金融包摂の進展と、従来の信用スコアリングモデルの限界を背景に、近年、オルタナティブクレジットスコアリングが注目を集めています。これは、従来の信用情報に加え、公共料金の支払い状況や携帯電話の使用状況、ソーシャルメディアの活動履歴など、多様な代替データを用いることで、より包括的な信用評価を可能にするものです。
しかし、金融機関がオルタナティブクレジットスコアを導入する際には、克服すべきいくつかの課題が存在します。本稿では、金融機関が直面する主要な課題として、データの品質と正確性、規制遵守、倫理的な配慮の3点を挙げ、それぞれについて詳しく解説します。
データの品質と正確性の確保
オルタナティブクレジットスコアは、その精度と信頼性が、利用するデータの質に大きく依存します。しかし、代替データは、従来の信用情報とは異なり、標準化された形式や収集プロセスが確立されていないケースも多く、その品質や正確性を確保することが課題となります。
- データソースの信頼性: オルタナティブデータを提供する事業者は多岐にわたり、その信頼性も一様ではありません。金融機関は、データソースの選定にあたり、その事業者の実績、データの収集方法、正確性などを慎重に評価する必要があります。
- データの形式のばらつき: オルタナティブデータは、その種類や提供元によって、形式や構造が大きく異なる場合があります。そのため、金融機関は、これらのデータを統合的に管理・分析するために、データの前処理や標準化に係るコストや手間がかかります。
- リアルタイム性の確保: 信用評価においては、最新の情報に基づいた判断が重要となります。しかし、代替データの中には、更新頻度が低く、リアルタイム性に欠けるものも存在します。
金融機関は、これらの課題を解決するために、信頼できるデータプロバイダーとの連携、データ品質管理のための専門チームの設置、AIや機械学習を活用したデータクリーニングなどの対策を講じる必要があります。
複雑化する規制への対応
オルタナティブクレジットスコアリングは、個人情報の保護や差別禁止など、従来の信用スコアリング以上に複雑な法規制の対象となります。金融機関は、これらの規制に準拠するために、適切な法的助言を得ながら、システムや業務プロセスを構築していく必要があります。
- 個人情報保護法: オルタナティブデータには、個人の経済状況、行動履歴、交友関係など、プライバシーに関わる情報が含まれるケースも少なくありません。金融機関は、個人情報保護法を遵守し、データの収集、利用、保管において、適切な安全管理措置を講じる必要があります。 特に、欧州連合の「一般データ保護規則(GDPR)」や、米国の「カリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)」など、近年、世界各国で個人情報保護の規制が強化されており、金融機関はこれらの最新動向を常に注視し、対応していく必要があります。
- 差別禁止法: オルタナティブクレジットスコアリングにおいても、特定の属性(人種、民族、性別、宗教など)に基づく差別的な取り扱いは、法律で禁止されています。金融機関は、代替データの利用が意図せず差別的な結果をもたらさないよう、アルゴリズムの設計や運用において、公平性を担保するための対策を講じる必要があります。
倫理的な配慮と透明性の確保
オルタナティブクレジットスコアは、従来のスコアリングでは考慮されなかったような、個人のプライバシーに関わる情報を利用する可能性があり、その利用には倫理的な配慮が求められます。金融機関は、顧客の理解と信頼を得るために、オルタナティブデータの利用目的、方法、影響などを透明化し、説明責任を果たしていく必要があります。
- 説明責任の強化: オルタナティブクレジットスコアリングは、複雑なアルゴリズムに基づいており、その評価プロセスがブラックボックス化してしまう可能性があります。 金融機関は、顧客に対して、なぜその信用スコアが算出されたのか、どのようなデータがどのように影響したのかを、分かりやすく説明する責任を負います。
- 顧客の理解と同意: 金融機関は、オルタナティブデータの利用にあたり、顧客に対して、その目的、方法、リスクなどを明確に説明し、同意を得る必要があります。 また、顧客が自身のデータの利用状況を把握し、必要に応じて修正や削除を要求できるような仕組みを構築することが重要となります。
- 社会的影響への配慮: オルタナティブクレジットスコアリングの導入は、社会全体に大きな影響を与える可能性があります。 金融機関は、その影響を慎重に見極め、社会的責任を果たしていく必要があります。 例えば、代替データの利用によって、特定の地域や属性の人々が不利な立場に置かれないよう、配慮する必要があります。
オルタナティブクレジットスコアリングは、従来のスコアリングモデルの限界を克服し、より多くの人々に金融サービスへのアクセスを提供できる可能性を秘めています。しかし、同時に、データの品質と正確性、規制遵守、倫理的な配慮といった課題にも直面しています。金融機関は、これらの課題に適切に対処することで、オルタナティブクレジットスコアリングを、顧客と社会全体にとって有益なものとしていくことが求められます。
株式会社インティメート・マージャー代表取締役社長。
インティメート・マージャーでアドテクノロジーの事業領域で収集したオルタナティブデータを他の事業領域でも活用していく取り組みにトライしています。
この記事の中ではオルタナティブデータのセールステック領域での活用(インテントデータ)、小売領域での活用(リテールデータ)、金融領域での活用(クレジットスコア)、リサーチ用のデータ(インサイトデータ)などでの活用事例や海外での事例をご紹介させていただいています。
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