カスタマーサポート(CS)の世界は急速に変化しています。生成AIの普及に続き、より進化したAIエージェントの登場により、企業のCS戦略にも新たな選択肢が生まれました。しかし、これら2つのAI技術の違いや、どのような場面で使い分けるべきかについては、まだ多くの企業が模索している段階です。
✨ 本記事のポイント
- 生成AIとAIエージェントの明確な違いを理解する
- CS業務における最適な使い分け方を学ぶ
- 導入事例から効果的な活用方法を知る
- 2025年以降のAI活用トレンドを把握する
本記事では、マーケティング担当者やCS責任者が知っておくべき、生成AIとAIエージェントの違いや最適な使い分け方について、最新の事例と共に解説します。AI時代のCS戦略を構築するための実践的な知識を身につけましょう。
生成AIとAIエージェントの基本的な違い
まず、生成AIとAIエージェントの基本的な違いを理解しましょう。両者は一見似ているように見えますが、目的や機能に大きな違いがあります。
生成AI(Generative AI)とは
生成AIは、学習したデータのパターンに基づいて新しいコンテンツ(文章、画像、音声など)を生成する技術です。ユーザーからの指示(プロンプト)に応じて回答を返す一問一答型のシステムで、ChatGPT、Gemini、DALL-Eなどが代表例です。
AIエージェント(AI Agent)とは
AIエージェントは、特定の目標を達成するために環境を観察し、自律的に意思決定を行い、必要な行動を実行するシステムです。単に情報を生成するだけでなく、外部システムと連携して問題解決までを完結させることができます。
比較項目 | 生成AI | AIエージェント |
---|---|---|
主な目的 | 新しいコンテンツの生成(文章、画像、音声など) | 目標達成のための行動、タスク遂行、意思決定 |
自律性 | 低い(指示がないと動作しない) | 高い(目標に向かって自律的に動作する) |
処理方法 | 一方向の処理(入力に対して出力を返す) | 外部環境との双方向やり取りを通じた情報収集と判断 |
応答の特徴 | 一問一答型の即時応答 | 繰り返しの意思決定と状況に応じた行動調整 |
代表的な例 | ChatGPT、Gemini、DALL-E2など | 自律型営業支援AI、カスタマーサポートの自動応答システム |
最も大きな違いは「自律性」にあります。生成AIはユーザーからの指示に応じて受動的に動作するのに対し、AIエージェントは与えられた目標に向かって能動的に行動します。AIエージェントは「ツールを使用する能力」と「LLMをワークフローのどこかで利用する」という特徴を持っています。
🔄 生成AIとAIエージェントの違い
生成AI
➡️ 受動的:指示に応じて回答
➡️ 一時的:一問一答の関係
➡️ 目的:コンテンツ生成
➡️ 静的:固定されたデータベース
AIエージェント
➡️ 能動的:自ら行動を起こす
➡️ 継続的:目標達成まで実行
➡️ 目的:問題解決・タスク完了
➡️ 動的:最新情報にアクセス
CSにおける生成AIの活用方法
カスタマーサポート領域では、生成AIは主に以下のような場面で活用されています。
コンテンツ生成支援
生成AIを活用することで、CSチームは以下のようなコンテンツ作成業務を効率化できます:
・FAQ記事の作成と更新
・顧客向けメールテンプレートの生成
・マニュアルやガイドラインの作成
・トレーニング資料の準備
オペレーター支援
生成AIは、CS担当者の日々の業務をサポートする形でも活用されています:
・顧客問い合わせの要約と分類
・回答案の作成と提案
・専門的な知識の提供
・社内ナレッジベースの検索と情報抽出
データ分析と洞察
顧客とのやり取りから得られるデータを分析し、有益な洞察を導き出します:
・顧客の声の要約とトレンド分析
・センチメント分析による感情把握
・問い合わせの傾向と対応パターンの特定
・CS改善のための提案生成
💡 活用事例:NEC社では、生成AIを活用してFAQ作成の工数を75%削減し、回答データの自動生成を実現しています。また、オペレーターの業務をアシストすることで、回答時間を35%削減する成果を上げています。
生成AIは特に、定型的なコンテンツ作成や情報提供、分析作業に強みを発揮します。一方で、複雑な問題解決や外部システムとの連携が必要な業務には限界があります。
CSにおけるAIエージェントの活用方法
AIエージェントは、より高度な自律性を持ち、CSの現場で以下のような活用が進んでいます。
自律的な顧客対応
AIエージェントは、問い合わせの受付から解決までを自律的に実行します:
・顧客の意図理解と適切な対応の判断
・複数のシステムにアクセスして情報を収集
・問題解決のためのアクションの実行(注文状況確認、返品処理など)
・必要に応じた人間のオペレーターへの引き継ぎ
パーソナライズされた体験提供
顧客データを分析し、個々のニーズに合わせた対応を提供します:
・過去の購入履歴や問い合わせ履歴の参照
・顧客の好みや傾向に基づいた提案
・顧客に合わせたコミュニケーションスタイルの調整
・プロアクティブな提案や問題解決
マルチチャネル対応
複数のコミュニケーションチャネルを横断して一貫したサポートを提供します:
・チャット、音声、メールなど複数のチャネルでの対応
・チャネル間での会話の文脈維持
・顧客の好みに合わせたチャネル選択の提案
・24時間365日の一貫したサポート提供
🔔 導入事例:化粧品ブランドPAUL & JOEでは、AIエージェント「ALF」を導入し、顧客に合った化粧品の提案から注文キャンセル手続きまでをAIが自律的に実施。これにより24時間の顧客対応を実現しています。
AIエージェントの最大の特徴は、顧客との対話だけでなく、実際のアクションを実行できる点です。注文処理、予約変更、商品推奨など、従来は人間が行っていた業務プロセス全体を自律的にこなすことができます。
生成AIとAIエージェントの最適な使い分け
カスタマーサポートでの最適な使い分けを考えるには、業務の性質や目標を明確にすることが重要です。以下のポイントを参考に、自社のCS業務における最適な選択を検討しましょう。
生成AIが適している場面
・単一のタスク:特定の情報提供や文書作成など、一つのタスクに集中する場合
・創造的コンテンツ:マニュアル、トレーニング資料、カスタマイズされたメールなどの作成
・情報の要約と分析:顧客の声や問い合わせデータの分析、傾向把握
・オペレーターの補助:人間のCSスタッフをサポートする形での活用
AIエージェントが適している場面
・複数ステップのプロセス:問い合わせ対応から問題解決まで一連の流れを自動化したい場合
・システム連携が必要:CRM、注文管理、在庫管理など複数のシステムと連携した対応
・自律的な意思決定:状況に応じた判断と行動が求められる複雑な対応
・プロアクティブな対応:顧客の潜在的なニーズを先回りして対応したい場合
🎯 CS業務における最適なAI選択ガイド
生成AIを選ぶケース
- ✓ FAQの作成・更新を効率化したい
- ✓ 問い合わせ内容の要約・分類を自動化したい
- ✓ オペレーターの回答作成を支援したい
- ✓ 顧客の声を分析してトレンドを把握したい
AIエージェントを選ぶケース
- ✓ 問い合わせから解決までを自動化したい
- ✓ 複数システムと連携した対応が必要
- ✓ 24時間365日の完全自動対応を実現したい
- ✓ パーソナライズされた顧客体験を提供したい
企業での導入事例
実際の企業での導入事例から、生成AIとAIエージェントの効果的な活用方法を見ていきましょう。
Salesforce「Agentforce」
Salesforceは「Agentforce」という自律型エージェント機能を開発し、自社プラットフォームに統合しました。このAIエージェントは問い合わせ内容を理解して適切な回答を返すだけでなく、必要に応じてワークフローを実行する能力も持っています。
日本では富士通がAgentforceをサポートデスクに導入し、総問い合わせの約15%をAIエージェントが処理する運用を開始。パイロット検証では従来型チャットボットよりも少ない手順で正確な回答に到達できることが確認されています。
JR西日本カスタマーリレーションズ×ELYZA
JR西日本カスタマーリレーションズでは、ELYZAの生成AI技術を活用して、顧客問い合わせの要約とメール作成の自動化を実現しています。これにより、オペレーターの業務負荷が軽減され、より複雑な問い合わせへの対応に集中できるようになりました。
トランス・コスモス(社内ナレッジ検索)
トランス・コスモスでは、オペレーターでは答えられない難しい問い合わせが来た場合に、生成AIを呼び出して質問し、過去の社内ドキュメントなどを参照してオペレーターに回答する取り組みを始めています。Microsoft「Azure OpenAI Service」のAPIを利用したこの取り組みにより、エスカレーションが6割削減できる見込みとなっています。
Unity(チケット対応)
インタラクティブなリアルタイム3Dコンテンツ開発プラットフォームのUnityは、AIエージェントを導入し、チケット対応の効率を向上させることで、顧客に迅速な回答を提供しています。Unityのナレッジベースとの連携により、AIエージェントは8,000件のチケットに自動対応し、コスト削減を実現しました。
✅ 成功のポイント:これらの事例に共通するのは、AI導入の目的を明確にし、人間とAIの役割分担を適切に設計している点です。完全な自動化を目指すのではなく、AIと人間が得意分野で協力し合う「ハイブリッド型」のアプローチが成功の鍵となっています。
AIエージェント導入のステップと注意点
AIエージェントをカスタマーサポートに導入する際の実践的なステップと注意点を解説します。
導入の基本ステップ
1.現状分析と目標設定
・現在のCS業務の課題や非効率な部分を特定
・AIエージェント導入による明確な目標(KPI)を設定
・自動化すべき業務プロセスの優先順位付け
2.適切なソリューション選定
・自社の要件に合ったAIエージェントプラットフォームの選定
・カスタマイズ性や既存システムとの連携可能性の確認
・コスト対効果の検討
3.パイロット導入と検証
・限定的な範囲でのパイロット導入
・実際の顧客対応での効果測定
・フィードバックに基づく調整と改善
4.段階的な展開と教育
・成功を確認したうえでの段階的な展開
・CS担当者へのトレーニングと役割の再定義
・継続的なモニタリングと改善サイクルの確立
導入時の注意点
・人間による監視と介入の仕組み:AIエージェントの判断や行動に誤りがあった場合に人間が介入できる仕組みを必ず設けましょう。
・透明性の確保:顧客に対して、AIエージェントとのやり取りであることを明示し、必要に応じて人間のオペレーターに切り替える選択肢を提供しましょう。
・データの取り扱い:顧客データの保護とプライバシーに配慮し、適切なデータガバナンスを確立しましょう。
・継続的な学習と改善:AIエージェントの応答品質や課題解決率を定期的に評価し、継続的に改善する仕組みを構築しましょう。
AIエージェント導入チェックリスト
- ☑ 自動化すべき業務プロセスを明確に特定しているか
- ☑ 既存システム(CRM、ヘルプデスクなど)との連携方法を検討しているか
- ☑ AI対応が難しいケースの判別とエスカレーションの基準を設定しているか
- ☑ CS担当者の新しい役割と必要なスキルを定義しているか
- ☑ 効果測定の方法とKPIを設定しているか
2025年以降のCS×AI展望
2025年以降、カスタマーサポート領域におけるAI活用はさらに進化すると予想されています。今後のトレンドと準備すべきポイントを解説します。
AIエージェントの普及と進化
2025年は、カスタマーサポート領域のAI活用が「実験段階」から「実用段階」へと完全に移行する年になると予測されています。単なる「質問に答えるチャットボット」から、システム操作や意思決定支援を行う「行動するAI」へと進化し、問い合わせ対応の多くを完結させる主役となります。
顧客の期待値の変化
「AIによる迅速・正確・24時間対応」はまもなく当たり前となり、若年層を中心にAIエージェントによる解決を人間対応より好む傾向が強まるでしょう。同時に、機械的な対応への不満も高まり、感情理解と共感を示すAIエージェントへの需要が増加すると予想されます。
マルチモーダル対応の重要性
テキストだけでなく、画像、音声、動画などを組み合わせたマルチモーダル検索が普及する中、これらの多様なコンテンツタイプに対応したAI戦略が求められるようになります。音声AIの自然さも向上し、人間のようなコミュニケーション体験が一般化するでしょう。
AIと人間のハイブリッド体制
AIによる業務効率化と人間のきめ細かなサポートのハイブリッド化が加速します。AIは定型業務や基本的な問い合わせに対応し、CS担当者はより複雑な問題解決や感情的なサポートに集中するという役割分担が明確になるでしょう。
🔮 2025年以降のCS×AI未来予測
ハイブリッド運営
AI自動対応と
人間のきめ細かさの融合
システム連携
AIエージェント同士の
連携による複雑対応
感情理解AI
共感と理解を示す
高度な感情対応
マルチモーダル
テキスト・音声・画像
を組み合わせた対応
まとめ:最適なAI活用戦略の構築
生成AIとAIエージェントの違いを理解し、CSにおける最適な活用方法を見てきました。最後に、効果的なAI活用戦略を構築するためのポイントをまとめます。
生成AIとAIエージェントの使い分け
・生成AIは、コンテンツ作成、情報提供、データ分析など、単一タスクに適しています
・AIエージェントは、複数ステップの問題解決、システム連携、自律的対応に適しています
・両者を組み合わせたハイブリッドアプローチも有効です
段階的な導入アプローチ
・まずは生成AIを活用して業務効率化や人間支援から始めることも一つの選択肢です
・成功体験を積み重ねながら、段階的にAIエージェントへと発展させていく戦略も効果的です
・パイロット導入と効果検証を繰り返し、自社に最適なAI活用方法を見つけましょう
人間とAIの役割分担の明確化
・AIと人間それぞれの強みを活かした役割分担を設計することが重要です
・人間にしかできない共感や複雑な判断が必要な業務は人間が担当しましょう
・定型業務や24時間対応が求められる業務はAIに任せる方針を検討しましょう
🌟 最後に:生成AIとAIエージェントの選択は、「どちらが優れているか」ではなく「どの業務にどちらが適しているか」という視点で考えることが重要です。自社のCS業務の特性や課題、顧客のニーズを分析し、最適なAI活用戦略を構築しましょう。
よくある質問
A: 一般的には、まず生成AIから導入するケースが多いです。生成AIは比較的導入が容易で、コンテンツ作成支援やオペレーター支援などの形で即効性のある効果を得やすいためです。業務プロセスやシステム連携の整備が進んだ段階で、AIエージェントの導入を検討するというステップが現実的でしょう。ただし、すでに明確な自動化ニーズがあり、システム連携の準備が整っている場合は、最初からAIエージェントの導入を検討しても良いでしょう。
A: AIエージェントの導入難易度は、選択するソリューションや自社の要件によって異なります。Salesforceの「Agentforce」のような既存プラットフォームに統合されたソリューションであれば、専門的な技術知識がなくても導入は可能です。一方、複数のシステムと連携させたカスタマイズ性の高いAIエージェントを構築する場合は、API連携やシステム統合の知識が必要となり、技術部門や外部パートナーとの協力が不可欠になるでしょう。
A: AIエージェントの評価は、定量的指標と定性的指標の両面から行うことが重要です。定量的指標としては、正確な回答率、問題解決率、対応時間、エスカレーション率などが挙げられます。定性的指標としては、顧客満足度調査、オペレーターからのフィードバック、対応内容の品質評価などがあります。改善のためには、これらの指標を定期的にモニタリングし、特に課題のある部分について、トレーニングデータの拡充や応答ロジックの調整を行いましょう。
A: AIの導入によってCSスタッフの仕事がなくなるというよりは、仕事の内容が変化すると考えるべきです。定型的な問い合わせ対応はAIが担当するようになりますが、複雑な問題解決、感情的なサポート、例外的なケース対応など、人間ならではの判断や共感が必要な業務は引き続き人間が担当することになります。CSスタッフには、AIとの協働スキルや、より高度な問題解決能力、感情知能などが求められるようになるでしょう。
A: 小規模企業でもAIエージェントの導入は可能です。クラウドベースのSaaSソリューションが多く提供されており、初期投資を抑えて導入できるオプションが増えています。まずは限定的な範囲(特定の問い合わせタイプのみ対応するなど)からスタートし、効果を確認しながら段階的に拡大していくアプローチがおすすめです。なお、小規模企業の場合は特に、自社の業務プロセスに合ったソリューションを選ぶことが重要です。必要以上に複雑な機能を持つシステムを導入すると、かえって運用負担が増える可能性があります。

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