マーケティングオートメーションの終焉と「自律型マーケター」の誕生
メールシナリオ、スコアリング、ナーチャリングフロー。
かつて「マーケティングオートメーション(MA)」は、B2Bマーケティングの象徴的な存在でした。 しかし今、多くの現場で「シナリオは組んだが、うまく動かし切れていない」「運用負荷ばかり増えている」という声も聞かれます。
本記事では、「マーケティングオートメーションの終焉」という挑戦的なテーマを手がかりに、 AIとデータを前提とした「自律型マーケター」という新しいあり方を解説します。 ツール任せの自動化から、マーケター自身が自律的に学び、動き、改善し続けるための具体的なヒントを整理していきます。
💬 「MAを入れたのに成果が見えない」違和感の正体
多くの企業が、数年前からマーケティングオートメーションツールを導入してきました。 しかし、現在こんな声を耳にすることも少なくありません。
「シナリオは増えていくのに、途中で誰も触らなくなってしまった」
「ツールの設定に追われて、顧客のことを考える時間が減っている気がする」
「メールは送れているが、営業から見ると“ただの一斉配信”に見えている」
こうした状況は、「MAが役に立たない」というよりも、 「ツール中心の自動化」だけでは、変化の大きい市場や顧客行動に追いつきにくくなっていることを示しています。
本記事での「マーケティングオートメーションの終焉」とは、 旧来型の「固定シナリオやルールベース中心の自動化」に限界が見え始め、 マーケター自身の思考とAI・データが一体化した新しい働き方への移行が進むという意味合いです。
そこで登場するコンセプトが、「自律型マーケター」です。 これは「何でも自分でやるマーケター」ではなく、 AIやツールを使いこなしながら、自ら仮説を立て、検証し、学習し続けるマーケターのことを指します。
📚 マーケティングオートメーションから「自律型マーケター」へ
まずは、従来のマーケティングオートメーションと、これから求められる「自律型マーケター」の違いを、 シンプルな構造で整理してみます。
従来のマーケティングオートメーション像
- 特定のシナリオ(例:資料DL → スコア一定以上 → セミナー招待)が前提
- 条件分岐やスコア設計を人が細かく設定し、ツールが機械的に実行
- シナリオが増えるほど運用が複雑化し、メンテナンスが負担になりやすい
- 「登録されている人」にフォーカスしがちで、アカウント単位の視点が薄くなりやすい
もちろん、これらの機能自体は今後も役立ちます。 しかし、変化し続ける顧客に対しては「一度決めたルールを動かし続けるだけ」では足りなくなりつつあります。
- ツールやAIを「作業代行」ではなく「思考のパートナー」として扱う
- シナリオではなく、仮説とループを中心に設計する
- チャネルをまたいだ顧客体験を、自分の言葉で説明できる
- 学習したことをコンテンツ・プロセス・チーム設計に反映し続ける
自動化(Automation)は、決められた手順を効率よく繰り返すことに向いています。 一方、自律(Autonomy)は、状況に応じてやり方を変えながら、目的に向かって進み続けるイメージです。
マーケターに求められるのは、ツールの設定担当から、自律的に学び続ける「マーケティングの設計者」への転換です。
✅ 自律型マーケターがもたらす利点
自律型マーケターとしての働き方にシフトすると、個人・チーム・組織それぞれにうれしい変化が生まれます。
個人にとっての利点
- ルーチン作業に追われる時間が減り、戦略や企画に向き合う時間が増える
- 「ツールのオペレーター」ではなく、「成果に責任を持つパートナー」として営業や経営層と議論しやすくなる
- スキルがツール依存ではなく、汎用的な思考・設計能力として蓄積される
チームにとっての利点
- 属人的な設定やナレッジが整理され、誰でも改善に参加しやすくなる
- デジタル広告・インサイドセールス・CSとの連携テーマが明確になる
- 「施策ごとの評価」から、「学習サイクル全体の質」に焦点を当てやすくなる
組織にとっての利点
- ツールの追加導入・乗り換え時も、目的や設計思想がぶれにくい
- 成果が「運よく当たったキャンペーン」ではなく、再現性あるプロセスとして説明しやすくなる
- データ活用やAI活用の文脈で、マーケティング部門の存在感が高まりやすい
「この施策は成果が出た/出なかった」だけでなく、
「この数か月で何を学び、どんな打ち手の選択肢が増えたか」が見えるようになると、 チームの評価もしやすくなります。
🧭 自律型マーケターの実像:日々の業務はどう変わるのか
「自律型マーケター」と聞くと、抽象的に感じるかもしれません。 ここでは、実務シーンをいくつか切り取ってイメージを具体化してみます。
シーンA:シナリオ設計から「学習ループ設計」へ
- 従来:メールシナリオを一度作り、しばらくそのまま運用
- 自律型:小さなパターンを複数走らせ、毎週・毎月の学びを次の施策に反映
例えば、同じ資料ダウンロードでも、
- フォローコンテンツの切り口を複数用意し、AIに文案生成やパターン出しを手伝ってもらう
- 反応別に「ヒアリングに進むべきか」「別テーマを案内すべきか」を、営業・インサイドと一緒に定期的に見直す
このときの主役はシナリオ図ではなく、「仮説 → 実験 → 学習 → 改善」のループです。
・仮説:技術責任者には「障害リスクの低減」、事業責任者には「売上インパクト」の切り口が響きそう
・実験:同じ資料DL後のフォローを、役割別メッセージで出し分け
・学習:どの役割で面談率が変わったかを確認
・改善:次月は事業責任者向けメッセージを中心にテストを拡張
こうしたメモを毎月1枚ずつ残していくだけでも、「自律的な学習の軌跡」が見えるようになります。
シーンB:AIを「第二のマーケター」として使う
- ペルソナごとの課題仮説や、訴求の候補をAIにブレストしてもらう
- ランディングページや広告文のパターンをAIに整理してもらい、人が取捨選択する
- 施策の結果ログから、次の打ち手の候補をAIと一緒に洗い出す
ポイントは、AIに最初から「答え」を求めるのではなく、 人の思考を広げる相棒として使うことです。
シーンC:ダッシュボードから「問い」を引き出す
- ダッシュボードの数値を見て終わりにせず、「なぜ?」の問いをAIにも投げてみる
- 傾向の変化に対して、「どの仮説から検証するべきか」をAIに候補出ししてもらう
- そのうえで、実際の顧客との会話や営業の感覚を重ねて、判断する
データの読み解き方をAIと共有していくことで、マーケター自身の視点も整理されていきます。
🧱 「自律型マーケター」へシフトする導入ステップ
ここからは、現場で再現しやすい導入ステップを、タイムライン形式で整理します。 いきなり大きな変革を目指すのではなく、小さな変化を積み重ねていくことがポイントです。
まずは、既に走っているシナリオやキャンペーンを可視化します。
- 動いているフロー・ほとんど触られていないフローを一覧化
- それぞれが目指している顧客の変化を一言で書き出す
- 「目的が曖昧なフロー」「誰もオーナーがいないフロー」を洗い出す
いきなり全体を変えようとせず、特定のターゲットやカスタマージャーニーに絞って、 自律的な学習ループを設計します。
- 対象:例)既存リードの中で、特定業種・特定役割
- 期間:例)まずは2〜3か月
- 行動:コンテンツ・メール・広告・インサイドコールの組み合わせを設計
学習ループの中で、AIに何を任せ、人が何を担うかをざっくり書き出します。
- AI:アイデア出し・文案のたたき台・レポートの要約
- 人:仮説設定・優先順位づけ・顧客との対話・最終判断
月次・四半期などの単位で、次のような項目をホワイトボードに書き出し、チームで共有します。
- うまくいったこと(顧客の反応・内製プロセスの改善など)
- 意外だったこと(想定外の反応・社内調整の課題など)
- 次の一手の候補(やめること/続けること/試してみること)
学びを個人のメモで終わらせず、チームの資産として残すことで、 組織全体が自律的に学習しやすくなります。
- 1ページで読める「施策ストーリー」を作る
- AIに議事録やログを要約してもらい、ポイントだけを人が編集
- 成功・失敗の両方を「気づき」として共有する文化を育てる
- ツール操作のスキルだけでなく、「問いを立てる力」を意識的に鍛える
- AIに依頼するプロンプトを工夫し、欲しいアウトプットに近づける練習をする
- 自分の仮説とAIの提案を比較し、「どこが似ていて、どこが違うか」を観察する
こうした取り組みを続けることで、ツールに振り回されるのではなく、 自分なりの軸を持った自律型マーケターへと近づいていきます。
🔮 「自律型マーケター」が当たり前になる未来
これから数年のうちに、マーケティング領域でも「自律的に動くAIエージェント」や、 「複数のツールをまたいで施策を実行するAI」が一般化していくと考えられます。
ツール中心から「エージェント中心」の世界へ
- 特定のMAツールに閉じた自動化ではなく、複数のプラットフォームをまたぐ自動実行が進む
- 「メールを送る」「広告を入稿する」といった行為自体は、AIエージェントが担う方向に進む
- 人は、エージェントに与える目的・制約・評価軸を設計する役割にシフトする
評価軸の変化:施策単体から「学習の深さ」へ
- 単発のキャンペーン成否ではなく、「どれだけ顧客理解が深まったか」が問われる
- 社内ステークホルダーに対しても、「何を学び、何を変えたか」を説明する場面が増える
- マネージャーは、メンバーの「仮説の質」や「ふりかえりの深さ」を見て評価するようになる
自律型マーケターが持つべきマインドセット
- 「正解を求める」よりも、「問いの質を上げる」ことを意識する
- AIやツールに振り回されるのではなく、「何のために使うのか」を毎回確認する
- 失敗や試行錯誤の過程も、チームの学習資産として共有する
「このキャンペーンは、エージェントAとBのどちらに任せる?」
「今期の学習テーマは“新規事業部への浸透”にしよう」
——そんな会話が自然と交わされるようになれば、 自律型マーケターが当たり前の存在になっていると言えそうです。
🧾 まとめ:ツールの時代から、自律型マーケターの時代へ
「マーケティングオートメーションの終焉」とは、 ツールが役目を終えたという話ではありません。 むしろ、ツール中心の自動化から、マーケター自身の自律的な学習とAI活用へ軸足を移すタイミングだと捉えることができます。
- 従来のMAだけでは、変化の激しい環境に対して柔軟に対応しにくくなっている
- 自律型マーケターは、AIやツールを使いこなしながら、仮説と学習ループを設計する存在
- 小さな学習ループを1つずつ作り、ナレッジをチームの資産として残すことがスタート地点
- 近い将来、AIエージェントが実行を担い、人は「問いと設計」を担う構造が広がっていく
今日からできる一歩として、まずは「今運用しているシナリオやキャンペーンを1枚に整理してみる」ことから始めてみてください。 そのうえで、「どこに小さな学習ループを作れそうか?」をAIと一緒に考えてみると、 自律型マーケターへの道筋が少しずつ見えてくるはずです。
❓ FAQ:自律型マーケターに関するよくある疑問

「IMデジタルマーケティングニュース」編集者として、最新のトレンドやテクニックを分かりやすく解説しています。業界の変化に対応し、読者の成功をサポートする記事をお届けしています。

