日本の課徴金制度とは?法違反抑止と個人データ保護の目的と効果

簗島 亮次

課徴金制度に関する詳細を以下にまとめます。

課徴金制度の目的と背景

  • 課徴金制度は、違反行為の経済的誘因を小さくすることにより、違反行為を抑止することを目的として導入される行政上の措置です。
  • 事後チェック型を志向する現代の市場経済社会において、重要な法執行上の役割を果たすと指摘されています。
  • 過去の法改正においても継続的に議論されており、個人情報保護法における課徴金制度の導入は、長らく検討課題とされてきました。
  • 現行法では、指導・助言、勧告、命令といった行政上の監督権限がありますが、違反事業者が勧告や命令を受けた後に違反行為を中止すれば、罰則の適用もなく、違反行為から得た経済的利得をそのまま保持することも可能であるという課題があります。

課徴金制度を検討する立法事実

  • 現行法では、違反行為者が得た違法収益を吐き出させる仕組みがない点が立法事実となると考えられています。
  • 刑事罰等の既存の制度は、課徴金とは目的が異なり、違反行為に対する抑止効果が十分ではないという指摘があります。
  • 悪質な違反行為の防止にも役立つ可能性があり、課徴金制度がないことで日本が悪質な事業者から狙われやすくなるという懸念も立法事実として挙げられています。
  • 一方で、現行制度における監督規定等が十分に活用されていないため、まずはこれらのツールを最大限活用すべきとの意見もあります。
  • 課徴金制度がないがゆえに、エンフォースメントが十分ではない、法目的が果たされないという点が未だ明らかになっておらず、立法事実が十分に示されていないという意見もあります。

課徴金制度が適正なデータ利活用に与える影響

  • 課徴金制度を導入する際には、対象範囲を明確に限定し、透明性や予見可能性を高める必要があります。
  • 対象範囲が広く漠然としていると、事業者による個人データ利活用に対する萎縮効果が生じる可能性があります。
  • 課徴金の対象範囲を限定し、額の算定方法を適切に設計することにより、真に悪質な行為に適切に課徴金を課すことは、適法な行為を奨励し、健全な個人データ利活用を促す可能性があります。

国内他法令における課徴金制度との関係

  • 独占禁止法、金融商品取引法、公認会計士法、景品表示法、薬機法など、様々な分野で課徴金制度が導入されています。
  • 個人情報の取扱いについても、違反行為に経済的誘因がある事例や、安全管理措置に関する義務違反において、本来負担すべき支出を削減したと考えられ、経済的誘因があるとする考え方も可能です。
  • 安全管理措置義務違反の場合は、経済的誘因が考えづらいという意見もあります。
  • 課徴金制度の運用には執行体制の充実が必要であり、委員会と公正取引委員会との権能の違いから、委員会での運用が難しいとの意見もありますが、通常の行政調査権限で運用可能であり、問題はないとの意見もあります。

外国制度との関係

  • G7諸国をはじめ、多くの国で個人情報保護法に制裁金制度が規定されており、法執行が行われています。
  • 海外には厳しい制裁金制度がある国が多いですが、それらの国においても、事業者はイノベーションを起こしながら活動していると考えられます。
  • EUはデータの保護と利活用のバランスを取りながら、イノベーションを推進しており、日本もデータ利活用を一層進めるためにも、個人の権利利益の保護のために必要な制度を整備していくことは重要です。
  • 日本だけが課徴金を課していないことが、日本は悪質な行為に対して十分な抑止をしない国だという誤ったメッセージを与えかねないという懸念があります。
  • 一方で、課徴金制度を導入するか否かのみに焦点が集中しているため、二項対立に陥っているという指摘や、G7の経済界などから「日本に課徴金制度がないがゆえにデータ移転が起こらない」といったことは聞いていないという意見もあります。

課徴金納付命令の対象となる範囲

  • 課徴金納付命令の対象範囲は、種々の要件により限定することが考えられます。
  • 具体的には、対象行為(事態)を限定する、違反行為者の主観的要素により限定する、個人の権利利益が侵害された場合等に限定する、大規模な違反行為が行われた場合等に限定するといった方法が考えられます。
  • 違法な第三者提供に関しては、深刻な個人の権利利益の侵害につながる可能性が高く、緊急命令の対象となっている重要な規制に違反する行為類型を対象とし、剥奪すべき違法な収益が観念できるものに限定することが考えられます。
    • 具体的には、**法第27条第1項(第三者提供の制限)、法第19条(不適正な利用の禁止)、法第18条(利用目的による制限)、法第20条(適正な取得)**の規定に違反する行為で、金銭その他の財産上の利益を得る行為が対象となります。
    • 事務局資料で示された対象行為と具体的な行為例との間にギャップがあるという指摘や、対象範囲が分かりにくいという意見もあります。
    • 課徴金制度の本質は権利利益の侵害に対する制裁であり、具体的な収益がなくとも対象とすべきとの意見もあります。
  • 主観的要素に関しては、違反事業者が適切な注意を尽くしていた場合は対象外とするべきであり、違反行為を防止するための相当の注意を怠っていない場合は、課徴金納付命令の対象から外すことが考えられます。
  • 個人の権利利益が侵害された場合に限定することにより、課徴金制度が過剰な規制となることを防ぐことが考えられます。
    • 「個人の権利利益が侵害される具体的なおそれ」という要件は不明確であるという懸念や、この要件は委員会の権限を狭めるものであり、事業者側の懸念が増すことはないという意見もあります。
  • 大規模な違反行為に限定することで、より抑止の必要性が高い事案に監督権限を集中させることが考えられます。
    • 違反行為に係る本人の数が1,000人を基準として限定することが考えられます。
    • 本人の数が少ない場合でも、深刻な被害を受けた人がいる場合には、課徴金納付命令の対象とならないことを懸念する意見もあります。
  • 漏えい等・安全管理措置義務違反に関しても、安全管理措置義務違反に起因して大規模な個人データの漏えい等が発生した場合に限定することが考えられます。
    • 漏えい等した個人データに係る本人の数が1,000人を基準として限定することが考えられます。
    • 安全管理措置義務違反の場合は経済的誘因が考えづらいという意見もあります。
    • 違反事業者が安全管理措置義務違反を防止するための「相当の注意を著しく怠っていない場合」は対象外とすることが考えられます。
    • 中小企業への目配りや、業界ごとの対策の水準を考慮する必要があるとの意見もあります。
    • 安全管理措置義務として要求される水準の議論とは区別して、事業規模を問わず常識的な対応をしていないと評価できるようなものを対象とすればよいという意見もあります。
    • 安全管理措置の基準そのものの充実についても検討を深めていくべきだという意見もあります.
  • 対象行為に係る議論を十分に踏まえ、課徴金制度を導入する場合には、基本となる考え方を明らかにした上で、対象となる、あるいは対象とならない具体例等について充実した形で示していくこと等が考えられます。

課徴金の算定方法

  • 違法な第三者提供に関しては、違反事業者が違反行為によって得た財産的利益の全額を課徴金額とすることが考えられます。
    • 違反行為をより実効的に抑止する観点から、当該財産的利益の全額を上回る金額を課徴金額とすることも考えられます。
    • 課徴金額の算定基礎に係る推計規定を導入することも考えられます。
  • 漏えい等・安全管理措置義務違反に関しては、安全管理措置を講じていれば負担していたであろうコストと、実際に講じた安全管理措置のために支出したコストとの差額や、取引数量の増加分に伴う利益の増加額に着目するという考え方もあります。
    • 事業活動により生じた売上額に一定の「算定率」を乗じることによって課徴金額を算定することも考えられます。
    • 違反行為そのものと直接関係しない事業者の売上全部を課徴金の算定式に含めることは、妥当性に疑問があるという意見があります。
    • 課徴金制度は違反行為の抑止を目的とした制度であり、違法収益の没収自体を目的とした制度ではないという意見もあります。
    • 安全管理措置義務違反について、違反事業者が違反行為をした期間における事業活動により生じた売上高に基づく算定方法を採用する場合、対象期間が極めて長期間になるのではないかという懸念があります。
  • 自主的報告に係る減算規定として、事業者が自らの違反行為を発見した場合に自ら対処するインセンティブを与える観点から、減算規定を設けることが考えられます。
  • 繰り返し違反に係る加算規定として、違反行為を繰り返す事業者に対して、通常の場合の課徴金額の1.5倍の課徴金額を賦課することが考えられます。
  • 企業による返金措置と課徴金制度の関係については、返金の相手方が違反行為に係る個人情報の本人ではない場合があることや、景品表示法における減額規定の運用実態などを踏まえて検討する必要があります。

その他

  • 違反行為が終了した後も課徴金を課されるリスクが半永久的に継続する事態を回避するため、除斥期間を設定することが考えられます。
  • 課徴金制度において執行機関に裁量を持たせるか否かについて検討する必要があります。
  • 違反事業者の権利保護のため、適正手続の確保が必要となります。
  • 海外事業者や所在不明事業者に対する課徴金制度の実効性について懸念が示されていますが、国内に代表者がいる場合は代表者を介して、いない場合でも公示送達などを活用することで、対応が可能とされています。

今後の検討の進め方

  • 「個人情報保護法のいわゆる3年ごと見直しに関する検討会」において、課徴金制度を含む様々な論点について議論・検討を深める予定です。
  • 幅広いステークホルダーとの対話を重視し、透明性の高い形で議論を進めることが必要です。
  • グローバルな動向や最新の技術動向を踏まえ、関係省庁とも連携を強化していく予定です。
  • 個人情報保護政策が踏まえるべき基本的事項について議論を開始し、視座を確認することが重要です。
  • 事業者のガバナンスを基礎とした制度設計を行うとともに、こども、生体データ、リスクに応じた漏えい等報告、統計等利用、契約履行等に係る特例などの個別論点についても検討を進める予定です。