はじめに:2025年夏のデジタル広告大変革期 – 主要プラットフォームの動向と戦略的インサイト
2025年6月から7月にかけての期間は、デジタル広告業界にとって極めて重要な転換期として記録されるでしょう。この期間中、主要な広告プラットフォームは一斉に、その根幹に関わる構造的な変更や新機能の導入を発表・実施しました。これらのアップデートは、単なる機能追加にとどまらず、広告運用者の戦略思想、組織構造、さらにはマーケティング予算の配分方法にまで影響を及ぼす、パラダイムシフトの到来を告げるものです。
本レポートでは、2025年6月1日から7月18日までの期間に観測されたGoogle広告、Yahoo!広告、LINE広告、Meta広告(Facebook、Instagram)、TikTok広告、Microsoft広告の主要なアップデートを網羅的に整理し、その背景にある戦略的意図と広告主への具体的な影響を専門的見地から深く分析します。AIのさらなる進化と統合、ソーシャルメディアと検索エンジンの境界線の融解、大規模なプラットフォーム統合、そしてソーシャルコマースの新たな展開といった大きな潮流が、個々のアップデートにどのように反映されているかを解き明かしていきます。
このレポートは、日々変化する複雑なデジタル広告環境において、最前線で活躍するマーケティング専門家が、現状を正確に把握し、未来の戦略を構築するための羅針盤となることを目的としています。
Executive Summary: 主要アップデートと戦略的必須事項
この期間における最も重要な動向は、LINEとYahoo! JAPANの広告プラットフォーム統合の本格化、Metaによるソーシャルコンテンツの外部検索エンジンへの解放、そしてMicrosoft広告におけるPMax(パフォーマンス最大化)キャンペーンのオークション仕様の大幅な変更です。これらの動きは、広告運用者に以下のような即時的な戦略見直しを迫ります。
- エコシステム単位での戦略策定: LINEとYahoo!の統合により、日本市場に巨大なファーストパーティデータを持つ「ウォールドガーデン」が誕生しました。広告主は、もはや両プラットフォームを個別のチャネルとしてではなく、一つの統合されたエコシステムとして捉え、クロスプラットフォームでのデータ活用を前提とした戦略を策定する必要があります。
- 「ソーシャルSEO」という新領域への対応: Metaのアップデートにより、InstagramやFacebookの公開投稿がGoogle検索結果に表示されるようになります。これにより、ソーシャルメディアコンテンツは、エンゲージメント獲得のための一時的な資産から、長期的なオーガニック検索流入をもたらす資産へとその価値を変貌させます。SEOチームとソーシャルメディアチームの連携は、もはや選択肢ではなく必須事項となります。
- AIとの戦略的パートナーシップの深化: Microsoft広告のPMax仕様変更は、広告運用者にAIに対するより高度なコントロール権限を与えました。これは、広告運用者の役割が、単なる「運用者」からAIを導く「戦略家」へとシフトしていることを象徴しています。プラットフォームのAIに対し、より質の高いデータシグナル(正確なコンバージョンデータ、精緻なオーディエンスリスト、多様なクリエイティブアセット)を提供し、そのパフォーマンスを戦略的に誘導する能力が、今後の成果を大きく左右します。
これらの変化は、広告運用者に対して、従来のチャネルごとの縦割り思考から脱却し、より統合的かつ戦略的な視点を持つことを強く要求しています。
Table 1: 主要広告プラットフォームアップデート概要 (2025年6月1日~7月18日)
広告媒体 | アップデート内容 | 発表日/実施日 | 主要な影響と概要 |
Google広告 | June 2025 Core Update | 2025年6月30日 | 検索アルゴリズムの定例更新。低品質コンテンツの評価を下げ、ユーザー本位のコンテンツを評価する傾向を継続。 |
ローカルサービス広告のレビュー管理統合 | 2025年7月11日 | 顧客レビュー管理機能をGoogleビジネスプロフィールに完全移行し、ローカルビジネス情報の管理を一元化。 | |
Demand Genの「フォローオンビュー最適化」 | 2025年6月12日 | 広告視聴後にチャンネル内の別動画を視聴する可能性が高いユーザーへのリーチを最適化し、エンゲージメントを深化。 | |
Yahoo!広告 | ビジネスIDの統合 | 2025年6月30日 | LINEビジネスIDと統合し、「ビジネスID」へ変更。アカウント管理、認証、請求処理をLINEヤフー全体で一本化。 |
検索連動型ショッピング広告のカルーセル表示 | 2025年6月11日 | 検索結果上部に最大10件の商品をカルーセル形式で表示可能になり、Eコマースの視認性が向上。 | |
「拡張クリック単価」の提供終了 | 2025年6月30日 | 自動入札戦略への移行を促進するため、半自動型の拡張クリック単価を廃止し、手動入札へ自動移行。 | |
LINE広告 | ビジネスIDの統合 | 2025年6月30日 | Yahoo! JAPANビジネスIDと統合。クロスプラットフォームでの広告運用基盤が整備される。 |
LINEミニアプリへのYahoo!広告掲載 | 2025年7月15日 | LINEミニアプリ内でのマネタイズ手段として、Yahoo!広告ネットワーク経由の広告掲載機能を提供開始。 | |
Meta広告 | Google検索へのインデックス化 | 2025年7月10日 | FacebookおよびInstagramの公開投稿がGoogle検索結果に表示されるようになり、ソーシャルコンテンツがSEO資産となる。 |
インクリメンタルアトリビューション | 2025年6月 | 広告がなければ発生しなかったコンバージョンを特定し、広告の真の貢献度を評価・最適化する仕組みを追加。 | |
TikTok広告 | 新広告目的「Brand Consideration」 | 2025年6月3日 | 購入ファネルの中間層(検討層)をターゲットとし、エンゲージメントの高いユーザー群の育成を目的とした新機能。 |
ライブオークション機能「Countdown Bidding」 | 2025年7月7日 | ライブ配信中にリアルタイムのオークションを実施できる機能を一部セラー向けに導入し、ソーシャルコマースを強化。 | |
Microsoft広告 | PMaxのオークション仕様変更 | 2025年5月 | PMaxと標準ショッピングキャンペーンが重複する場合、PMaxの自動優先を撤廃し、広告ランクに基づくオークションに変更。 |
新カスタムレポートビルダー | 2025年6月10日 | レポート機能を刷新し、より柔軟なデータ分析と可視化が可能になるカスタムレポート作成ツールを導入。 | |
Shopify連携のグローバル展開 | 2025年6月10日 | Shopifyとの連携アプリを日本を含む複数国に拡大し、Shopify内から直接PMaxキャンペーンの作成が可能に。 |
LINEヤフーの統合本格化 – クロスプラットフォーム戦略の新時代
2025年夏、LINEヤフーは両社の法人向けサービス基盤を統合する歴史的な一歩を踏み出しました。これは単なる管理体制の変更ではなく、日本市場におけるデジタル広告の勢力図を塗り替える可能性を秘めた、戦略的な動きです。広告主は、この新しいエコシステムの本質を理解し、戦略を再構築することが急務となります。
ビジネスIDの統合完了:アカウント管理と運用の抜本的変更
2025年6月30日、これまで別々に存在していた「LINEビジネスID」と「Yahoo! JAPANビジネスID」が、LINEヤフー共通の「ビジネスID」へと正式に統合されました 。この統合により、LINEとYahoo! JAPANの法人向けサービスにおけるアカウント管理、ログイン認証、そして請求処理が一本化され、広告運用者にとっては媒体を横断したシームレスな運用環境が実現します。
この変更は、単なる利便性の向上以上の意味を持ちます。これは、LINEヤフーが提供する多様なサービス群(コミュニケーション、検索、ニュース、Eコマースなど)を一つの巨大なプラットフォームとして機能させるための基盤整備です。広告主にとっては、これまで分断されていた顧客接点を統合的に管理し、より一貫性のあるマーケティング活動を展開する道が開かれたことを意味します。一方で、新しい管理画面や権限設定への適応が求められ、特に複数のブランドやアカウントを管理する代理店にとっては、初期段階でのワークフローの見直しが必要不可欠となります。
データ連携の深化:LINEとYahoo!のオーディエンスデータを活用した新ターゲティング戦略
ID統合の最も強力な側面は、両プラットフォームが保有する膨大なオーディエンスデータの相互活用が可能になった点です 。具体的には、LINE公式アカウントやLINE広告で取得したデータ(ウェブサイト訪問者、アプリイベント、友だち/ブロックユーザーリストなど)を基に作成したオーディエンスリストを、Yahoo!ディスプレイ広告(YDA)のターゲティングに利用できるようになりました 。逆に、Yahoo! JAPANの検索履歴や閲覧履歴といった強力な意図データを活用して、LINE広告でターゲティングすることも可能です。
このデータ連携は、日本市場において他に類を見ない規模と質のファーストパーティデータプールを形成します。月間利用者数9,800万人を超えるLINEのコミュニケーションデータと、国内最大級のポータルサイトであるYahoo! JAPANの検索・行動データが組み合わさることで、広告ターゲティングの精度は飛躍的に向上します。
例えば、以下のような高度なクロスプラットフォーム戦略が実現可能になります。
- クロスプラットフォームリターゲティング: LINE公式アカウントで特定のメッセージに反応したユーザーに対し、Yahoo! JAPANの各サービス上で関連性の高いディスプレイ広告を表示する。
- 高精度なプロスペクティング: Yahoo!検索で特定の商品やサービスを検索した「顕在層」に対し、LINEのトークリスト最上部という最も視認性の高い広告枠でアプローチする。
実際に、このデータ連携を活用した先行事例では、従来のリターゲティング配信と比較してコンバージョン率が向上し、コンバージョン単価が低下したという結果が報告されています 。また、大手菓子メーカーのロッテは、Yahoo!広告のオーディエンス連携機能を活用し、特定のアニメ作品(例:「SPY×FAMILY」)に関心を持つ層をセグメント化し、LINE公式アカウントからタイアップキャンペーンのメッセージを配信することで、高いエンゲージメントを獲得することに成功しています。
広告プロダクトの変更点:検索連動型ショッピング広告のカルーセル表示と拡張クリック単価の提供終了
プラットフォーム統合と並行して、個別の広告プロダクトにも重要な変更がありました。
検索連動型ショッピング広告のカルーセル表示: 2025年6月11日より、Yahoo!検索広告のショッピング広告において、検索結果の最上部に最大10件の商品が横スクロールで表示されるカルーセル形式が導入されました 。これは、静的なリスト表示に比べ、ユーザーが複数の商品を視覚的に比較検討しやすくなるため、クリック率の向上やサイトへの流入増加が期待できるEコマース広告主にとって非常に有利なアップデートです。
「拡張クリック単価」の提供終了: 2025年6月30日をもって、検索広告の入札戦略「拡張クリック単価(eCPC)」の提供が終了しました 。6月18日以降、eCPCを利用していたキャンペーンは順次「手動入札:個別クリック単価」に自動移行されています 。LINEヤフーは、この変更の背景として自動入札技術の進歩を挙げており、「コンバージョン数の最大化」といった完全自動入札戦略がeCPCと同等以上の成果を出せると判断したためとしています。
この動きは、広告運用者に対して、手動調整の余地を残した半自動的な入札戦略から、完全にアルゴリズムに最適化を委ねるフルオートメーションへの移行を強く促すものです。広告主は、提供終了までにA/Bテストなどを活用し、自社のビジネス目標に最も合致する自動入札戦略(例:「コンバージョン単価の目標値」「広告費用対効果の目標値」)への移行を完了させることが推奨されました。
戦略的考察と推奨アクション:統合環境下での広告効果最大化への道筋
LINEヤフーの統合は、広告主にとって大きな機会と挑戦の両方をもたらします。この新しい環境で成果を最大化するためには、従来の思考様式を転換する必要があります。
まず、ID統合とデータ連携の深化は、事実上、日本市場における巨大な「ウォールドガーデン」の完成を意味します。広告主はもはやLINEとYahoo!を個別のチャネルとして最適化するのではなく、一つの連続した顧客体験を提供するエコシステムとして捉える必要があります。これにより、「LINEヤフーエコシステム内でのクロスプラットフォームデータ戦略」が新たな必須スキルとなります。具体的には、LINEで獲得した友だち(顧客接点)に対し、Yahoo!の行動データを活用してナーチャリング広告を配信したり、逆にYahoo!検索で高い購入意欲を示したユーザーをLINE広告で刈り取ったりするなど、両プラットフォームの強みを組み合わせたフルファネル戦略の設計が求められます。
次に、「拡張クリック単価」の廃止は、単なる機能終了以上の、プラットフォームからの強いメッセージと捉えるべきです。これは、「人間の手動調整よりも、プラットフォームのAIアルゴリズムの方が優れた成果を出す」という前提に、広告運用者が適応せざるを得ない状況を創出します。今後の広告運用者の役割は、入札単価を細かく調整することから、AIが最適な判断を下せるように、より質の高いデータシグナル(正確なコンバージョン計測、精緻なオーディエンスリスト、多様なクリエイティブ)をプラットフォームに提供することへとシフトしていきます。この変化は、広告運用者に求められるスキルセットの変革を促すものです。
Metaのパラダイムシフト – ソーシャルコンテンツの検索エンジン最適化(SEO)
2025年7月、Metaはデジタルマーケティングの常識を覆す、極めて重要なアップデートを発表しました。これまでプラットフォーム内に閉じていたFacebookとInstagramの公開コンテンツを、Googleをはじめとする外部検索エンジンに解放するというこの決定は、ソーシャルメディアとSEOの関係性を根本から再定義するものです。
Google検索インデックス化の衝撃:Facebook・Instagram投稿がオーガニック検索資産へ
2025年7月10日以降、FacebookおよびInstagramのビジネス(プロフェッショナル)アカウントによって公開された写真や動画は、Googleなどの検索エンジンによるクロールおよびインデックスの対象となります 。これは、ユーザーがGoogleで関連キーワードを検索した際に、Webサイトやブログ記事と並んで、Instagramのリール動画やFacebookの投稿が検索結果ページ(SERP)に直接表示される可能性があることを意味します。
この変更がもたらす影響は計り知れません。従来、ソーシャルメディアの投稿は、その寿命が短く、主にプラットフォーム内での短期的なエンゲージメント獲得を目的とした「フロー情報」と見なされてきました。しかし、このアップデートにより、それらの投稿は、長期間にわたってオーガニックな検索流入をもたらす可能性のある「ストック情報(資産)」へとその価値を大きく変貌させます 。特に、ビジュアルコンテンツが重要な役割を果たす業界(例:不動産、飲食、ファッション、旅行)や、地域密着型のビジネスにとって、これは新たなオーガニック検索の可視性を獲得するための絶好の機会となります。
コンテンツ最適化の実践ガイド:キャプション、Altテキスト、キーワード戦略の再定義
この新しい機会を最大限に活用するためには、広告主やコンテンツ制作者は、ソーシャルメディアの投稿をWebページのSEOと同様のアプローチで最適化する必要があります。これは「ソーシャルSEO」とも呼べる新しい領域の確立を意味し、以下の実践が不可欠となります。
- キーワードを意識した詳細なキャプション: 検索エンジンはテキスト情報を基にコンテンツを理解します。単に感情に訴えるだけでなく、「【横浜市・リフォーム事例】築30年のキッチンを最新のシステムキッチンに交換。#横浜リフォーム #キッチンデザイン」のように、サービス内容、地域、関連キーワードを自然に含んだ説明的なキャプションを作成することが重要です。
- 手動によるAltテキストの設定: Altテキスト(代替テキスト)は、本来、視覚障害を持つユーザーのためのアクセシビリティ機能ですが、画像の内容を検索エンジンに伝えるための重要なシグナルでもあります。Instagramが自動生成するテキストに頼らず、「黒い御影石のカウンタートップと木目調キャビネットを備えたモダンなキッチンの写真。施工:〇〇建設(横浜市)」のように、具体的でキーワードを含んだAltテキストを全ての画像に手動で設定することが推奨されます。
- プロフィールとハッシュタグの戦略的活用: プロフィール(自己紹介文)にも、自社の事業内容や専門性を示すキーワードを明確に記述します 。ハッシュタグは、プラットフォーム内での分類機能に加え、検索エンジンに対してコンテンツの文脈を伝える補助的な役割を果たします。関連性の高いハッシュタグを5~10個程度、戦略的に使用することが効果的です。
- 公開設定と基本情報の確認: この機能の恩恵を受けられるのは、公開設定にしているビジネスアカウントのみです。また、ビジネスの所在地を投稿にタグ付けすることは、ローカルSEOの観点から非常に有効です。
広告プラットフォームの進化:インクリメンタルアトリビューションとAI活用の高度化
ソーシャルコンテンツの外部開放と並行して、Metaの広告プラットフォーム自体も進化を続けています。2025年6月には、新たに「インクリメンタルアトリビューション」という評価・最適化の仕組みが追加されました 。これは、「広告に接触しなかった場合に、そのコンバージョンが発生したかどうか」を統計的に推計し、広告がもたらした純増分の成果(インクリメンタルコンバージョン)を特定するものです。これにより、広告主は顧客生涯価値(LTV)や利益率といった、よりビジネスの根幹に近い指標に基づいて広告配信を最適化できるようになります。
戦略的考察と推奨アクション:ソーシャルと検索を融合させた新たなマーケティングファネルの構築
Metaの今回のアップデート群は、マーケティング組織のあり方そのものに問いを投げかけています。
第一に、「ソーシャルSEO」の誕生は、マーケティング部門内のサイロ化を破壊する必要性を示唆しています。これまで別々に運営されてきたソーシャルメディアチームとSEOチームは、緊密に連携しなければなりません。キーワード戦略、コンテンツ企画、効果測定といったプロセスを共有し、一つのコンテンツがソーシャルと検索の両方で最大のパフォーマンスを発揮するよう設計する必要があります。この変化は、両方の領域に精通した新しいタイプの専門職「ソーシャルSEOストラテジスト」の需要を高めるでしょう。同時に、マーケティング予算の配分も再考を迫られます。SEO最適化されたInstagram投稿の制作コストは、ソーシャルメディア予算、コンテンツマーケティング予算、SEO予算のどこから捻出されるべきか、という新たな課題が生まれます。
第二に、このアップデートは、ソーシャルメディアにおけるコンテンツの価値基準を根本的に変えます。短期的な「いいね!」やコメントを稼ぐための「エンゲージメントベイト」的なコンテンツの戦略的価値は相対的に低下します。なぜなら、その長期的な価値は、検索クエリに対してどれだけ有益な回答を提供できるかによって決まるからです。これからは、ユーザーの疑問に答え、課題を解決するような、ハウツー動画、詳細な製品レビュー、専門的な解説といった「価値主導型」のコンテンツが、ソーシャルメディア上でもこれまで以上に重要になります。ブランドは、刹那的なトレンドを追いかけるだけでなく、検索に耐えうる高品質なコンテンツ資産のライブラリをソーシャルメディア上に構築していくという、長期的な視点を持つことが求められます。
Google広告の進化 – AIとローカル検索の強化
Googleは、検索体験の中核をなすアルゴリズムの改良を続けると同時に、特定の広告プロダクトにおいても重要な構造変更を実施しました。これらの動きは、AIによる情報提供の質の向上と、ローカルビジネス向けサービスの統合という、Googleの二大戦略を色濃く反映しています。
June 2025 Core Updateの展開と影響分析
Googleは2025年6月30日(日本時間)に、「June 2025 Core Update」の展開を開始しました 。このアップデートは、検索結果の品質を維持・向上させるための定期的なコアアルゴリズムの更新であり、完了までに最大3週間を要すると告知されています。これは通常の展開期間である約2週間よりも長く、比較的大規模または複雑な変更が含まれている可能性を示唆しています。
今回のアップデートも、近年の傾向を踏襲し、「ユーザーにとって本当に役立つ、満足度の高いコンテンツ」を高く評価し、一方でSEO対策のためだけに作られたような低品質なコンテンツの評価を下げることを目的としています 。生成AIの普及により、類似した内容のコンテンツが大量生産される現状に対し、Googleはアルゴリズムを通じてコンテンツの独自性や信頼性、専門性(E-E-A-T)をより厳格に評価しようとしています。広告運用者にとっては、広告の遷移先となるランディングページの品質が、広告のパフォーマンスに間接的に、しかしより強く影響を与えることを意味します。高品質で、ユーザーの検索意図に深く応えるコンテンツを用意することが、持続的な成果を得るための必須条件であり続けます。
ローカルサービス広告の構造変更:レビュー管理のGoogleビジネスプロフィールへの完全移行
2025年7月11日、Googleはローカルサービス広告(LSA)における顧客レビューの管理機能を、Googleビジネスプロフィール(GBP)に完全に統合しました 。この変更により、LSAを利用する事業者は、レビューの収集、返信、管理といった全ての関連業務を、GBPの管理画面を通じて行う必要があります。移行に伴い、LSAに投稿されていた既存のレビューは全てGoogleマップのレビューポリシーに基づいて再検証され、ポリシーに準拠しないものは表示されなくなる可能性があります。
この統合は、Googleがローカルビジネス関連ツールを一元化しようとする長期的な戦略の一環です。2024年8月には予約システムの統合が発表されており、今回のレビュー管理の統合もその流れを汲むものです 。この動きは、事業者側の管理を簡素化する一方で、Googleがローカルビジネスの評判に関する情報を一元的に管理し、その品質をコントロールする狙いがあります。
この変更が示唆するのは、LSAのランキングアルゴリズムと、GBPのローカル検索(マップパック)ランキングアルゴリズムが、今後さらに密接に連携していく可能性です。レビューの数や評価は、両方のサービスにおいて重要なランキング要因です。このシグナルが単一のデータベースに統合されることで、将来的にはGBPでの評価が高いビジネスがLSAでも有利になる、あるいはその逆といった相乗効果が強まることが予想されます。ローカルビジネスにとって、GBPを質の高い情報で常に最新の状態に保ち、積極的にレビューを集め管理することが、広告とオーガニック検索の両方で成功するための鍵となります。
Demand Genキャンペーンの機能拡張:「YouTubeフォローオンビュー最適化」の導入
2025年6月12日、Googleはデマンドジェネレーション(Demand Gen)キャンペーンに新たな最適化目標として「YouTubeフォローオンビュー最適化」を追加したことを発表しました 。この機能は、広告を視聴したユーザーが、その後オーガニック(自発的)にその広告主のYouTubeチャンネル内の他の動画を視聴する可能性を最大化するように、AIが配信を最適化するものです。
これは、単に広告自体の視聴回数やクリック数を増やすのではなく、広告をきっかけとして、より深いチャンネルエンゲージメントを創出し、潜在的なファンやチャンネル登録者を育成することを目的としています。この機能は、TikTokのアルゴリズムがユーザーを次々と関連動画に引き込み、高いエンゲージメントループを生み出すモデルへの戦略的な対抗策と見ることができます。Googleは、YouTube広告を単発のプロモーションツールとしてだけでなく、持続的なオーディエンスを構築するための強力なブランディングツールとして再定義しようとしています。コンテンツマーケティングに注力するブランドにとって、この機能は広告費用対効果(ROAS)を、短期的なコンバージョンだけでなく、長期的な顧客育成の観点からも評価する新しい視点を提供します。
Microsoft広告の戦略的アップデート – PMaxオークション仕様変更と機能強化
2025年6月、Microsoft広告はプラットフォームの柔軟性と運用者のコントロールを大幅に向上させる、一連の重要なアップデートを発表しました。特に、PMax(パフォーマンス最大化)キャンペーンのオークション仕様の変更は、多くの熟練した広告運用者にとって待望のものであり、Microsoftのプラットフォーム戦略を象徴する動きと言えます。
PMax vs. 標準ショッピング:オークション優先順位の変更がもたらす戦略的自由度
2025年5月より、Microsoft広告はPMaxキャンペーンと標準ショッピングキャンペーンが同一アカウント内で重複する場合のオークションロジックを根本的に変更しました 。従来は、Google広告と同様にPMaxキャンペーンが自動的に標準ショッピングキャンペーンよりも優先されていましたが、このアップデートにより、両キャンペーンタイプは通常のオークション原理に基づき、広告ランクが最も高い方が配信されることになりました。
この変更は、広告運用者に戦略的な自由度を大きくもたらします。PMaxの「ブラックボックス」的な優先順位付けがなくなることで、広告主は両キャンペーンのパフォーマンスを公平な条件で比較テストできるようになります 。これにより、より洗練されたキャンペーン構成が可能になります。例えば、利益率の高い特定の商品群やブランド指名検索クエリに対しては、キーワード単位での精密な入札コントロールが可能な標準ショッピングキャンペーンを活用し、一方で新規顧客獲得やリーチ拡大を目的としてPMaxを並行して運用するといった、ハイブリッドな戦略が有効になります。
この動きは、Google広告のPMaxがしばしば運用者からコントロールの欠如を指摘される中、Microsoftが「運用者の専門知識を尊重し、より高い透明性とコントロールを提供するプラットフォーム」として自らを差別化しようとする戦略的意図の表れです。PMaxが標準ショッピングキャンペーン単独よりも39%高いコンバージョン率を達成したというデータを提示しつつも 、その利用を強制するのではなく、運用者に選択の余地を与えることで、より高度な運用を求める広告主層からの支持を獲得しようとしています。
運用効率の向上:新カスタムレポートビルダーとインポート機能の改善
運用者のコントロールを重視する姿勢は、他のアップデートにも表れています。2025年6月10日、Microsoftはレポート機能の管理画面を刷新し、新たに「カスタムレポート作成ツール(Custom Report Builder)」を導入しました 。これにより、運用者は必要な指標や内訳(デバイス、オーディエンスなど)を自由に組み合わせ、自社のKPIに合わせたレポートを柔軟に作成・保存・スケジュール設定できるようになり、分析業務の効率が大幅に向上します。
さらに、他プラットフォームからのインポート機能も強化されました。Google広告やMeta広告で使用されているカルーセル広告を、Microsoftのオーディエンス広告として取り込めるようになったほか、インポート時に発生した問題に対して、管理画面上で即座に修正提案が表示される機能も追加予定です 。これらの改善は、マルチプラットフォームで広告を運用する際の摩擦を軽減し、Microsoft広告への参入障壁を下げることを目的としています。
Shopify連携のグローバル展開
Eコマース領域での利便性向上も進められています。Shopifyアプリストアで提供されている「Microsoft Channel」アプリが、従来の米国・カナダに加え、日本、オーストラリア、欧州主要国などへ展開を拡大しました 。これにより、対象国のShopifyを利用する事業者は、数クリックで自社の商品カタログをMicrosoft広告と同期し、BingやMSNのショッピングタブに商品を掲載できるようになります。さらに、Shopifyの管理画面内から直接PMaxキャンペーンを作成することも可能となり、中小規模のEコマース事業者にとって、Microsoft広告ネットワークへのアクセスが格段に容易になりました。
戦略的考察と推奨アクション:PMaxと標準ショッピングの併用戦略とアカウント構成の最適化
PMaxのオークション仕様変更は、広告アカウントの構成戦略に新たなベストプラクティスを生み出します。それは「コア&エクスプロア(Core and Explore)」モデルです。
- コア(Core)戦略: 利益率の高い主力商品や、コンバージョン率が安定しているブランド指名検索など、ビジネスの核となる領域については、標準ショッピングキャンペーンを使用します。これにより、キーワードレベルでの精密な入札調整や、厳密な除外設定が可能となり、収益性を最大化し、重要なトラフィックを保護します。
- エクスプロア(Explore)戦略: 新規顧客の獲得や、まだリーチできていない潜在層へのアプローチを目的として、PMaxキャンペーンを並行して運用します。PMaxの広範なリーチとAIによる自動最適化能力を活用し、新たな成長機会を探求します。
このハイブリッド構造により、広告主は安定的な収益基盤を「コア」で固めつつ、成長のための投資を「エクスプロア」で行うという、バランスの取れたポートフォリオを組むことができます。予算配分は、事業目標に応じて戦略的に決定されるべきです(例:収益性重視ならコアに70%、成長重視ならエクスプロアに30%)。この新しい環境は、広告運用者に対して、単一のキャンペーンタイプに依存するのではなく、各々の特性を理解し、戦略的に組み合わせる高度な設計能力を求めています。
TikTokの商取引機能の拡大 – 新広告フォーマットとライブオークション
TikTokは、その圧倒的なエンゲージメント力を収益化へと繋げるため、プラットフォーム上での商取引(ソーシャルコマース)機能を急速に拡大しています。2025年夏に発表された新広告目的とライブオークション機能は、ブランドがユーザーを認知から購買までシームレスに誘導するための強力なツールとなります。
新広告目的「Brand Consideration」:ミッドファネル攻略への一手
2025年6月3日、TikTokは広告マネージャーに新たなキャンペーン目的として「Brand Consideration(ブランド検討)」を追加しました 。これは、マーケティングファネルの中間層、すなわちブランドや商品を認知はしているものの、まだ購入には至っていない「検討層」の育成を目的としたものです。
この機能は、コメント、アプリ内検索、コンテンツのシェア、フォロー、商品カードのクリックといった12種類以上のプラットフォーム内行動データを基に、購入意欲の高いユーザー群を特定します 。TikTokの分析によると、この検討層のオーディエンスは、認知段階のオーディエンスと比較してコンバージョンに至る可能性が14~16倍も高いとされています。
このアップデートは、TikTokが単なる認知獲得(トップファネル)のプラットフォームから、顧客育成(ミッドファネル)までをカバーするフルファネル対応の広告プラットフォームへと進化しようとする明確な意思表示です。これまでTikTokの活用に踏み切れなかった検討期間の長い商材(例:自動車、金融サービス、高価格帯の耐久消費財など)の広告主にとって、新たな選択肢を提供するものとなります。
ライブストリームオークション機能「Countdown Bidding」の導入
2025年7月、TikTokは一部のセラーを対象に、ライブ配信中に仮想オークションを実施できる新機能「Countdown Bidding(カウントダウン入札)」を導入しました 。セラーは事前に「オークション専用」として商品を登録し、ライブ配信中に開始価格と制限時間を設定します。視聴者はリアルタイムで入札に参加でき、最高額を入札したユーザーが商品を落札する仕組みです。この機能は当初、コレクターズアイテムや中古高級品といったカテゴリーで提供が開始されました。
この機能は、ライブコマースに「ゲーミフィケーション(ゲーム性)」と「緊急性」という要素を加えることで、視聴者の参加意欲を刺激し、エンゲージメントを直接的な購買行動へと転換させる強力な仕掛けです。これは、TikTokの中国版である「Douyin(抖音)」で巨大な成功を収めているライブコマースモデルを、欧米市場向けに展開していくための戦略的な一歩と見なせます。
米国市場における動向:売却・禁止法案の期限延長とその影響
プラットフォームの機能強化が進む一方で、TikTokは米国市場において政治的な不確実性に直面し続けています。2025年6月19日に迫っていた、親会社ByteDanceに対する米国事業の売却またはサービス禁止を命じる法律の施行期限は、トランプ大統領によって3度目となる90日間の延長が認められ、新たな期限は2025年9月17日となりました 。この間、TikTokは米国投資家への売却に備え、米国ユーザー専用バージョンのプラットフォームを開発していると報じられています。
この継続的な政治的リスクは、特にコンプライアンスを重視する大手ブランドにとって、TikTokへの長期的な広告投資を躊躇させる要因となり得ます。しかし、現状ではプラットフォームが通常通り運営されており、その圧倒的なユーザーリーチとエンゲージメントの高さから、多くのパフォーマンス広告主にとっては、短期的なリスクを上回る魅力がある状況が続いています。
戦略的考察と推奨アクション:エンゲージメントから購買へ繋げるTikTok活用術
TikTokの一連のアップデートは、プラットフォーム内で完結する「検討からコンバージョンへのフライホイール(好循環)」を構築しようとする明確な戦略を示しています。広告主は、まず従来の認知獲得型広告でファネルの最上部にユーザーを呼び込み、次に新機能の「Brand Consideration」広告でその中から意欲の高いユーザー群を育成し、最後に「Countdown Bidding」のようなライブコマース機能やTikTok Shopへの直接リンクを活用して、その高い熱量を購買へと転換させることができます。この一気通貫したファネル設計は、TikTokを単なるエンターテインメントプラットフォームから、強力なEコマースエンジンへと変貌させるものです。
また、「Countdown Bidding」をコレクターズアイテムや中古高級品といった熱量の高いニッチなコミュニティから導入した点は、非常に戦略的です。これらのコミュニティは、元々オークション形式に親和性が高く、成功事例を生み出しやすい土壌があります。ここでライブオークションという購買行動を成功させ、その文化を醸成することで、将来的により広範な商品カテゴリーへと展開していくための「トロイの木馬」としての役割を果たすことが期待されます。これは、欧米市場でライブコマースを本格的に普及させるための、計算された布石と言えるでしょう。
結論:2025年後半に向けたデジタル広告戦略の再構築
2025年夏に観測された一連のプラットフォームアップデートは、デジタル広告が新たな時代に突入したことを明確に示しています。これらの変化は個別の事象ではなく、相互に関連し合いながら、広告主の戦略、組織、そしてスキルセットの再構築を迫っています。2025年後半に向けて、マーケティング専門家は以下の3つの大きな潮流を念頭に置いた戦略の見直しが不可欠です。
第一に、「エコシステムレベルでの戦略思考」が標準となります。LINEとYahoo!の統合が象徴するように、もはや個別の広告チャネルを最適化する時代は終わりを告げました。これからは、Google、Meta、LINEヤフーといった巨大なプラットフォームが提供するエコシステム全体を俯瞰し、その中でユーザーがどのように行動し、データがどのように連携するのかを理解した上で、統合的なコミュニケーションを設計する能力が求められます。
第二に、「コンテンツは検索される資産である」という認識が必須となります。Metaのアップデートにより、ソーシャルメディアと検索エンジンの境界は事実上消滅しました。エンゲージメントを目的としたコンテンツと、検索意図に応えるためのコンテンツという二元論はもはや通用しません。今後、一般に公開されるすべてのコンテンツは、ソーシャルアルゴリズムと検索クローラの両方から発見されることを前提に、キーワード、構造、そして価値提供の観点から戦略的に制作されなければなりません。これは、マーケティング組織内のSEOチームとソーシャルメディアチームの壁を取り払い、融合させることを強く促すものです。
第三に、「AIとの戦略的パートナーシップ」へと広告運用者の役割が進化します。Microsoft広告のPMax仕様変更に見られるように、プラットフォームは運用者にAIを制御するためのレバーを渡し始めています。これからの広告運用者の価値は、手動での細かな調整作業ではなく、プラットフォームのAIが最良のパフォーマンスを発揮できるよう、質の高いデータシグナル(正確なコンバージョンデータ、価値に基づいたオーディエンスセグメント、多様なクリエイティブアセット)を供給し、ビジネス目標に沿ってAIの学習プロセスを戦略的に導く能力によって定義されます。
これらの変革の波は、広告業界に複雑さをもたらす一方で、データを活用し、部門間の連携を強化し、AIを戦略的に使いこなすことのできる組織にとっては、競合との差を大きく広げる好機となります。変化への迅速な適応力と、絶え間ない学習意欲こそが、これからの時代を勝ち抜くための最も重要な資質となるでしょう。

「IMデジタルマーケティングニュース」編集者として、最新のトレンドやテクニックを分かりやすく解説しています。業界の変化に対応し、読者の成功をサポートする記事をお届けしています。