Z世代が変えるLinkedIn:動画広告とクリエイターエコノミーの新時代

その他広告
著者について

はじめに:LinkedInは「履歴書置き場」から「メディア」へ

LinkedInは、単なる「履歴書置き場」から、クリエイターが主役の活気あるメディアプラットフォームへと大きく変わりつつあります。これは少しずつの変化ではなく、新しい世代のキャリアに対する考え方と、LinkedInの巧みなビジネス戦略が組み合わさって起きている、大きな地殻変動です。

この記事では、この変化の裏側で何が起きているのかを解き明かし、B2Bマーケターが今すぐ取るべきアクションを提案します。

「とりあえず登録」の時代は終わった

かつてのLinkedInは、職務経歴書を置いておき、たまに知り合いと繋がるための、少し静かな場所でした。しかし、今のビジネス環境はもっとシビアです。採用システムが自動で候補者をふるいにかけたり、突然の解雇があったりする中で、ただの経歴書だけでは自分の価値を伝えきれなくなっています 。だからこそ、今のLinkedInは、自分の専門知識をリアルタイムで発信し、「この人はデキる」と思わせるためのステージに変わったのです。

この変化を動かす「3つの力」

この大きな変化は、「プロフェッショナルメディアのフライホイール(弾み車)」という考え方で説明できます。3つの力が互いに影響し合って、どんどん勢いを増しているイメージです。

  1. 燃料: Z世代を中心とした若手プロフェッショナルたちが、「もっと自分を知ってほしい」「信頼されたい」という想いから、リアルで価値のあるコンテンツをどんどん投稿しています。
  2. エンジン: LinkedInの「BrandLink」という仕組みが、質の高いコンテンツを作るクリエイターに報酬を支払い、やる気を引き出しています。
  3. 勢い: この2つの力が合わさることで、ユーザーの利用時間が増え、広告主がお金を使い、プラットフォーム全体が成長します。その結果、さらに多くのクリエイターやユーザーが集まってくる、という好循環が生まれています。

この記事では、この3つの力をデータと共に分析し、マーケターがこの新しい波にどう乗るべきかを具体的にお伝えします。

ビジネスのエンジン:クリエイターを輝かせる「BrandLink」の仕組み

「BrandLink」は、ただの広告メニューではありません。LinkedInをメディアプラットフォームへと進化させるための、非常に巧みなビジネスの仕組みです。その仕組みと狙いを詳しく見ていきましょう。

クリエイターを「主役」にする戦略

このプログラムは、もともと大手出版社向けの「Wire Programme」として始まりましたが、後に個人のクリエイターも対象に加え、「BrandLink」という名前に変わりました 。この名前の変更自体が、LinkedInの大きな戦略転換を示しています。

最初は、BloombergやWall Street Journalといった有名メディアと提携することで、プログラムの信頼性を高めました。これは、質の高いコンテンツが集まる場所を作るための、賢い戦略でした 。しかし、本当に重要なのは、その次に個人のクリエイターを仲間に入れたことです。LinkedInは、専門知識を持つ個人を、大手メディアと同じように扱うことで、「プロのクリエイター」という地位を意図的に作り出し、彼らの発信する情報には価値がある、というメッセージを世の中に発信しているのです。

これにより、ブランドは一つのプラットフォーム上で、大手メディアと個人のマイクロインフルエンサーの両方と協力できるようになりました。例えば、広い層にアプローチするためにThe Economistと提携しつつ、特定のニッチな分野で信頼を得るために、その道の専門家と手を組む、といった戦略が可能になります。

「広告」から「コンテンツの一部」へ

BrandLinkは、広告が邪魔にならないように、うまく設計されています。

  • 「招待制」という特別感: 誰でも参加できるわけではなく、「招待制」にしているのがポイントです 。これにより、プログラムの質と特別感を保ち、広告主にとっても安心できる環境を作っています。
  • 番組スポンサーという考え方: 「Shows by LinkedIn」という取り組みが、このプログラムの面白さを象徴しています。例えば、AT&Tが中小企業の経営者を応援する番組を、IBMが起業家のための番組を、SAPがAIに関する番組をそれぞれ支援しています。

これは、ただロゴが表示されるだけの広告ではありません。IBMは、単に起業家に広告を見せているのではなく、「起業」というテーマそのものを応援する存在になっています。SAPは、AIに関する議論の中心に自社ブランドを置いているのです。これは、従来の「どんな会社のどんな役職の人か」でターゲットを決める方法から、「どんな話題に関心があるか」でターゲットを決める考え方へのシフトを意味します。短期的な成果だけでなく、長期的にブランドの価値を高める、より強力なマーケティング手法と言えるでしょう。

成功を裏付ける「お金」の流れ

数字もこの勢いを裏付けています。クリエイターや出版社に支払われる金額が、この1年で3倍に増えたという事実は、非常に重要です 。これは、LinkedInが最高のコンテンツと才能を集めるために本気で投資しており、好循環の「燃料」を絶やさず供給している証拠です。

変化の主役、Z世代:彼らの「想い」がLinkedInを変える

ここでは、変化の「燃料」となっているZ世代に注目します。彼らの行動の背景にある想いが、LinkedInを最高のメディアにするための土壌を作り出しています。

Z世代の新しい仕事観

Z世代の行動は、不安定な経済、突然の解雇、そして「機械的に候補者を判断する採用システム」といった厳しい現実が、彼らの行動を形作っています。

AIが完璧な履歴書を数秒で作れてしまう今、従来の経歴書は、その人の能力を証明する手段としての価値を失いつつあります。Z世代は、このことを肌で感じています。だからこそ、彼らがLinkedInで行う日々の投稿やコメント、動画のシェアは、ごまかしのきかない「仕事の実績」そのものになります。この文脈において、LinkedInはプロとしての自分を証明する、最も信頼できる場所になりつつあります。マーケターにとっては、ユーザーがただ存在するだけでなく、自分のキャリアをかけて真剣に発信している、これ以上なくリアルで熱量の高いユーザーが集まる場所だということです。

「パーソナルブランド」は必須スキル

この考えは、Morning Consultの調査結果にも表れています。Z世代の67%が、プロとして成功するためには、強力なパーソナルブランド(個人の看板)が不可欠だと考えているのです。

これは見栄を張っているわけではなく、しっかりとしたキャリア戦略なのです。この考え方が、プラットフォーム上での行動の変化、つまり、ただ人脈を広げるだけでなく、自分の考えや専門知識を積極的に「発信する」ことへと繋がっています 。かつては就職活動の時だけ使う場所だったLinkedInが、今では「日常的なキャリア構築」のためのツールへと変わったのです 。この熱量の高い利用こそが、BrandLinkが収益化しているエンゲージメントの源泉なのです。

数字で見るLinkedInの勢い:データが語る真実

ここでは、データを見ながら、LinkedInの勢いが本物であることを確認していきましょう。以下の表は、このプラットフォームで起きていることを一つのストーリーとして理解するために非常に重要です。忙しい方でも、「なぜLinkedInが今アツいのか」が一目でわかります。

表:LinkedInの成長を示す主要データ(2025年第2四半期時点)

カテゴリー 指標 数値 / 成長率 これが意味すること 出典
収益 BrandLinkプログラムの収益 約200%増加(前の四半期と比べて) クリエイター中心の新しいモデルが広告主に大いに支持されている証拠。
クリエイター クリエイター/出版社への支払額 3倍に増加(1年間で) 報酬がしっかりしているので、質の高いコンテンツがどんどん増えている。
広告 ソフトウェア業界の広告費 20%増加 IT業界のような高価値なB2B企業が重点的に投資している。
広告 ヘルスケア・専門サービス業界の広告費 14%増加 IT業界以外にも広告主が広がり、幅広い魅力があることを証明。
ユーザー行動 動画のアップロード数(7月まで) 20%以上増加 ユーザーが動画コンテンツを積極的に作って楽しんでいる。
ユーザー行動 動画の視聴回数 36%増加(1年間で) コンテンツがユーザーの心に響き、注目度が急上昇している。
ユーザー規模 月間訪問数(2025年2月) 17.7億回 25〜34歳の働き盛り世代が中心の、巨大で活発なコミュニティ。
市場 急成長している市場 ブラジル、インド、米国 新しい市場を開拓しつつ、既存の主要な市場でも成長が続いている。

データの読み解き

この表からわかるように、動画の視聴回数が1年で36%も増え、同時にBrandLinkの収益が前の四半期から約200%も増加したことは、偶然ではありません。これらははっきりとつながっています 。人々が夢中になるコンテンツがあるからこそ、広告主は喜んでお金を払うのです。

さらに、データを見ると、米国、英国、ドイツが「最大の貢献国」でありながら、ブラジル、インド、米国が「最も急成長している市場」として挙げられています 。米国が両方のリストに入っている点は、非常に興味深い点です。これは、市場が飽和しているのではなく、プラットフォームの変革によって、最も成熟した市場でさえも新たな成長が生まれていることを示しています。これまでLinkedInを活用してきた企業にとっても、まだ掘り起こされていない新しいチャンスがたくさん眠っていることを意味します。

B2Bマーケターが今すぐやるべき4つのこと

この記事のまとめとして、これまでの分析を踏まえ、マーケティング担当者が取るべき具体的なアクションプランを提案します。

「広告枠を買う」から「コミュニティに参加する」へ

これからは、単に広告を出すだけでなく、LinkedInというコミュニティに深く入り込むことが重要です。

  • アクションプラン: 今、LinkedInにどれくらい広告費を使っていますか?そのうち、一方的な広告と、コンテンツのスポンサーやクリエイターとの協力に、それぞれいくら使っているか見直してみましょう。「Shows by LinkedIn」の事例を参考に、自社ブランドが主役になれるようなテーマを見つけ、テスト的にプログラムを始めてみましょう。

「完璧さ」より「本物っぽさ」を大切にする

Z世代が求めるのは、信頼できるリアルな情報です。作り込みすぎた企業の宣伝文句は、かえって響きません。

  • アクションプラン: 社内にいる専門家(例えば、技術者や研究者)が、LinkedIn上でクリエイターとして発信することを応援しましょう。彼らが自信を持って発信できるよう、研修の機会や時間などのサポートを提供します。彼らのリアルな言葉こそが、最高のマーケティング資産になります。LinkedInが提供するニュースレターや分析ツールなども活用して、彼らの活動を後押ししましょう。

役職だけでなく「影響力のある人」を狙う

これからは、単に「部長」や「課長」といった役職でターゲットを決めるだけでは不十分です。業界内で注目されている「発信力のある人」にアプローチすることが価値を生みます。

  • アクションプラン: ソーシャルリスニングツールなどを使い、自社の業界で影響力のあるクリエイターを見つけ、関係を築きましょう。これからのターゲティングは、従来の企業情報に加えて、誰がどんな話題で影響力を持っているかという「インフルエンサー相関図」を組み合わせて考えるべきです。

世界と業界に合わせたアプローチを

データが示すように、成長している国(ブラジル、インド)や業界(ヘルスケア、専門サービス)は様々です。画一的なアプローチではうまくいきません。

  • アクションプラン: 全世界で同じ内容のコンテンツを発信するのではなく、それぞれの市場や業界で今何が話題になっているのか、誰が影響力を持っているのかを理解するためにもっと時間を使いましょう。例えば、ブラジルのヘルスケアIT業界で注目されている専門家と協力する方が、世界中に向けた一般的なキャンペーンよりも、ずっと高い効果を生む可能性があります。

結論:未来のビジネスは、LinkedInから生まれる

最後に、この記事の要点をまとめ、B2Bブランドがこの変化に今すぐ適応すべき理由を改めて強調します。

まとめ:なぜLinkedInは成長するのか

世代の価値観の変化、プラットフォームの進化、そして巧みなビジネスモデル。この3つが組み合わさることで、B2Bマーケティングにとって、全く新しい、そして持続可能なチャンスの場が生まれています。

これからの成功のカタチ

LinkedInでの成功は、もはや「友達の数」では測れません。その人の「発言の影響力」で測られます。ブランドにとっても同じで、どれだけ多くの人に見られたかだけでなく、業界の重要な会話の中で、どれだけ信頼され、共感を得られたかが成功の鍵となります。

最後に

これだけは覚えておいてください。LinkedInをいまだに「履歴書置き場」や「広告を出す場所」としてしか見ていないB2Bブランドは、時代に取り残されてしまうでしょう。一方で、メディアクリエイターとして、対話を生み出すリーダーとして、そして新世代のプロフェッショナルのパートナーとして新しい役割を受け入れるブランドは、生き残るだけでなく、自社の業界の未来を創っていく存在になるはずです。

参考サイト

MarketingTech「LinkedIn expands video ads as Gen Z reshapes the platform