なんとなく卒業へ データ×LLM広報術
広報効果が見えにくい時代に、データとLLMを使って発信を統一し、AIに推薦される状態をつくる実践ポイントを解説します。
登壇者紹介
本セミナーには、株式会社インティメート・マージャー 代表取締役社長の簗島亮次氏と、株式会社プラスカラー 取締役COOの斎藤久良良氏が登壇されました。斎藤氏は広報歴約20年の経験を持ち、経営戦略や事業計画に基づいた広報戦略の設計と実行支援、さらに未経験人材の育成にも強みをお持ちです。簗島氏はDMP領域を起点に、インターネット上の多様なデータを活用した課題解決や、生成AIとデータを掛け合わせたアウトプット最適化の知見を共有されました。
セミナーの背景と問題意識
セミナーの出発点は、「広報効果が見えにくい」「数値目標を置きにくい」「結局、何が成果かが曖昧になりやすい」といった現場の悩みでした。特に、検索行動が当たり前になった現在では、生活者だけでなく法人の意思決定者も検索で情報を集め、比較し、判断されています。さらに、生成AIに質問して情報収集する動きも広がり、企業側は“人に読まれる”だけでなく“AIに参照される”ことも意識する必要が高まっています。
その中で両氏が繰り返し強調されたのは、広報・マーケティング・営業など部門ごとに発信が分断されると、AIが参照する情報に一貫性が出にくく、企業像が伝わりづらくなる点でした。だからこそ、データを軸に情報源を揃え、統一されたメッセージを届ける設計が重要になっています。
キーメッセージと発言ハイライト
キーメッセージは、「データとLLMで、なんとなく広報を卒業する」でした。LLMはLarge Language Modelの略で、大量の文章を学習した言語モデルのことです。広報の領域でも、文章作成や要約だけでなく、情報の統一、発信の設計、AIからの見え方の点検まで、活用範囲が広がっています。
人間が運転してAIが助手席にいる状態から、人間が指示してAIが運転して進む感覚に変わり始めています。(簗島氏)
斎藤氏は、広報領域における生成AI活用が「効率化」に寄りやすい現状に触れつつ、次の段階として“攻めの広報”が必要になっていると整理されました。ここでの“攻め”は、単に作業を早めるだけでなく、トップラインに貢献する発信を設計し、AIにも推薦される状態に近づける方向性を指しています。
検索上位に上がるのと同じくらい、AIに推薦される状態をつくることが、新しい広報の役割になっていくはずです。(斎藤氏)
また、簗島氏からは「ハルシネーション」への言及もありました。ハルシネーションは、生成AIがもっともらしい誤情報を出力する現象です。これを“AIの問題”として片付けるのではなく、企業側の情報発信が分散し、一次情報が不足していると誤解が生まれやすい点も示唆されました。
実践的な取り組みと事例
実践論で印象的だったのは、「どこに情報を出すか」と「何を出せていないか」の2点でした。簗島氏は、生成AIが参照しやすい導線を整える観点から、発信面を複線化する重要性を語られました。自社サイトは一次情報の“最終到達点”として不可欠であり、商品・サービスの根拠情報を自社ドメインに揃えることで、AIが深掘りした際にも整合が取りやすくなります。
さらに、SEOが強い媒体に出す考え方も共有されました。SEOは検索エンジン最適化のことで、検索結果で上位表示されやすい状態を指します。一般に上位表示されるページは参照されやすく、結果として生成AIの引用対象になりやすい傾向があるとされました。加えて、YouTubeのように音声を文字起こしして公開できる場は、生成AIが参照できる情報量を増やしやすい点が示されました。
知ってもらいたいのにインターネット上にない情報は減らしたほうがよいです。ゼロのままだと、知られないのは自然な結果になります。(簗島氏)
一方で、「量を増やせば良いのか」については慎重な視点も提示されました。斎藤氏は、プレスリリースは本来メディアに向けた“お手紙”であり、意味や価値を伴う設計が重要だと整理されました。簗島氏も、同じテーマを量産しても要約されて終わる可能性があるため、戦略のない量は効きにくいと補足されました。ここでは、量と質を対立させるのではなく、「まだ出していない重要情報を補完するための量」を生成AIで実現する発想が有効になっています。
また、将来に向けた実装例として「社内ナレッジのデータベース化」も語られました。広報・営業資料・全社会の発言・採用向け説明などを一つの情報源に集約し、誰もが同じ“答えの置き場”にアクセスできる状態をつくる発想です。これにより、外部発信の統一だけでなく、社内の説明品質も揃いやすくなります。
今後の展望とまとめ
後半では、PESOモデルの観点からも整理が入りました。PESOモデルは、広告などのペイド、第三者露出のアーンド、SNSなどのシェアード、自社発信のオウンドを組み合わせて発信設計する考え方です。生成AI時代には、このどこか一つだけ強くするのではなく、最終的に伝えるメッセージを統一しつつ、接点を複線化して“参照される確率”を上げる設計がより重要になります。
同時に、合理性だけでは人の心は動きにくい点も確認されました。データとLLMで情報の加工・整理・展開を加速しながら、最後のワンマイルでは共感やストーリーテリングが効いてきます。ストーリーテリングは、事実や根拠を土台にしながら、なぜ今それを伝えるのか、誰の課題にどう寄り添うのかを物語として接続する営みです。AIが得意な「整理」と、人が強みを発揮する「共感設計」を組み合わせることで、広報の価値はより高まっていきます。
広報の成果が曖昧になりやすい今だからこそ、データで情報源を揃え、LLMが参照してもブレない発信基盤を整えることが、次の“なんとなく卒業”につながります。効率化で生まれた時間を、発信の統一、出せていない情報の補完、AIからの見え方の点検へ振り向けることが、これからの広報担当者の武器になります。

