3rd Party Cookie廃止に対応するFacebookマーケティング手法を解説。オーディエンス設定とConversionAPIの連携で計測精度を保ち、広告効果を向上させる実践的な設定手順と活用術。
Cookieレス時代におけるFacebookマーケティングの課題
インターネット広告の世界では、プライバシー保護の観点から3rd Party Cookie(サードパーティCookie:別のドメインから発行されるCookie)の利用に対する規制が急速に進んでいます。すでにAppleのiOSではトラッキングに対する規制が強化されています。このような変化は、私たちデジタルマーケティング担当者にとって大きな課題となっています。
従来の広告計測では、サードパーティCookieを活用して異なるサイト間でのユーザー行動を追跡し、広告効果を測定してきました。しかし、この仕組みが使えなくなると、年齢や興味関心を推測するDMP(Data Management Platform:データ管理プラットフォーム)の活用や、ブラウザの履歴を使用したオーディエンスターゲティングがうまく機能しなくなります。また、リマーケティング広告やビュースルーコンバージョン(広告を見ただけで後日コンバージョンにつながった効果)の計測も困難になり、総コンバージョン数の減少や計測不能ユーザーの増加につながる恐れがあります。
この状況に対応するために、Facebook(現Meta)は独自の広告効果測定方法として「コンバージョンAPI(Conversions API、略してCAPI)」を開発し、サービスの提供を開始しています。また、効果的なターゲティングのための「カスタムオーディエンス」や「類似オーディエンス」機能も重要性を増しています。これらのツールを適切に活用することが、Cookieレス時代を生き抜くカギとなるでしょう。
Facebookコンバージョン API(CAPI)とは
コンバージョンAPI(Conversions API)とは、Cookieを使わない広告計測・最適化の手段として開発されたAPIです。従来のFacebookピクセル(Metaピクセル)がブラウザ側からデータを送信するのに対し、コンバージョンAPIでは広告主のサーバーからFacebook社の広告サーバーへ直接イベントデータを送信することで計測を行います。
コンバージョンAPIの仕組みを簡単に説明すると、広告主のサーバーからFacebookの広告サーバーへ、ユーザーの行動データ(ページ閲覧や購入などのイベント)を直接送信し、そのデータをFacebook社のサーバーに登録されているユーザー情報とマッチングさせて処理する形になります。FacebookピクセルとコンバージョンAPIを併用する場合、ピクセルから取得できる情報も活用されますが、コンバージョンAPIのみで運用する場合は、Facebook広告のクリックIDなどの情報も送信するようにしておく必要があります。
コンバージョンAPIを導入する最大のメリットは、GoogleのサードパーティCookie規制やiOSのプライバシー変更の影響を受けにくくなることです。また、広告主のサーバーからの情報が直接利用されるため、Webだけでなくテレビなどの他媒体での受注履歴との連携も可能になり、より精度の高い分析ができるようになります。
実際のところ、iOSのプライバシー規制により、iOSユーザーはトラッキングを拒否できるようになったため、広告マネージャー上の結果と実際の成果が異なるケースが増えています。この問題を解決するのが「コンバージョンAPI」の導入なのです。
Facebookオーディエンスの種類と特徴
Facebookの広告ターゲティングは、コアオーディエンス、カスタムオーディエンス、類似オーディエンスの3種類に大別されます。これらを効果的に組み合わせることで、より精度の高いターゲティングが可能になります。
コアオーディエンスは、Facebookに登録されている「利用者データ(年齢、性別など)」「位置情報」「興味関心」「つながり」から構成される基本的なターゲティング項目です。実名登録制であるため、精度が高いのがFacebookの特徴です。例えば、「東京都内に住む30代の男性で、スポーツに興味がある人」といったターゲティングが可能です。これらの条件は、絞り込みや拡大、除外など柔軟に設定できます。
カスタムオーディエンスは、すでに自社ビジネスに何らかの接点を持つユーザーに広告を配信するための機能です。カスタムオーディエンスはさらに以下の4種類(または5種類)に分類されます:
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カスタマーリストに基づくカスタムオーディエンス:自社でメールアドレスなどの情報を保有しているユーザー
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ウェブサイトカスタムオーディエンス:自社のウェブサイトを訪問したユーザー
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エンゲージメントカスタムオーディエンス:自社のFacebookコンテンツに対してアクションしたユーザー
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モバイルアプリカスタムオーディエンス:自社のアプリに対してアクションしたユーザー
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オフラインアクティビティカスタムオーディエンス:店舗での購入など、オフラインで接点を持ったユーザー
類似オーディエンスは、既存顧客と似た特性を持つユーザーへリーチを広げられる機能です。類似オーディエンス作成には、ソースオーディエンス(ページのファンや作成済みのカスタムオーディエンス)を使用します。類似オーディエンスは、ソースオーディエンスを参照して3〜7日ごとに自動的にリスト更新がされるため、常に最新の類似ユーザーにアプローチできる利点があります。
カスタムオーディエンスの活用戦略
カスタムオーディエンスを活用する主な目的は、広告主の商品やサービスをすでに知っているユーザーへの広告配信をコントロールすることです。ウェブサイトやアプリ、SNSの投稿などで何らかのアクションをした人は、商品やサービスに興味を持っている可能性が高いため、このようなユーザーにアプローチすることでコンバージョン率の向上が期待できます。
また、カスタムオーディエンスは配信対象だけでなく、除外設定としても活用できます。例えば、すでに購入したユーザーを除外してリマーケティング広告を配信することで、広告費用の無駄を省くことができます。
カスタムオーディエンスを作成するためには、まず「オーディエンス」メニューから「オーディエンスを作成」→「カスタムオーディエンス」を選択します。その後、作成したいカスタムオーディエンスの種類に応じて設定を進めます。
ウェブサイトカスタムオーディエンスを作成するためには「Metaピクセル」の設定が、アプリアクティビティカスタムオーディエンスの作成には「Meta SDK」の設定が事前に必要です。これらのツールを設置することで、ユーザーの行動データを収集し、オーディエンスとして活用できるようになります。
カスタマーリストを使ったカスタムオーディエンスでは、メールアドレスや電話番号などの顧客情報をアップロードします。この際、プライバシー保護のためにデータは不可逆に暗号化(ハッシュ化)されます。なお、アップロードしたすべてのユーザーにアプローチできるわけではなく、Facebookのユーザーであり、かつアップロードされた情報と一致する場合にのみマッチングされます。
類似オーディエンスは、カスタムオーディエンスを元に作成でき、既存の優良顧客と似た特性を持つ新規ユーザーへのアプローチに非常に効果的です。作成時には、「元となるデータ(ソースオーディエンス)」「国」「サイズ」の3条件を指定します。サイズが小さいほど元のオーディエンスに近い特性を持つユーザーに限定され、サイズが大きいほどリーチは広がりますが類似度は下がります。
コンバージョンAPIの設定手順
コンバージョンAPIを設定するためには、Facebookビジネスマネージャでの設定とウェブサイト側での実装が必要です。ここでは、その基本的な手順を解説します。
まず、Facebookビジネスマネージャにログインし、「イベントマネージャ」を開きます。ピクセルを作成していない場合は、「データソースをリンク」から「ウェブ」→「Facebookピクセル」を選択して新規作成します。既にピクセルがある場合は、そのピクセルの「設定」タブを選択します。
次に、「コンバージョンAPI」の項目で「アクセストークンを生成」をクリックします。生成されたアクセストークンは安全に保管しておきましょう。このトークンは、サーバーからFacebookへデータを送信する際の認証に使用されます。
ウェブサイト側での実装方法はいくつかあります。最も簡単な方法はプラグインを使用する方法です。WordPressの場合、「PixelYourSite」などのプラグインを利用すれば、技術的な知識がなくても設定できます。プラグインをインストールして有効化した後、Facebookピクセル設定画面で「Enable Conversion API」にチェックを入れ、ピクセルIDとアクセストークンを入力します。
ECサイトなど独自のシステムを使用している場合は、システム管理者と協力して実装する必要があります。例えば、futureshopというECプラットフォームでは、外部連携アカウント管理から「FB CV API」タブで設定を行います。ピクセルID、アクセストークン、APIバージョンなどの情報を入力し、広告URLアクセス時と受注確定時の送信パラメータを設定します。
コンバージョンAPIを設定する際には、送信するイベントも適切に設定する必要があります。Eコマースサイトであれば、「ページビュー(PageView)」や「購入(Purchase)」などのイベントを設定します。これにより、ユーザーがサイトにアクセスした際や商品を購入した際のデータがFacebookに送信されるようになります。
設定が完了したら、テストイベントを送信して正しく動作しているか確認することをお勧めします。Facebookのイベントマネージャにある「テストイベント」機能を使用すると、サーバーイベントが正しく送信されているかチェックできます。
オーディエンスとコンバージョンAPIの連携効果
コンバージョンAPIとオーディエンス機能を連携させることで、より精度の高いターゲティングと効果測定が可能になります。ここでは、その連携効果について解説します。
コンバージョンAPIを使用してコンバージョンイベントを共有すると、ウェブサイトカスタムオーディエンスを作成して広告に使用できます。つまり、サーバーから送信されたイベントデータに基づいて、特定の行動をとったユーザーのグループ(オーディエンス)を自動的に作成できるのです。このオーディエンスは、設定したリテンションポリシー(データ保持期間)に基づいて自動的にアップデートされます。
例えば、購入イベントを送信している場合、「過去30日間に商品を購入したユーザー」というオーディエンスを作成できます。このオーディエンスに対して「購入後のフォローアップ広告」を配信したり、逆に「すでに購入したユーザーを除外する」設定を行うことも可能です。
また、コンバージョンAPIを活用することで、iOSユーザーへのリーチ拡大と測定精度の向上が期待できます。従来のピクセルだけでは捉えきれなかったiOSユーザーの行動も、サーバーサイドからのデータ送信により正確に計測できるようになります。これにより、全体的な広告効果の測定精度が向上し、より効果的な広告運用が可能になります。
さらに、コンバージョンAPIで収集したデータを活用して類似オーディエンスを作成することも効果的です。例えば、「サーバーサイドで計測された実際の購入者」を元にした類似オーディエンスを作成することで、潜在的な優良顧客にアプローチすることができます。
ただし、オーディエンスとコンバージョンAPIの連携にはいくつかの注意点もあります。データの品質管理やプライバシーへの配慮が重要です。例えばメールアドレスの表記揺れや電話番号のフォーマットの違いにより、同一ユーザーの情報が正しく紐づかない可能性があります。また、ユーザーデータの収集と利用には適切な同意取得プロセスの確立や、プライバシーポリシーの明確な説明など、透明性の確保が必要です。
実践的な活用事例と成果
実際のビジネスシーンでのコンバージョンAPIとオーディエンス機能の活用事例を見ていきましょう。
あるフィットネスクラブでは、体験申込みの広告キャンペーンにコンバージョンAPIを導入した結果、iOSへの配信でAndroidと比較して申込み単価が改善し、配信金額と申込み件数が向上しました。iOSは競合が少ないため、インプレッション単価(CPM)が低く、コンバージョン率(CVR)も高い傾向があり、結果として全体的な顧客獲得単価(CPA)の改善につながりました。
メディカルダイエット関連のサービスでは、iOSの申込み単価が改善したことにより、全体的な申込み単価も改善し、目標達成につながった事例があります。これは、従来のピクセルだけでは測定しきれなかったiOSユーザーのコンバージョンを、コンバージョンAPIを通じて正確に計測できるようになったことが大きな要因です。
アパレルブランドの事例では、コンバージョンAPIとカスタムオーディエンスを活用することで、クロスデバイスでのユーザー行動把握が可能になりました。PCでの閲覧、スマートフォンでの検索、そして実店舗での購入といった、デバイスを跨いだユーザー行動を一元的に把握できるようになったことで、パーソナライズされたレコメンド精度が向上し、客単価が上昇しました。
また、広告配信プラットフォームであるCriteoとの連携事例では、クリック単価(CPC)が改善し、リーチが拡大するなど、サードパーティCookieを活用したターゲティングソリューションと遜色ない成果が出ています。
これらの事例から、コンバージョンAPIとオーディエンス機能の連携は、特にiOSユーザーが多いターゲット層や、オンラインとオフラインの両方のチャネルを活用している企業にとって、効果的なソリューションであることがわかります。2024年3月に対応した「IM-UID」ベースの計測機能連携と最適化の精度向上により、効果的なターゲティングが実現し、獲得効率が改善した結果、多くの企業で効果が実証されています。
今後の展望とまとめ
Cookieレス時代の本格化に伴い、FacebookのコンバージョンAPIとオーディエンス機能の重要性はますます高まっていくでしょう。ここでは、今後の展望とこれまでの内容をまとめます。
今後期待される展開として、AIとの連携強化が挙げられます。コンバージョンAPIで収集したデータをAIが分析し、より高度なターゲティングや予測モデルの構築が可能になるでしょう。例えば、オンライン行動からオフラインでの購買確率を予測したり、最適なタイミングでのアプローチを提案したりするなど、AIを活用した意思決定支援が進化すると予想されます。
また、リアルタイムパーソナライゼーションの発展も期待されています。ユーザーの行動をリアルタイムで把握し、瞬時に最適なコンテンツや広告を提供する技術が発展することで、オンラインとオフラインを横断したシームレスな顧客体験の提供が可能になるでしょう。
オンラインとオフラインのデータを統合するクロスチャネルマーケティングも進化していくと考えられます。例えば、オンラインで閲覧した商品を実店舗で試着できるようにしたり、実店舗での購入履歴に基づいてオンライン広告をパーソナライズしたりするなど、チャネルを横断した一貫性のあるマーケティングが実現するでしょう。
これらの展望を踏まえた上で、今後のデジタルマーケティング戦略としては以下のポイントに注目することが重要です:
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データ統合基盤の整備:オンラインデータとオフラインデータを統合する基盤を整備し、顧客の全体像を把握できる環境を作りましょう。
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プライバシーファーストの姿勢:データ活用とプライバシー保護のバランスを取りながら、ユーザーの信頼を獲得することが今後ますます重要になります。
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テクノロジーパートナーとの協業:急速に進化するテクノロジー環境において、専門性の高いパートナーとの協業を通じて、最新のテクノロジーを効果的に活用する体制を整えましょう。
まとめると、Cookieレス時代においても効果的なマーケティング活動を継続するためには、FacebookのコンバージョンAPIとオーディエンス機能を適切に活用することが鍵となります。プライバシーに配慮しながら、サーバーサイドからのデータ送信とオーディエンスの連携を実現することで、広告効果の測定精度を保ちつつ、効果的なターゲティングを実現できるでしょう。変化する環境に適応し、常に最新のツールと戦略を取り入れることで、デジタルマーケティングの成果を維持・向上させていくことが大切です。

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