イントロダクション
デジタルマーケティング担当者として、日々の業務に追われながらも、常に新しいトレンドをキャッチアップし続けることは、簡単なことではありません。「業務範囲が広すぎる」「トレンドの変化が激しい」「正解がない中での意思決定が続く」…。こうした悩みを抱えながらも、自らの施策でビジネスを動かし、成果が数字として明確に見えることに、大きなやりがいを感じている方も多いのではないでしょうか。
今、そんな多忙なマーケターの皆さんが、「次の一手」として熱い視線を送っている領域があります。それが、この記事のテーマである「CTV(コネクテッドTV)広告」と「リテールメディア」です。
なぜ、この2つがこれほどまでに注目されているのでしょうか?
その答えは、消費者の行動が大きく変化していること、そして、広告業界全体が「信頼できるデータ」の活用方法を模索しているという、大きな環境変化の中にあります。
この記事は、単なるトレンドの紹介に留まりません。デジタルマーケティングの実務に携わるあなたが、この二大トレンドを正しく理解し、自社の戦略にどう組み込んでいけるかを具体的にイメージできるように構成されています。
本記事では、以下の点を丁寧に解説していきます。
- それぞれの基本的な「仕組み」と「利点」
- 2つのトレンドを「組み合わせて」使う、一歩進んだ応用方法
- 明日から検討できる「具体的な始め方」のステップ
- この先、市場がどうなっていくかという「未来展望」
読み終える頃には、CTV広告とリテールメディアが、あなたのマーケティング課題を解決するための強力な選択肢であることが、きっとお分かりいただけるはずです。
概要
二つのトレンドを深く理解するために、まずはそれぞれの定義と基本的な仕組みを整理しましょう。
CTV(コネクテッドTV)広告とは?
CTV(コネクテッドTV)広告とは、その名の通り「インターネットに接続されたテレビデバイス」で配信される広告のことです。
具体的には、以下のような環境で目にする広告を指します。
- スマートTV(テレビ自体がインターネットに接続されている)
- ストリーミングデバイス(Amazon Fire TV, Google Chromecast, Apple TVなど)
- ゲーム機(PlayStation, Xboxなど)
CTV広告の最大の特色は、従来のテレビCMとデジタル広告の「いいとこ取り」をしている点にあります。
テレビCMの強み:
リビングの「大画面」で、高画質・高音質で視聴されるため、ブランドの訴求力や信頼性が高い。
+
デジタル広告の強み:
年齢・性別・地域・興味関心・視聴履歴などに基づいた「精緻なターゲティング」や、「広告の投資対効果(ROI)」をデータで明確に把握できる。
近年、消費者の視聴スタイルは多様化し、地上波のリアルタイム視聴だけでなく、TVerやABEMA、YouTubeといった配信サービスで動画コンテンツを楽しむ時間が増えています。CTV広告は、こうした従来のテレビCMだけではリーチしにくくなった層へ、テレビというデバイスの持つインパクトはそのままに、効率的にアプローチできる手法として注目を集めているのです。
リテールメディアとは?
リテールメディアとは、小売事業者(リテール)が、自社で保有する資産を「広告媒体(メディア)」として、外部の企業(主にメーカー)に提供する仕組みのことです。
小売事業者の「資産」とは、具体的に以下のものを指します。
- オンライン: ECサイト、公式アプリ、SNSアカウントなど
- オフライン: 実店舗内のデジタルサイネージ、棚前のPOP、レジ画面など
しかし、リテールメディアの真の価値は、単なる「広告枠」にあるのではありません。その核心は、小売事業者が保有する、信頼性の高い「ファーストパーティデータ(顧客の一次情報)」、特に「誰が・いつ・何を買ったか」という「購買データ」を活用できる点にあります。
この仕組みは、広告主(メーカー)と小売事業者の双方に新しい価値をもたらします。
- 小売事業者にとって:
従来の商品販売による収益に加え、「広告プラットフォーム」として機能することで、メーカーから広告費を得るという「新たな収益源」になります。 - 広告主(メーカー)にとって:
自社では直接得られない「顧客の購買データ」に基づき、購買意欲が極めて高い顧客層に、まさに「購買の瞬間」に近い場所(ECサイトや実店舗)で広告を届けられる、高精度な広告プラットフォームとなります。
共通する「強み」の本質
ここで、2つのトレンドに共通する重要な点が見えてきます。それは、どちらも「質の高いファーストパーティデータ」を基盤にしていることです。
CTV広告は、プラットフォームが持つ「視聴者データ(何を見たか、興味は何か)」を活用します。リテールメディアは、小売が持つ「購買データ(何を買ったか)」を活用します。
広告業界が、従来のデータ活用方法からの転換を迫られる中で、こうした信頼性の高い「ファーストパーティデータ」を持つプラットフォームこそが、次の時代のアドテク市場を牽引する力を持っているのです。
利点
では、マーケティング担当者であるあなたが、これらの新しい手法を導入することで、具体的にどのようなメリットを得られるのでしょうか。
CTV広告がもたらす3つの価値
CTV広告は、従来のテレビCMやWeb動画広告が抱えていた課題を解決し、マーケターに3つの具体的な価値を提供します。
- 1. 質の高い「視聴」によるブランド訴求
CTV広告は、家庭のリビングにあるテレビの大画面で、高画質・高音質で視聴されることが多く、PCやスマートフォンよりも強い印象を与えます。また、TVerなどのプラットフォームでは広告がスキップ不可の場合も多く、視聴完了率が非常に高い傾向にあります。信頼できるテレビ番組のコンテンツ内で配信されるため、ブランドイメージを守りながら(ブランドセーフティ)メッセージを最後まで届けやすいのが大きな強みです。 - 2. デジタルならではの「ターゲティング精度」
従来のテレビCMでは難しかった、詳細なターゲティングが可能です。年齢、性別、地域といった基本的なデモグラフィック情報に加え、視聴履歴や興味関心など、プラットフォームが持つデータを活用して、「本当に届けたい層」だけに絞って広告を配信できます。これにより、広告費の無駄を抑え、効率的なリーチが期待できます。 - 3. 明確な「効果測定」とROIの把握
「テレビCMは効果が分かりにくい」というのは、多くのマーケターが抱えてきた悩みでした。CTV広告は、この点をデジタルで解決します。広告が何回表示されたか(インプレッション)、何回最後まで視聴されたか(視聴完了数)はもちろん、広告経由でウェブサイトに何人訪問したか、そして最終的にどれだけコンバージョン(購入や申込み)に至ったかまで、多角的な指標で成果を測定できます。これにより、広告の投資対効果(ROI)を明確に把握し、データに基づいた改善活動(PDCA)を回すことが可能になります。
リテールメディアがもたらす「三方良し」の価値
リテールメディアは、関係するプレイヤーすべてにメリットをもたらす「三方良し」のビジネスモデルとして注目されています。
【1】広告主(メーカー)のメリット
- 高精度なターゲティング: 最大のメリットは、小売の「購買データ」を使える点です。例えば、「過去に競合A商品を買った人」「自社B商品と関連商品Cを一緒に買う人」といった、購買行動に基づいた精度の高いターゲティングが実現できます。
- 購買に近い接点での訴求: ECサイトやアプリ上、あるいは実店舗の棚前という、「買う」という意思決定の直前にいる顧客に直接アプローチできるため、広告が実際の売上に結びつきやすくなります。
- 自社データの補完: 自社でECサイトを持たないメーカーにとって、自社の商品が「誰に」「いつ」「どこで」買われているかという貴重な顧客データを、小売の力を借りて活用できるまたとない機会です。
【2】小売事業者のメリット
- 新たな収益源の確保: メーカーに広告枠やデータソリューションを販売することで、従来の商品売上に加わる「第3の収益源」を確立できます。
- メーカーとの関係強化: データを活用した効果的な共同販促を行うことで、メーカーからの協賛を拡大し、自社の売上向上にもつなげることができます。
【3】消費者のメリット
- 快適な購買体験: 自分の興味や過去の購買履歴に基づいた、関連性の高い広告やお得な情報(クーポンなど)が届くようになります。
- ノイズの低減: 自分とは無関係な広告が減ることで、不要な情報をノイズと感じることがなくなり、より快適にショッピングを楽しむことができます。
ひと目でわかる!CTV広告とリテールメディアの強み
| 比較項目 | CTV広告 | リテールメディア |
|---|---|---|
| 主な目的 | ブランディング、認知拡大、新規リーチ | 販売促進、コンバージョン、顧客の深掘り |
| 主な強み | 大画面での高い訴求力、リッチな表現、視聴完了率の高さ | 「購買データ」に基づくターゲティング精度、購買接点での訴求 |
| 主な指標 | 視聴完了率、リーチ数、サイト誘導数、認知リフト | 売上リフト、ROAS(広告費用対効果)、カート追加率 |
| 広告接触場所 | 自宅のリビング(テレビ画面) | ECサイト、アプリ、実店舗(購買接点) |
この表から分かるように、CTV広告は主に「認知・興味(トップ・オブ・ファネル)」に、リテールメディアは主に「比較検討・購買(ボトム・オブ・ファネル)」に強いという特徴があります。これこそが、次のセクションで解説する「応用方法」の鍵となります。
応用方法
CTV広告とリテールメディアは、それぞれ個別でも強力なソリューションですが、その真価は「2つのトレンドを組み合わせる」ことで発揮されます。
この応用こそが、アドテク市場の最前線であり、多くのマーケターが実現を夢見てきた「ブランド広告と実売上の完全な連動」を可能にする鍵となります。
🔗 応用例1: 「リテールデータ」で「CTV広告」を配信する
これは、最も強力で分かりやすい連携方法です。
仕組み:
リテールメディアが持つ「購買データ」(例:特定の商品Aを買った人、競合B商品を買った人)を、CTV広告の配信プラットフォームと連携させます。
【具体例】
ある食品メーカーが、新商品のパスタソースを発売したとします。
- 提携するスーパーの「リテールメディア」の購買データから、「過去3ヶ月以内に競合他社のパスタソースを買った人」のグループ(オーディエンス)を作成します。
- このオーディエンスデータと「CTV広告」プラットフォームを連携させます。
- そのグループに属する人たちが、自宅でCTV(TVerやYouTubeなど)を視聴した際に、新商品のパスタソースのCMを配信します。
価値:
「なんとなくパスタに興味がありそうな人」ではなく、「(競合品であれ)直近でパスタソースを確実にお金を出して買った人」という、極めて購買意欲の高い層に対し、テレビの大画面で新商品の魅力を強力に訴求できます。これは、従来の広告手法では不可能だったレベルのターゲティング精度です。
応用例2: 安全なデータ連携の鍵「データクリーンルーム (DCR)」
「リテールデータとCTVデータを連携させる」と聞くと、「でも、個人情報や購買データのような機密性の高いデータを、どうやって安全に受け渡しするの?」という疑問が浮かぶはずです。
その通りで、小売事業者もCTVプラットフォームも、互いの生データをそのまま共有(コピーして渡す)ことは、プライバシー保護の観点から行いません。
この課題を解決する技術が「データクリーンルーム(Data Clean Room)」です。
仕組み(簡単な比喩):
DCRを「プライバシーが守られた、特殊なデータ分析室」だとイメージしてください。
- 小売事業者(A社)が、自社の購買データを「分析室」に持ち込みます。
- CTVプラットフォーム(B社)も、自社の視聴データを「分析室」に持ち込みます。
- 両社とも、「分析室」の中にデータは持ち込めますが、相手の生データを見ることも、持ち出すこともできません。
- 「分析室」の中だけで、匿名化されたデータを照合・分析します。
- 両社が持ち出せるのは、生データではなく、「A社の購買者のうち、B社のCMを見た人はX%いた」といった、個人が特定できない「統計・分析結果」だけです。
DCRは、互いの大切なデータを外部に出すことなく、プライバシーを厳格に保護したまま、安全にデータ連携と分析を可能にするための「中立的な技術空間」なのです。
応用例3: 真の売上貢献を測る「クローズドループ測定 (CLM)」
この連携(CTV × リテールデータ)とDCRの技術が揃うことで、マーケティングの「究極の目標」とも言える測定が可能になります。それが「クローズドループ測定(Closed-Loop Measurement: CLM)」です。
「ループを閉じる」とは、文字通り、「広告接触(きっかけ)」から「購買(結果)」までの一連の流れを、IDベースで途切れなく追跡し、効果を証明することを意味します。
従来のテレビCMが長年抱えていた最大の課題は、「CMが本当に売上に繋がったのか、分からない」という点でした。視聴率や認知度は分かっても、そのCMを見た人が、後日スーパーで本当に商品を買ったかは証明できなかったのです。
CLMは、この「ブラックボックス」を可視化します。
CLMが実現する4つのステップ
STEP 1: 広告への接触(Ad Exposure)
ある顧客が、自宅のCTVであなたの新商品のCM(広告A)を見ます。この「広告接触データ」が記録されます。
STEP 2: 購買行動(Purchase)
その顧客が、3日後に近所のスーパー(リテール)を訪れ、会員カードを提示して、その新商品(商品A)を実際に購入します。この「購買データ」が記録されます。
STEP 3: データの照合(Data Matching)
データクリーンルーム(DCR)内で、広告プラットフォームが持つ「広告接触データ」と、小売が持つ「購買データ」が、「共通の顧客ID」をキーとして照合されます。「広告Aを見たID(XXXXX)の人が、商品Aを購入した」という事実がここで結びつきます。
STEP 4: 分析とレポート(Analysis & Reporting)
「CTVで広告Aを見た人は、見なかった人に比べて、商品Aの購入率がX%高かった」という、広告の「純粋な売上貢献度」が、疑いのないデータとして証明されます。
これは、マーケターにとって革命的なことです。広告投資が「コスト」ではなく、「どれだけの売上を生み出すドライバーであるか」を、データに基づいて明確に証明できる強力な武器を手に入れることを意味します。
導入方法
「仕組みや応用は分かったけれど、具体的に何から始めればいいのか?」
ここでは、広告主(メーカー)の視点で、それぞれの導入に向けた実践的なステップをご紹介します。
【広告主向け】リテールメディアの始め方
リテールメディアへの出稿を成功させるためには、事前の戦略が重要です。以下の5つのステップで進めるのが一般的です。
- STEP 1: これまでの施策と課題を整理する
まずは現状把握から。従来の店頭販促(POPやサンプリング)や、オンライン施策(ECサイトへの誘導など)で、何がうまくいき、何が課題だったのかを明確にします。 - STEP 2: 出稿する媒体(RMN)を選定する
自社の商品カテゴリーやターゲット層と相性が良いリテールメディアを選びます。Amazonや楽天のような巨大プラットフォームか、あるいは特定のスーパーやドラッグストアチェーンのRMN(リテールメディアネットワーク)か、戦略に応じて選定します。 - STEP 3: 配信対象と配信方法を決める
「誰に」広告を出すかを決めます。例えば、「自社の既存顧客(リピート購入促進)」か、「競合商品の購入者(ブランドスイッチ狙い)」か、「関連商品の購入者(ついで買い促進)」か、などです。 - STEP 4: 配信内容やタイミングを設計する
ターゲティングに合わせて、最適な広告クリエイティブや、クーポンなどのインセンティブを設計します。実店舗のデジタルサイネージ(インストアメディア)と連動させるなど、オンラインとオフラインを組み合わせた企画も有効です。 - STEP 5: 社内を巻き込む(調整する)
リテールメディアは、マーケティング部門だけでなく、営業部門(小売との窓口)とも密接に関連します。予算や役割分担について、事前に社内で連携を取ることが、施策をスムーズに進める上で非常に重要です。
実践例:Amazon広告
Amazonは、世界最大級のリテールメディアネットワーク(RMN)の代表例です。Amazonに出品している(または卸している)場合、すぐにでも始められる広告メニューが揃っています。
主な広告の種類:
- スポンサープロダクト広告:
Amazon内の「検索結果」や「商品詳細ページ」に表示されます。購買意欲が最も高いキーワードで検索している顧客に直接アプローチできる、費用対効果の高い広告です。 - スポンサーブランド広告:
検索結果の上部に、自社のブランドロゴや複数の商品をまとめて表示できます。ブランドの認知度向上と、カテゴリ内でのシェア獲得に有効です。 - スポンサーディスプレイ広告:
Amazonのサイト内だけでなく、Amazon外のウェブサイトやアプリにも広告を配信できます。特定の商品を見た人へのリターゲティングや、興味関心に基づくターゲティングが可能です。
始め方:
出品者用の「セラーセントラル」またはベンダー用の「ベンダーセントラル」のアカウントから、広告キャンペーンマネージャーにアクセスし、キャンペーンを作成するだけですぐに開始できます。
CTV広告の始め方
CTV広告の導入も、基本的な流れはデジタル広告のプランニングと似ています。
- STEP 1: 戦略と目的を定義する
まず、CTV広告で何を達成したいかを決めます。新商品の「認知度を飛躍的に高めたい」のか、それとも特定の層にリーチして「ウェブサイトへの訪問を増やしたい」のか。目的によって、選ぶべき媒体や指標が異なります。 - STEP 2: 媒体(プラットフォーム)を選定する
TVer、ABEMA、YouTube(テレビでの視聴)、あるいは特定の放送局が提供するプラットフォームなど、自社のターゲット層が最も多く視聴している媒体を選びます。 - STEP 3: ターゲティングを設計する
媒体の提供するターゲティングメニュー(年齢・性別・地域・興味関心・視聴番組カテゴリなど)を使い、広告を届けたい層を具体的に設計します。 - STEP 4: クリエイティブ(動画素材)を準備する
テレビの大画面で視聴されることを意識した、高品質な動画クリエイティブを準備します。既存のテレビCM素材を活用できる場合も多いですが、媒体の規格に合わせる必要があります。 - STEP 5: 効果測定と改善を行う
配信が始まったら、管理画面で成果(視聴完了率、クリック数、サイト誘導数など)をリアルタイムで確認し、必要に応じてターゲティングやクリエイティブの改善を行います。
実践例:TVer広告
TVer(ティーバー)は、民放公式テレビ配信サービスとして、信頼性の高いコンテンツ(地上波の見逃し配信)を提供しており、代表的なCTV広告のプラットフォームの一つです。
TVer広告の特徴:
- 高い視聴完了率とブランドセーフティ:
テレビ番組という質の高いコンテンツ内で、広告がスキップされずに最後まで視聴される(完全視聴率が高い)傾向があります。安心してブランド広告を出稿できる環境です。 - 広告枠の種類:
番組の再生前(プレロール)、本編の途中(ミッドロール)、再生後(エンドロール)といった広告枠が選べます。 - 課金方式:
広告が1,000回表示されるごとにかかるCPM(インプレッション課金)や、広告が最後まで視聴された場合にかかるCPCV(視聴完了課金)など、目的に応じた課金方式が用意されています。 - 高精度なターゲティング:
TVerの視聴者データに基づき、年齢、性別、地域や興味関心などで詳細なターゲティングが可能です。
導入の「手触り感」の違い
ここで、マーケターとして知っておきたい重要な点があります。この2つの「実践例」を比べると、リテールメディア(Amazon広告)は、キーワード入札やROASの最適化など、従来の「運用型パフォーマンス広告」(検索広告やディスプレイ広告)に非常に近い手触り感があります。
一方で、CTV広告(TVer広告)は、視聴完了率やブランドリフト、クリエイティブの質などが重視され、従来の「ブランド広告」(テレビCM)の文脈に近い手触り感があります。
自社のチームがどちらのスキルセット(運用分析力か、ブランド構築力か)に強みがあるかを考えながら、導入の第一歩を踏み出すプラットフォームを選ぶのも、一つの実践的な戦略と言えるでしょう。
未来展望
CTV広告とリテールメディアは、まだ発展途上のトレンドです。この先、この2つの領域はどのように進化していくのでしょうか。5年後の「当たり前」になっているかもしれない、いくつかの未来を予測します。
CTVの進化①:ライブ配信広告の本格化
2025年に向けての大きなアドテクのトレンドとして、「ライブ配信広告」が挙げられています。これは、スポーツの世界大会、ニュース速報、授賞式、政治討論会など、多くの人が「今、この瞬間」を同時に視聴するライブイベントの広告枠が、プログラマティック(運用型)に解放されていく流れです。
これまでは、予測不能なコマーシャル枠、同時多発的な広告リクエストによるサーバー負荷、配信の遅延(レイテンシー)といった多くの技術的課題がありました。しかし、業界全体でこれらの課題解決と標準化が進められており、今後は、最も熱量が高い「ライブの瞬間」に、ターゲティングされた広告を届けられる機会が飛躍的に増えていくでしょう。
CTVの進化②:「ショッパブルCTV」の登場
「Tコマース(Television Commerce)」とも呼ばれる、テレビが「見る」ものから「買う」ものへと進化する未来です。ショッパブルCTV(Shoppable CTV)とは、視聴から購買までをテレビ画面や関連デバイスでシームレスに完結させる、インタラクティブな広告手法です。
広告を見て「あ、これ欲しい」と感情が最高潮に達した瞬間に、視聴者を逃さず購買導線を提供します。
主な実現方法:
- QRコード方式: 画面に表示されたQRコードを、視聴者がスマートフォンでスキャンし、ECサイトの商品ページに直接アクセスする。
- リモコン操作方式: テレビのリモコンを使い、画面上の「カートに追加」や「詳細を見る」といったボタンを直接操作する。
- モバイル連携方式: リモコンで「詳細をスマホに送信」といったボタンを押すと、登録済みのスマートフォンにプッシュ通知やSMSで商品ページのリンクが直接送信される。
これが一般化すれば、CTV広告は「認知(トップファネル)」だけでなく、「購買(ボトムファネル)」までを一台で完結させる、極めて強力なマーケティングチャネルへと進化することになります。
リテールメディアの進化:乱立から「標準化」へ
現在、リテールメディア市場は、世界中で新しいRMN(リテールメディアネットワーク)が次々と立ち上がり、まさに「乱立」とも言える状態です。
広告主(マーケター)にとって、これは大きな課題を生んでいます。それは、プラットフォームごとに計測の基準や指標がバラバラで、「どのRMNが自社にとって最も効果的なのか」を正確に比較・判断できないという問題です。
この「標準化」の欠如は、市場の健全な成長を妨げる要因になりかねません。そのため、IAB(インタラクティブ広告業界団体)などの業界団体が、計測基準の統一に向けたガイドラインの作成を進めています。
今後は、市場の統廃合が進むと同時に、こうした「標準化」が整備されることで、マーケターがより安心して、効率的にリテールメディアへの投資を行える環境が整っていくと予測されます。
究極の未来:AIによる「プロアクティブな」広告最適化
そして、これらすべてのトレンドがAIと融合した先に、究極の未来像があります。それが、「プロアクティブ(能動的)」な広告最適化ループの実現です。
現在:
「クローズドループ測定(CLM)」は、主に「過去」のキャンペーン結果を分析し、人間が「次の一手」を考えるための「リアクティブ(反応的)」なものです。
未来:
CLMによって蓄積された「どのCMが、どの商品の売上に、どれだけ貢献したか」という膨大な「正解データ」を、AIが学習します。
その結果、AIが「どのテレビCMクリエイティブを、どのターゲットに、どのタイミングで配信すれば、明日の特定商品の売上を最も伸ばせるか」を予測し、人間を介さず自動でメディアバイイング(広告枠の買付)を最適化する——そんな「プロアクティブ(能動的)」な自己最適化システムが実現する可能性があります。
この未来では、マーケターの役割は、日々の入札調整やレポーティングといった「作業」から解放され、この自動化ループ全体の「戦略を設計」し、「AIの判断を監督」するという、より高度で創造的なものへと変化していくことでしょう。
まとめ
この記事では、アドテク市場を牽引する二大トレンド、「CTV広告」と「リテールメディア」について、その基本から応用、未来展望までを網羅的に解説してきました。
CTV広告は、テレビの大画面という「インパクト」と、デジタルならではの「高精度なターゲティング・効果測定」を両立させる、ブランディングの新しい形です。
リテールメディアは、小売が持つ「購買データ」という最強の資産を活用し、「購買の瞬間」に最も近い場所で顧客にアプローチする、販売促進の切り札です。
そして、本記事で最もお伝えしたかったポイントは、これらが独立したものではなく、「データクリーンルーム(DCR)」という安全な技術を介して連携し、「クローズドループ測定(CLM)」によって、ついに「ブランド広告の売上貢献」というマーケター長年の夢を可視化する可能性を秘めている、という点です。
マーケティング担当者として、この大きな変化の波を前に、今すべきことは何でしょうか。
今日からできる、3つのアクションアイテム
- まずは「知る」ことから始める:
「難しそうだ」と傍観するのではなく、まずは基本的な知識を身につけることが第一歩です。この記事がその一助となれば幸いです。 - 自社の「ファーストパーティデータ」を棚卸しする:
自社では、どのような顧客データを保有しているでしょうか? また、連携すべきパートナー(小売など)は、どのようなデータを持っているでしょうか? 自社の資産を再確認することは、新しい戦略の土台となります。 - 小さな一歩を踏み出す:
いきなり大きな戦略を描く必要はありません。例えば、まずは「Amazon広告のスポンサープロダクト広告を少額から試してみる」、あるいは「TVer広告で、特定のターゲット層に絞ったキャンペーンを一度実施してみる」など、小さなテストから始めることで、実践的な知見が溜まっていきます。
これらのトレンドは、業務範囲が広く大変なマーケティング担当者の皆さんにとって、自らの施策の「成果が数字として明確に見える」、非常にやりがいのある新しい領域です。ぜひこの変化を楽しみながら、自社のビジネスを前進させる「次の一手」として、活用を検討してみてください。
FAQ
Q. CTV広告と従来のテレビCMは、どう使い分けるべきですか?
A. 敵対するものではなく、「補完関係」として考えるのが最も効果的です。
従来のテレビCMで、まずは幅広い層に一斉にリーチし(認知度のベースを作る)、CTV広告で「テレビCMが届きにくい、地上波をリアルタイム視聴しない層」や、「特定のターゲット層(例:20代女性)」に絞って、追加的に(安価に)広告を配信するといった使い分けが一般的です。両方を組み合わせることで、より効率的に、より広い層へのリーチが可能になります。
Q. リテールメディアは、自社ECサイトを持っていないメーカーには無関係ですか?
A. いいえ、むしろその逆です。リテールメディアは、自社EC(D2C)を持っていないメーカーにとってこそ、非常に大きなチャンスとなります。
なぜなら、これまでは知る術のなかった「自社の商品が、どの小売チャネル(Amazonや特定のスーパー)で、どういう人に買われているか」という「購買データ」を活用できる、またとない機会だからです。自社の商品を実際に販売してくれている小売パートナーと連携し、その売上をさらに伸ばすための広告手法が、リテールメディアなのです。
Q. 中小企業やスタートアップでも、リテールメディアやCTV広告は実施できますか?
A. 可能です。もちろん、大規模なブランドキャンペーンには相応の予算が必要ですが、スモールスタートできる道も多く用意されています。
例えば、Amazonのスポンサープロダクト広告は、クリック課金型(CPC)であり、1日の予算も細かく設定できるため、比較的少額からでも始められます。CTV広告も、プラットフォームによっては従来のテレビCMの出稿(数百万円〜)に比べて、より柔軟な予算設定(数十万円〜)が可能な場合があります。まずは自社の主要な販売チャネルやターゲット層に合わせ、無理のない範囲でテストしてみることをお勧めします。
Q. クローズドループ測定(CLM)の導入は、技術的に難しくないですか?
A. 仕組み自体は非常に高度ですが、広告主(メーカー)であるあなたが、自らこのシステムをゼロから構築する必要は必ずしもありません。
通常、CLMは、広告を出稿する先のリテールメディアやCTVプラットフォームが、「ソリューション」や「測定パッケージ」として提供しているものです。したがって、導入の第一歩は、出稿を検討している媒体の担当者に「御社の広告は、実店舗の売上データと連携した効果測定(CLM)は可能ですか?」と問い合わせてみることです。

「IMデジタルマーケティングニュース」編集者として、最新のトレンドやテクニックを分かりやすく解説しています。業界の変化に対応し、読者の成功をサポートする記事をお届けしています。
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