生成AI時代の企業ブランディング実践
生成AIが企業の評判や認知を左右する時代に、正しく参照される情報発信と社内体制をどう整えるかを解説します。LLMOの考え方、炎上・風評リスクの捉え方、部署横断の統一メッセージ設計まで実務視点でまとめます
登壇者紹介
本セミナーは、「生成AI時代の新しい企業ブランディング」と「戦略的情報発信」をテーマにしたトークセッションとして開催されました。登壇者は二名で、株式会社インティメート・マージャー 代表取締役社長の簗島亮次氏と、株式会社ジールコミュニケーションズ マーケティング部 マネージャーの山本 紘一氏です。簗島氏はデータとAIの研究・活用を背景に、生成AIが企業認知を媒介する時代の変化をデータの専門家として解説しました。山本氏はデジタルリスク領域、とりわけSNSリスクや炎上対応の実務を軸に、企業の前進を支える「攻めのリスク対策」を掲げる立場から、生成AI時代の情報発信と危機管理の要点を提示しました。
セミナーの背景と問題意識
生成AIの普及により、企業の評判やブランド認知が「人が発信し、人が受け取る」構造だけで決まらなくなっています。検索の代替として生成AIに質問し、その回答を意思決定の材料にする行動が広がることで、企業が意図しない形で「AIに語られる企業像」が形成されやすくなっています。
ここで問題となるのは、AIが勝手に嘘をつくという単純な話ではありません。生成AIの回答は、多くの場合インターネット上に存在する情報の集合から組み立てられます。そのため、公式情報が不足していたり、過去のネガティブ記事や口コミサイトが目立っていたりすると、企業が伝えたい姿とは異なる印象が「最初の回答」として提示されてしまいます。
生成AIが適当なことを言っているのではなく、インターネット上の多くの意見がそうなっている状態が反映されている可能性があります。(簗島氏)
つまり、生成AI時代のブランディングは「AIの誤りを正す」以前に、「参照される前提となる情報環境を整える」ことが重要なテーマになります。情報発信の不足は、気づかないうちに企業の評価を固定化させるリスクにもなり得ます。
キーメッセージと発言ハイライト
本セミナーの中心的な問いは、「生成AIが企業の評判を書き換えているように見えるのはなぜか」という点でした。結論として語られたのは、書き換えというよりも、AIが参照する情報源が偏っている場合に、結果として企業像が偏って提示されるという構造です。
特に印象的だったのは、生成AIが企業の“監視者”のように機能し始めているという見立てです。企業が残してきた情報資産の総体が、AIの回答という形で可視化され、これまで把握しにくかった「客観的な集合値としての評判」が表に出てきます。
生成AIはブランドの監視者になっていると感じています。未来に残すアウトプットを正しくし続けられているかが、プレーンな表示結果を作る上で重要です。(山本氏)
また、生成AIの回答は質問の仕方にも左右されます。採用候補者、顧客、取引先など、誰がどんな意図で尋ねるかによって、強調される情報が変わりやすくなります。ここに、従来の検索よりも「受け取りの揺れ」が生まれやすい難しさがあります。
会社の評判が違うと感じる場合、危険なサインかもしれません。公式な参照元が薄いと、口コミサイトなどから拾われてしまいます。(山本氏)
この文脈で登場したのがLLMOです。LLMOは「Large Language Model Optimization」の略として語られ、生成AIに参照されやすい形で情報を整備し、望ましい文脈で理解される状態を目指す考え方として提示されました。SEOが検索エンジン最適化であるのに対し、LLMOは生成AIにとって理解しやすい情報設計を含む、より広い概念として扱われています。
実践的な取り組みと事例
実務の論点として繰り返し語られたのは、生成AIに正しく認識されるためには「Web上に情報が存在すること」が大前提になる点です。生成AIはインターネット上にない情報を基本的に参照できないため、社内にしかない情報、あるいは整理されていない情報は、AIの回答に反映されにくくなります。
ここで登場した専門用語の補足として、DMPは「Data Management Platform」の略で、オンライン上の行動データなどを統合・管理し、広告配信や分析に活用するための基盤を指します。また、ファーストパーティデータは自社が直接収集したデータを意味し、外部環境の変化に左右されにくい重要な資産として扱われます。こうしたデータを生成AI活用と組み合わせることで、企業が伝えたい情報の精度を高めやすくなります。
一方で、生成AI時代のリスク対応は、従来の「禁止事項を増やして抑え込む」やり方だけでは限界があるとも語られました。SNSなどの文脈では完全なコントロールが難しく、全体最適の視点で体制を構築する必要があります。
コントロール型の限界があるので、この文脈でのリスク対策を考える必要があります。点ではなく全体を最適化するコンサルティングを得意としています。(山本氏)
質疑応答では「意図しない形で情報が変化・拡散した際、迅速に対応できるのか」という問いが出ました。ここでは、情報には「フロー型」と「ストック型」があるという整理が提示されました。フロー型は瞬間的に拡散して消費されやすい情報で、ストック型は検索結果や記事として残り続け、長期的に参照される情報です。生成AIが参照するのは、後者の影響が強まりやすいという認識が共有されました。
瞬間最大風速的に燃えたものは、結果として残らないこともあります。地道にプラスの情報を発信し続けることが健全です。(山本氏)
では、誰がこの領域を担うのかという問いに対しては、「専門部署が確立している」というより「誰かがやらざるを得ず、既存部署が担っている」という現実が語られました。広報、経営企画、ブランド戦略、コーポレートコミュニケーション、サステナビリティ関連など、起動力のある部署が旗を持ち、エスカレーションフローで情報が集まる仕組みを作ることが多いとされます。
また、統一的な発信を実現するための考え方として、従来のCIに多かった「ロゴの扱い方」のような形式ルールだけでなく、より抽象度の高いガイドが必要だという示唆もありました。トン&マナーは文章や表現にも及び、部署間でコンテキストを共有することで、AIが参照したときにブレにくい情報環境を作りやすくなります。
ルールっぽいルールだけではなく、共通に持てるコンテキストの指針作りが大事です。(山本氏)
さらに、生成AIに正しく認識されるための具体策として「単一ドメインに閉じず、複数ドメイン・複数チャネルで言及を増やす」方向性が提示されました。自社サイトだけでなく、信頼性の高い外部メディア、動画プラットフォーム、記事配信などに分散して発信することで、AIが「複数の独立した情報源が同じ内容を示している」と判断しやすくなる可能性があります。
今後の展望とまとめ
生成AI時代の企業ブランディングは、広報、マーケティング、営業、採用、IRといった機能が、より密接に結びつく方向へ進むと示唆されました。従来は部署ごとにKPIが分かれ、情報発信も断片化しやすかった一方で、生成AIは全体の文脈を横断して参照します。部署ごとに言っていることが異なる状態は、AIにとっても読み取りづらく、結果として望ましい認知形成を阻害し得ます。
また、ターゲットごとにメッセージを最適化すること自体は否定されませんでしたが、コアとなるメッセージは一貫させ、枝葉の部分で最適化するという整理が有効とされました。顧客向け、採用向け、投資家向けで語り口は変えても、企業が何を目指しているのかという筋は通すべきという考え方です。
統一したいメッセージと、最適化する部分は分けて考えるのがよいと思います。(簗島氏)
最後に、SNS炎上対策として一般的な「エゴサーチ」は、生成AI時代にも重要になるという結論が示されました。生成AIが返す回答を定点観測し、自社がどのように語られているかを客観視することが、これからの危機管理とブランディングの基礎になります。
AI認識対策としてのエゴサーチは、これから必要になっていくと思います。(山本氏)
生成AIが普及し、AI検索や要約が当たり前になるほど、企業の情報資産は「整備していないこと」自体がリスクになりやすくなります。一方で、まだ対応できている企業が多くないからこそ、今の段階で情報発信と社内体制の整備に着手することは大きな機会にもなります。まずは自社がWeb上でどう語られているかを把握し、信頼性の高い一次情報を増やし、部署横断でメッセージの芯を揃えることが、生成AI時代の新しい企業ブランディングの第一歩になります。

