実購買データで発見する顧客像:従来の枠を超えたターゲティング術

ビジネスフレームワーク・マーケティング戦略
著者について

実店舗での購買データを活用して、競合商品購入者以外の意外なターゲット層を見つける方法を詳しく解説。データ分析から施策立案まで、実践的なマーケティング手法を紹介します。

なぜ今、実購買データが注目されているのか

デジタルマーケティングの世界では、より精度の高いターゲティングが求められています。従来のマーケティングでは、同カテゴリ内の競合商品購入者をターゲットにすることが一般的でした。しかし、市場が成熟し競争が激化する中で、新たな顧客獲得の手段として実購買データに基づいたターゲティングが注目を集めています。実購買データとは、消費者が実際に店舗やECサイトで購入した商品の詳細、価格、購入日時、個数、決済方法などのファクトデータのことです。これらのデータを分析することで、顧客の行動パターンや嗜好性を詳細に把握し、より効果的なマーケティング戦略を立てることができます。

私たちのチームでも、クライアント企業のマーケティング課題を解決するために実購買データの活用を提案していますが、多くの企業が「同カテゴリの競合商品購入者以外にどんなターゲットがいるのか」という課題を抱えています。実は、従来の視点だけでは見落としがちな市場が存在するのです。例えば、あるノンアルコール飲料のケースでは、同カテゴリの市場規模が小さく、既に寡占状態になっていたため、新たなアプローチが必要でした。このように、ライフスタイルの変化による競合の変化など、同カテゴリだけを見ていては気づかない市場機会が眠っているのです。

実購買データの種類と収集方法

実購買データを活用するには、まずどのようなデータがあり、どう収集するかを理解する必要があります。代表的な実購買データとしては、POSデータ、ECサイトの購入履歴、会員カードのポイント利用データなどがあります。

例えば、CCCマーケティングのTカード利用データでは、年間利用者数7,000万人超の購買情報をレシート単位で保有しています。これには基本属性(性別、年齢など)、生活属性(ライフスタイル、年収、未既婚など)、消費の活動地データ、志向性などが含まれています。また、ロイヤリティマーケティングが提供するPonta会員の実店舗での購買データも、マーケティング活動に活用されています。

これらのデータは、個人情報保護に配慮しながら、IDを軸に様々なデータと連携されています。たとえば、WEB行動データやTV視聴データと組み合わせることで、オンラインとオフラインの行動を統合的に分析することができます。重要なのは、これらのデータを単に収集するだけでなく、マーケティング目標に合わせて適切に活用することです。

カテゴリを超えた意外なターゲット発見法

実購買データの真の価値は、自社商品・サービスのカテゴリーを超えた意外なターゲット層を発見できる点にあります。従来のアプローチでは、例えばノンアルコール飲料を販売する場合、同カテゴリのノンアルコール飲料購入者をターゲットにします。しかし、実購買データを分析すると、全く異なるカテゴリーの商品を購入している層が潜在顧客になり得ることが分かります。

あるケースでは、食品メーカーが実施した広告配信において、「自社同一商品」の購入者だけでなく、「同一カテゴリー商品」や「併売カテゴリー商品」を購入した人に対しても効果的なアプローチができることが判明しました。具体的には、購買データなしの配信ユーザーと比較して、同一カテゴリー商品購入者は3倍、併売カテゴリー商品購入者は4倍、自社同一商品購入者は10倍のROI(投資対効果)を示したのです。

このような分析を行うためには、クラスター分析などの手法を用いて購買行動パターンを分類します。例えば、インテージの分析では、アルコール飲料の購買データを用いて7つの購買行動パターンに分類し、それぞれのクラスターに最適なコミュニケーション戦略を検討しています。こうした手法により、市場全体に占める構成比は小さくても、将来的に重要になる可能性のあるセグメントを見出すことができるのです。

データ統合による精度の高いターゲティング

実購買データの効果を更に高めるには、他のデータと統合することが重要です。特に、デジタル広告と購買データを連携させることで、精度の高いターゲティングと効果測定が可能になります。ロイヤリティマーケティングでは、Ponta会員IDをLINE・Facebook/Instagram・X(旧Twitter)・Google・YouTubeなどのメディアと連携し、リアル店舗での購買データを活用したデジタル広告配信を行っています。

また、購買データだけでなく、会員情報やアンケート情報などを組み合わせることも効果的です。ある金融サービスの事例では、購買・行動データと会員登録情報から年収の高いターゲットを推定し、さらにFacebookで類似拡張を行うことで、効率的な契約獲得につなげました。

データ統合の際に注目すべきは「カスタマーデータプラットフォーム(CDP)」です。CDPとは、複数のタッチポイントからデータを収集・統合し、詳細な顧客プロファイルを作成するシステムのことです。これにより、顧客が「どこでエンゲージメントを高め、どこでドロップオフしているか」を正確に把握できるようになります1。購買データをCDPに統合することで、オンラインとオフラインの行動を一元的に把握し、顧客一人ひとりに最適なアプローチが可能になるのです。

実践的な購買データ活用ステップ

実購買データを活用したターゲティングを実践するには、具体的なステップを踏む必要があります。以下に、効果的な実装方法を紹介します。

まず、目標設定から始めましょう。「新規顧客の獲得」「既存顧客の育成」「離脱防止」など、マーケティング課題を明確にします。例えば、「新規顧客獲得プログラム」では、自社顧客になる前の購買行動を可視化することで、自社商品に興味を持っている顧客を効率的に抽出できます。

次に、データの収集と分析を行います。この段階では、単にデータを集めるだけでなく、購買行動のパターンを見出すことが重要です。例えば、バスケット分析を用いれば、同時に購入されやすい商品の組み合わせを発見でき、セグメンテーション分析では顧客を属性や行動に基づいて分類できます。

分析結果に基づいて、ターゲットセグメントを作成し、それぞれに最適なコミュニケーション方針を決定します。インテージの事例では、アルコール飲料購入者を7つのクラスターに分け、各クラスターに適したアプローチを検討しています。例えば、「他の人に先駆けて新商品に手を伸ばす」傾向のあるクラスターには新商品情報を、「売れているものに関心がある」クラスターには人気商品の情報を届けるなど、特性に合わせた戦略が必要です。

最後に、実際にキャンペーンを実施し、効果測定・改善のサイクルを回します。スマートキャンペーンのように、小売アプリを通じてプロモーションを配信し、その効果を実購買データで検証する仕組みを活用すれば、PDCAサイクルを効率的に回すことができます。

成功事例に学ぶターゲティング手法

実購買データを活用したターゲティングの成功事例から学べることは多くあります。以下に、実際のケースから得られる知見を紹介します。

ある食品メーカーの事例では、Instagramで広告を配信する際に、ID-POSデータを活用してターゲティングしました。その結果、自社商品の既存購買者だけでなく、同一カテゴリー商品購入者や併売カテゴリー商品購入者にも効果的にアプローチできることが判明しました。これは、単純に競合商品購入者をターゲットにするだけでなく、関連カテゴリーの購入者にもアプローチする重要性を示しています。

また、小売業者の事例では、商圏内の購買データと既存顧客データを組み合わせたターゲティングにより、高いROIを実現しています。具体的には、「対象小売店の半径500メートル以内のPonta提携店の利用者データから既存利用者を除いたセグメント」と「既存利用者データをFacebookで類似拡張し既存利用者を除いたセグメント」に広告を配信することで、それぞれ7倍と9倍のROIを達成しました3

これらの事例から、実購買データを活用する際には、単純な競合商品購入者だけでなく、地理的近接性や行動の類似性など、多角的な視点でターゲットを発掘することの重要性が分かります。

実購買データで発見する顧客像

実購買データの分析は、AI技術の発展によってさらに高度化しています。AIを活用することで、人間の力では把握しきれない複雑なパターンを見出し、より精緻なターゲティングが可能になります。

例えば、AI技術を用いた顧客行動分析では、優良見込み客の抽出、レコメンド精度の向上、解約予備軍へのアプローチなどが効率的に行えるようになります。具体的には、AIシステムにデータをインプットすることで優良顧客を効率的に抽出したり、ユーザーの閲覧履歴や購買情報から好みを分析して関連性の高い商品を提案したりできます。

また、自動化ツールを活用することで、入札、ターゲティング、広告クリエイティブのテストなどを効率化できます。GoogleのPerformance MaxやMetaのAdvantage+ Shopping Campaignsなどのツールは、獲得コストを下げながらも効果的なターゲティングを実現します。

さらに、パーソナライゼーションの領域でもAIの活用が進んでいます。Adobe TargetやOptimizelyなどのプラットフォームは、機械学習を用いてユーザーの行動に基づいたパーソナライズされたコンテンツやレコメンデーションを提供します1。これにより、実購買データから得られた知見をリアルタイムで活用し、顧客一人ひとりに最適なコミュニケーションが可能になるのです。

まとめ:購買データ活用の実践ポイント

実購買データを活用した新たなコミュニケーションターゲットの発掘は、デジタルマーケティングにおいて重要な戦略の一つとなっています。本記事のポイントをまとめると以下のようになります。

  1. 同カテゴリの競合商品購入者だけでなく、意外な関連性を持つカテゴリの購入者にも目を向けることで、新たな顧客層を発見できる。

  2. 実購買データは、POSデータ、会員カードのポイント利用データ、ECサイトの購入履歴など多岐にわたり、これらを統合的に活用することが重要。

  3. クラスター分析などの手法を用いて購買行動パターンを分類し、それぞれのセグメントに適したコミュニケーション戦略を立てる。

  4. 購買データとデジタル広告の連携により、精度の高いターゲティングと効果測定が可能になる。

  5. 顧客の獲得から育成、定着、離脱防止まで、各段階に合わせた施策を検討する。

  6. AI技術の活用により、さらに高度な購買データ分析とパーソナライゼーションが実現できる。

実購買データの活用は単なるテクニックではなく、顧客理解を深め、より関連性の高いコミュニケーションを実現するための手段です。データに基づいた施策を展開することで、マーケティング効果の向上とROIの改善を実現しましょう。データの取り扱いには個人情報保護の観点から十分な配慮が必要ですが、適切に活用することで顧客と企業の双方にとって価値のある関係構築が可能になります。