【徹底解説】個人情報保護法「3年ごと見直し」と課徴金制度の最新動向
はじめに:なぜ今、個人情報保護法の見直しが重要なのか?
デジタル社会の進展に伴い、個人情報の利用は拡大の一途を辿っています。その一方で、個人情報の漏洩や不適切な利用によるリスクも高まっており、個人の権利利益を保護するための制度の見直しが不可欠となっています。そこで注目されるのが、個人情報保護法における「3年ごと見直し」です。この見直しは、技術革新や社会情勢の変化を踏まえ、個人情報保護とデータ利活用のバランスを取ることを目的としています。
本記事では、この3年ごと見直しの中でも特に重要なテーマである**「課徴金制度」**に焦点を当て、その詳細と今後の動向を詳しく解説します。
個人情報保護法の「3年ごと見直し」とは?
見直しの背景と目的
個人情報保護法は、施行後3年ごとに見直しを行うことが法律で定められています。これは、個人情報を取り巻く環境が常に変化しているため、その変化に対応できるよう制度をアップデートする必要があるからです。具体的には、以下の点が考慮されています:
- 個人情報の保護に関する国際的な動向
- 情報通信技術の進展
- 個人情報を活用した新たな産業の創出と発展の状況
この見直しを通じて、個人情報保護法の実効性を高め、個人の権利利益をより確実に保護することを目指しています。
これまでの経緯
2020年の改正法附則に基づき、3年ごと見直しの検討が開始され、2024年6月には中間整理が公表されました。その後、意見募集が行われ、同年9月には意見募集の結果と今後の検討の進め方が公表されています。この中間整理では、特に課徴金制度と団体による差止請求制度・被害回復制度が、今後一層の意見集約が必要な論点として挙げられています。
「課徴金制度」とは何か?
課徴金制度の必要性
課徴金制度とは、個人情報保護法に違反する行為を行った事業者に対して、行政上の措置として金銭的な負担を課す制度です。現行法では、指導、勧告、命令などの行政処分はありますが、違反行為によって得た経済的利益を没収する仕組みはありません。課徴金制度は、この点を補完し、違反行為の経済的な誘因を小さくすることで、違反行為を抑止することを目的としています。
また、悪質な違反行為を防止する観点からも、課徴金制度は必要とされています。海外では既に多くの国で制裁金制度が導入されており、日本も国際的な水準に合わせた制度設計が求められています。
課徴金制度導入の検討状況
現在、個人情報保護委員会を中心に、課徴金制度の導入に向けた具体的な検討が進められています。検討会では、以下のような点が議論されています:
- 課徴金納付命令の対象となる範囲: どのような違反行為を対象とするのか
- 課徴金の算定方法: どのように金額を算出するのか
- 適正なデータ利活用への影響: 制度が過度な規制とならないように、どのように配慮するのか
- 国内他法令や外国制度との関係: 他の法律や国際的な動向を踏まえ、どのように制度設計を行うか
課徴金納付命令の対象範囲
対象行為の限定
課徴金制度の対象となる行為は、個人の権利利益を侵害する可能性が高く、かつ、違法な収益が観念できるものに限定して検討されています。具体的には、以下の類型が考えられています:
- 類型1: 法第27条第1項(第三者提供の制限)に違反し、金銭その他の財産上の利益を得て個人データを提供した場合
- 類型2: 法第19条(不適正な利用の禁止)に違反し、金銭その他の財産上の利益を得て個人情報を利用した場合
- 類型3: 法第18条(利用目的による制限)に違反し、金銭その他の財産上の利益を得て個人情報を取扱った場合
- 類型4: 法第20条(適正な取得)に違反して取得した個人情報を利用し、金銭その他の財産上の利益を得た場合
ただし、これらの対象行為については、具体的な行為との間にギャップがあるという指摘や、範囲が広すぎるという意見も出ています。
主観的要素による限定
事業者が違反行為を防止するための相当の注意を怠っていない場合は、課徴金納付命令の対象外とすることが検討されています。これは、過剰な規制を避け、事業者による適切な個人情報取扱いのインセンティブを維持するためです。
個人の権利利益が侵害された場合に限定
課徴金納付命令の対象を、個人の権利利益が侵害された場合、または侵害される具体的なおそれがある場合に限定することが考えられています。これにより、より重大な違反行為に焦点を当て、行政リソースを有効活用することが可能となります。
大規模な違反行為に限定
大規模な違反行為を対象とすることで、より抑止効果を高めることが期待されています。具体的には、違反行為に係る本人の数が1,000人以上である場合を基準とすることが検討されています。
安全管理措置義務違反に関する考慮
安全管理措置義務違反については、漏えい等が発生した場合に、かつ、事業者が相当の注意を著しく怠っていた場合に限定して課徴金納付命令の対象とする案が出ています。ただし、この点については、中小企業への配慮が必要であるという意見も出ています。
課徴金の算定方法
違法な第三者提供等関連
違反事業者が違反行為によって得た財産的利益の全額を課徴金額とすることが考えられています。また、違反行為をより実効的に抑止するため、財産的利益の全額を上回る金額を課徴金額とすることも検討されています。
漏えい等・安全管理措置義務違反関連
安全管理措置義務違反の場合、事業者が本来負担すべきコストを支出せずに利益を得ているという考え方に基づき、違反行為期間における売上額に一定の算定率を乗じることで課徴金額を算定する案が出ています。ただし、この算定方法については、売上額の全てを対象とする妥当性について慎重な検討が必要との意見も出ています。
その他(共通事項)
- 自主的報告に係る減算規定: 事業者が自らの違反行為を自主的に報告した場合、課徴金額を減額する規定を設けることが検討されています。
- 繰り返し違反に係る加算規定: 過去に課徴金納付命令を受けたことがある事業者が再び違反行為を行った場合、課徴金額を加算することが検討されています。
団体による差止請求制度及び被害回復制度
制度の必要性
個人情報の違法な取扱いによる被害は、個人が単独で救済を求めることが難しい場合があります。そこで、適格消費者団体が、消費者に代わって差止請求や被害回復を求めることができる制度が検討されています。
差止請求制度
適格消費者団体に、個人情報保護法上の差止請求権を付与することが検討されています。これは、不特定多数の消費者の利益を擁護するための制度であり、委員会の法執行が行き届いていない部分を補完する役割が期待されています。
- 対象事例: 規約上明らかな違反行為や、不特定多数の消費者の個人データを違法に提供する行為などが想定されています.
被害回復制度
消費者裁判手続特例法を改正し、個人情報の漏えい等による慰謝料請求についても、特定適格消費者団体が被害回復を求めることができるようにすることが検討されています。
今後の展望と課題
個人情報保護法の見直しは、デジタル社会における個人の権利保護とデータ利活用のバランスをどのように実現するかが重要な課題です。課徴金制度の導入は、その一つの重要なステップとなりますが、制度設計の際には、事業者の負担や萎縮効果、適正なデータ利活用への影響などを十分に考慮する必要があります。
また、国際的なデータ流通の促進や、サイバーセキュリティ対策の強化も重要な課題として挙げられます。これらの課題に対して、政府や関係機関、事業者が連携し、より実効性のある制度設計を進めることが期待されます。
まとめ
本記事では、個人情報保護法の「3年ごと見直し」と、その中で特に注目される「課徴金制度」について解説しました。課徴金制度は、個人情報保護法の実効性を高め、個人の権利利益をより確実に保護するために重要な役割を果たすと期待されます。
しかし、制度設計には慎重な検討が必要であり、今後も継続的な議論とアップデートが求められます。個人情報保護委員会をはじめ、関係機関や事業者の動向に注目し、最新情報を常にキャッチアップしていくことが重要です。
株式会社インティメート・マージャー代表取締役社長。
インティメート・マージャーでアドテクノロジーの事業領域で収集したオルタナティブデータを他の事業領域でも活用していく取り組みにトライしています。
この記事の中ではオルタナティブデータのセールステック領域での活用(インテントデータ)、小売領域での活用(リテールデータ)、金融領域での活用(クレジットスコア)、リサーチ用のデータ(インサイトデータ)などでの活用事例や海外での事例をご紹介させていただいています。
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