Google Cloudは2025年12月、「Model Context Protocol(MCP)」に対する公式サポートを発表し、Google Cloudおよび各種Googleサービスを、標準化されたかたちでAIエージェントから利用できるようにする構想を明らかにしました。
Anthropicが提唱するMCPは、しばしば「AI版USB-C」と呼ばれるように、さまざまなAIモデルと外部ツール・データソースをつなぐ共通インターフェースです。これにGoogleが正式対応したことで、Gemini 3などのモデルだけでなく、BigQueryやGoogle Maps、GCE、GKEといったインフラレイヤーまで、エージェントAIから一貫した方法で扱えるようになっていきます。
本記事では、Google Cloud Blogの発表内容をベースにしつつ、マーケティング担当者・マーケエンジニア目線で 「何が変わるのか」「どこにビジネスチャンスがあるのか」を整理します。
MCPとは何か:AIエージェント時代の共通コネクタ
Model Context Protocol(MCP)の基本イメージ
Model Context Protocol(MCP)は、LLM(大規模言語モデル)やエージェントAIが、外部のツールやデータソースにアクセスするための標準プロトコルです。Anthropicが中心となって仕様策定が進んでおり、複数のプラットフォームが採用・実装を進めています。
従来は、モデルごと・サービスごとに独自のプラグインやAPI連携を構築する必要がありましたが、MCPに対応することで、
- 「どのモデルからでも、同じルールでツールにアクセスできる」
- 「ツール側も、MCP対応サーバーとして一度用意すれば、複数モデル・クライアントから再利用できる」
といったメリットが生まれます。特にエージェントAIのように、複数のAPIやサービスをまたいでマルチステップのタスクを実行するケースでは、MCPのような共通レイヤーがあることが重要になります。
Googleの公式MCPサポートの全体像
「フルマネージドMCPサーバー」を提供
今回の発表のポイントは、Googleが自社サービス向けにフルマネージドのリモートMCPサーバーを提供することです。
これまでもコミュニティベースでGoogle向けのMCPサーバー実装は存在していましたが、
- 開発者が自分でサーバーをインストール・運用する必要がある
- 環境によって実装がバラバラで、壊れやすい・メンテされないケースがある
といった課題がありました。今回、Google公式のマネージドMCPサーバーが提供されることで、 Gemini CLIや他社のMCP対応クライアントから、グローバルに一貫したエンドポイントを利用できるようになります。
Apigeeとの連携で「自社API」もエージェントから利用可能に
Googleは、Google Cloudの各種サービスだけでなく、Apigee経由で企業の独自APIやサードパーティAPIもMCPツールとして公開できることも併せて発表しています。
これにより、以下のような世界観が見えてきます。
- BigQueryやMapsなどのGoogle公式ツール
- Apigee経由で公開された社内システムのAPI
- 外部パートナーが提供するAPI
これらをMCPという共通の枠組みで「エージェントから見て使えるツール」として管理できるようになります。マーケティング組織が持つCDPやキャンペーン管理システムのAPIも、将来的には「エージェント用ツール」として整理することが自然になっていくでしょう。
第1弾対応サービス:Maps / BigQuery / GCE / GKE
Googleは、すべてのサービスを一気にMCP対応するのではなく、まずは以下の4つから段階的にリリースしていく方針を示しています。
Google Maps:現実世界に「根ざした」エージェントをつくる
まず対応するのが、Google Maps Platformの「Maps Grounding Lite」です。これは、AIエージェントが最新の地理情報にアクセスし、場所・天候・移動ルートなどの現実世界の情報を元に回答できるようにする仕組みです。
例えば、エージェントが次のような質問に答えられるようになります。
- 「この賃貸物件から一番近い公園までの距離は?」
- 「今週末ロサンゼルスに行く場合、どんな服装がおすすめ?」
- 「宿泊予定ホテルの近くで、子ども連れ向けのレストランを教えて」
マーケティング観点では、
- 店舗やイベントのロケーション選定
- 現地体験を重視するブランドキャンペーンの企画
- ジオターゲティングと連動したオファー設計
などで、「場所の文脈」を理解できるエージェントを作れるようになる点が重要です。
BigQuery:エージェントが直接クエリを実行する
BigQuery向けのMCPサーバーは、エージェントがBigQueryのスキーマを解釈し、直接クエリを発行できるようにするものです。特徴は、データをモデルのコンテキストに丸ごとコピーせず、BigQuery上に保持したまま推論に活用できるという点です。
これにより、次のようなユースケースが想定されます。
- マーケティングデータウェアハウス上のデータを、エージェントが自律的に集計・可視化・解釈する
- 売上・在庫・キャンペーン実績などを横断的に参照し、「来月の売上予測」や「施策ごとの寄与度」を推定する
- レポート作成エージェントが、データ取得から要約作成までを一気通貫で実行する
マーケティング組織がBigQueryをデータ基盤として使っている場合、「人間がSQLを書いていたタスク」を徐々にエージェントへ任せていくことが現実的になりそうです。
Google Compute Engine(GCE):インフラ運用エージェント
GCE向けのMCPサーバーは、インスタンスのプロビジョニングやリサイズといった操作を、エージェントから「ツール」として呼び出せるようにするものです。これにより、エージェントがワークロードに応じて自律的にインフラを調整するシナリオが見えてきます。
マーケティング直結の話ではありませんが、広告配信ロジックやレコメンドシステムのようなバックエンドが動いているインフラを、エージェントが自律的にスケールさせるなど、「マーケ×インフラ」の連携を考える上で重要な基盤になります。
Google Kubernetes Engine(GKE):コンテナ運用エージェント
GKE向けMCPサーバーでは、エージェントがGKEおよびKubernetes APIと対話し、クラスタ運用を支援できます。CLI出力のテキストを解析するのではなく、構造化されたインターフェースとして操作できる点がポイントです。
エージェントは、障害の診断や自動復旧、コスト最適化といったタスクを、必要に応じて人間の承認を挟みながら実行できます。マーケティングシステム側から見れば、「キャンペーンピーク時のアクセス増に備えて、エージェントがインフラを事前調整する」といった活用も将来的に視野に入ってきます。
APIレジストリとセキュリティ:エージェント用ツールカタログとしての役割
Cloud API RegistryとApigee API Hub
Googleは、MCP対応の拡大と合わせて、Cloud API RegistryおよびApigee API Hubを「信頼できるMCPツールを発見するためのカタログ」として位置づけています。
これにより、
- Google公式のMCPツール → Cloud API Registryから発見
- 自社がApigeeで公開したAPI → API Hubから発見
といった使い分けが可能になります。マーケティング組織が独自に持つKPIダッシュボードAPIや、キャンペーン管理APIなども、将来的には「エージェント向けのツール」としてこのハブに掲載されるイメージです。
IAM・監査ログ・Model Armorなどのセキュリティ機能
MCPを通じて多くのツール・データにアクセスすることになるため、Googleはセキュリティとガバナンス面も併せて強調しています。
- Google Cloud IAM:どのユーザー・エージェントがどのツールにアクセスできるかを制御
- Audit Logging:どのツールがいつ・どのように使われたかを追跡可能
- Model Armor:間接的なプロンプトインジェクションなど、エージェント特有の攻撃に対する防御
エージェントが自律的にデータへアクセスしアクションを実行する世界では、「誰が何をしたか」を追跡できる仕組みが特に重要です。マーケティングデータや機密度の高いKPIにエージェントが触れる場合、このレベルの統制は必須になると考えられます。
小売ロケーション選定の例:Googleの公式ユースケース
Google Cloud Blogでは、MCP対応のユースケースとして、小売店舗の出店候補地を選定するエージェントが紹介されています。
このエージェントは、GoogleのAgent Development Kit(ADK)とGemini 3 Proを用い、以下のような動作を行います。
- BigQueryに保存された売上データを使って、候補エリアごとの売上予測を行う
- Google Mapsのデータから、周辺の競合・補完ビジネス・配送ルート等を確認する
- これらの情報を組み合わせて、候補地ごとの評価や推奨度を提示する
いずれも、MCP対応のBigQuery・Mapsサーバーを経由して行われるため、エージェント側から見ると「売上予測ツール」「地図情報ツール」という抽象的なツールとして扱うことができます。プロトコルの内部実装を意識せずに、マーケターやアナリストが自然言語でエージェントに相談できる世界に一歩近づいたと言えるでしょう。
今後MCP対応予定のサービスと、マーケ組織へのインパクト
Googleは、今後数カ月で以下のようなサービス群にもMCP対応を広げるとしています。
- プロジェクト・インフラ系:Cloud Run, Cloud Storage, Cloud Resource Manager など
- データベース・アナリティクス:AlloyDB, Cloud SQL, Spanner, Looker, Pub/Sub, Dataplex Universal Catalog など
- セキュリティ:Google Security Operations(SecOps)
- 運用系:Cloud Logging, Cloud Monitoring など
- その他Googleサービス:Developer Knowledge API, Android Management API など
マーケティング部門にとっては、特に以下の点が大きな意味を持ちます。
- CDPやDWH・BIツールとエージェントが標準化された形で接続される
- ログ・モニタリング情報を元に、キャンペーン影響やサイト体験のボトルネック分析を自動化できる
- 運用・セキュリティ情報も含めた「全社的なシグナル」を、エージェントが横断的に参照・提案に反映できる
また、Googleは「Agentic AI Foundation」の創設メンバーとして、MCPの進化にも継続的にコミットしていくと表明しており、MCPがエージェントAIの事実上の標準になっていく可能性も高まっています。
マーケター・マーケエンジニアが今から準備すべきこと
自社の「エージェントに開放したいAPI」を棚卸しする
Apigeeとの連携により、自社APIをエージェント向けツールとして公開できるようになるため、まずは次のような観点で棚卸しを行うとよいでしょう。
- キャンペーン管理・広告配信状況を取得できるAPI
- 顧客セグメントやスコアリング結果にアクセスするAPI
- 在庫・価格・商品情報を参照できるAPI
これらを「人間がダッシュボードから見る」前提ではなく、「エージェントが直接呼び出す」前提に切り替えることで、マーケティングオートメーションの幅が広がります。
BigQueryを前提にしたデータ設計にシフトする
BigQueryのMCP対応は、エージェントAIをデータ分析に組み込むうえで大きな意味を持ちます。すでにBigQueryを利用している企業は、
- テーブル・ビューの命名規則やスキーマ設計を、エージェントが解釈しやすい形に整える
- マーケティングKPIを計算するビューを標準化し、「エージェントが参照すべき指標」を明確にする
- 権限・データマスキングなどを整備し、エージェントに見せてよいデータ範囲を管理する
といった観点で準備しておくと、MCP対応エージェントを導入した際にスムーズに活用を進めやすくなります。
「エージェント用ブリーフ」の書き方をチームで共有する
MCP対応によって、エージェントは多くのツールを使えるようになりますが、それを使いこなせるかどうかは「指示(ブリーフ)の質」に大きく依存します。マーケティングチームとして、
- エージェントに伝えるべきゴール・制約・利用可能ツールをテンプレート化する
- 「どのツールを優先的に使ってほしいか」「使ってほしくないツール」は明記する
- 実行結果のレビューとフィードバックをルーティン化し、プロンプトや設定を継続的に改善する
といった運用を回していくことで、エージェントの精度と信頼性を高めることができます。
まとめ:エージェントAIの「標準インターフェース」を押さえておく
GoogleのMCP公式サポートは、表面的には「Gemini 3をはじめとしたモデル群を、Googleサービスとより深く連携させるための発表」に見えます。しかし、マーケティング担当者にとっての本質は、
- BigQuery・Maps・インフラ・自社APIなど、ビジネスの基盤となるサービスを、エージェントAIから標準的な方法で利用できるようになる
- Cloud API Registry / Apigee API Hub / IAM / Audit Logging / Model Armorなどを通じて、「エージェント用ツールとガバナンス」をセットで設計できる
- 結果として、「人間×エージェント×API」の三位一体でマーケティングオペレーションを考える時代が近づいている
という点にあります。
今後、Google以外のプラットフォームも含めてMCP対応が進めば、「どのモデルを使うか」よりも、「どのツールとどうつなげるか」「どのようなエージェントを設計するか」が、マーケティング競争力の差になっていくでしょう。
今回の発表をきっかけに、自社のデータ基盤・API群・業務フローを見直し、「エージェントから見て使いやすい状態か?」という視点で整理を始めてみてはいかがでしょうか。
参考サイト
Google Cloud「Announcing Model Context Protocol (MCP) support for Google services」

「IMデジタルマーケティングニュース」編集者として、最新のトレンドやテクニックを分かりやすく解説しています。業界の変化に対応し、読者の成功をサポートする記事をお届けしています。

