近年、従来の信用情報に加え、さまざまなオルタナティブクレジットデータが注目されています。代替データとは、クレジットカードやローンの返済履歴といった従来の情報源に加え、公共料金の支払い状況、携帯電話の利用状況、ソーシャルメディアの活動など、多岐にわたる情報を指します。これらのデータは、従来の信用情報では捉えきれない、顧客の信用力をより多角的に評価できる可能性を秘めています。
特に、世界では約14億人が銀行口座を持たない「金融包摂」の対象者とされ、従来の信用情報に基づく評価が難しい状況です。代替データは、こうした人々への融資機会の拡大や、より公平な信用評価の実現に向けて期待されています。
しかし、金融機関がオルタナティブデータを利用するにあたっては、克服すべき技術的な課題も存在します。本稿では、オルタナティブデータ利用に伴う主な技術的課題と、その解決策について解説していきます。
データ統合の複雑さ
オルタナティブデータは、その性質上、形式や構造が従来の信用データとは大きく異なる場合が多く、既存のシステムへの統合が容易ではありません。例えば、ソーシャルメディアのデータは非構造化データである一方、公共料金の支払い情報は構造化データであるなど、データ形式が統一されていないことが挙げられます。
金融機関は、これらの多様なデータ形式を統一化し、既存の信用スコアリングモデルや意思決定システムにシームレスに統合する必要があります。このためには、データウェアハウスの構築や、データ変換・統合ツールの導入などが必要となるケースもあります。
解決策としては、以下のような点が挙げられます。
- APIを活用したリアルタイムなデータ連携
- データレイクなどの技術を用いた、多様なデータ形式の一元管理
- データ仮想化技術による、データ統合の効率化
スケーラビリティの確保
オルタナティブデータは、ソーシャルメディアの投稿やオンラインショッピングの履歴など、その量も種類も膨大です。金融機関は、これらの膨大なデータを効率的に収集・処理・分析できるだけのシステム基盤を構築する必要があります。
特に、顧客が増加するにつれて、データ量も増大していくことが予想されます。システムがデータ量の増加に対応できず、処理速度の低下やシステムダウンなどを引き起こしてしまう可能性もあるため、スケーラビリティの確保が重要となります。
解決策としては、以下のような点が挙げられます。
- クラウドコンピューティングサービスの活用による、柔軟なシステムリソースの確保
- 分散処理技術を活用した、データ処理の高速化
データセキュリティの強化
オルタナティブデータには、顧客のプライバシーに関わる情報も含まれているため、厳重なセキュリティ対策が求められます。データの不正アクセスや漏洩は、金融機関の信用失墜だけでなく、訴訟リスクやコンプライアンス違反にもつながりかねません。
解決策としては、以下のような点が挙げられます。
- 暗号化技術を用いた、データの保護
- アクセス制御の強化による、データへのアクセス制限
- セキュリティ監査の実施による、セキュリティレベルの維持・向上
データ品質の保証
オルタナティブデータは、従来の信用情報と比較して、その品質や正確性にばらつきがある可能性があります。例えば、ソーシャルメディアの情報は、ユーザーが自由に編集できるため、必ずしも正確な情報が得られるとは限りません。
金融機関は、データの正確性を検証し、分析結果の信頼性を担保する必要があります。このためには、データクリーニングやデータバリデーションといった作業が重要となります。
解決策としては、以下のような点が挙げられます。
- データの収集元や収集方法を明確化し、信頼性の高いデータを取得する
- 機械学習などを活用し、データの異常値や矛盾を自動的に検出・修正する
- データの品質に関する指標を設け、継続的にモニタリングする
コストとベネフィットのバランス
オルタナティブデータの活用には、システム開発やデータ購入、セキュリティ対策など、従来の信用情報にはなかったコストが発生します。金融機関は、これらのコストを抑制しつつ、オルタナティブデータの利用によって得られるメリットを最大化する必要があります。
解決策としては、以下のような点が挙げられます。
- オルタナティブデータの利用目的を明確化し、本当に必要なデータのみを収集・分析する
- データ分析の自動化などにより、運用コストを削減する
- オルタナティブデータ活用による収益増加効果を測定し、投資対効果を検証する
規制への対応
オルタナティブデータの利用に関しては、個人情報保護法や貸金業法など、関連する法規制を遵守する必要があります。特に、個人情報保護に関する規制は年々強化される傾向にあり、金融機関は常に最新の規制動向を把握し、適切な対応を行う必要があります。
解決策としては、以下のような点が挙げられます。
- 個人情報保護に関する社内体制を構築し、コンプライアンス意識を高める
- データの利用目的を顧客に明示し、同意を得た上で利用する
- プライバシー保護技術を活用し、個人情報を安全に管理する
倫理的な側面への配慮
オルタナティブデータの利用には、倫理的な側面からの配慮も欠かせません。例えば、ソーシャルメディアの情報を基に信用力を評価することの是非や、オルタナティブデータの利用による差別や不公平の発生などが議論されています。
金融機関は、これらの倫理的な問題点も踏まえ、社会的に許容される形でオルタナティブデータを利用していく必要があります。
解決策としては、以下のような点が挙げられます。
- 倫理的な観点からのガイドラインを策定し、社員への教育などを実施する
- 外部の専門家による倫理審査などを導入し、客観的な意見を取り入れる
- ステークホルダーとの対話を通じて、オルタナティブデータ利用に関する理解を深める
まとめ
オルタナティブデータは、金融包摂の実現や信用リスク評価の高度化など、大きな可能性を秘めています。しかし、同時に克服すべき技術的課題も多く存在します。
金融機関は、これらの課題を適切に解決し、オルタナティブデータを安全かつ効果的に活用することで、顧客と社会全体の利益につながる金融サービスを提供していくことが期待されます。
株式会社インティメート・マージャー代表取締役社長。
インティメート・マージャーでアドテクノロジーの事業領域で収集したオルタナティブデータを他の事業領域でも活用していく取り組みにトライしています。
この記事の中ではオルタナティブデータのセールステック領域での活用(インテントデータ)、小売領域での活用(リテールデータ)、金融領域での活用(クレジットスコア)、リサーチ用のデータ(インサイトデータ)などでの活用事例や海外での事例をご紹介させていただいています。
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