけで判断しようとせず、複数の指標を組み合わせて評価するのがおすすめです。
社内でCTV投資の必要性をどう説明すればよいですか?
既存のテレビ・オンライン動画投資の到達範囲と重複を整理し、「CTVを追加することでどんな視聴シーン・ターゲットを補完できるか」を図解して見せると、非デジタル部門にも伝わりやすくなります。また、TTDやGoogleなど主要プラットフォームがCTVを重点領域としている事実を共有し、中長期的な競合環境を踏まえた投資であることを説明すると、納得感を得やすくなります。

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