オンライン上の行動パターンから購買意欲を可視化する「インテントデータ」の基礎から応用まで解説。B2B営業・マーケティング担当者が今すぐ実践できる潜在顧客の発掘手法と、競合に先んじるアプローチ戦略を紹介します。
インテントデータとは:B2B営業の新たな武器
今日のB2B営業において、従来の「闇雲にアプローチする」手法はもはや効率的とは言えません。より効果的なアプローチが求められる中、注目を集めているのが「インテントデータ」です。インテントデータとは、ターゲットオーディエンスのオンライン行動に関する洞察を提供するデータで、「購買意図データ」とも呼ばれます。簡単に言えば、企業や個人がウェブ上で残す「デジタルな足跡」から購買意欲を予測するものです。
このデータは、ユーザーが何を探しているのか、どのような問題を解決しようとしているのか、どのようなソリューションを検討しているのかについての貴重な情報を提供します。例えば、ある企業が「クラウドストレージ セキュリティ」というキーワードで検索した場合、セキュアなクラウドストレージソリューションに関心があると推測できます。この情報をもとに、営業チームはより効率的にアプローチすることが可能になります。
B2B営業の世界では、購入検討プロセスが長く複雑であるため、見込み客の現在の検討状況を把握することは非常に重要です。インテントデータを活用することで、「今まさに自社の製品・サービスに興味を持っている企業」を特定し、適切なタイミングでアプローチすることができるのです。これにより、営業リソースの効率的な配分が可能になり、成約率の向上にもつながります。
インテントデータの種類と収集源を理解する
インテントデータは大きく分けて「ファーストパーティデータ」と「サードパーティデータ」の2種類に分類されます。ファーストパーティデータは自社サイトから収集されるデータで、フォーム入力情報やIP アドレスなどが含まれます。一方、サードパーティデータは他のウェブサイトから収集されるデータで、インテントデータプロバイダーが収集・提供しています。
これらのデータはさらに「既知」と「匿名」に分類され、計4つのカテゴリーに分けられます:
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既知のファーストパーティデータ: 訪問者が自社ウェブサイトのフォームに情報を入力した場合のデータ
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既知のサードパーティデータ: 訪問者が第三者のウェブサイトでフォームに情報を入力した場合のデータ
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匿名のファーストパーティデータ: 訪問者がサイトを訪れた際にIPアドレスから企業名を特定できるデータ
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匿名のサードパーティデータ: 訪問者が第三者サイトを訪れた際のIPアドレスデータ
インテントデータのソースは主に以下の4つに分けられます:
検索インテントデータ: Googleなどの検索エンジンでキーワードやフレーズを検索した際のデータです。例えば、「営業効率化ツール 比較」という検索は、営業プロセスの効率化に関心があることを示しています。
エンゲージメントデータ: ブログ、ウェブサイト、LinkedIn、Facebookなどでコンテンツを読んだり、共有したり、コメントしたりする活動から収集されるデータです。このデータは、見込み客の具体的な関心事を示す重要な指標となります。
ファーモグラフィックデータ: 企業の規模、場所、業界、収益などの情報です。これらのデータは、ビジネスディレクトリやウェブフォーム、B2Bデータプロバイダーから入手できます。理想的な顧客プロファイル(ICP)に基づいたターゲティングに役立ちます。
テクノグラフィックデータ: 企業が使用しているソフトウェア、ハードウェア、ネットワークに関する情報です。このデータは、ターゲット企業の技術的な能力やニーズをより深く理解するのに役立ちます。例えば、競合製品を使用している企業が特定できれば、スイッチングの提案がしやすくなります。
これらのデータを組み合わせることで、より包括的な見込み客のプロファイルを構築し、効果的なアプローチが可能になります。
B2B営業チームによるインテントデータの活用法
インテントデータは、B2B営業チームに大きな価値をもたらします。具体的な活用方法をいくつか見ていきましょう。
早期アプローチの実現: 営業において、競合他社より先に見込み客にアプローチすることは大きなアドバンテージです。インテントデータを活用すれば、購買プロセスの早い段階で潜在顧客を特定することができます。例えば、特定のソリューションについて情報収集を始めたばかりの企業を見つけ出し、まだ競合が接触していない段階でアプローチすることができます。
リードスコアリングの精度向上: 多くのリードを抱える営業チームにとって、どのリードから優先的にアプローチするかの判断は重要です。インテントデータに基づいてリードに点数をつける「リードスコアリング」を行うことで、購買意欲の高いリードを特定し、効率的にアプローチできます。これにより、限られた営業リソースを最適に配分することが可能になります。
コンテキストを持った商談: インテントデータは、見込み客がどのような課題を抱えているか、なぜ自社のソリューションを検討しているのかについての洞察を提供します。この情報を活用することで、営業担当者は「何が問題なのか」を探る段階をスキップし、すでに理解した課題に対するソリューションの提案に集中できます。これにより、より価値のある対話が実現し、商談の成約率も向上します。
解約防止とアップセルの機会特定: インテントデータは、新規顧客の獲得だけでなく、既存顧客の維持やアップセルにも役立ちます。現在の顧客が競合ソリューションを検索している場合、その兆候をインテントデータから捉えることができます。早期に対応することで、顧客の離反を防ぐことができます。また、既存顧客の新たなニーズを把握し、追加機能や関連製品の提案のタイミングを見極めることも可能です。
これらの活用方法からわかるように、インテントデータは営業の効率性と効果を大きく向上させる可能性を秘めています。特に複雑な意思決定プロセスを経るB2B営業において、その価値は大きいと言えるでしょう。
B2Bマーケティングチームによるインテントデータの活用
マーケティングチームにとって、インテントデータは戦略的ターゲティングと効果測定の強力なツールとなります。以下に主な活用方法を見ていきましょう。
LinkedIn向けのマッチドオーディエンス構築: アカウントベースドマーケティング(ABM)では、ターゲット企業に絞った広告配信が効果的です。インテントデータを活用することで、自社ソリューションに関心を持つ企業を特定し、LinkedInなどのプラットフォームでマッチドオーディエンスを作成できます。適切なタイミングで関連性の高い広告を表示することで、リードあたりのコストを削減し、コンバージョン率を高めることが可能です。
ターゲティングの最適化: インテントデータを分析することで、自社の理想的な顧客プロファイル(ICP)をより正確に把握することができます。どのような企業が最も興味を示しているのか、どのセグメントが高い反応を示しているのかを理解することで、マーケティング活動の焦点を絞ることができます。この知見はメールマーケティングからコンテンツ戦略まで、あらゆるマーケティング活動の基盤となります。
レリバントなコンテンツの提供: インテントデータは、見込み客がどのような情報を求めているかを示します。これにより、購買プロセスの各段階に合わせた適切なコンテンツを提供することができます。例えば、検討初期段階のリードには基礎的な情報を、比較検討段階のリードには競合比較表を、購入決定段階のリードには導入事例や詳細な仕様情報を提供するといった形です。
ウェブサイトの最適化: インテントデータを活用することで、ウェブサイトの訪問者がどのような情報を求めているかを理解できます。これにより、高頻度で訪問されるページや、高いインテントを示す訪問者向けの専用ページを作成するなど、ウェブサイトを最適化することができます。関連性の高いケーススタディへのアクセスを容易にしたり、業界特有の情報を提供したりすることで、コンバージョン率の向上が期待できます。
マーケティングチームは、これらの活用方法を通じて、インテントデータから得られた洞察を実践に活かすことができます。特に、営業チームと連携してインテントデータを共有することで、マーケティングと営業の連携(セールス・マーケティングアライメント)が強化され、リードからの成約率向上につながります。
インテントデータ活用の成功事例
理論だけでなく、実際の成功事例からインテントデータの効果を見てみましょう。以下はインテントデータを効果的に活用した企業の例です。
Keboola社の事例: このIT企業は、Cognismのインテントデータとダイヤモンドデータを組み合わせて活用しました。毎週特定のインテンとトピックを選び、20社のターゲット企業にアプローチするという戦略を取りました。その結果、全体のデモの60%がこのアプローチから生まれたと報告しています。Cognismのユニークな点は、インテントデータと検証済みのモバイル番号を組み合わせて提供していることで、これにより効率的なアウトリーチが可能になりました。
Gradfuel社の事例: この企業はCognismを使用してインテントベースのマーケティングを実施し、わずか6ヶ月で売上を3倍に増加させることに成功しました。特に、ヨーロッパやAPAC市場への拡大を目指していた同社にとって、現地の意思決定者との会話を増やす上でインテントデータが大きな役割を果たしました。
これらの事例から、インテントデータを活用することで、次のような具体的な成果が得られることがわかります:
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営業サイクルの短縮:購買意欲の高い見込み客に集中することで、成約までの時間が短縮
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商談獲得率の向上:関心を持っている企業に的を絞ったアプローチにより、アポイントメント獲得率が改善
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コスト効率の向上:限られたリソースを効果的に配分することで、リード獲得コストを削減
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クロスボーダーマーケティングの促進:海外市場における意思決定者の特定と効果的なアプローチ
成功の鍵は、単にインテントデータを収集するだけでなく、それを実際のビジネスプロセスに統合し、継続的に活用することにあります。インテントデータから得られた洞察を営業とマーケティングの両チームで共有し、協調したアプローチを取ることで、最大の効果を発揮します。
インテントデータ活用の実践ステップ
インテントデータを自社の営業・マーケティング活動に取り入れるための具体的なステップを見ていきましょう。
データ収集: まずは適切なインテントデータを収集することから始めます。ファーストパーティデータ(自社のウェブサイト、CRM、マーケティングオートメーションツールなどから収集)とサードパーティデータ(インテントデータプロバイダーから取得)の両方を活用することが重要です。自社で収集するデータの質を高めるためには、WebサイトのGAなどの分析ツールを適切に設定し、重要なアクションを測定できる状態にしておく必要があります。
データ分析: 収集したデータを分析し、意味のあるパターンを見つけ出します。どのようなキーワードで検索されているか、どのようなコンテンツに関心が持たれているか、どの企業が購買プロセスのどの段階にいるかなど、様々な角度から分析します。AIを活用した分析ツールを使うことで、大量のデータから価値ある洞察を効率的に抽出することができます。
戦略立案: データから得られた洞察をもとに、ターゲットオーディエンスの意図に合わせた戦略を立てます。初期段階の見込み客には教育的なコンテンツ、中期段階には詳細な製品情報や比較資料、後期段階には具体的な導入方法や成功事例などを提供するなど、購買プロセスの各段階に合わせたアプローチを計画します。
コンテンツ作成: インテントデータから特定されたニーズや課題に対応するコンテンツを作成します。見込み客が実際に探している情報やキーワードに合わせた内容を提供することで、エンゲージメントを高めることができます。また、コンテンツはインテントの強さや購買段階に合わせて適切に用意することが重要です。
営業連携: インテントデータを営業チームと共有し、アプローチの優先順位付けや対話の質向上に活用します。例えば、特定のテーマに高い関心を示している企業リストを営業チームに提供することで、より的確なアプローチが可能になります。また、具体的なインテントトピックを知ることで、営業担当者はより関連性の高い会話を展開できます。
実践においては、「小さく始めて徐々に拡大する」アプローチが効果的です。最初から全ての営業・マーケティングプロセスを変更するのではなく、特定のセグメントや製品ラインに絞ったパイロットプロジェクトから始めることをお勧めします。成功体験を積み重ね、データと実績に基づいて取り組みを拡大していくことで、組織全体でのインテントデータ活用が浸透していきます。
インテントデータの入手方法と選び方
インテントデータを取得する方法はいくつかありますが、主な入手先は以下の通りです:
インテントデータプロバイダー: Cognism、Uplead、ZoomInfoなどのプロバイダーがB2Bコンタクトデータベースとリンクしたインテントデータを提供しています。これらのツールを利用することで、インテントデータにアクセスすると同時に、ターゲット企業の適切な意思決定者の連絡先情報も取得できます。
協同インテントデータ(Co-op intent data): Bomboraのようなプロバイダーは、多数のB2Bメディアサイトやパブリッシャーで構成される「co-op」からデータを収集しています。これにより、広範囲にわたるウェブサイトでの企業行動を追跡することが可能になります。Bomboraのデータは、合意に基づくフレームワークで収集され、メンバーのプライバシーを尊重・保護しています。
ビッドストリームデータ: LeadIQなどのコンタクトデータプロバイダーは、ビッドストリームデータを使用しています。ビッドストリームデータとは、パブリッシャーがユーザーと利用可能な広告枠について収集し、広告主と共有する情報です。
インテントデータプロバイダーを選ぶ際の判断基準としては、以下の点を考慮すると良いでしょう:
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データの質と範囲: どれだけの数のウェブサイトやソースからデータを収集しているか
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データの新鮮さ: どれだけの頻度でデータが更新されるか
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インテントシグナルの詳細さ: どのような種類のインテントトピックやシグナルを追跡できるか
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B2Bデータの統合性: 企業情報や連絡先データがどの程度正確で包括的か
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使いやすさとインテグレーション: 既存のCRMやマーケティングオートメーションツールとの連携性
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コンプライアンスとプライバシー: データ収集と利用が各国の規制に準拠しているか
また、自社の用途やリソースに応じて、適切なツールを選ぶことが重要です。大企業では包括的なソリューションが必要かもしれませんが、中小企業では導入が容易で費用対効果の高いツールがより適しているでしょう。まずは無料トライアルや小規模なパイロット導入から始め、自社のニーズに合っているかを確認することをお勧めします。
インテントデータ活用の未来と今後の展望
インテントデータの活用は、B2B営業とマーケティングにおけるトレンドとして今後も発展を続けると予想されます。以下に、この分野の主な展望をいくつか紹介します。
AIと機械学習の進化: 人工知能と機械学習技術の発展により、インテントデータの分析精度と深さが向上することが期待されます。単純なキーワードマッチングだけでなく、文脈理解や予測分析など、より高度な分析が可能になります。例えば、「この企業は3ヶ月以内に購入を検討する可能性が高い」といった予測や、購買意図の強さを数値化するなど、より詳細な洞察が得られるようになるでしょう。
プライバシー規制との調和: GDPR(EU一般データ保護規則)やCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)など、データプライバシー規制の強化に伴い、インテントデータの収集と活用方法も進化しています。今後は、ユーザープライバシーを尊重しながらも効果的なインテントデータを活用する手法が発展すると考えられます。例えば、匿名化されたデータの活用や、オプトイン方式でのデータ収集などが主流になるでしょう。
マルチチャネルインテントデータの統合: 現在のインテントデータは主にオンライン行動に焦点を当てていますが、将来的にはオフラインチャネルも含めた包括的なインテントデータの統合が進むと予想されます。オンラインでの検索行動、ウェビナー参加、展示会での対話など、様々なタッチポイントからのデータを統合することで、より立体的な顧客理解が可能になるでしょう。
リアルタイム分析と自動化の進化: テクノロジーの発展により、リアルタイムでのインテント分析と自動化されたレスポンスが可能になります。例えば、特定のインテントシグナルが検出された瞬間に、パーソナライズされたコンテンツを提供したり、営業担当者に自動通知したりするなど、よりタイムリーな対応が実現するでしょう。
戦略的な差別化要因として: インテントデータの活用は、単なるツールやテクニックを超え、B2B企業の戦略的差別化要因となっていくでしょう。顧客の意図を深く理解し、適切なタイミングで価値を提供できる企業が、競争優位性を獲得していくと考えられます。
これからのB2B営業とマーケティングにおいては、インテントデータを効果的に活用するスキルが、より重要になっていくでしょう。データ分析能力、顧客洞察を実践に変換する能力、そして常に変化する技術やプライバシー環境に適応する能力が、成功への鍵となります。インテントデータは、効率性を高めるだけでなく、より顧客中心のアプローチを実現する強力なツールとなるでしょう。
インテントデータは、B2B営業とマーケティングの効率と効果を向上させる強力な武器です。顧客の行動パターンから購買意欲を読み取り、最適なタイミングで最適なアプローチを行うことで、限られたリソースを最大限に活用することができます。インテントデータの種類や収集方法を理解し、実践的な活用ステップを踏むことで、競合他社に先んじたアプローチが可能になります。
技術の進化とともに、インテントデータの精度と活用範囲はさらに広がっていくでしょう。今こそ、インテントデータを自社の営業・マーケティング戦略に取り入れ、データドリブンなアプローチの基盤を築く時です。
参考サイト
cognism「What is Intent Data? How to Use It for B2B Sales & Marketing」

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