Meta、リール動画の盗用を防ぐ新ツール「Facebookコンテンツ保護」を発表

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2025年11月17日(米国時間)、FacebookやInstagramを運営するMeta社は、クリエイターのリール動画が他人に無断で転載されるのを検知し、対処するための新しいモバイルツールFacebookコンテンツ保護 (Facebook Content Protection)」を発表しました。このツールはFacebook上に投稿されたオリジナルのリールが許可なく利用されている場合に自動で検出してクリエイターに通知し、コンテンツの盗用からクリエイターの作品を守ることを目的としています。

この「コンテンツ保護」ツールにより、クリエイターは自分のリールを無断転載している投稿を発見した際に、3つの対応オプションから選択できるようになります。具体的には、そのコピー投稿の表示をFacebookおよびInstagram全体でブロックして拡散を止める、コピー投稿を追跡してパフォーマンス(閲覧数など)を観察し、さらに自分の作品へのクレジット(出典表示リンク)を付与してもらう、あるいはクレームを放棄してそのコピー投稿の公開を許容する、といった選択肢です。クリエイターは状況に応じてこれらの措置を取ることで、自身のコンテンツの権利を守りつつ、必要に応じてオーディエンスの拡大も図ることができます。

  • FacebookとInstagram上でリール動画の無断転載を自動検出し、クリエイターに通知
  • 検出後、「ブロック」「追跡(クレジット付与)」「許容」の3通りの対処から選択可能
  • Instagram上の盗用コンテンツも保護対象だが、元のリールはFacebookに投稿しておく必要あり
  • 当初はFacebook収益化プログラム参加クリエイターおよびRights Manager利用者に限定提供(その他のユーザーも申請可能)
  • ツールはモバイル版で提供開始(プロフェッショナルダッシュボード経由)、将来的にPC版にも対応テスト中

背景:急増するリール盗用とクリエイター保護の必要性

今回Metaがこのようなツールを導入した背景には、近年のショート動画ブームに伴うコンテンツ盗用問題の深刻化があります。Instagramの「リール(Reels)」やTikTok、YouTubeのショート動画といった短尺動画コンテンツが爆発的に普及する中で、人気クリエイターの投稿を第三者が無断転載し、自分の投稿として拡散するケースが後を絶ちません。オリジナルの制作者よりも盗用した投稿の方が再生数を稼いでしまうような事態も発生し、クリエイターにとっては深刻な悩みとなっていました。

例えば、あるダンス動画がヒットして何百万回も再生されるブームになったとします。しかし実際に再生数を稼いだのはオリジナル投稿者ではなく、その動画を盗んで再投稿した他人のアカウントでした。このように、本来評価されるべきクリエイターが報われず、コピーした側が利益を得てしまう不公平な現象が起きていたのです。

実際、Meta社も今年に入り大規模な「コピーコンテンツ」対策に乗り出しています。同社は2025年7月時点で、偽のコンテンツでファンを集めるなりすましアカウント約1000万件を削除し、スパム行為・偽のエンゲージメントに関与した約50万件のアカウントに措置を講じたと発表しました。これは、人気クリエイターやブランドになりすましてフォロワーを不正に集めたり、他人の投稿を使い回して不正にエンゲージメントを稼ぐ「コピーキャット(模倣犯)」問題がいかに広がっているかを示しています。こうした中、オリジナルのクリエイターがコピーコンテンツに埋もれてしまわないよう支援することが急務となっていました。

従来、一般のクリエイターが自分のコンテンツの盗用に気付いた場合、手動で通報したり、著作権侵害としてDMCA削除申請を行う必要があり、大きな労力がかかっていました。またMetaには「Rights Manager(ライツマネージャー)」という著作権管理ツールが以前から存在しましたが、これは主に音楽レーベルや放送局など大規模権利者向けのもので、一般の個人クリエイターにはハードルが高いものでした。しかし今回導入された「Facebookコンテンツ保護」ツールにより、より幅広いクリエイターが手軽に自分のコンテンツを守る手段を得たことになります。まさに「クリエイターにとってコンテンツ泥棒に対抗する新たな武器」と言えるでしょう。

「Facebookコンテンツ保護」ツールの仕組み

コンテンツ自動検出と「一致コンテンツ」一覧

このツールは、クリエイターのオリジナルリールと他ユーザーの投稿動画を常時スキャンし、一致するコンテンツを自動的に検出します。もし他人による無断転載が見つかるとクリエイターに通知が届き、専用ダッシュボードの「一致コンテンツ (Matches)」画面でその一覧を確認できます。各マッチ(コピー投稿)には、オリジナル動画とのコンテンツ一致率パーセンテージ表示され、さらにその投稿の再生回数(閲覧数)や投稿者のフォロワー数収益化ステータス(広告付与の有無)など詳細データも表示されます。このマッチングにはMeta社のRights Managerで用いられているものと同じマッチング技術(いわば動画の指紋照合技術)が活用されており、YouTubeのContent IDと類似の仕組みと捉えると分かりやすいでしょう。クリエイターはこの一覧から各コピー投稿に対し、次で述べるアクションを選択できます。

選択可能な3つの対処オプション

前述の通り、検出されたコピー投稿に対してクリエイターが選べる対応は以下の3種類です:

  • ブロック: コピーコンテンツの表示をFacebookとInstagram上でブロックします。対象となるリール動画は両プラットフォームで視聴不可となり拡散が止まります。ただしその投稿者のアカウント自体に罰則が科されるわけではありません(後述参照)。
  • 追跡(クレジット付与): コピーコンテンツを削除せず公開を維持したまま、オリジナルの投稿者が閲覧データを追跡できる状態にします。さらにそのリール動画には「オリジナル」ラベルが表示され、元のクリエイターのプロフィールやページ、またはオリジナルのリール投稿へのリンクが付与されます。これにより閲覧者は誰が本来の制作者かを認識でき、クリエイターへの還元(プロファイル流入やフォロワー増加)につながります。
  • 許容(クレーム放棄): コピーコンテンツに対して権利主張を行わず、そのまま公開を許容します。何も措置を取らない選択ですが、自分の戦略上あえて放置したい場合に選べます。

「ブロック」を選択した場合、そのリールの拡散は停止しますが、転載を行ったアカウントに対してMetaがペナルティを与えることは現時点ではありません。これは、本システムが特定アカウントを嫌がらせ目的で標的にされる悪用リスクを避ける狙いがあると考えられます。一方で、もしクリエイター側がこのシステムを乱用した場合(例えば根拠のない虚偽の申告を繰り返す等)、自らのアカウントに利用制限がかかったり、当該ツールの利用資格を失う可能性もあるとされています。

許可リスト機能による柔軟な管理

さらに、本ツールでは「許可リスト (Allow List)」機能によって、クリエイター自身が特定のアカウントを登録し「この相手には自分のコンテンツの利用を許可する」ことが可能です。例えば、あるクリエイターが別の共同制作者やパートナー企業とコラボしてコンテンツを制作し、お互いのSNSでシェアし合う場合、その相手を許可リストに追加しておけば、そのアカウントによるリール転載は自動検出から除外されます。これにより、正当なコラボレーションによる二次利用コンテンツが誤って「盗用」としてフラグされてしまうのを防げるのです。許可リストへの追加はプロフェッショナルダッシュボード上で行え、登録済みの相手一覧を確認・削除することもできます(上図は許可リスト管理画面の例)。この機能により、クリエイターはシステムがコピーコンテンツをどこまで検出・ブロックすべきかを細かくコントロールできるようになっています。

デフォルト設定と異議申し立ての仕組み

新しいコンテンツ保護システムでは、コピーコンテンツが検出された際の初期設定 (デフォルト) は「追跡」になっています。つまり、何も操作しなければ、発見されたコピー投稿は削除されずそのまま公開継続となり、オリジナルのクリエイターが追跡・クレジット付与によって様子を見る状態が基本となります。Meta社としても、いきなりコンテンツを強制削除するのではなく、まずはクレジット付与による恩恵や拡散の勢いを活かしつつ、クリエイターに判断を委ねる意図があると考えられます。実際、コピーコンテンツの追跡がデフォルト設定となっている点は、プラットフォーム上でのコンテンツ循環を維持しつつ原作者にもしっかり利益をもたらそうというMetaの姿勢を表しているでしょう。

また、システム上で他人のオリジナル動画をあたかも自分のものとして保護しようとする悪質な試みが発生した場合に備え、クリエイターが異議申し立てを行う手段も用意されています。もし自分のコンテンツが別の誰かに「オリジナル作品だ」と主張されブロックされてしまった場合、正当な作者であるクリエイターは著作権侵害の申立て(削除要請)を公式のIPレポート窓口から提出することで、その不当な保護要求を差し止めることが可能です。さらに、システムが見落としたコピーコンテンツを発見した場合には、「特定の一致が見つかりませんか?」(Can’t find a specific match?)というメニューから手動で報告することもできます。このように、多角的な仕組みでコンテンツ権利の保護精度を高めつつ、公平性にも配慮した設計となっています。

提供対象者と利用方法

この新しいコンテンツ保護ツールは、まずは限定されたクリエイターから提供が開始されています。Meta社によれば、Facebook上で収益化プログラム (Facebook Content Monetization) に参加しており、かつコンテンツの健全性やオリジナリティに関する強化基準を満たすクリエイターには本機能が自動的に付与されます。また、既にMetaのRights Managerツールを利用しているクリエイターについても、順次この新しい保護機能へのアクセス権が与えられています。自分が本ツールを利用できるかどうかは、Facebookアプリ内のフィード通知やプロフェッショナルダッシュボード、プロフィール画面上で案内が表示されることで確認可能です。ダッシュボードのメニューに「コンテンツ保護」が現れていれば利用権が付与されています。また、現時点で対象外のクリエイターでもFacebookの公式サイトを通じて利用申請を行うことが可能です。

なお、本機能はモバイル版のFacebookアプリ上で提供されており、スマートフォンからプロフェッショナルダッシュボード経由で操作します。Metaによれば今後デスクトップ版ダッシュボードへの実装もテスト中とのことです。現時点ではスマートフォンでの機能利用が前提となりますが、多くのクリエイターはモバイル中心で活動しているため、まずはモバイル優先で展開された形です。今後フィードバックを踏まえ、順次対象クリエイターの拡大や機能改善も図られていくと見られます。

クリエイターにとってのメリット

今回のコンテンツ保護機能は、何より個人クリエイターにとって大きな安心材料となるでしょう。自分の頑張って作った動画が他人に勝手にコピーされ、そちらばかりが注目を集めてしまう――そんな理不尽な状況を防ぎ、オリジナル制作者が正当に評価される環境づくりに寄与します。実際、「コピーコンテンツにオリジナルが埋もれてしまう」問題に対処することこそMetaが今回の施策を講じた目的であり、クリエイターにとっては待望の仕組みといえます。

特に「追跡(クレジット付与)」オプションによって、仮に他人の投稿経由で自分のコンテンツが拡散してしまった場合でも、「オリジナル」ラベルとリンクが付くことで閲覧者を自分の元投稿へ誘導できます。言い換えれば、他人による転載が単なる盗用で終わらず、自身のプロモーション機会に転化できるのです。従来は盗用を見つけ次第削除申請するしかなく、拡散した再生回数は戻ってきませんでした。しかし本ツールを使えば、状況に応じてあえてコピー投稿をブロックせず泳がせることで、逆に自分の知名度向上に利用するという選択肢も取れます。権利保護とプロモーションのバランスをクリエイター自ら制御できる点は、大きな利点です。

無論、明らかに悪質な盗用やブランド毀損につながるような転載であれば、迷わずブロックすることで速やかに被害を食い止めることができます。重要なのは、最終的な判断権がクリエイター自身の手に委ねられていることです。この仕組みにより、クリエイターはこれまで以上に自らのコンテンツの流通状況を把握・管理しやすくなります。煩雑な手作業を減らし創作に集中できるだけでなく、自身の作品の価値をコントロールする主導権を取り戻すことにつながるでしょう。

ブランドやマーケターにとっての意義

このコンテンツ保護ツールは、ブランドやマーケティング担当者にとっても無視できない変化です。まず、自社やクライアント企業が制作したオリジナル動画コンテンツ(商品紹介やキャンペーン動画など)が、第三者によって無断で転載された場合のブランド毀損リスクを低減できます。従来、ブランド動画が勝手に共有されても発見と対応には時間がかかり、その間に誤情報や不本意な文脈で拡散してしまう恐れがありました。しかし本ツールにより、ブランド側は自らのコンテンツ流通をよりリアルタイムに監視し、必要なら即座に露出を止めることが可能になります。例えば、公式プロモーション動画を装って他者が偽のキャンペーンを広めようとした場合でも、早期に検知してブロックできるため、ブランドイメージの保護顧客の誤認防止に役立つでしょう。

また、正規のコンテンツ共有においても、本機能を活用することでブランドとクリエイターの協業を円滑に管理できます。例えば企業がインフルエンサーと提携して動画を制作し、ブランド公式アカウントとクリエイター個人アカウントの双方で同じ動画を投稿するようなケースでは、事前にお互いを許可リストに登録しておくことで双方の投稿がブロックされる事態を避けることができます。これは、UGCキャンペーン(ユーザー生成コンテンツ)やリミックス企画など、複数の人が同じ素材を投稿するマーケティング施策において重要なポイントです。新ツールの存在を踏まえ、今後はコンテンツ共有の際に「お互いを許可リストに入れる」ことが業界の新たな標準プロセスになるかもしれません。

さらに、この変化はソーシャルメディア運用全般にも影響を及ぼします。これまでInstagram中心に展開してきたブランドも、コンテンツ保護の観点からFacebookへのクロス投稿を検討する価値が出てきました。前述の通り本ツールで保護するためには元の投稿がFacebook上に存在する必要があるため、仮に主戦場がInstagramであってもFacebookへの同時投稿(あるいはInstagramからのシェア)をしておけば、将来的にコピーコンテンツが現れた際に備えることができます。Metaが本機能を通じてFacebookへの投稿を促そうとしているのは明らかであり、マーケターとしても両プラットフォームをまたいだ視点でコンテンツ戦略を立てる重要性が増してきたと言えるでしょう。

なお、本ツールの登場は、個人クリエイター向けの権利保護が本格的に整備され始めた画期的な例と言えます。従来、YouTubeのContent IDなど大手権利者のみが利用できる自動コンテンツ検出システムは存在しましたが、SNSプラットフォーム上で一般のクリエイターがこうした高度な権利保護機能を手にするのは初めてに近い取り組みです。とはいえ、本ツールはあくまでMeta社のプラットフォーム内での保護機能である点には注意が必要です。他のSNS(例えばTikTokやYouTubeなど)上で発生するコンテンツ盗用には直接対応できません。とはいえ、FacebookとInstagramという巨大プラットフォームでこうした保護策が導入される意義は大きく、業界全体でコンテンツ権利への意識が高まる契機となる可能性があります。マーケターにとっては、自社コンテンツの権利管理を見直す良い機会であり、将来的には他プラットフォームにも類似のクリエイター保護機能が広がっていくことも期待されます。