OpenAI CEO サム・アルトマンが語る、AIの未来:GPT-5、新ハードウェア、そして私たちの生活はどう変わるのか

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OpenAIのCEO、サム・アルトマン氏が同社の公式ポッドキャストに出演し、AIの現在と未来について多岐にわたるテーマを語りました。新米パパとしてのChatGPT活用術といった私的な一面から、次世代モデル「GPT-5」の展望、そして社会のインフラを根底から変えうる巨大プロジェクト「Stargate」の構想まで、その内容はAIが私たちの日常やビジネス、さらには科学の進歩にどう関わっていくのかを鮮やかに描き出しています。

この記事では、ポッドキャストで語られたアルトマン氏のビジョンを、トピックごとに再構成してお届けします。

AIは子育てのパートナー? サム・アルトマン氏の意外な日常

ポッドキャストは、アルトマン氏が新米の親としてChatGPTを大いに活用しているという意外な話題から始まりました。

「最初の数週間は、本当につねに(ChatGPTを)使っていました。昔の人がChatGPTなしでどうやって子育てをしていたのか、私には想像もつきません」とアルトマン氏は語ります。当初は基本的な育児の質問が中心でしたが、最近では「この発達段階は普通だろうか?」といった、より専門的な疑問を投げかけているそうです。

また、アルトマン氏は自身の子供たちがAIと共に成長する未来について、非常に楽観的な見方を示しました。

「私の子どもたちがAIより賢くなることはないでしょう。しかし、彼らは私たちが想像もできないような能力を身につけ、AIを驚くほど自然に使いこなす世代になります。彼らが、自分たちがAIより賢くないという事実に悩むことはないと思います」

彼は、かつての赤ちゃんが雑誌をiPadと間違えてスワイプしようとした動画を例に挙げ、現代に生まれる子供たちにとっては「世界に賢いAIが常に存在しているのが当たり前」になると予測。AIを使いこなす能力は、彼らにとって大きな力になると強調しました。

AGIから超知能へ:AIが科学のフロンティアを拓く日

話題は、AI開発の究極的な目標の一つであるAGI(汎用人工知能)に移ります。アルトマン氏は、AGIの定義そのものがAIの進化とともに変化し続けていると指摘します。5年前に多くの人がAGIの定義として挙げていたであろう能力は、現在のモデルではすでに超えられているかもしれない、と。

その上で、彼はさらに先の概念として「超知能(Superintelligence)」について言及しました。

「もし、新たな科学的発見を自律的に行えるか、あるいは人間が科学的発見をする能力を飛躍的に高めるツールとなるシステムが生まれれば、それが私にとっての『超知能』です。それは世界にとって素晴らしいことだと思います」

アルトマン氏は、人々の生活を向上させる上で最も重要なのは「科学の進歩」であると信じており、AIがその進歩を加速させることに大きな期待を寄せています。すでに、AIがコーディングを支援することで科学者の生産性を向上させている事例は数多くあり、これは超知能への確かな一歩だと考えているようです。

GPT-5はいつ登場? モデル進化の舞台裏

多くのユーザーが心待ちにしている次世代モデル「GPT-5」のリリース時期について、アルトマン氏は「おそらく今年の夏頃になるでしょう」と見通しを語りました。

しかし、彼は同時に、モデルの命名やバージョニングが以前より複雑になっていることにも触れています。かつては、大規模な学習を行った新モデルをリリースする形が主流でしたが、現在では「GPT-4o」のように、既存のモデルを継続的に改良し続けるアプローチが増えています。

「GPT-5をリリースした後、それを何度もアップデートしていくべきか。それとも『5.1』『5.2』のようにバージョンを刻むべきか。まだ答えは出ていません」と、アルトマン氏は社内での議論を明かしました。この課題は、AI開発が「一回限りのリリース」から「継続的な進化」へとパラダイムシフトしていることを象徴しています。

ユーザープライバシーとビジネスモデルの狭間で

ChatGPTに搭載された「メモリ機能」について、アルトマン氏は「最近のお気に入りの機能」だと語ります。AIがユーザーの文脈を理解することで、少ない言葉でも的確な応答が可能になる体験は、大きなレベルアップだと感じているようです。

一方で、こうしたパーソナライズ機能はプライバシーの問題と表裏一体です。現在進行中のニューヨーク・タイムズ紙との訴訟に触れ、アルトマン氏はユーザープライバシーを保護する重要性を強く訴えました。

広告モデルの導入については、非常に慎重な姿勢を見せています。 「もし私たちが、誰が多く支払うかに応じて(LLMからの)回答ストリームを改変し始めたら、それは信頼を破壊する瞬間になるでしょう」と述べ、ユーザーとの信頼関係を第一に考える姿勢を明確にしました。現在の「良いサービスを作り、ユーザーが対価を支払う」というシンプルなモデルを好んでいると語り、広告を導入するとしても、ユーザー体験や信頼を損なわないためのハードルは非常に高いものになると示唆しました。

巨大プロジェクト「Stargate」とAIの未来を支えるインフラ

AIの能力を最大限に引き出す上で不可欠なのが、膨大な計算能力(コンピュート)です。この課題に対応するため、OpenAIはマイクロソフト社と共同で「Stargate(スターゲイト)」と呼ばれる巨大プロジェクトに取り組んでいます。

「Stargateは、前例のない規模の計算能力を確保し、構築するための取り組みです。もし人々が、より多くの計算能力で何が可能になるかを知れば、今よりもはるかに多くの計算能力を求めるでしょう」

アルトマン氏によれば、このプロジェクトはAIを世界中の何億、何十億という人々に届けるための巨大なインフラ投資であり、「知能を可能な限り潤沢で安価なものにする」ことを目的としています。

このプロジェクトに必要なエネルギーについては、ガス、太陽光、原子力(核分裂・核融合の両方)など、あらゆる選択肢を追求する「全方位」のアプローチを取るとしています。エネルギーを世界中に輸送するのは困難ですが、「エネルギーを知能に変換し、その知能をインターネットで世界中に動かす」ことで、エネルギー資源が豊富な場所にデータセンターを設置できるという未来像も語られました。

AI時代の新ハードウェアと未来へのアドバイス

最後に、アルトマン氏はAppleの伝説的なデザイナー、ジョニー・アイブ氏と新しいAIハードウェアを開発していることに言及しました。

「現在のコンピュータは、AIのない世界のために設計されました。私たちは今、全く異なる世界にいます。ハードウェアとソフトウェアに求められるものは急速に変化しているのです」

タイピングや画面を見るといった既存のインタラクションとは異なる、より環境を認識し、ユーザーの文脈を深く理解する新しいデバイスの可能性を模索していると語りました。具体的な製品の登場はまだ先になるようですが、その開発に大きな期待を寄せています。

ポッドキャストの締めくくりとして、アルトマン氏は現代の若者へアドバイスを送りました。 「AIツールを使いこなすことを学ぶのは当然として、レジリエンス(回復力)、適応力、創造性、そして他者が何を求めているかを理解する力といったスキルが、今後数十年にわたって大きな価値を持つでしょう」

サム・アルトマン氏が語る未来は、AIが単なるツールではなく、人間の能力を拡張し、社会のあらゆる側面に深く統合された世界です。その実現に向けた課題は山積みですが、彼の言葉からは、テクノロジーがもたらす可能性への揺るぎない楽観と強い意志が感じられました。

参考動画

OpenAI「Sam Altman on AGI, GPT-5, and what’s next — the OpenAI Podcast Ep. 1