AI検索時代の意思決定と戦略
AI検索の普及で変わる意思決定プロセスを解説。データから見える実態と、今企業が取るべきマーケティング戦略を整理します。
登壇者紹介
本セミナーには、株式会社インティメート・マージャー代表取締役社長の簗島亮次氏と、ナイル株式会社 DX&マーケティング事業部 コンサルタントの細山武揚氏が登壇しました。簗島氏はデータ活用領域における第一人者として、Web上の膨大な行動データをもとにマーケティング支援を行っており、特にDMP(データマネジメントプラットフォーム:ユーザーデータを統合・分析する仕組み)領域で実績を持つ人物です。一方、細山氏はSEO(検索エンジン最適化)を中心としたWebコンサルティングに従事し、大規模サイトの改善やLLMO(大規模言語モデル最適化:AIに情報を参照されやすくする施策)の推進をリードしています。両者はそれぞれ「データ」と「施策」の観点から、AI検索時代のマーケティングについて議論しました。
セミナーの背景と問題意識
近年、ChatGPTをはじめとする生成AIの普及により、ユーザーの情報収集行動が大きく変化しています。従来はGoogle検索を起点に情報収集が行われていましたが、現在ではAIに直接質問し、その回答をもとに意思決定を進めるケースが増えています。
特に注目すべきは「意思決定層」の行動変化です。企業の担当者や購買意思を持つユーザーが、AIの提示する情報を信頼し、そのままサービス選定や問い合わせに至るケースが増加しています。この変化はマーケティング戦略に大きな影響を与えています。
一方で、現場では「AI経由の流入は少ない」というデータも存在しています。Googleアナリティクスなどで確認できるAI流入は0.1%程度にとどまるケースが多く、実態が見えづらい状況です。この“見えない影響”こそが、企業にとって新たな課題となっています。
キーメッセージと発言ハイライト
本セミナーで最も重要なポイントは、「AIの影響は数値以上に大きい」という点です。直接流入としては小さく見えるものの、意思決定の前段階でAIが強く関与しています。
計測できるAI流入は0.1%程度ですが、実際にはその前段階でAIを使っているユーザーはもっと多いです。(細山氏)
また、ユーザー行動の変化として「AI→検索→サイト流入」という新しい導線が明らかになりました。つまり、最終的な流入元はGoogleであっても、その前にAIが意思決定に関与しているケースが増えています。
AIで調べた後、最終的にはGoogle検索を経由してサイトに来るユーザーが多いです。(簗島氏)
さらに、AIによる推薦の影響力も無視できません。特にBtoB領域では、AIに推薦された企業がそのまま検討対象になるケースが増えています。
AIにおすすめされたサービスをそのまま検討・導入するケースが増えています。(簗島氏)
このように、AIは「流入チャネル」ではなく「意思決定の起点」として機能し始めています。
実践的な取り組みと事例
実務において重要なのは、AI検索への対応をどのように進めるかという点です。結論として、現時点では従来のSEO施策が依然として重要です。
現状はSEOが圧倒的なボリュームを持っているため、まずはそこを中心に取り組むべきです。(細山氏)
一方で、AI検索を意識した取り組みも徐々に必要になっています。その具体例として以下のようなポイントが挙げられます。
まず、情報発信の強化です。AIはインターネット上の情報をもとに回答を生成するため、そもそも情報が存在しなければ参照されません。自社サイトだけでなく、PR記事や外部メディア、動画など複数チャネルでの情報発信が重要です。
次に、コンテンツの質と網羅性です。AIは複数の情報を統合して回答するため、信頼性が高く構造化されたコンテンツが評価されやすくなります。これは従来のSEOとも共通する考え方です。
さらに、データ活用による分析も重要です。インティメート・マージャーのようにユーザーデータを活用することで、AI利用者の行動や傾向を把握し、戦略に反映することが可能です。
また、業界による影響差も見逃せません。価格比較が重要な領域ではAIの影響が大きく、ポータルサイトのトラフィック減少が見られています。一方で、ファッションなど嗜好性の高い分野では影響は限定的です。
今後の展望とまとめ
今後、AI検索はさらに日常化し、ユーザーの情報収集の中心になっていくと考えられます。特にブラウザや検索エンジンへのAI統合が進むことで、ユーザーが意識せずにAIを利用する環境が整っていきます。
その中で企業に求められるのは、「すぐに大きな投資をすること」ではなく、「状況を把握し、準備を進めること」です。
今は状況把握と社内で議論できる環境を作る段階です。(細山氏)
具体的には、以下のようなステップが重要です。まず現状のSEOを強化し、基盤を整えることです。そのうえで、AIに参照されやすいコンテンツ設計や情報発信を進め、徐々に対応領域を広げていくことが求められます。
また、AI時代においては「トップ3に入る重要性」がより高まるとされています。AIの回答は限られた候補しか提示しないため、認知と露出の戦略がこれまで以上に重要になります。
最後に、本セミナーを通じて明らかになったのは、AI検索はすでに無視できない存在でありながら、その影響はまだ完全には可視化されていないという点です。この“不確実性”の中で、いかにデータと仮説をもとに意思決定を行うかが、今後のマーケティングの鍵となります。
AI検索時代において重要なのは、「見えている数字」だけで判断しないことです。見えない影響を理解し、先手を打つ企業こそが競争優位を築いていくでしょう。

