はじめに:ポストCookie時代のパラダイムシフトと効果的な戦略の探求
デジタル広告における課題
近年、デジタル広告業界は、サードパーティCookie(3rd Party Cookie)の段階的な廃止という大きな転換期を迎えています。AppleのSafariやMozillaのFirefoxは既にサードパーティCookieの利用を大幅に制限しており、市場シェアの高いGoogle Chromeも段階的な廃止計画を進めています 。この動きは、GDPR(EU一般データ保護規則)やCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)、そして日本における改正個人情報保護法といった世界的なプライバシー保護規制の強化と、ユーザー自身のプライバシー意識の高まりによって加速されています 。
サードパーティCookieは、長年にわたりウェブサイト横断的なユーザートラッキングやターゲティング広告の基盤技術として利用されてきました 。その利用が制限されることで、広告主やマーケターは以下のような深刻な課題に直面しています。
- ユーザートラッキングの困難化: 異なるウェブサイトやドメインを横断してユーザーを追跡することが難しくなります 。
- リターゲティング広告の制限: 特定のサイトを訪れたユーザーに対するリターゲティング広告の効果や配信量が低下します 。
- コンバージョン計測・アトリビューション分析の精度低下: 広告接触からコンバージョンに至るまでの経路を正確に把握することが困難になり、広告効果測定や貢献度分析の精度が低下します 。
- ターゲティング精度の悪化: ユーザーの興味関心や属性に基づいた詳細なターゲティングが難しくなり、結果としてCPA(顧客獲得単価)が悪化する可能性があります 。
新たな機会の創出
しかし、この変化は単なる課題ではなく、デジタルマーケティングのあり方を見直し、よりプライバシーに配慮し、本質的な価値を提供する戦略へと移行する好機でもあります 。Cookieという従来の基盤が揺らぐ中で、ユーザーのプライバシーを尊重しつつ、広告のリーチと効果を維持・向上させるための新しい技術やアプローチが求められています。これは、単にCookieの代替手段を探すだけでなく、マーケティング戦略そのものを進化させる機会と捉えるべきです。
DSP Bypassの登場
このような背景の中、ポストCookie時代の課題に対応するソリューションとして注目されるのが、ユナイテッドマーケティングテクノロジーズ株式会社(UMT)が提供するDSP(Demand-Side Platform)「Bypass」です 。Bypassは、株式会社ジーニーの提供するSSPやDOOHプラットフォームとの連携も見られ 、ポストCookie環境下での広告配信最適化を目指すプラットフォームとして位置づけられています。
本レポートでは、DSP BypassがポストCookie時代において、従来のマーケティングファネルの限界を超え、広告成果を最大化するためにどのような戦略を提供しているのか、その機能、特徴、具体的な活用法、そして将来性について、詳細に分析・考察します。
この変化は、単に技術的な課題を乗り越えるだけでなく、よりユーザー中心で持続可能なデジタル広告エコシステムを構築するための重要なステップです。Bypassのようなソリューションは、その移行を支援する鍵となる可能性があります。
DSP Bypass(UMT/Geniee連携)の概要:機能と差別化要因
コアプラットフォームとしてのBypass
DSP Bypassは、ユナイテッドマーケティングテクノロジーズ株式会社(UMT)が提供するデマンドサイドプラットフォームです 。元々はモーションビート株式会社によってスマートフォン特化型DSPとして開発され、その後UMT(ユナイテッド株式会社の子会社)に移管され、PC広告にも対応範囲を広げてきました 。累計で9,000社以上の広告主に利用されており 、国内のDSP市場において重要なプレイヤーの一つとなっています。
主要な機能
Bypassは、広告主が広告効果を最大化するための多様な機能を提供しています。
- RTB(リアルタイムビッディング)機能: Bypassの中核機能であり、広告のインプレッションが発生するたびにリアルタイムで入札を行い、最適な価格で広告枠を買い付けることを可能にします 。これにより、広告主は効率的にターゲットオーディエンスにリーチできます。
- AIによる最適化エンジン: 機械学習などのAI技術を活用し、広告配信の最適化を図ります 。具体的には、膨大な配信データからCTR(クリック率)やCVR(コンバージョン率)を予測し、広告主が設定した目標CPA(顧客獲得単価)を達成しながらコンバージョン数を最大化するように、入札単価を自動調整します 。この「AI配信」機能は、従来のルールベースの最適化よりも高度な多変量解析を行い、より精密な予測と入札を実現します 。
- クロスデバイス対応: 複数のデバイス(PC、スマートフォンなど)を横断してユーザーを捉え、ターゲティングや効果測定を行う機能を持つ可能性があります。ジーニーのDSPではDrawbridge社の技術導入が言及されており 、Bypassも同様の連携や技術により、デバイス単位ではなくユーザー中心のアプローチを支援していると考えられます。
- 統合管理インターフェース: キャンペーン設定、入稿、配信面の管理、効果測定レポートのダウンロードなどを、一つの管理画面で一元的に行うことができます 。これにより、広告運用者のオペレーション業務の効率化が図れます 。レポートはリアルタイムで確認可能です 。
- 国内外への配信: 国内だけでなく、海外への広告配信にも対応しており、グローバルなキャンペーン展開が可能です 。
従来のDSPとの差別化要因
Bypassは、一般的なDSP機能に加え、いくつかの独自の特徴を持っています。
- 柔軟な運用オプション: 自動最適化(CPM/CPAベース)だけでなく、手動での入札単価調整やCPC(クリック課金)での運用も可能であり、広告主の多様なニーズや戦略に合わせた柔軟な運用が可能です 。これは、完全に自動化されたDSPと比較して、より細かいコントロールを求める広告主にとって利点となります。
- ポストCookie時代への適応: IM-UIDのような共通IDソリューションとの連携を積極的に進めており、サードパーティCookieに依存しない広告配信を実現しています 。これは、依然としてサードパーティCookieへの依存度が高い従来のDSPとは一線を画す点です 。
- DOOH(デジタル屋外広告)連携: 国産DOOHプラットフォーム「GENIEE DOOH」との連携により、DSPを通じてデジタルサイネージなどの屋外広告枠をプログラマティックに買い付けることが可能です 。これはオンライン広告とオフライン広告を統合的に扱える点で、大きな特徴と言えます。
エコシステムとの連携
Bypassは、Geniee SSP 、adstir 、Ad Generation 、Index Exchange など、国内外の主要なSSP(Supply-Side Platform)と接続しており、これにより国内最大級の広告在庫へのアクセスを実現しています 。
これらの特徴から、Bypassは単なる広告配信ツールではなく、ポストCookie時代を見据えた多様なデータソースと配信チャネルを統合し、AIによる最適化を行う、より戦略的で将来性のあるプラットフォームとしての性格を強めていると言えます。従来のDSPが主にCookieベースのオンライントラッキングと最適化に焦点を当てていたのに対し 、BypassはIM-UIDによるCookie代替識別子 やDOOH連携 によって、その適用範囲をポストCookie環境とオフライン領域へと戦略的に拡大しています。これは、アイデンティティ解決とオムニチャネル化という、現代の広告業界が直面する二つの大きな課題に対応しようとする動きの表れです。
ポストCookieエコシステムにおけるDSP Bypass
Cookie依存からの脱却
サードパーティCookieの利用制限が強化される中、DSP BypassはCookieに依存しない代替的な識別子やターゲティング手法を活用することで、広告配信の継続性と効果の維持を図っています。その戦略の中心となるのが、共通IDソリューション「IM-UID」との連携です。
IM-UID連携の詳細
- IM-UIDとは: 株式会社インティメート・マージャーが提供するIM-UID(Intimate Merger Universal Identifier)は、ポストCookie時代における主要な共通IDソリューションの一つです 。これは、ユーザーのプライバシーを尊重しつつ、Cookieに代わってユーザーを識別するための技術です 。
- 推定IDとしての仕組み: IM-UIDは、特定の個人を直接識別する情報(氏名やメールアドレスなど)ではなく、IPアドレス、ユーザーエージェント(OS、ブラウザ情報など)、タイムスタンプ、アクセス先URLといった、Webアクセス時に取得可能な情報(インフォマティブデータ)を機械学習で分析します 。インティメート・マージャーが提携する広範なメディアネットワーク(約4.7億ユニークブラウザ規模のデータを保有 )から得られるこれらの断片的な情報を組み合わせ、類似した行動パターンを持つデバイス群を同一ユーザー(または同一世帯など)のクラスターとして推定し、そのクラスターに対してユニークなID(IM-UID)を付与します 。この推定精度は高く、過去の検証では96.5%の一致率を示したと報告されています 。重要な点は、このプロセスがサードパーティCookieに一切依存しないことです。
- Bypassとの連携: DSP Bypassは、このIM-UIDと連携することで、IM-UIDが付与されたユーザー(クラスター)をターゲティング対象として認識し、広告配信を行うことが可能になります 。具体的には、SSP「adstir」などを介してIM-UID情報を受け取り、Bypass側でそのIDに基づいた入札や配信制御を行います 。これにより、従来サードパーティCookieがブロックされていたSafariブラウザ(iOSデバイス)や、将来的にCookie利用が制限されるChromeブラウザ上でも、効果的なターゲティング広告(特にリターゲティング)を実施できるようになります。
- 連携によるメリット: この連携は広告主にとって複数のメリットをもたらします。第一に、これまでリーチが困難だったiOSユーザーへのアプローチが可能となり、広告配信のリーチが大幅に拡大します(従来の3倍~4倍とも言われる)。第二に、Cookieレス環境下でもリターゲティングなどのターゲティング精度を維持・向上させることが可能です。第三に、これらにより、CPAの改善やROIの向上といった具体的な広告効果の改善が期待できます(詳細はセクション6で後述)。なお、IM-UIDはユーザーによるオプトアウトも可能です 。
代替シグナルの活用
IM-UID連携に加え、Bypassは他のポストCookie対応シグナルも活用している可能性があります。
- コンテクスチュアルターゲティング: Cookieに依存せず、閲覧されているウェブページのコンテンツ(テキスト、画像、キーワードなど)をAIで解析し、その文脈(コンテキスト)に合致した広告を配信する手法です 。ユーザー個人の追跡ではなく、「どのような内容のページを見ているか」に基づいて広告を表示するため、プライバシー保護の観点から注目されています 。Criteoなどのプラットフォームでは、自然言語処理(NLP)を用いた高度な文脈解析が行われています 。Bypassがどの程度高度なコンテクスチュアルターゲティング機能を提供しているかは、提供された資料からは明確ではありませんが、現代的なDSPとして、基本的なキーワードターゲティングやコンテンツターゲティング以上の機能(例えば、IM-UIDと連携したマイクロアドが提供するような興味関心ターゲティング)を搭載している可能性は高いと考えられます。
- ファーストパーティデータの活用: 広告主が自社で収集・保有する顧客データ(CRMデータ、ウェブサイトの行動履歴、購買履歴など)の重要性は、ポストCookie時代においてますます高まっています 。多くのDSPやDMPは、広告主がこれらのデータをアップロードし、ターゲティングセグメントとして活用する機能を提供しています 。Bypassが具体的にどのような形式でファーストパーティデータの連携をサポートしているかは資料からは不明ですが、標準的なDSP機能として、このような連携が可能であると推測されます。さらに、ユーザーの同意を得た上で、ファーストパーティデータとIM-UIDを紐付けることで、よりリッチな顧客理解に基づいたターゲティング(例えば、自社会員の中から特定の外部サイト閲覧傾向を持つユーザーを抽出するなど)が可能になる潜在力も指摘されています 。
BypassのポストCookie戦略は、単一の解決策に依存するのではなく、IM-UIDという強力な識別子を核としながら、コンテクスチュアルやファーストパーティデータといった他のシグナルを組み合わせる、多角的アプローチを採用していると考えられます。特に、IM-UID連携は、その効果に関する具体的なデータが複数報告されており、BypassのポストCookie戦略における中核的な価値提案となっていることは明らかです。Cookie代替のリスク分散と効果最大化の観点からも、複数のアプローチを組み合わせることは理にかなっています。
ファネルを超える:Bypassを用いた先進的マーケティング戦略
ダイレクトレスポンス依存からの脱却
サードパーティCookieの利用制限は、従来のリターゲティング広告やラストクリック偏重の成果測定に大きな影響を与えています 。これにより、広告主は短期的なコンバージョン獲得(ファネル下層)のみに焦点を当てるのではなく、ブランド認知から購買意向の醸成、そして最終的な獲得に至るまでの顧客体験全体(フルファネル)を視野に入れた、より統合的なマーケティング戦略へと移行する必要性に迫られています。DSP Bypassは、その機能と連携能力を通じて、このようなフルファネルアプローチを支援するプラットフォームとなり得ます。
フルファネルキャンペーンの実現
Bypassは、顧客の購買プロセスの各段階に応じた施策展開を可能にします。
- 認知・興味関心(アッパーファネル):
- 広範なリーチ: 多数のSSPとの接続による広大な広告在庫へのアクセス を活かし、幅広い層へのブランドメッセージの到達を目指します。
- 新規顧客へのアプローチ: IM-UIDやファーストパーティデータに基づく類似ユーザー拡張(Lookalike)ターゲティングや、コンテンツの文脈に合わせたコンテクスチュアルターゲティング を活用し、まだブランドを知らない潜在顧客層へ効果的にアプローチします 。
- DOOH連携: デジタル屋外広告との連携により、オンライン広告と連動したリアル空間でのブランド認知向上施策も可能です 。
- 比較検討(ミドルファネル):
- オーディエンスセグメンテーション: IM-UIDによって推定された興味関心や、広告主が保有するファーストパーティデータ(例:特定の商品カテゴリーを閲覧したユーザー)に基づき、より関心の高いユーザーセグメントに対して、具体的な製品情報や比較情報を提供します 。
- 購買・申込(ロウワーファネル):
- リターゲティング: IM-UIDを活用し、ウェブサイト訪問者やアプリ利用者など、既にブランドと接点を持ったユーザーに対して、購買を後押しする広告(例:カート放棄者へのリマインド、特別オファー)を配信します。
- CPA最適化: BypassのAI配信機能 を活用し、設定した目標CPA内でコンバージョン数を最大化するよう、入札単価を自動で最適化します 。
- 継続利用・LTV向上(リテンション):
- 既存顧客へのアプローチ: リターゲティングやセグメンテーション機能を活用し、既存顧客に対してアップセルやクロスセルを促すキャンペーン、あるいは休眠顧客の掘り起こしなど、顧客との長期的な関係構築に貢献します 。
ブランド効果の測定
フルファネル戦略においては、CPAやROASといった直接的な獲得指標だけでなく、ブランド認知度や好意度、購買意向といった中間指標(ブランドリフト)を測定し、キャンペーン全体の効果を評価することが重要になります 。
- ブランドリフト調査の重要性: ブランドリフト調査は、広告接触者と非接触者の間で、ブランド認知度、興味関心、好意度、購買意向などの指標に統計的に有意な差(リフト)が生じたかを検証する手法です 。これにより、特にアッパーファネルやミドルファネルを目的としたキャンペーンの効果を可視化できます。Amazon DSPなど、一部のDSPではブランドリフト調査機能が提供されています 。提供されている資料からは、Bypass自体がブランドリフト調査機能を内包しているか、あるいは外部の調査ツールとの連携を容易にしているかは確認できません。しかし、フルファネル戦略を支援するプラットフォームとして、このような測定手法の活用は不可欠であり、Bypassを利用する広告主は、別途調査を実施するか、連携可能なソリューションを探求する必要があるかもしれません。
- 代替指標の活用: CPA以外の指標、例えば広告の表示回数(インプレッション)、到達したユニークユーザー数(リーチ)、広告が実際に視認されたかを示すビューアビリティ 、動画広告の視聴完了率 、さらには広告への注視時間を示すアテンション指標 なども、キャンペーンの目的に応じて重要な評価指標となります。Bypassのレポーティング機能 がこれらの指標をどの程度カバーしているかを確認することが重要です。
DSP Bypassは、IM-UIDによるポストCookie環境下でのユーザー識別能力と、DOOHを含む多様な配信チャネルへのアクセスを組み合わせることで、従来のCookie依存のロウワーファネル偏重戦術から脱却し、ブランド構築とコンバージョン獲得を両立させる統合的なマーケティングキャンペーンを支援する基盤を提供します。オンラインとオフライン、そしてファネルの各段階を横断した一貫性のあるコミュニケーションを実現する可能性を秘めており、これはポストCookie時代の広告戦略において大きな意味を持ちます。
精密なターゲティングと配信戦術
DSP Bypassは、ポストCookie環境下においても、広告主が意図するオーディエンスに的確にリーチするための多様なターゲティング機能と配信オプションを提供します。
オーディエンスセグメンテーション
- IM-UIDの活用: BypassにおけるポストCookie時代のターゲティングの中核をなすのがIM-UIDです。広告主は、インティメート・マージャーが提供するIM-UIDに基づいたオーディエンスセグメントを利用できます。これには、インティメート・マージャーの広範なネットワークから収集されたデータに基づき推定されたデモグラフィック情報(年齢、性別など)や、ウェブサイト閲覧行動から解析された興味関心などが含まれる可能性があります。これにより、Cookieが利用できない環境でも、特定の属性や興味を持つユーザーグループへのターゲティングが可能になります。
- その他のデータソース: Bypassは、標準的なDSP機能として、地域(ジオターゲティング)、時間帯、デバイスといった基本的なターゲティング設定も提供していると考えられます 。また、前述の通り、コンテクスチュアルシグナル や広告主自身のファーストパーティデータ を活用したカスタムオーディエンスの作成も、プラットフォームの機能として期待されます。さらに、特定のオーディエンス(例:既存顧客)に類似した特徴を持つ新規ユーザーを探し出す類似拡張(Lookalike)ターゲティングも、一般的なDSP機能として提供されている可能性があります 。
- リターゲティング: IM-UIDを用いることで、自社サイトを訪問したユーザーやアプリを利用したユーザーに対して、サイト離脱後やアプリ利用後に再度広告を表示するリターゲティングが、Cookieレス環境でも実現可能です。これは、コンバージョン獲得において依然として重要な戦術です。
プレミアムな広告在庫の活用
- PMP(プライベートマーケットプレイス): PMPは、特定の広告主や代理店のみが入札に参加できる、招待制の広告取引市場です 。オープンなRTB市場と比較して、掲載されるメディアの質が高く、ブランドセーフティが確保しやすい、あるいは特定のオーディエンスデータが付加されているなどのメリットがあります 。提供された資料には、BypassがPMPディールに直接対応しているかどうかの明確な記述はありませんが、高品質な広告配信を求める広告主にとって、DSPを通じたPMPへのアクセスは重要な選択肢の一つです。Dentsu PMP やSoftBank Ads Platform など、PMPを提供するプラットフォームは存在しており、BypassのようなDSPがこれらのPMPに接続している可能性は考えられます。
- DOOH(デジタル屋外広告)ネットワーク: Bypassの顕著な特徴の一つが、GENIEE DOOHなどのプラットフォームとの連携によるDOOH広告枠へのプログラマティックアクセスです 。これにより、広告主はDSPの管理画面から、交通広告、屋外ビジョン、店舗内サイネージといった多様なデジタル屋外広告枠を、インプレッションベースで購入し、オンライン広告と同様のデータドリブンなターゲティング(例:時間帯、天候、IM-UIDに基づくオーディエンスセグメントなど)を適用できる可能性があります。これは、従来、個別の媒体社との交渉が必要だったDOOH広告の買い付けプロセスを大幅に効率化し、オンラインとオフラインを連携させたキャンペーン展開を可能にする点で画期的です。
ブランドセーフティと透明性
広告主にとって、自社の広告が不適切なサイトやコンテンツに表示され、ブランドイメージを損なうリスク(ブランド毀損)を回避することは極めて重要です 。また、広告費が無効なインプレッションやクリック(アドフラウド)によって浪費されることも避けなければなりません 。Bypassは、Index Exchangeのような透明性やセキュリティ対策に注力するエクスチェンジとの接続 や、ビューアビリティ(広告が実際に視認可能な状態で表示されたか)に基づいた課金オプションの提供 などを通じて、ブランドセーフティの確保と広告取引の透明性向上に取り組んでいると考えられます。PMPやDOOHへの直接的な連携も、広告掲載環境をより厳密にコントロールする上で有効な手段となります 。
Bypassは、IM-UIDによるポストCookie時代のオーディエンスターゲティング能力と、DOOHを含む多様な広告在庫へのアクセスを組み合わせることで、広告主に対して、より洗練され、状況に応じた(Contextually Relevant)広告キャンペーンを展開する機会を提供します。特に、IM-UID連携 はCookieレス環境下でのオーディエンスターゲティングを可能にする鍵であり、DOOH連携 はDSPを通じてリーチできる広告世界の物理的な拡張を意味します。
定量的なメリットと実例
DSP BypassをポストCookie時代の戦略ツールとして採用することは、広告主にとって具体的な、測定可能なメリットをもたらす可能性があります。特に、IM-UIDとの連携は、その効果を示すデータが複数報告されています。
広告主にとっての主要な利点(まとめ)
- リーチの維持・拡大: サードパーティCookieの制限によりアクセスが困難になったiOS/Safariユーザーへのリーチが可能になる点は、最大のメリットの一つです。IM-UID連携により、これまでリーチできなかったオーディエンス層に広告を届けることができます。
- ターゲティング精度の向上: IM-UIDによって推定されるユーザーの属性や興味関心、あるいは広告主のファーストパーティデータなどを活用することで、Cookieレス環境下でも関連性の高いオーディエンスへのターゲティング精度を維持、あるいは向上させることが期待できます 。
- 広告効果(ROI/CPA)の改善: 複数の事例で、IM-UIDを活用した広告配信により、CPA(顧客獲得単価)が改善したり、ROI(投資対効果)が向上したりする結果が報告されています。これは、リーチ拡大やターゲティング精度向上に加え、iOSデバイス向け広告枠など、従来のCookieベースの広告と比較して入札競争が少ない(=CPMが低い)環境で配信できることも一因と考えられます。
- 運用効率の向上: キャンペーン設定からレポーティングまでを一元管理できる統合インターフェースにより、広告運用にかかる工数を削減し、効率化を図ることができます 。
- ブランドセーフティの確保: PMPやDOOH連携、あるいはビューアビリティ保証などの機能を通じて、広告掲載環境の質をコントロールし、ブランドイメージの毀損リスクを低減できます 。
- オムニチャネル展開: オンラインのディスプレイ広告や動画広告と、オフラインのDOOH広告を同一プラットフォーム上で統合的に管理・配信できるため、一貫性のあるオムニチャネル戦略の実行が可能になります 。
効果を示すデータと事例
IM-UID連携(Bypassが活用する主要なポストCookie技術)の効果を示す具体的な数値データが、複数の情報源で報告されています。以下にその一部をまとめます。
表1:IM-UID連携による報告されたパフォーマンス向上例
指標 | 報告された向上率/結果 | 文脈/情報源 | 備考 |
---|---|---|---|
CPA改善 | 約30% | Intimate Mergerによる広告配信 | 従来のCookieベース配信との比較 |
CPA改善 | 約130% | iOSリターゲティング配信(ギャンブル関連商材) | 従来のCookieベース配信との比較 |
CPA改善 | 約180% | iOS新規ユーザー獲得配信(サプリメント) | Cookieベース配信との比較、低CPM面の活用 |
CPA改善 | 約150% | iOSリターゲティング配信(クリニック) | Android配信との比較 |
CPA改善 | 約30% | Bypass「AI配信」機能実装後 | 実装前との比較 |
CPA改善 | 約10% | BypassとCA提供SSP連携事例 | 詳細不明 |
リーチ/配信量増加 | 約400% | iOSリターゲティング配信(クリニック) | – |
リーチ拡大 | 従来の3倍 | IM-UIDによるiOSユーザーへのリーチ | – |
収益向上 | 約550% | ギフト系ECサイト(Criteo + IM-UID連携) | 連携前後の約1ヶ月間比較 |
セッション率改善 | 200%以上 | コンテクスチュアルターゲティング vs オーディエンスターゲティング | – |
Safariインプレッション増 | 1.5倍 | IM-UID導入事例 | – |
コンバージョン数増加 | 約50% | Bypass「AI配信」機能実装後 | 実装前との比較 |
アカウント数 | 累計300アカウント突破 (Logicad + IM-UIDリターゲティング) | SMN LogicadにおけるIM-UID活用事例 | – |
導入企業数 | 170社以上 | IM-UID導入実績 | 多様な業界での導入 |
注意:これらの数値は特定のキャンペーンや条件下での結果であり、すべてのケースで同様の効果が保証されるものではありません。
これらのデータは、Bypassが活用するIM-UIDのようなポストCookieソリューションが、単なる理論上の可能性ではなく、実際に広告パフォーマンスの向上に貢献していることを示唆しています。特に、これまでアプローチが難しかったiOSユーザーへのリーチ拡大と、それに伴うCPA改善の事例が多く報告されている点は注目に値します。これは、競争の激しいAndroid/Cookieベースの広告枠と比較して、iOS/IM-UIDベースの広告枠が相対的に低い単価で獲得できる可能性があることを示唆しています。
また、Bypass自体の導入広告主数がサービス開始から約2年弱で2,000社 、その後7,000社超 、9,000社超 へと増加している事実は、市場におけるBypassの価値が認められ、採用が進んでいることの間接的な証拠と言えるでしょう。
DSP Bypass導入の実践ガイド
DSP Bypassを導入し、そのポストCookie対応機能を最大限に活用するためには、いくつかのステップと考慮事項があります。
導入ステップ
- アカウント開設: まず、ユナイテッドマーケティングテクノロジーズ株式会社(UMT)またはその代理店に連絡を取り、Bypassの利用申請を行います 。提供されている情報によれば、Bypass自体の初期費用やシステム利用料は無料である場合が多いようですが 、キャンペーンの種類や最低出稿金額などの条件が存在する可能性はあります 。
- IM-UID連携(ポストCookie対応の鍵):
- Intimate Mergerへの連絡: BypassでIM-UIDを活用するためには、別途、株式会社インティメート・マージャーに連絡し、IM-UID利用のための顧客ID(Customer ID)を取得する必要があります 。
- IM-UIDタグの実装: 取得した顧客IDを用いて、インティメート・マージャーから提供されるIM-UIDタグを、広告主のウェブサイトに実装します。タグ実装後、数日でデータの蓄積が開始されるとされています 。
- Bypassでの設定: Bypassの管理画面上で、取得したIM-UIDをターゲティングやリターゲティングに利用するための設定を行います 。具体的な設定手順はBypassのドキュメントやサポートで確認する必要がありますが、この連携がポストCookie戦略の核となります。
- キャンペーン設定: Bypassの管理画面を通じて、広告キャンペーンの目標(認知向上、コンバージョン獲得など)を設定し、予算、配信期間、ターゲティング条件(IM-UIDに基づくセグメント、地域、時間帯、デバイス、コンテキストなど)、クリエイティブ(バナー、動画など)を設定・入稿します。配信チャネルとして、通常のディスプレイ広告枠(Open RTB)、DOOH、あるいは利用可能であればPMPなどを選択します 。
主要な考慮事項と潜在的課題
- データ戦略の重要性: ファーストパーティデータを活用する場合、その収集、整理、そして活用に関する明確な戦略が不可欠です。同意取得のプロセスも含め、データガバナンス体制を整備する必要があります 。
- 効果測定とアトリビューション: ポストCookie時代においては、従来のCookieベースの効果測定やアトリビューション分析の手法が通用しなくなる可能性があります 。Bypassのレポーティング機能 やIM-UID連携による計測 がどの程度これを補完できるかを確認しつつ、必要に応じてブランドリフト調査など、ファネル全体を評価できる測定方法を取り入れる必要があります。
- IM-UIDの特性理解: IM-UIDは、ログインIDのような確定的な(Deterministic)IDではなく、複数のシグナルから統計的にユーザーを推定する確率的な(Probabilistic)IDです 。その精度は高いと報告されていますが 、100%の精度ではないことを理解しておく必要があります。
- 同意管理: 特にファーストパーティデータとIM-UIDを連携させる場合など、個人情報保護法や関連ガイドラインを遵守し、適切なユーザー同意(オプトイン/オプトアウト)管理メカニズムを導入・運用することが不可欠です 。
- リソース配分: Bypassの導入自体は比較的容易かもしれませんが 、その機能を最大限に活用し、継続的に成果を出すためには、他のDSP運用と同様に、戦略的なプランニング、クリエイティブ制作、効果測定、そして継続的な最適化のためのリソース(人材、時間、予算)が必要です 。
Bypassの導入は比較的シンプルに見えるかもしれませんが、その真価、特にポストCookie環境下での有効性を引き出すためには、IM-UID連携の正確な実装と戦略的な活用が鍵となります。広告主は、UMT/Bypassとインティメート・マージャーの両社と連携し、それぞれのソリューションの特性を理解した上で導入を進める必要があります。
結論:進化するDSPの役割と今後の展望
DSPの進化とBypassの位置づけ
ポストCookie時代への移行は、DSPの役割そのものを進化させています。単なる広告枠の自動買い付けツールから、多様なデータソース(共通ID、コンテクスチュアル情報、ファーストパーティデータ)、高度な測定ソリューション(ブランドリフト、アテンション測定など)、そして複数の広告チャネル(ディスプレイ、動画、DOOHなど)を統合的に管理・最適化する戦略的プラットフォームへと変貌を遂げつつあります 。DSP Bypassは、IM-UIDという強力なポストCookie識別子との連携 およびDOOHという新たなチャネルへの進出 を通じて、この進化のトレンドを体現しているプラットフォームの一つと言えます。
代替IDの重要性と将来性
サードパーティCookieに代わる共通IDやユニバーサルID(IM-UID、ID5 、RampID など)は、ポストCookieエコシステムにおいて、ユーザーのプライバシーを尊重しながらも広告のターゲティングや効果測定(アドレサビリティ)を維持するための重要な基盤技術となっています 。これらのIDソリューションは現在も開発と普及が進んでおり、今後、標準化や相互運用性の向上が期待されますが、同時にブラウザ側の制約を受けるリスクも存在します 。
ホリスティック(統合的)マーケティングへの移行
Cookieへの依存度が低下することで、マーケターはラストクリック偏重の評価から脱却し、ブランド認知から顧客ロイヤルティ向上まで、ファネル全体を俯瞰した統合的なマーケティング戦略を採用する必要性が高まっています 。Bypassのようなプラットフォームは、アッパーファネル施策(例:DOOHや広範なリーチ)とパフォーマンス施策(例:IM-UIDリターゲティング、CPA最適化)を連携させ、一貫した顧客体験を構築する上で役立ちます。また、GoogleやMetaといった巨大プラットフォームへの依存度を見直し、多様な広告媒体やDSPを活用することで、リスク分散とROI向上の機会を探る動きも加速するでしょう 。
広告主への最終提言
ポストCookie時代において、DSP Bypassのようなソリューションを活用し、成果を最大化するためには、以下の点が重要となります。
- 早期着手と検証: Cookieが完全に利用できなくなるのを待つのではなく、今すぐBypass + IM-UIDのようなソリューションの導入・テストを開始し、自社への影響を評価し、運用ノウハウを蓄積することが推奨されます 。自社の現状のCookie依存度を把握し、代替策を検討することが第一歩です 。
- 戦略の多様化: 単一のターゲティング手法に依存せず、IDベース(IM-UIDなど)、コンテクスチュアル、ファーストパーティデータ活用といった複数のアプローチを組み合わせ、ディスプレイ、動画、DOOHなど、チャネルも多様化させるべきです。
- ファーストパーティデータの優先: ユーザーの同意に基づいた質の高いファーストパーティデータの収集・整備・活用体制を構築することは、長期的な競争優位性の源泉となります。
- 測定基準の適応: ラストクリックアトリビューションの限界を認識し、ブランドリフト調査やアテンション指標など、キャンペーンの目的に合致した多角的な測定・評価方法を取り入れる必要があります。
- 戦略的パートナーシップ: ポストCookie時代を見据えて積極的に技術革新を進めているUMT/Bypassやインティメート・マージャーのようなテクノロジーパートナーを選定し、緊密に連携することが成功の鍵となります。
総括
DSP Bypassは、IM-UIDとの連携を核としたポストCookieソリューションへの注力と、DOOHという新たな領域への展開を通じて、広告主が直面する課題に対応し、将来に向けたより強靭で効果的、かつ統合的なマーケティング戦略を構築するための有力な選択肢を提供しています。ポストCookie時代は、DSP、IDソリューション、そして広告主自身の戦略が相互に連携し、進化していくことを求めています。Bypassは、この変化の潮流の中で、重要な役割を担う可能性を秘めたプラットフォームと言えるでしょう。

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