リテールメディア1.0~3.0の比較
近年、消費者の購買行動が大きく変化する中で、リテールメディアは目覚ましい進化を遂げています。かつては小売業者のウェブサイトにおける限定的な広告枠の販売という位置付けでしたが、今や膨大な顧客データと購買行動分析に基づいた、洗練されたマーケティングツールへと変貌を遂げました。
本稿では、リテールメディアの進化の過程を3つの段階(1.0~3.0)に分け、それぞれの特徴や違い、そして今後の展望について詳しく解説します。
リテールメディア1.0:黎明期 – オンライン広告の台頭
リテールメディア1.0は、2000年代後半から2010年代前半にかけて見られた、リテールメディアの初期段階と言えるでしょう。この時期は、オンラインショッピングの普及に伴い、小売業者が自社のウェブサイトに広告枠を設け、収益化を図り始めた時代です。
- 主な広告形態: 主に、商品ページや検索結果ページにおけるスポンサー商品広告や、ウェブサイト上のバナー枠を使用したブランドバナー広告などが挙げられます。
- データ活用: 当時のデータ活用は限定的であり、主にウェブサイトへのトラフィック量に基づいて広告枠の価格が決定されていました。
- チャネル: 広告配信は、もっぱらリテーラー自身のECサイトに限られていました。
- 測定: 広告効果の測定も限定的であり、クリック数やインプレッション数といった指標が中心でした。
- ブランドとの関係: ブランドとリテーラーの関係は、あくまで広告枠の売買というトランザクションベースの関係性にとどまっていました。
- 主な予算ソース: リテールメディア1.0の主な予算は、従来のショッパーマーケティング予算から割り当てられるケースが多く見られました。
リテールメディア2.0:進化の段階 – データとオムニチャネル化
2010年代後半から2020年代前半にかけて、リテールメディアは2.0へと進化しました。この時期は、スマートフォンの普及やテクノロジーの進化により、小売業者が顧客の購買行動に関する詳細なデータを収集・分析できるようになったことが大きな転換点となりました。
- 主な広告形態: リテーラーは、ファーストパーティデータを活用した顧客ターゲティングに基づいた、よりパーソナライズ化された広告配信を開始しました。プログラマティック広告や、検索連動型広告、ソーシャルメディア広告など、デジタル広告の手法を取り入れた広告が増加しました。
- データ活用: リテーラーは、顧客属性情報、購買履歴、ウェブサイト閲覧履歴などのファーストパーティデータを駆使することで、顧客をセグメント化し、それぞれのセグメントに最適化された広告を配信できるようになりました。
- チャネル: オンラインとオフラインを融合させたオムニチャネル戦略が重視され始め、リテーラーのウェブサイト、モバイルアプリ、実店舗など、様々なチャネルを横断した広告展開が可能になりました。
- 測定: 広告効果の測定においても、アトリビューション分析といった手法が導入され始め、広告が実際の購買にどれだけ貢献したのかをより正確に把握できるようになりました。
- ブランドとの関係: リテーラーとブランドの関係はより緊密化し、単なる広告枠の販売だけでなく、データに基づいたマーケティング戦略を共同で策定するケースも増えました。
- 主な予算ソース: リテールメディア2.0では、従来のショッパーマーケティング予算に加えて、ブランドのマーケティング予算からも資金が投入されるようになりました。
リテールメディア3.0:成熟期 – 戦略的パートナーシップと進化した顧客体験
そして現在、リテールメディアは3.0という新たな段階へと突入しています。リテールメディア3.0は、リテーラーがメディア企業としての役割を強化し、ブランドに対してより高度なマーケティングソリューションを提供する時代と言えるでしょう。
- 主な広告形態: リテールメディア3.0では、リテーラーはメディアの卓越性と洞察に基づくブランドパートナーシップを活用し、認知から購買、そしてリピーター化に至るまで、顧客の購買行動全体を網羅したフルファネルな広告展開を目指します。
- データ活用: リテーラーは、ファーストパーティデータをさらに深く分析することで、顧客一人ひとりのニーズや購買意図をより正確に把握し、超パーソナライズ化された広告配信やOne to Oneマーケティングの実現を目指します。
- チャネル: オンラインとオフラインを統合したオムニチャネル体験がさらに進化し、実店舗におけるデジタルサイネージやインタラクティブなディスプレイ、位置情報と連動した広告配信など、顧客体験を向上させながら購買を促進する施策が導入されています。
- 測定: フルファネルレポートにより、広告効果の可視化が進み、ROI測定も高度化していきます。ブランドは、リテールメディアへの投資対効果をより明確に把握できるようになることで、投資額を増やすことが期待されます。
- ブランドとの関係: リテーラーとブランドの関係は、従来の取引関係を超えた戦略的パートナーシップへと発展します。リテーラーは、顧客データや市場分析、マーケティングの専門知識などをブランドに提供し、ブランドの事業成長を支援します。
- 主な予算ソース: リテールメディア3.0では、従来のショッパーマーケティング予算やブランド予算に加え、マス広告などのメディア予算も積極的に投入されるようになると予想されます。
まとめ: リテールメディアの未来 – 小売とブランドの成長戦略の要へ
特徴 | リテールメディア1.0 | リテールメディア2.0 | リテールメディア3.0 |
---|---|---|---|
主な広告形態 | スポンサー商品、ブランドバナー | プログラマティックディスプレイ広告、検索広告、ソーシャルメディア広告 | メディアの卓越性、洞察に基づくブランドパートナーシップを活用した、フルファネルな広告展開 |
データ活用 | 限定的 | ファーストパーティデータによる顧客ターゲティング | ファーストパーティデータの活用による顧客行動分析、パーソナライズ化された広告配信 |
チャネル | リテーラーのウェブサイト(例: retailer.com) | オンラインとオフラインを組み合わせたオムニチャネル | オンラインとオフラインを統合した、より洗練されたオムニチャネル体験 |
測定 | 限定的 | キャンペーンの効果測定 | フルファネルレポートによる可視化、ROI測定の高度化 |
ブランドとの関係 | トランザクション中心 | パートナーシップの開始 | 戦略的パートナーシップ、データとインサイトの共有 |
主な予算ソース | ショッパーマーケティング予算 | ショッパーマーケティング予算、ブランド予算 | ブランド予算、メディア予算 |
例 | オンラインショッピング中のスポンサー商品広告 | ロイヤルティアプリのクーポンと連携した店頭デジタルサイネージ広告 | オンライン行動と購買履歴に基づいた、パーソナライズ化されたクーポン配信と店頭体験の統合 |
リテールメディアは、小売とブランドの双方にとって、今後ますます重要な戦略的ツールとなっていくでしょう。リテーラーは、メディア企業としての競争力を高めながら、ブランドとのパートナーシップを強化することで、リテールメディアの可能性を最大限に引き出し、新たな収益源を確立していくことが求められます。
一方、ブランドは、リテールメディアの進化をマーケティング戦略に取り入れることで、消費者の購買行動全体を捉えた効果的なマーケティング施策を実施し、売上拡大やブランド価値向上を実現していくことが可能になるでしょう。
リテールメディア3.0は、小売業界全体のビジネスモデルを大きく変革する可能性を秘めています。消費者の購買行動が複雑化・多様化する中で、リテールメディアは、小売とブランドの双方にとって、持続的な成長を実現するための重要な鍵となるでしょう。
株式会社インティメート・マージャー代表取締役社長。
インティメート・マージャーでアドテクノロジーの事業領域で収集したオルタナティブデータを他の事業領域でも活用していく取り組みにトライしています。
この記事の中ではオルタナティブデータのセールステック領域での活用(インテントデータ)、小売領域での活用(リテールデータ)、金融領域での活用(クレジットスコア)、リサーチ用のデータ(インサイトデータ)などでの活用事例や海外での事例をご紹介させていただいています。
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