バイヤージャーニー攻略で実践する顧客中心戦略

ビジネスフレームワーク・マーケティング戦略
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バイヤージャーニーが注目される背景

バイヤージャーニーとは、見込み客が商品やサービスを認知してから購買に至るまでのプロセスを指す。認知、検討、購入といったフェーズごとに求められる情報やメッセージが異なり、それらを整理することで、顧客の行動心理や課題を細やかに把握できる。

顧客との最初の接点をただ広く狙うのではなく、段階ごとの関心を深堀りするアプローチへ移行する流れが、デジタルマーケティングの分野で注目を集める背景だ。当社でも、顧客接点が多様化するいま、高精度のターゲティングと柔軟な施策を展開できるよう、バイヤージャーニーの可視化と活用を進めている。

顧客心理に寄り添うメリット

バイヤージャーニーを意識する最大のメリットは、顧客一人ひとりの心理に寄り添った施策を設計できる点にある。たとえば認知段階のユーザーには、いきなり商品説明を押しつけるのではなく、課題解決のヒントを提供するコンテンツが効果を発揮する。

その後、検討段階に入ると他社商品との比較や事例紹介など、より具体的な情報がきっかけとなり購買意欲が高まりやすい。購入段階に至れば、価格面や導入後のサポート体制を明確に示すことで、安心感を与えることが大切だ。こうした段階的なコミュニケーションは、結果的にコンバージョン率や顧客満足度の向上へつながる。

フェーズごとの施策設計

バイヤージャーニーは通常、認知、検討、購入の三つのフェーズに分けて考えられるが、企業によっては「興味関心」「調査」「交渉」「契約・発注」といった段階に細分化するケースもある。たとえば認知フェーズでは、SEO対策やSNS広告を活用して自社製品の存在を広く知ってもらうことが基本になる。

検討フェーズでは、ホワイトペーパーや詳細なブログ記事、動画セミナーなどを提供し、より深い情報収集をサポート。購入フェーズでは、導入事例の紹介や無料体験版の提供、問い合わせフォームの整備など、具体的な導入の後押しを意識した施策が求められる。これらを全体としてつなぎ合わせることで、自然な流れで購買に至るシナリオを描けるわけだ。

バイヤージャーニーマップの作成ポイント

バイヤージャーニーを可視化する際には、まず自社に適切な“バイヤーペルソナ”を複数設定し、それぞれがどんな行動を取り、どんな疑問を持つかを整理するのが効果的だ。バイヤーペルソナとは、理想的な顧客像を詳細に落とし込んだプロフィールのことを指す。

たとえば、担当者の業界経験や職種、現在抱えている課題、予算感、意思決定プロセスなどを盛り込むとよい。そのうえで、認知から購入に至るまでの行動や接触チャネルを段階ごとに洗い出し、必要なコンテンツやサポートをマッピングしていく。この作業を丁寧に行うことで、どのタイミングでどんな情報が必要になるのかが明確になり、施策のムダを最小限に抑えられる。

マルチチャネル施策との相乗効果

顧客が購入を検討する過程では、自社メディアだけでなく検索エンジンやSNS、比較サイト、口コミなど多様なチャネルを行き来している。そこで大切なのが、これらのチャネルをうまく連携させることだ。特定チャネルだけで訴求した施策は、一度離脱された段階で効果を追いにくくなってしまう。

たとえばSNSの投稿をきっかけに認知フェーズに入ったユーザーが、検索エンジンで類似商品を探した末に自社サイトへ再訪するようなケースは多い。こうした幅広い行動ルートを想定しつつ、アクセス解析や顧客管理ツール(CRMなど)を活用すれば、複数チャネルをまたいだ一貫したストーリー作りが可能になる。

バイヤージャーニー分析で見える改善点

バイヤージャーニーを分析する過程では、各段階の離脱率やCV(コンバージョン)に至るまでの流入元などを比較し、ボトルネックを洗い出すことができる。たとえば検討フェーズで離脱率が高い場合、コンテンツの情報量が足りない、プラスアルファの導入メリットを伝え切れていないなどの課題が考えられる。

逆に、購入フェーズに達してもユーザーが最終ステップで離れてしまう場合は、料金体系がわかりにくい、問い合わせ時の応対フローに問題があるといった要因も想定される。こうした状況を適切に把握し、段階ごとのコンテンツや接客手法を改善していくことが、バイヤージャーニー活用の鍵といえるだろう。

継続的な見直しとデータ活用

バイヤージャーニーは固定されたものではなく、顧客ニーズや市場トレンドの変化とともに常にアップデートすべきだ。たとえば新たなSNSが流行すれば認知のチャネルとして活用の余地が生まれるし、競合商品の値下げや機能強化があえば検討段階で必要な情報が変わる可能性も高い。

ウェブ解析ツールや広告管理ツール、CRMを活用しながらデータを継続的に集め、定期的にジャーニーマップを見直すことが重要となる。そこから得られたインサイトをもとに、メール施策の改善やカスタマーサポート体制の強化などを行えば、購入後の満足度やロイヤルティ向上にも結び付きやすい。

成功事例につなげるポイント

最終的には、顧客がそれぞれの段階で「ここなら信頼できる」「自分の問題を解決してくれそうだ」と感じられる仕掛けを設計できるかがバイヤージャーニー成功の分かれ目になる。営業やサポート、開発といった部門を横断して顧客を中心に考え、スピーディに害のない情報を提供し続けることが大切だ。

いまのユーザーは高い情報感度を持ち、複数のチャネルを経由しながら商品選択を進める時代だ。バイヤージャーニーを活用して顧客の意図を深く理解し、効果的なコミュニケーションを実現することこそ、信頼関係を築き、長期的なビジネス成長につなげる大切な視点になっている。