キュレーテッドマーケットプレイスとキュレーテッドオーディエンス

簗島 亮次

はじめに

近年、広告テック業界では、従来のプログラマティック広告の課題—無駄な広告費、ブランドセーフティの問題、第三者クッキーの廃止など—に対応するため、新たな手法としてキュレーテッドマーケットプレイスキュレーテッドオーディエンスが注目されています。これらは、プログラマティック広告の規模感を保ちながらも、直接取引の品質や透明性を取り入れることで、より精度の高いターゲティングと効率的な広告運用を実現する仕組みです。


キュレーションの仕組み

インベントリ・キュレーション

広告が掲載されるサイトやページ、配置を厳選するプロセスです。

  • 目的: 広告主の目標に合わせ、質の高いプレミアムな広告在庫を提供
  • 方法: サイトリストの手動選定やデータドリブンなアプローチを活用

オーディエンス・キュレーション

どのユーザーに広告が届くかを厳選するプロセスです。

  • 目的: 広告が適切なユーザー層に届くよう、ファーストパーティデータやプライバシー準拠のデータを活用
  • 方法: ユーザーデータの分析、コンテキストターゲティングの実施

キュレーションの主な要素

  • オーディエンスデータ: GDPRやCCPAといったプライバシー規制に準拠しつつ、ファーストパーティデータを活用して正確なターゲティングを実現
  • コンテキストターゲティング: 広告内容とページコンテンツ、ユーザーの関心に基づくマッチングにより、より関連性の高い広告表示を可能に
  • サプライチェーンの透明性: MFA(広告専用サイト)など低品質な在庫を排除し、中間業者を削減することで、広告主が支払う対価に見合った価値を提供

広告主とパブリッシャーへのメリット

広告主にとってのメリット

  • 透明性とブランドセーフティの向上
    高品質なサイトのみを対象とすることで、不適切な広告掲載リスクを軽減
  • ターゲット精度の向上
    プレミアム在庫と関連性の高いオーディエンスへの広告配信で、ROIが向上
  • プライバシー規制への対応
    第三者クッキーの廃止に伴い、プライバシー準拠のファーストパーティデータを活用
  • DSP主導のSPOからの脱却
    より広範なデータセグメントへのリーチが可能に

パブリッシャーにとってのメリット

  • 収益機会の拡大
    厳選された在庫として、広告主にとっての価値が高まり、収益向上につながる
  • 在庫と価格のコントロール
    自社在庫のパッケージングと販売方法を柔軟に設定可能
  • 効率化とリソース削減
    不要な在庫を事前に排除することで、広告取引全体のプロセスがスムーズに

主な企業事例

キュレーテッドマーケットプレイスを提供する企業

  • Xandr (Microsoft傘下)
    コンシューマー中心のデジタル広告取引プラットフォームを提供
  • OpenX
    パブリッシャーやアプリ開発者向けに独立系の広告取引所を運営
  • Index Exchange
    グローバルなSSPとして、あらゆるスクリーンでコンテンツの価値最大化を支援
  • The Trade Desk
    独自のSellers and Publishers 500+サービスで従来のモデルを刷新
  • Google Ad Manager
    エージェンシー向けにキュレーテッドオーディエンスや在庫パッケージを提供

キュレーテッドオーディエンスを提供する企業

  • Audigent
    プライバシーセーフなファーストパーティデータを活用し、ターゲティング精度を向上
  • Multilocal
    独自のCuration Intelligence Platform™で、キャンペーンKPIにマッチした環境を提供
  • The Trade Desk, Google, Index Exchange, Cognitiv
    各プラットフォームやパートナーシップを通じて、精度の高いオーディエンスの提供に注力

課題と限界

キュレーションのアプローチは多くのメリットをもたらしますが、いくつかの課題や限界も存在します。

  • 小規模パブリッシャーの排除
    厳選された在庫の中には、小規模・ニッチなサイトが含まれにくく、収益機会が失われる可能性
  • 追加コストの発生
    専門的なキュレーションやプレミアム在庫利用に伴い、通常より高い費用がかかる場合がある
  • システム統合の難しさ
    SSPとDSP間の連携が必須であり、統合が不十分だと効率性が損なわれる恐れ
  • パブリッシャーのコントロール低下
    キュレーションによって在庫や価格戦略の自由度が制限される可能性
  • 透明性の欠如
    一部のキュレーションベンダーでは、価格設定や含まれる在庫に関する情報が不透明な場合がある
  • 冗長な広告購入と詐欺のリスク
    キュレーションが適切に管理されないと、重複購入や不正行為のリスクが懸念される

今後の展望

広告業界がプライバシー規制やブランドセーフティ、技術革新といった課題に直面する中、キュレーションの需要は今後も高まると予測されます。

  • テクノロジーの進化
    AIや機械学習を活用することで、リアルタイムに膨大なデータを解析し、より正確なオーディエンスセグメンテーションが可能に
  • DSPとSSPの役割変化
    従来はDSPが中心だったターゲティングロジックが、今後はSSPやキュレーションベンダーにシフトし、業界全体の再編が進む
  • 収益成長の実例
    例えば、Magniteのような企業はキュレーテッドパブリッシャーオーディエンスで100%以上の成長を報告しており、今後の成長ポテンシャルが期待される

まとめ

キュレーテッドマーケットプレイスとキュレーテッドオーディエンスは、広告テック業界における大きな変革の兆しを示しています。広告主にとっては、透明性やブランドセーフティ、ROI向上といったメリットがあり、パブリッシャーにとっても新たな収益機会や在庫コントロールの面で大きな利点があります。一方で、小規模パブリッシャーの排除や追加コスト、システム統合の課題など、解決すべき問題も存在します。

これからの広告業界は、技術革新や規制対応を背景に、より精度の高いターゲティングと透明性を追求する方向へと進むでしょう。広告主とパブリッシャーは、これらの変化を注視し、最適な戦略を見極めることが求められます。